司法試験・予備試験AIブートラボ 司法試験AIブートラボ
用語集 / 行政法 / 裁量権の逸脱・濫用の審査

裁量権の逸脱・濫用の審査(行訴法30条)とは

さいりょうけんのいつだつ・らんようのしんさ

行政法 行政裁量

裁量権の逸脱・濫用の審査とは、行政庁に裁量が認められる処分について、裁判所が当不当までは判断せず、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があった場合に限って取り消すという審査の枠組みです(行政事件訴訟法30条)。社会観念審査と判断過程審査がその二つの柱です。

懲戒で減給にされた公務員が「戒告で済むはずだ」と裁判所に訴えても、裁判所は自分なら戒告にしたかどうかを考えて処分と比べることはしません。どの処分を選ぶかは法律が懲戒権者に任せた判断だからです。裁判所が見るのは、その判断が任された枠をこえたか、枠の中で権限を濫用したかだけで、行政事件訴訟法30条がそう定めています。裁量の有無と広さを見るのが行政裁量の項目で、この項目はその先、枠の外に出たかどうかを裁判所がどう確かめるかを扱います。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で壇上。左に懲戒権者の男性(札「懲戒権者」)が「減給」と書いた処分書を差し出し、右に公務員の男性(札「公務員」)が吹き出し「戒告で済むはずだ」。先生の手元に「私なら戒告」と書いたメモがあり、その上に

30条は当不当を審査しないという原則を示したもので、裁判所に取消しの裁量を与えるものではありません

行政事件訴訟法30条は、行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があった場合に限り、裁判所はその処分を取り消すことができると定めます。裁量処分であっても逸脱・濫用があれば司法審査が及ぶこと、裏を返せばその限度でしか審査が及ばないことを確認した規定です。ここでの「取り消すことができる」は、逸脱・濫用があれば違法な処分として取り消さなければならないという意味であり、取り消すかどうかを裁判所が選べるという意味ではありません。「これは、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったときでも、公の利益に配慮して当該処分を取り消すか否かの裁量を裁判所に認める趣旨を含むものである」という肢は誤りです。違法な処分の取消しを公の利益への配慮から棄却できるのは事情判決(31条1項)の場面だけで、その場合も判決主文で処分の違法を宣言しなければなりません。そうした例外規定が別に置かれていること自体が、30条が裁判所に取消しの裁量を認めていないことを示します。なお、義務付け訴訟と差止訴訟でも、裁量処分については裁量権の逸脱・濫用が本案勝訴要件とされます(37条の2第5項、37条の4第5項)。

社会観念審査は、全く事実の基礎を欠くか社会通念上著しく妥当性を欠くかを問います

最も伝統的な審査の仕方が社会観念審査です。最大判昭和53年10月4日(マクリーン事件)は、在留期間更新の許否について、法務大臣の判断が「全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限り」違法となるとしました。この定式は繰り返し用いられており、「裁判所は、判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により判断が全く事実の基礎を欠くかどうか、又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるかどうかについて審理し、それが認められる場合に限り違法であるとすべきものである」という肢は正しいです。公務員の懲戒についても最判昭和52年12月20日(神戸税関事件)が同じ審査の仕方を採り、懲戒権者の処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法としました。要点は、裁判所が自ら適切な処分を考えて行政庁の判断と置き換える判断代置を採らないことです。「裁判所が行政庁と同一の立場に立ってした判断と行政庁がした判断との間に食い違いがあれば行政庁の判断を違法と判定する方法を採ったものといえる」という肢は誤りです。処分の重さでこの理屈は変わらず、「免職処分は、著しい不利益を伴うものであることから、裁判所が当該処分の適否を審査するに当たり、懲戒権者と同一の立場に立って、懲戒処分として免職処分を選択すべきと認められないと判断した場合は、その裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められ、違法となる」という肢も誤りです。

先生が裁判官役(札「裁判所」)。目の前に法務大臣の処分書(札「在留期間更新の不許可」)と、2つの物差しの絵。左の物差しに「全く事実の基礎を欠く?」、右の物差しに「社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らか?」、どちらも深紅の枠。先生の吹き出し

