委任命令の限界とは
いにんめいれいのげんかい
委任命令の限界とは、法律の委任を受けて国民の権利義務を定める政令・省令・規則が、授権した法律の趣旨からみて許される範囲のことです。範囲を超えた部分は法律の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効になります。
児童扶養手当法は、どの子どもを手当の対象にするかの細かい定めを政令に委ねていました。ところが政令は、父に認知された婚外子を対象から外していました。国会が細かいことを政令に委ねたのは、法律の目的の範囲で埋めてもらうためであって、法律が守ろうとした子どもを政令が削ってよいという意味ではありません。国民の権利義務を決めるのは本来国会の仕事なので、行政がその枠を踏み越えていないかを裁判所が審査し、越えた部分は無効にします。
委任の範囲は、授権した法律の趣旨と目的から測ります
政令は法律の委任がなければ罰則を設けることも義務を課すこともできず(憲法73条6号、内閣法11条)、省令も同じです(国家行政組織法12条3項)。委任があっても、命令が定められる範囲は委任した法律が決めます。命令の文言だけを見ても限界はわからないので、判例は、授権した法律が何を実現しようとしたかにさかのぼり、その趣旨や目的から外れた規律を無効とします。最判平成14年1月31日(児童扶養手当法施行令事件)は、施行令1条の2第3号が括弧書で父から認知された婚姻外懐胎児童を支給対象から除外していた点について、法の趣旨と目的に照らして他の対象児童との均衡を欠き、法の委任の趣旨に反するとして、この括弧書を法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効としました。「児童扶養手当法による委任の範囲を逸脱したものとして、上記施行令の規定の一部を違法無効と判断したものである」という肢は正しいです。命令の全部ではなく、逸脱した部分だけが無効になる点も、この判決の処理から読み取れます。
授権規定から規制を委ねる趣旨が明確に読み取れなければ、規制する命令は制定できません
最判平成25年1月11日(医薬品ネット販売事件)は、第一類医薬品と第二類医薬品の郵便等販売を省令で一律に禁止した事案で、薬事法がそこまでの規制を省令に委ねる趣旨を含むかを問題にしました。郵便等販売を事業として行ってきた者の職業活動の自由を相当程度制約する規制なので、立法過程の議論をしんしゃくしたうえで検討してもなお、郵便等販売を規制する省令の制定を委任する授権の趣旨が、規制の範囲や程度に応じて明確に読み取れることを要するとしました。そして、薬事法の規定からそのような趣旨が明確であるとは解し難いとして、省令の規定を一律に禁止する限度で薬事法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効としました。「授権する薬事法の規定がある程度不明確であったとしても、行政庁には専門技術的な観点からの一定の裁量権が認められているから、一般用医薬品の郵便等販売を規制する本件施行規則を制定することが許される」という肢は誤りです。委任の範囲は法律の授権の趣旨で決まるので、行政庁の専門技術的な裁量は委任の不明確さを埋める理由になりません。
旧監獄法施行規則は委任の範囲を超えて無効とされ、人事院規則は限定解釈で委任の範囲に収められました
委任の範囲を超えるおそれのある命令について、判例には、命令を無効とする処理と、命令を限定的に解釈して委任の範囲に収める処理の二つがあります。最判平成3年7月9日(旧監獄法施行規則事件)は、被勾留者と14歳未満の者との接見を原則として禁じていた旧監獄法施行規則120条・124条について、旧監獄法50条が委任したのは接見の時間や場所といった制限の細目であって、法律によらないで被勾留者の接見の自由を著しく制限する規定を置くことまで委ねたものではないとし、規則を委任の範囲を超えるものとして無効としました。「憲法及び旧監獄法による委任の趣旨を踏まえて限定的に解釈すれば、上記施行規則の規定は旧監獄法による委任の範囲を超えていないとしたものである」という肢は誤りです。これに対し、最判平成24年12月7日は、国家公務員法の委任を受けて公務員の政治的行為を禁じる人事院規則について、憲法の規定と国家公務員法の委任の趣旨を踏まえ、禁止される政治的行為とは公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが観念的なものにとどまらず実質的に認められるものを指すと限定的に解釈し、規則を無効とはしませんでした。「憲法の規定及び国家公務員法の委任の趣旨を踏まえて、上記規則の規定を限定的に解釈したものである」という肢は正しいです。どちらの処理をとるかは、限定解釈によって法律の趣旨に合う意味を規則に与えられるかどうかで分かれます。
命令が無効でも、それに基づく処分が当然に国家賠償で違法になるとは限りません
委任の範囲を超えた命令は無効なので、これに基づく処分は違法となり、取消しの対象になります。もっとも、国家賠償法1条1項の違法は、公務員が職務上尽くすべき注意義務を尽くしたかどうかで判断されるので、取消訴訟の違法とは別に考えます。最判平成3年7月9日は、施行規則を無効としながら、その規則が長年にわたって施行され、当時これが委任の範囲を超えるとの認識が一般には示されていなかったことから、規則に従って接見を拒否した監獄の長の判断には過失がないとして、国家賠償責任を認めませんでした。命令が無効であることと、担当者がそれを容易に理解できたかどうかは別の問題だからです。
最判平成14年1月31日(児童扶養手当法施行令事件)
本件括弧書は、法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効と解すべきである。
論文ではこう使う
論文では、まず授権法の目的規定と委任文言を引き、どこまでを行政に委ねたかを確定します。職業活動の自由など国民の権利を相当程度制約する規制であれば、授権の趣旨がその範囲や程度に応じて明確に読み取れることが要ると示します。次に、命令がそれを超えて権利を制限していないかを当てはめ、限定解釈で法律の趣旨に沿う意味を与えられるならその処理も検討します。超えていれば命令は無効で、これに基づく処分も違法だと結び、処分の取消事由として組み立てます。国家賠償を問われたときは、命令の無効とは別に担当者の過失を論じます。
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