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用語集 / 行政法 / 差止訴訟・仮の義務付け・仮の差止め

差止訴訟・仮の義務付け・仮の差止めとは

さしとめそしょう・かりのぎむづけ・かりのさしとめ

行政法 その他の抗告訴訟・当事者訴訟

差止訴訟・仮の義務付け・仮の差止めとは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合に、その処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める抗告訴訟である差止訴訟と、義務付けの訴え又は差止めの訴えの本案判決を待てないときに裁判所が決定で仮に処分を命じ又は禁ずる仮の義務付け・仮の差止めをあわせた呼び名です(行政事件訴訟法3条7項・37条の4・37条の5)。

学校の式典のたびに職務命令に従わなかった教員が、そのたびに懲戒処分を受け、処分が重くなっていくとします。処分を受けてから取消訴訟と執行停止で争う方法もありますが、式典は毎年あり処分は積み重なるので、事後の争い方では間に合いません。そこで法律は、処分がされる前に裁判所が行政庁に処分をしてはならないと命じる差止訴訟を置きました。処分の前に行政の判断を止める強い手段なので、処分の蓋然性、重大な損害、補充性という入口が課され、判決を待てないほど急ぐときは仮の差止めや仮の義務付けで先に止めたり命じたりします。

裁判所の法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で中央。左に教員の男性(札「教員」)が「差止めの訴え」と書かれた訴状を持ち、吹き出し「式典のたびに懲戒処分が繰り返されて重くなっていく。処分される前に止めてほしい」。右に教育委員会の男性(札

まず処分がされる蓋然性が要り、これを欠けば入口で却下されます

差止訴訟とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合に、その処分をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟です(行政事件訴訟法3条7項)。処分を受けてから取消訴訟と執行停止で戦うのでは間に合わない場面のための訴訟で、訴訟要件は処分の蓋然性、重大な損害、補充性の三つに分かれます。条文の「されようとしている」は、抽象的なおそれでは足りず、具体的な蓋然性を要します。処分がされる現実の見込みがない段階では、裁判所が判断すべき具体的な紛争がまだ熟していないからです。「「差止めの訴え」の訴訟要件については、一定の処分がされようとしていること、すなわち、行政庁によって一定の処分がされる蓋然性があることが、救済の必要性を基礎付ける前提として必要となる」という肢は正しいです。最判平成24年2月9日(国歌斉唱職務命令と懲戒処分差止め・義務不存在確認訴訟)は、教育委員会が反復して懲戒処分を行う方針を示していた事実から蓋然性を認めました。蓋然性を満たさない予防目的の訴えは、無名抗告訴訟としても救えません。法が事前救済の方法として差止めの訴えを法定した以上、同じ目的と効果の訴えをより緩い要件で認めるわけにはいかないからです。「将来の不利益処分の予防を目的として当該処分の前提となる公的義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟は、法第3条第7項の差止めの訴えの訴訟要件である「行政庁によって一定の処分がされる蓋然性があること」を満たさない場合には、不適法である」という肢は正しく、自衛官が防衛出動命令に服従する義務のないことの確認を求めた最判令和元年7月22日(無名抗告訴訟)がこの筋を示しました。

  • 処分の蓋然性一定の処分がされようとしていること。行政庁が処分をする蓋然性が救済の必要性を基礎づける前提となる
  • 重大な損害処分がされることにより重大な損害を生ずるおそれがあること(37条の4第1項本文)。損害の回復の困難の程度を考慮する(同条2項)
  • 補充性その損害を避けるため他に適当な方法があるときでないこと(同項ただし書)

重大な損害は、事後の取消訴訟と執行停止で救えるかで測ります

重大な損害の有無は、処分後に取消訴訟を起こして執行停止を得れば足りるかという比較で決まります。行政事件訴訟法は処分後の取消訴訟と執行停止を基本の救済としており、それでは足りない場合に限って事前の差止めを認める仕組みだからです。最判平成24年2月9日は、「処分がされることにより生ずるおそれのある損害が、処分がされた後に取消訴訟又は無効確認訴訟を提起して執行停止の決定を受けることなどによ」って容易に救済を受けられるものではなく、事前の差止めによらなければ救済が困難であることを要するとしました。そのうえで、式典ごとに懲戒処分が反復継続的かつ累積加重的にされ、昇給などの処遇上の不利益も拡大していくと事後の回復が著しく困難になるとして、重大な損害を認めました。ですから懲戒処分について「処分の取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることにより容易に救済を受けることができるから」重大な損害はないという肢は誤りです。ただし基準を上げすぎるのも誤りで、「処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが不可能なものである場合に限られる」という肢は、困難であれば足りるので誤りです。反復継続して積み重なる損害はこの要件を満たしやすく、最判平成28年12月8日(第4次厚木基地訴訟)は自衛隊機の騒音被害についてこれを認めました。

裁判所の法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で大きな天秤を前に置く。天秤の左の皿に札「処分後に取消訴訟+執行停止で容易に救済できる」、右の皿に札「事前の差止めでなければ救済が困難」で、右の皿が下がっている。左に教員の男性(札「教員」)

