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用語集 / 行政法 / 時の裁量

時の裁量とは

ときのさいりょう

行政法 行政裁量

時の裁量とは、処分をするかどうかやどの処分を選ぶかではなく、いつ処分をするかについての行政庁の裁量です。申請に対する応答を行政指導のために留保できるか、という形で争われます。

建築確認を申請したのに、役所から「近隣住民と話し合ってから」と言われて確認が下りないことがあります。要件を満たしていれば確認は下りるはずなのに、いつ応答するかという時期の面で役所に幅が残るからです。ただし、この幅は無限ではありません。申請者が指導にはもう応じないとはっきり言った後まで応答を止めれば、申請者の自由を役所が事実上奪うことになるので、そこからは原則として違法になります。

区役所の建築課の窓口の場面。先生が建築主事役(札「建築主事」)でカウンターの内側に立ち、「建築確認申請書」と書かれた書類を手元に置いたまま判を押していない。カウンターの向こうにヘルメットの建築主の男性(札「建築主」)が立ち、吹き出し「要件は

応答の時期にも法律上の枠があり、遅滞なく審査を開始しなければなりません

時の裁量とは、処分をするかどうかやどの処分を選ぶかではなく、いつ処分をするかについての裁量をいいます。処分の内容が羈束されていても、応答の時期には一定の幅がありうるため、行政指導を続けるために申請への応答を先延ばしにできるか、という形で問題になります。もっとも、時期の幅にも法律上の枠があります。行政手続法は、申請が事務所に到達したときは遅滞なく審査を開始しなければならないと定め(7条)、標準処理期間を定めるよう努め、定めたときは公にしておかなければならないとします(6条)。標準処理期間の設定は努力義務ですが、定めた場合の公表は義務です。また、形式上の要件に適合しない申請については、速やかに補正を求めるか、申請を拒否しなければなりません。「行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならないが、形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請をした者に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求めなければならず、補正を求めることなく、申請を拒否する処分をすることは許されない」という肢は誤りです。7条は補正を求めるか拒否するかの選択を認めており、常に補正の機会を与えることまでは義務づけていません。申請の到達で当然に審査開始義務が生じ、受理を拒んで申請をなかったことにする扱いが否定される点は、申請と届出で扱います。

行政指導のための留保は、直ちに違法とはなりません

最判昭和60年7月16日(品川区マンション事件)は、建築確認は基本的に裁量の余地のない確認的行為であり、建築主事は要件を満たすと認めたときは遅滞なく確認をすべき義務を負うとしつつ、行政指導のために応答を留保することが直ちに違法となるわけではないとしました。建築主が任意に行政指導に応じているものと認められる場合には、社会通念上合理的と認められる期間、処分を留保して行政指導の結果に期待することも許されます。近隣住民との紛争が現実に存在し、その解決が公益にかなう場合には、行政庁が調整の時間をとることに合理性があるからです。行政指導そのものは任意の協力を求める事実行為ですが、応答を止める形で事実上の強制力を持ちうる点が問題の核心です。

区役所の会議室の場面。先生が建築主事役(札「建築主事」)で机の端に座り、机の両側に建築主の男性(札「建築主」)と近隣住民の男性(札「近隣住民」)が向かい合って座っている。建築主の男性の吹き出し「話合いには応じる。しばらく確認を待ってもらって

真摯かつ明確な不協力の意思が表明されれば、留保は原則として違法になります

同じ判決は、建築主が確認処分を留保されたままでの行政指導には応じられないとの意思を真摯かつ明確に表明した場合には、建築主の明示の意思に反して受忍を強いることは許されないとし、建築主が受ける不利益と行政指導の目的とする公益上の必要性とを比較衡量して、行政指導に対する建築主の不協力が社会通念上正義の観念に反するといえるような特段の事情が存在しない限り、行政指導が行われているという理由だけで確認処分を留保することは違法になるとしました。「建築主において自己の申請に対する建築確認を留保されたままでの行政指導には応じられないとの意思を真摯かつ明確に表明している場合であっても、行政指導の目的とする公益上の必要性が失われていないときは、行政指導が行われていることを理由に建築確認を留保しても、違法ではない」という肢は誤りです。公益上の必要性が残っているだけでは特段の事情に当たらず、建築主の不協力が正義の観念に反するとまでいえる事情が要るからです。他方で、例外が全く認められないわけでもありません。「申請に対する処分を留保されたままでの行政指導には応じられないことを真摯かつ明確に意思表示した行政指導の相手方に対して、行政指導を継続しているという理由でなお処分を留保しても、処分の留保が違法とは評価されない場合がある」という肢は正しいです。特段の事情がある場合が判決の枠組みの中に残されているからです。行政手続法33条は、申請の取下げ又は内容の変更を求める行政指導について、申請者が行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず指導を継続して申請者の権利の行使を妨げてはならないと定め、この判例を条文化しています。

区役所の建築課の窓口の場面。先生が建築主事役(札「建築主事」)でカウンターの内側。カウンターの向こうの建築主の男性(札「建築主」)が「確認を留保されたままの行政指導にはもう応じられない」と書いた書面を突き出し、吹き出し「真摯かつ明確に言う。

