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裁量基準とは

さいりょうきじゅん

行政法 行政裁量

裁量基準とは、行政庁が裁量を行使するときの物差しとして自ら定める基準です。行政手続法は、申請に対する処分についての基準を審査基準、不利益処分についての基準を処分基準と呼び分けており、いずれも法規命令ではなく行政規則です。

風俗営業の店が違反をしたとき、公安委員会は「初回は営業停止20日、2回目は40日」のような表を先に作って公にしています。法律は「停止を命ずることができる」としか書いていないので、そのままでは担当者ごとに処分がばらつき、相手も何をされるか予想できないからです。この表が裁量基準で、申請に対する処分では審査基準、不利益処分では処分基準と呼ばれます。行政庁が自分で作る内部の物差しなので法規ではありませんが、公にした以上、行政庁自身がそれに縛られる場面があります。

公安委員会の窓口の場面。先生が公安委員会役(札「公安委員会(行政庁)」)で、壁に貼った大きな表を指している。表の見出しは深紅で「処分基準(公にしたもの)」、中身は「1回目 営業停止20日/2回目 営業停止40日」。カウンターの向こうに風俗営

審査基準は定めることも公にすることも義務で、処分基準は努力義務です

審査基準は、行政庁が定めるものとされ(行政手続法5条1項)、行政上特別の支障があるときを除いて公にしておかなければなりません(同条3項)。これに対し処分基準は、定めることも公にすることも努力義務にとどまります(12条1項)。申請に対する処分は申請者が自分から手続を始めるので、あらかじめ判断の物差しを示しておく必要が高い一方、不利益処分は違反の態様が多様で、あらかじめ基準を定めにくいからです。「審査基準は申請に対する処分の審査手続に関する基準、処分基準は申請に対する処分の内容に関する基準であり、行政庁は、そのいずれをもあらかじめ定めておかなければならない」という肢は、この差を消しているので誤りです。

先生が行政庁役(札「行政庁」)で机に2冊の冊子を置いている。左の冊子は深紅の枠で「審査基準(申請に対する処分)」、表紙に「定める=義務/公にする=義務(5条)」。右の冊子は墨線で「処分基準(不利益処分)」、表紙に「定める=努力義務/公にする

審査基準は許認可等をするかどうかの判断の基準で、処分基準は不利益処分の判断の基準です

審査基準は、申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準です(2条8号ロ)。審査の手続に関する基準ではなく、許可するかどうかという実体的な判断のための基準です。処分基準は、不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準です(2条8号ハ)。申請に対する処分の内容に関する基準ではありません。先ほどの「審査基準は申請に対する処分の審査手続に関する基準、処分基準は申請に対する処分の内容に関する基準」という肢は、定義の面でも両者を取り違えているので誤りです。

基準は裁判所を拘束しませんが、行政庁を平等原則を通じて事実上拘束します

裁量基準は行政規則ですから、国民や裁判所を法的に拘束しません。裁判所は、基準に従って行われた処分をそのまま適法とする義務を負わず、基準そのものの有効・無効を判断しなくても、処分が法律の趣旨に反していれば違法として取り消せます。「行政庁は、処分基準に従わない行政処分を行うことができないから、裁判所が処分基準に従って行われた行政処分を違法として取り消すためには、処分基準が無効であるか、又は違法として取り消される必要がある」という肢は誤りです。前半も誤りで、事案の特質に照らして合理的な理由があれば、行政庁は基準と異なる個別の判断をすることができます。逆に行政庁の側は、同じ事情の相手を理由なく違えて扱えば平等原則に反しますから、公にした基準に事実上縛られます。

先生が裁判官役(札「裁判所」)。目の前に処分書(札「処分基準どおりの営業停止」)と、脇に「処分基準」と書いた冊子。先生の吹き出し「処分基準は行政庁が内部で作った物差しで、私を拘束しない。基準を無効にしなくても、処分が法律の趣旨に反していれば

公にされた処分基準と異なる取扱いは、特段の事情がない限り裁量権の逸脱・濫用です

最判平成27年3月3日は、行政手続法12条1項に基づいて定められ公にされている処分基準は、単に行政庁の行政運営上の便宜のためにとどまらず、不利益処分に係る判断過程の公正と透明性を確保し、その相手方の権利利益の保護に資するために定められ公にされるものだとしました。そのうえで、先行の処分を受けたことを理由に後行の処分の量定を加重する定めがある場合に、行政庁が処分基準の定めと異なる取扱いをするならば、裁量権の行使における公正かつ平等な取扱いの要請や基準の内容に係る相手方の信頼の保護の観点から、その取扱いを相当と認めるべき特段の事情がない限り、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるとしました。「処分基準は行政機関の内部的な指針を定めた内規の性質を有するにとどまるものであるから、当該行政庁が処分基準に定めのない事項に係る事情を考慮して後行の処分につき当該処分基準の定めと異なる取扱いをすることは、当該処分基準の定めに拘束されるべき特段の事情のない限り、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用として違法となるものではない」という肢は、原則と例外を逆にしているので誤りです。基準と異なる処分が違法になる根拠は、12条1項そのものではなく裁量権の逸脱・濫用です。12条1項は努力義務を定めた規定なので、基準と違う処分をしても同項違反として取り消されるわけではありません。「特段の事情がないにもかかわらず、当該処分基準の定めと異なる内容の処分をしたときは、当該処分は、同項に違反するものとして取り消されるのであり、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の問題は生じない」という肢は誤りです。

先生が裁判官役(札「裁判所」)。左に公安委員会の男性(札「公安委員会」)が「処分基準:2回目は40日」と書いた冊子と、「今回は基準にない事情で60日」と書いた処分書を持っている。処分書の上に深紅の丸印と札「特段の事情は?」。先生の吹き出し「

行政手続法 第12条 第1項

行政庁は、処分基準を定め、かつ、これを公にしておくよう努めなければならない。

最判平成27年3月3日(処分基準と異なる取扱い)

当該処分基準の定めと異なる取扱いをすることを相当と認めるべき特段の事情がない限り、そのような取扱いは裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たることとなる。

論文ではこう使う

論文では、基準そのものの合理性と、基準の当てはめの適切さを分けて書きます。基準が法律の趣旨に反していないか、次に、個別事情を考慮せず基準を機械的に適用していないか、という二段です。基準と異なる処分をした事案では、最判平成27年3月3日を引いて、公正かつ平等な取扱いの要請と相手方の信頼保護から特段の事情の有無を正面から論じ、違法の根拠は行政手続法12条1項違反ではなく裁量権の逸脱・濫用であることを明示します。

試験ではこう問われる

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