判断過程審査は、考慮すべき事項の見落としと、考慮した事項の評価の誤りを問います

結論の当否ではなく、そこに至る考慮の仕方を審査するのが判断過程審査です。最判平成8年3月8日(剣道実技拒否事件)は、宗教上の理由で剣道実技を拒否した学生への原級留置・退学処分について、代替措置の検討をしないまま処分した点をとらえ、考慮すべき事項を考慮せず、他方で考慮した事項の評価が明白に合理性を欠き、その結果、社会観念上著しく妥当を欠くとして違法としました。学生が自らの自由意思で剣道を採用している学校を選んだことを理由に、著しい不利益を与えることが当然に許容されるわけでもないとしています。「代替措置を採ることが実際上可能であった場合であっても、当該学生が、剣道実技が必修でない学校を選択することができ、かつ、当該学校の入学手続時に剣道実技が必修であることを知っていた場合は、その裁量権の範囲を超える違法なものとはならない」という肢は誤りです。学校施設の目的外使用許可についても、最判平成18年2月7日(呉市学校施設使用不許可事件)は、管理者の判断が裁量権の行使としてされたことを前提に、判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、重要な事実の基礎を欠くか、社会通念に照らし著しく妥当性を欠く場合に限って違法となるとしました。「重視すべきでない考慮要素を重視するなど、考慮した事項に対する評価が明らかに合理性を欠いており、他方、当然考慮すべき事項を十分考慮しておらず、その結果、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものということができる」とした判決は、裁量処分をする際の考慮事項に着目した司法審査の在り方を示したものといえる、という肢は正しいです。生活保護の老齢加算の廃止についても、最判平成24年2月28日は、厚生労働大臣の専門技術的かつ政策的な裁量を認めたうえで、判断の過程及び手続における過誤、欠落の有無等の観点から逸脱・濫用があれば違法になるとしています。裁量が広いから判断過程を審査できない、という関係にはありません。「裁判所は、厚生労働大臣による最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続における過誤、欠落の有無等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められることを理由に、当該保護の基準の改定を違法とすることはできない」という肢は誤りです。

先生が裁判官役(札「裁判所」)。目の前に校長の処分書(札「原級留置・退学処分」)と、考慮事項の一覧表。表の行に「信仰上の理由(考慮した)」「学校を自分で選んだ(重視した)」「代替措置の可否(検討なし)」とあり、「代替措置の可否」の行に深紅の

専門技術的な判断では、依拠した基準の合理性と調査審議の過程の過誤・欠落を問います

科学技術や都市計画のように、裁判所が実体判断に踏み込みにくい領域では、行政庁が依拠した基準と調査審議の過程が合理的かを審査します。最判平成4年10月29日(伊方原発訴訟)は、原子炉設置許可の安全性審査について、現在の科学技術水準に照らし、調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があるか、基準に適合するとした調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるかという観点から審査すべきだとしました。教科書検定でも同じ考え方が使われ、「教科用図書検定調査審議会の判断の過程に、原稿の記述内容又は欠陥の指摘の根拠となるべき検定当時の学説状況、教育状況についての認識や、検定の基準に違反するとの評価等に看過し難い過誤があって、文部科学大臣の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、上記判断は、裁量権の範囲を逸脱したものとして、国家賠償法上違法となる」という肢は正しいです(最判平5.3.16、最判平9.8.29)。最判平成18年11月2日(小田急線連続立体交差事業認可事件)も、都市施設の決定は広範な裁量に委ねられるとしつつ、重要な事実の基礎を欠く場合や、事実に対する評価が明らかに合理性を欠く場合、判断の過程で考慮すべき事情を考慮しなかった場合には違法になるとしています。「都市施設に係る都市計画決定は行政庁の広範な裁量に委ねられているから、裁判所は、行政庁が判断の過程において考慮すべき事項を考慮せずに都市計画決定を行ったことを理由に挙げて、当該決定を違法とすることはできない」という肢は誤りです。

先生が裁判官役(札「裁判所」)。目の前に原子炉の小さな絵の付いた許可書(札「原子炉設置許可」)と、分厚い資料の束(札「審査基準」「調査審議の過程」)。先生は資料の束を見ており、原子炉そのものには深紅の点線の枠と「私が自分で安全性を判定するの

比例原則・平等原則・目的違反は、独立の審査基準として働きます

裁量が認められていても、処分の重さが必要な限度を超えれば比例原則違反、合理的な理由なく取扱いを違えれば平等原則違反、法律の目的と異なる動機で権限を使えば目的違反(他事考慮)として違法になります。最判平成24年1月16日は、教職員の懲戒で戒告を超えて減給を選ぶには、学校の規律や秩序の保持の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から、その処分を選ぶことの相当性を基礎づける具体的な事情が要るとしました。「不利益処分を行う行政庁に裁量権が認められる場合でも、処分の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から当該処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的な事情が認められることを要するとされることがある」という肢は正しいです。平等原則についても、最判昭和30年6月24日は、行政庁は何らいわれがなく特定の個人を差別的に取り扱いこれに不利益を及ぼす自由を有するものではなく、この意味で裁量権には一定の限界があるとしました。「処分を行う行政庁に裁量権が認められる場合でも、当該行政庁は、理由なく特定の個人を差別的に取り扱い不利益を及ぼす自由を有するものではなく、この意味において、行政庁の裁量権には一定の限界がある」という肢は正しいです。判断過程審査を採ったからといってこれらの原則が消えるわけではなく、どの事項をどれだけ重く考慮すべきかを決める物差しとして平等原則・比例原則が働きます。呉市学校施設使用不許可事件の補足意見も、比例原則や平等原則の観点が裁量権の濫用に当たるかの判断で考慮すべき要素になることは否定できないとしています。「本判決による審査方法によれば、従来の裁量処分の審査において用いられてきた平等原則や比例原則の観点は、裁量処分の審査に当たり考慮すべき要素にはならない」という肢は誤りです。