留保の指針は定めて公表し、求められれば書面を交付しなければなりません

申請に関連する行政指導も行政手続法の規律を受けます。建築紛争が起きたら常に確認を留保して話合いを指導するという運用は、同一の行政目的で一定の条件に該当する複数の者に対して行う行政指導なので、あらかじめ行政指導指針を定め、行政上特別の支障がない限り公表しなければなりません(36条)。「建築確認を留保して行う行政指導については、その指針があらかじめ定められなければならず、行政上の支障がない限り、当該指針は公表されなければならない」という肢は正しいです。また、行政指導に携わる者は、相手方から求められたときは、行政上特別の支障がない限り、その趣旨・内容・責任者を記載した書面を交付しなければなりません(35条3項)。「付近住民との話合いを求める行政指導の趣旨及び内容並びに責任者を記載した書面の交付をXから求められた場合には、職員は行政上の支障がない限り、これを交付しなければならない」という肢も正しいです。違法な留保は国家賠償の対象になります。「職員が紛争の解決のための話合いをXに対して求める行政指導は、事実行為であって法的拘束力を有しないことから、Xは、当該指導が行われていることを理由に建築確認が遅延させられたのは違法であると主張して、国家賠償法第1条第1項に基づき損害賠償を請求することはできない」という肢は誤りです。行政指導が法的拘束力をもたない事実行為であることは、それを理由とする留保が当然に適法になることを意味しません。品川区マンション事件の判決自体が、不協力の意思の表明後の留保について国家賠償法上も違法の評価を受けるとしていますし、最判平成5年2月18日(武蔵野市マンション事件)は、行政指導として許される限度を超えて相手方に不利益を課した場合に国家賠償責任を認めています。

いつまでも応答しない不作為は、不作為の違法確認と申請型義務付けで争います

留保が長引いて応答がないままであれば、法令に基づく申請に対し相当の期間内に何らかの処分をすべきであるにもかかわらずこれをしない不作為として争えます(行政事件訴訟法3条5項)。訴えを起こせるのは、処分についての申請をした者です(37条)。「水俣病と認定すべき旨の申請を知事に行ったものの、何らの応答処分を相当期間内に受けなかったという場合、申請者としては、不作為の違法確認の訴えを適法に提起することができる」という肢は正しいです。水俣病の認定は補償給付を受けうる法的地位を決める処分であり、その申請は法令に基づく申請だからです。もっとも、不作為の違法確認だけでは処分を得られないため、申請型義務付け訴訟を併合提起するのが通常です。「申請型義務付け訴訟は、申請拒否処分がされたことが前提となるので、申請に対する応答がない段階では提起することができず、その場合には不作為の違法確認訴訟によることとなります」という肢は誤りです。37条の3第1項1号は、相当の期間内に何らの処分もされない場合を申請型義務付け訴訟の要件として正面から認め、不作為の違法確認訴訟との併合提起を求めています。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)。手前に申請者の男性(札「申請者」)がカレンダーの絵を持ち、多くの月に×が付いていて、吹き出し「認定の申請をしたのに、相当の期間が過ぎても何の応答もない」。先生の吹き出し「法令に基づく申請に相当の期

規制権限の不行使も、時の裁量の裏返しとして違法になり得ます

処分をしないことが違法になるのは申請に対する応答に限りません。第三者に被害が及んでいるのに規制権限を行使しない場合、その不作為が国家賠償法上違法とされることがあります。最判平成16年4月27日(筑豊じん肺訴訟)は、規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨・目的や権限の性質等に照らし、具体的事情の下で、不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、被害を受けた者との関係で国家賠償法1条1項の適用上違法になるとしました。「国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において、国家賠償法第1条第1項の適用上違法となる」という肢は正しいです。効果裁量があることは、不作為を常に適法にする理由にはなりません。最判平成元年11月24日は、宅地建物取引業者への業務停止や免許取消しについて、処分の選択や権限行使の時期は知事等の合理的裁量に委ねられるとしつつ、権限が付与された趣旨・目的に照らして不行使が著しく不合理と認められるときは国家賠償法上違法になる余地を認めました。「規制を目的とする不利益処分について、処分の根拠法令が処分を行うか否かの点で行政庁に効果裁量を認めている場合には、処分を行わないという行政庁の不作為が違法となることはない」という肢は誤りです。裁量が収縮して一定の処分をすべき義務が生じたと評価できる場面があり、これが裁量権の逸脱・濫用の審査と接続します。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)。手前に被害者の男性(札「被害を受けた者」)が「規制権限を使わなかった」と書かれた紙を持ち、吹き出し「役所は処分するかどうか選べる立場だったから、何もしなくても違法にならないのか」。先生の吹き出し「

最判昭和60年7月16日(品川区マンション事件)

建築主が任意に行政指導に応じているものと認められる場合においては、社会通念上合理的と認められる期間、申請に対する処分を留保し、行政指導の結果に期待することがあつても、これをもつて直ちに違法な措置であるとはいえない。

最判昭和60年7月16日(品川区マンション事件)

行政指導に対する建築主の不協力が社会通念上正義の観念に反するものといえるような特段の事情が存在しない限り、行政指導が行われているとの理由だけで確認処分を留保することは、違法である。

論文ではこう使う

論文では、まず処分の性質を確認します。建築確認のように羈束的な確認行為であれば、要件を満たす限り遅滞なく応答すべき義務があることを出発点に置きます。そのうえで、行政指導のための留保について、紛争の存在と調整の公益性から、社会通念上合理的と認められる期間の留保は直ちに違法でないと規範を立て、最判昭和60年7月16日を引きます。次に、相手方が不協力の意思を真摯かつ明確に表明した後は、不協力が社会通念上正義の観念に反するといえる特段の事情がない限り違法となると規範を反転させ、事実を当てはめます。救済では、違法な遅延について国家賠償を、応答がない状態については不作為の違法確認と申請型義務付け訴訟の併合提起を示します。第三者被害の事案では、規制権限の不行使の枠組みに乗り換え、権限の趣旨・目的と具体的事情から著しく合理性を欠くかを論じます。

試験ではこう問われる

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