補充性は、他により適切な訴訟が併合されているかで判断されます

補充性は、法が別に特別の救済手続を置いている場合に働きます。あわせて、同じ紛争についてより適切な訴訟類型が現に併合提起されていれば、差止めの訴えは不要になります。差止訴訟は処分前に司法が行政過程に介入する例外的な方法なので、より直截で適切な争い方があるならそちらに譲るべきだからです。最判平成24年2月9日は、職務命令に基づく義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟について、差止めの訴えが適法に提起できる以上、補充性を欠いて不適法だとしました。「差止めの訴えにつき、他のより適切な訴訟類型の訴えが適法に併合提起されている場合には、当該事案においては後者の訴えに係る請求を棄却すべき場合であっても、行政事件訴訟法が訴訟要件を欠く場合として定める「その損害を避けるため他に適当な方法があるとき」に当たるため、当該差止めの訴えは不適法な訴えとして却下される」という肢は正しいです。適法に提起できるかどうかが基準で、その訴えが結論として棄却されるかどうかは関係がないからです。条文上の位置づけを確認しておくと、「差止訴訟においては、訴訟要件として、一定の処分又は裁決がされることにより「重大な損害を生ずるおそれ」があること、すなわち損害の重大性の要件が定められているほか、「その損害を避けるため他に適当な方法があるとき」ではないこと、すなわち補充性の要件が定められています」という肢は正しいです。

裁判所の法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)。左に教員の男性(札「教員」)が2枚の訴状を並べて差し出し、1枚に「懲戒処分の差止めの訴え」、もう1枚に「職務命令に基づく義務の不存在確認の訴え」と書かれている。教員の吹き出し「同じ職務命令

原告適格は取消訴訟と同じ枠組みで、裁量処分でも差止めは可能です

37条の4第3項は法律上の利益を有する者に原告適格を限り、4項が9条2項を準用します。「差止めの訴えを提起することができるのは、行政庁が一定の処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限られる」という肢は正しく、「処分の取消しの訴えの原告適格に関する行政事件訴訟法第9条第2項の規定は、処分の差止めの訴えの原告適格の判断について、準用されている」という肢も正しいです。本案要件は37条の4第5項で、処分をすべきでないことが根拠法令の規定から明らかであると認められるか、処分をすることが裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められることです。後者が明文で置かれているので、裁量が認められる処分でも差止めはあり得ます。「裁判所が、「差止めの訴え」に係る処分につき、行政庁がその処分をしてはならない旨を命ずる判決をすることができるのは、その処分につき行政庁に裁量が認められていない場合に限られる」という肢は誤りです。なお対象は処分に限られますが、「自衛隊機の運航の差止めを求める訴えについては、法第3条第7項の差止めの訴えの対象となる「一定の処分」を観念することができないから」不適法だという肢は誤りで、最判平成28年12月8日は、自衛隊機の運航に関する防衛大臣の権限の行使は騒音の受忍を周辺住民に義務付けるので公権力の行使に当たるとして、法定の差止めの訴えとして扱いました。

仮の救済の損害要件は、執行停止より重く設定されています

37条の5は、仮の義務付けと仮の差止めについて、処分がされないこと又はされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときに認められるとしました。すでにされた処分の効力を暫定的に止めるだけの執行停止と違い、本案判決の前に行政庁に処分を命じ、あるいは権限行使を封じる強い手段だからです。「執行停止は、処分の執行等により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があることが要件となっているが、仮の差止めは、処分がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があることが要件となっている」という肢は正しいです。本案の見込みの要否も違い、「執行停止及び仮の差止めのいずれについても、本案について理由があるとみえるときでなければ、裁判所はその決定をすることができない」という肢は、執行停止には本案について理由がないとみえるときは許されないという消極要件しかないので誤りです。公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときも認められません。

裁判所の法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で、横に2列の大きな比較の板を掲げている。左列の見出し「執行停止(25条)」の下に「重大な損害」「緊急の必要」「本案について理由がないとみえるときは不可」「第三者効あり(32条2項)」。右列

仮の救済には本案の提起が要り、相手方の意見を聴く必要があります

仮の義務付けも仮の差止めも、本案訴訟が係属していることが前提です。条文が「差止めの訴えの提起があった場合において」と定めており、執行停止が取消訴訟の提起を前提とするのと同じで、仮の救済は本案に付随する制度だからです。「仮の差止めの申立ては、処分又は裁決がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある場合にされるものであり、本案訴訟を提起せずに申し立てることができる」という肢は誤りです。手続面では37条の5第4項が25条5項から8項までを準用するので、決定は疎明に基づき、口頭弁論を経ないですることができますが、あらかじめ当事者の意見をきかなければなりません。「特に緊急を要するような事情があったとしても、裁判所が仮の義務付けを認める決定をするためには、B市の意見を聴かなければなりません」という肢は正しく、「執行停止は、あらかじめ当事者の意見をきかなければ、裁判所はその決定をすることができないが、仮の差止めは、あらかじめ当事者の意見をきかなくても、裁判所はその決定をすることができる」という肢は誤りです。効力の範囲は執行停止と異なり、32条2項が準用されていないので、「執行停止を認める決定は、第三者に対しても効力を有するが、仮の差止め及び仮の義務付けを認める決定は、いずれも第三者に対しては効力を有しない」という肢は正しいです。33条1項は準用されるので、関係行政庁に対する拘束力はあります。内閣総理大臣の異議を定める27条も37条の5第4項で準用され、同条1項後段により決定の前後を問わず述べられるので、「仮の差止めの申立てがあった場合には、内閣総理大臣は、裁判所に対し、異議を述べることができるが、仮の差止めを認める決定があった後には、もはやこれを述べることができない」という肢は誤りです。

行政事件訴訟法 第37条の4 第1項

差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる。ただし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない。

論文ではこう使う

論文では、まだ処分がされていないことを確認したうえで、行政庁の方針表明や過去の運用から蓋然性を具体的に基礎づけます。次に重大な損害を、処分後に取消訴訟と執行停止で救えるかという比較の形で論じ、反復性や回復困難性を拾います。補充性では、法定の特別手続がないこと、より適切な訴えを併合していないことを述べます。本案では37条の4第5項に沿って裁量の有無を分け、逸脱濫用を基礎づけます。緊急性があれば仮の差止めに進み、償うことのできない損害と本案の理由の疎明を並べて締めます。

試験ではこう問われる

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