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公務員の懲戒処分と分限処分とは

こうむいんのちょうかいしょぶんとぶんげんしょぶん

行政法 行政裁量

公務員の懲戒処分とは、職員の義務違反に対する制裁として行う免職・停職・減給・戒告の処分です(国家公務員法82条1項)。分限処分とは、勤務実績が良くない場合や心身の故障がある場合などに公務の能率を維持するために行う措置で、制裁ではありません(同法78条)。

役所の職員が無断欠勤を繰り返したときと、病気で長く勤務ができなくなったときでは、同じように職を離れる結果になっても、処分の性質が違います。前者は義務違反への制裁である懲戒処分で、後者は公務の能率を保つための分限処分です。国家公務員法は、懲戒処分については82条1項に事由と四つの処分を、分限処分については78条に事由を別々に定めています。制裁として責任を問うのか、職場を動かすために身分を整理するのかで、目的がまるで違うからです。目的が違えば、要件も、手続も、裁判所の見方も別に組まれます。

役所の人事課の場面。先生が懲戒権者役(札「懲戒権者(大臣)」)で机に座り、左右に2枚の書類を持っている。左の書類は深紅の枠で「懲戒処分 無断欠勤の繰り返し」、右の書類は墨線で「分限処分 心身の故障」。左に職員の男性(札「無断欠勤の職員」)、

懲戒をするかどうかも、どの処分を選ぶかも、懲戒権者の裁量です

国家公務員法82条1項は、法令違反、職務上の義務違反又は職務怠慢、国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行があった場合に、懲戒処分として免職・停職・減給・戒告の処分を「することができる」と定め、四つの処分を並べています。最判昭和52年12月20日(神戸税関事件)は、懲戒事由がある場合に、懲戒処分をすべきかどうか、またいかなる処分を選ぶかは、平素から庁内の事情に通じ、部下職員の指揮監督に当たる懲戒権者が、公務員の職務や公務の秩序維持の観点から諸般の事情を考慮して決定すべきものであり、懲戒権者の裁量に委ねられているとしました。処分をするかどうかと、どの処分を選ぶかの判断を任せる裁量なので、効果裁量です。「国家公務員に対する懲戒処分について規定する国家公務員法第82条第1項は、懲戒権者に要件裁量を認める趣旨の規定であり、効果裁量を認める趣旨の規定ではない」という肢は誤りです。要件の側でも、「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」のような評価的な文言は、当てはめの段階で幅のある判断を許しますから、要件裁量が無いわけではありません。同項が任せているのは要件の判断だけではなく、むしろ効果の選択こそが中心だという点が結論を分けます。

先生が懲戒権者役(札「懲戒権者」)で机の前。机の上に4枚の札「免職」「停職」「減給」「戒告」が並び、その手前に「処分しない」の札も置かれ、先生がそのうち「減給」を指している。5枚の札全体を深紅の枠で囲み、枠に「効果裁量」の見出し。先生の吹き

裁判所は判断代置をせず、社会観念上著しく妥当を欠くかを審査します

同じ最判昭和52年12月20日は、裁判所が懲戒処分の適否を審査するに当たっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか、いかなる処分を選択すべきであったかを判断し、その結果と処分とを比較して軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものだとしました。裁判所が自分の結論を行政庁の結論と置き換える判断代置を、はっきり否定した判決です。「懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである」とした判決は、裁判所が行政庁と同一の立場に立ってした判断と行政庁がした判断との間に食い違いがあれば行政庁の判断を違法と判定する方法を採ったものといえる、という肢は誤りです。同じ理由で、「懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をするべきであったか、又はいかなる処分をするべきであったかについて判断し、懲戒権者の適法性判断と裁判所の適法性判断とを比較して、両者に相違が存在する場合には、懲戒処分を違法として取り消すべきである」という肢も誤りです。処分の重さによって審査の仕方が変わるわけでもありません。「免職処分は、著しい不利益を伴うものであることから、裁判所が当該処分の適否を審査するに当たり、懲戒権者と同一の立場に立って、懲戒処分として免職処分を選択すべきと認められないと判断した場合は、その裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められ、違法となる」という肢も誤りです。判例は免職処分を特別に扱っておらず、免職であっても社会観念上著しく妥当を欠くかどうかで見ます。この審査の仕方は裁量権の逸脱・濫用の審査と共通します。