先生が裁判官役(札「裁判所」)で天秤を持っている。左の皿に「学校の規律・秩序の保持の必要性」、右の皿に「減給による不利益」の札が載り、天秤の支柱に深紅で「比例原則」の札。脇にもう一枚、深紅の枠の札「平等原則:いわれなく特定の個人を差別的に取

要件裁量と効果裁量を分け、そもそも裁量がない行為を見極めます

要件裁量は処分要件に当たるかの判断についての裁量、効果裁量は処分をするかどうか・どれを選ぶかについての裁量です。要件裁量があっても、事実の認定そのものに裁量はなく、認定した事実を要件に当てはめる評価の段階に裁量があります。「処分の根拠法令が、処分要件該当性の判断について行政庁に要件裁量を認めている場合には、事実認定について行政庁に裁量が広く認められる」という肢は誤りです。国家公務員法82条1項については、「懲戒権者に要件裁量を認める趣旨の規定であり、効果裁量を認める趣旨の規定ではない」という肢は誤りで、処分をするか・どの処分を選ぶかという効果裁量こそが中心です。裁量がそもそも認められない行為もあり、その場合は裁判所が自ら事実を判断します。「水俣病認定は、水俣病のり患の有無という客観的事実を確認する行為であり、この点に関する処分行政庁の判断はその裁量に委ねられるべき性質のものではなく、上記水俣病認定の申請に対する処分行政庁の判断の適否に関する裁判所の審理及び判断は、裁判所において、経験則に照らして個々の事案における諸般の事情と関係証拠を総合的に検討し、個々の具体的な症候と原因物質との間の個別的な因果関係の有無等を審理の対象として、申請者につき水俣病のり患の有無を個別具体的に判断すべきである」という肢は正しいです(最判平25.4.16)。損失補償の額も同じで、最判平成9年1月28日は、収用委員会に補償額の決定について裁量権を認めることはできないとしました。「収用委員会には、権利取得裁決において損失補償について裁決するに際し、補償の範囲及びその額の決定に当たって専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められる」という肢は誤りです。裁量基準による統制も忘れられません。公にされた処分基準がある場合、「処分基準に定めのない事項に係る事情を考慮して後行の処分につき当該処分基準の定めと異なる取扱いをすることは、当該処分基準の定めに拘束されるべき特段の事情のない限り、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用として違法となるものではない」という肢は誤りです。最判平成27年3月3日は、基準と異なる取扱いを相当と認めるべき特段の事情がない限り、逸脱・濫用に当たるとしました。他方で、基準が行政庁を法的に縛るわけではなく、事案の特質に照らして合理的な理由があれば基準と異なる個別の判断が許されます。「申請に対する裁量処分を行うかどうかを判断するための審査基準となる通達があるときは、行政庁は、当該通達に拘束されるから、事案の性質に応じて当該通達の定めと異なる内容の処分をすることは許されない」という肢は誤りです(最判平11.7.19)。

行政事件訴訟法 第30条

行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。

論文ではこう使う

論文では、まず根拠法令の文言と処分の性質から裁量の有無と広狭を認定し、次に行政事件訴訟法30条を引いて、裁判所の審査は逸脱・濫用に限られ判断代置は許されないと述べます。そのうえで審査の仕方を選びます。公務員の懲戒や外国人の在留のように、行政庁の政治的・人事的判断が中心の領域では社会観念審査を用い、全く事実の基礎を欠くか、社会通念上著しく妥当性を欠くかを規範にします。権利利益の制約が重く、考慮すべき事情が特定できる領域では判断過程審査を用い、考慮すべき事項を考慮したか、考慮した事項の評価が合理性を欠かないかを規範にします。科学技術的な判断では、依拠した審査基準の合理性と調査審議の過程の看過し難い過誤・欠落を規範にします。当てはめでは、比例原則・平等原則・目的違反を補助線として使い、処分基準が公にされていればそこからの逸脱を平等原則と信頼保護で拾います。

試験ではこう問われる

「裁量権の逸脱・濫用の審査」が短答式でどう出題されてきたか、ひっかけの型8件と関係する過去問の肢19本は、無料のアカウントでログインすると読めます。

読んだあとに、行政法の肢別演習を

この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。

関連する用語

行政裁量

行政裁量

行政手続

理由提示

行政裁量

裁量基準

行政裁量

時の裁量