先生が裁判官役(札「裁判所」)。目の前に懲戒権者が出した処分書(札「懲戒権者の処分:免職」)。先生の脇に「私ならこうする:停職」と書いた紙があり、その上に深紅の×印。先生の吹き出し「自分の結論と比べて軽重を論じてはいけない。社会観念上著しく

懲戒処分には行政手続法の第3章が適用されません

行政手続法3条1項9号は、公務員又は公務員であった者に対してその職務又は身分に関してされる処分を適用除外としています。したがって、懲戒処分は不利益処分の定義には当たりますが、聴聞・弁明の機会の付与も、処分基準の設定・公表も、14条の理由提示も、行政手続法上は義務づけられません。公務員関係には任用から退職まで国家公務員法という体系的な個別法があり、一般法をかぶせる必要がないと考えられたからです。代わりに国家公務員法が独自の手続を置き、89条は、職員に対し懲戒処分や分限処分をするときは、その旨を記載した説明書を交付しなければならないと定めています。手続の空白があるわけではなく、根拠が一般法から個別法に移っているだけです。人事院規則が懲戒処分の標準例を定めており、これは行政手続法上の処分基準ではありませんが、実務上は裁量基準として機能し、これと著しく異なる取扱いをすれば平等原則違反が問題になります。

不服は人事院への審査請求で争い、裁決には修正権限があります

懲戒処分その他その意に反する不利益処分を受けた職員は、人事院に対して審査請求をすることができます(国家公務員法90条1項)。処分の取消しの訴えは、審査請求に対する人事院の裁決を経た後でなければ提起できません(92条の2)。審査請求前置が残っている数少ない領域です。人事院は、処分を承認し、修正し、又は取り消すことができ、このうち修正裁決の性質が争われました。最判昭和62年4月21日(懲戒処分と人事院の修正裁決)は、国家公務員法の不服申立ての規定は、処分権者が処分権限を発動したこと自体の適法性・妥当性の審査と、いかなる種類・量定の処分を課すかの選択決定に関する審査とを分けており、修正裁決は、処分権者の処分を全く新たな別個の処分に置き換えるものではなく、原処分を一体として維持しつつ、その量定のみを変更するものだとしました。したがって、修正裁決後に取消訴訟で争うべき対象は、修正された内容の原処分です。

免職処分が取り消されなくても、訴えの利益は残ります

免職処分を受けた職員が公職選挙に立候補して公務員の地位を失い、免職処分が取り消されても元の地位に戻れなくなった場合でも、取消しを求める利益は失われません。「仮に免職処分が取り消されても、当該公務員は、公務員たる地位を回復することはできませんが、免職処分は、それが取り消されない限り効力を有し、違法な免職処分さえなければ公務員として有するはずであった給料請求権その他の権利、利益につき裁判所に救済を求めることができなくなるので、当該免職処分の効力を排除する判決を求めることは、これらの権利、利益を回復するための必要な手段と考えられ、当該免職処分の取消しを求める訴えの利益は失われません」という肢は正しいです(最大判昭40.4.28)。免職処分には公定力があり、取り消されない限り効力を保つので、免職から失職までの給料請求権を回復するには、まず処分の効力を排除する判決が必要になるからです。訴えの利益が残る典型例として、地位の回復ができなくても付随する権利・利益の回復に意味があれば足りる、という理屈を押さえます。

先生が裁判官役(札「裁判所」)。左に元職員の男性(札「免職された元職員」)が「立候補」のたすきを掛けて立ち、吹き出し「選挙に出たから、免職が取り消されても公務員には戻れない。それでも訴える意味はあるのか」。先生の吹き出し「ある。免職処分は取

処分される前に止めるには差止訴訟を使い、義務不存在確認は補充的です

職務命令に従わなければ懲戒処分を受ける見込みがあるという場面では、処分を待たずに争う事前救済が問題になります。最判平成24年2月9日(国歌斉唱職務命令と懲戒処分差止め・義務不存在確認訴訟)は、式典ごとに戒告、減給、停職と量定が加重され、懲戒処分が反復継続的かつ累積加重的にされる危険があり、事後の取消訴訟と執行停止では救済が容易でないとして、差止訴訟の「重大な損害を生ずるおそれ」(行政事件訴訟法37条の4第1項)を認めました。「教職員が職務命令の違反を理由とする懲戒処分の差止めを求める訴えについては、処分の取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることにより容易に救済を受けることができるから、重大な損害を生ずるおそれがあるということはできない」という肢は誤りです。他方、同じ目的の無名抗告訴訟は認められません。法定の差止めの訴えが適法に提起でき、その本案で義務の存否が判断されるなら、義務の不存在確認を別に認める必要がないからです。「職務命令に基づく義務の不存在の確認を求める訴えは、懲戒処分の差止めの訴えを法定の類型の抗告訴訟として適法に提起することができ、その本案において当該義務の存否が判断の対象となるという事情の下では、懲戒処分の予防を目的とするいわゆる無名抗告訴訟としては、他に適当な争訟方法があるものとして、不適法である」という肢は正しいです。この訴えを公法上の当事者訴訟の形にしても結論は変わりません。「職務命令の違反を理由とする懲戒処分等の不利益処分の予防を目的として、当該職務命令に基づく公的義務が存在しないことの確認を求める訴えは、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして適法である」という肢は誤りです。判例は、処分の予防を目的とする確認の訴えは差止めの訴えを確認の形に引き直したものだとして無名抗告訴訟と位置づけ、補充性を欠くとしました。ただし、昇給の遅れのような処分以外の処遇上の不利益の予防を目的とするものであれば、公法上の当事者訴訟としての確認の利益が認められます。なお、懲戒は公務員だけの制度ではなく、弁護士会が弁護士法に基づき所属弁護士に対して行う懲戒も、公の権能の行使として広い意味の行政処分に属し、行政不服審査法にいう処分に当たります(最大判昭42.9.27)。弁護士会は国又は地方公共団体の機関ではなく行政庁には当たらないから、その懲戒は行政不服審査法にいう処分には当たらない、とする肢は誤りです。

先生が裁判官役(札「裁判所」)。左に教員の男性(札「教職員」)が「職務命令」の紙を持ち、吹き出し「式典のたびに戒告、減給、停職と処分が重くなっていく。処分される前に止めてほしい」。先生の前に2つの入口の絵。左の入口は深紅の枠で「差止めの訴え

国家公務員法 第82条 第1項

職員が、次の各号のいずれかに該当する場合においては、これに対し懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。一 この法律若しくは国家公務員倫理法又はこれらの法律に基づく命令に違反した場合 二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合 三 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

論文ではこう使う

論文では、まず懲戒事由の有無を82条1項各号に当てはめ、次に処分の選択を裁量の問題として論じます。規範は最判昭和52年12月20日で、懲戒権者の裁量に委ねられ、社会観念上著しく妥当を欠き裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法になると立て、判断代置は許されないことを明示します。当てはめでは、非違行為の性質・態様・結果、職務との関連、過去の処分歴、他の職員との均衡、人事院規則の標準例からの乖離を拾い、比例原則と平等原則で相当性を検討します。手続面では、行政手続法3条1項9号により第3章が適用されないことを断ったうえで、国家公務員法89条の説明書の交付を確認します。救済では、人事院への審査請求が前置であること、免職でも訴えの利益が残ること、処分前であれば差止訴訟によること、無名抗告訴訟は補充性を欠くことを順に書きます。

試験ではこう問われる

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