理由提示とは
りゆうていじ
理由提示とは、行政庁が不利益処分をするとき、また申請を拒否する処分をするときに、どの事実にどの法規を当てはめてその処分をしたのかを、名あて人に示すことです。不利益処分では処分と同時に理由を示すのが原則です。
飲食店に営業停止処分の通知書が届いたのに、なぜ止められるのかがどこにも書いてなければ、店主は反論の糸口すらつかめません。そこで行政手続法は、不利益処分をする行政庁に、処分と同時に理由を示すことを義務づけています。理由を書かなければならないと分かっていれば、行政庁は事実と法律を確かめてから判断するようになりますし、名あて人は書かれた理由を読んで不服申立てをしやすくなります。だから理由が十分かどうかは、示された書面の記載だけで事実と法律の当てはめが分かるかで決まります。
趣旨は、判断の慎重・合理性の担保と、不服申立ての便宜の2つです
行政手続法14条1項本文は、行政庁は不利益処分をする場合にはその名あて人に対し同時に当該不利益処分の理由を示さなければならないと定めています。申請を拒否する処分についても、同法8条1項が申請者に対して同時に理由を示すことを求めています。判例は、理由提示が求められる趣旨を、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制することと、処分の理由を名あて人に知らせて不服の申立てに便宜を与えることの2つに求めています。理由を書かせることで行政庁の側に事実と法律を確かめさせ、書かれた理由を読んだ名あて人の側にどこを争えばよいかを分からせるという仕組みです。この2つの趣旨から、どこまで書けば足りるかが導かれます。
理由が十分かは、示された書面の記載自体で判断します
理由は、いかなる事実関係に基づき、いかなる法規を適用して処分がされたかを、名あて人が書面の記載そのものから読み取れるものでなければなりません(最判昭和38年5月31日、最判昭和60年1月22日)。名あて人が聴聞のやり取りなどから処分の理由を察していたとしても、書面に書かれていなければ理由提示の瑕疵になります。理由を書面に残させることが行政庁の恣意を抑える手立てである以上、名あて人が知っていたかどうかで要否を変えるわけにはいかないからです。
処分基準が公にされているときは、その適用関係まで示す必要があります
どの程度の理由を示すべきかについて、判例は、理由提示の趣旨に照らし、当該処分の根拠法令の規定内容、当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無、当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮して決めるとしています(最判平成23年6月7日)。この判例は、一級建築士の免許取消処分について、建築士法の処分要件が抽象的である一方、公にされた処分基準が多様な事例に対応する複雑な内容を定めていたことから、処分の原因となる事実と根拠法条を示すだけでは足りず、いかなる理由でどのような処分基準の適用によってその処分が選ばれたのかを名あて人が知ることができなければ、理由提示として十分でないとしました。処分基準の適用関係が示されなければ、名あて人はなぜ免許取消しという重い処分が選ばれたのかを書面から読み取れないからです。「適用関係を全く示さなかったとしても、理由の提示として不足することはない」という肢は誤りです。
もっとも、常に適用関係まで要るわけではありません
最判平成23年6月7日は、複雑な処分基準の下でその適用関係が示されなかった事案について理由提示が不十分だと判断したものです。処分基準が単純であるなど、処分の原因となる事実と根拠法条を示せば名あて人がどの基準の当てはめで処分に至ったかを了知できる場合には、適用関係を書かなくても理由提示として足りることがあります。したがって「処分基準が定められ、公にされていても、不利益処分の理由の提示として、処分基準の適用関係まで摘示する必要がない場合がある」という肢は正しいです。処分基準の内容にかかわらず常に適用関係の摘示が必要だとする書き方は、総合考慮で決めるという判例の枠組みと合わないので誤りになります。
理由提示の不備は、後から補っても治癒されません
提示された理由が不十分であれば、それ自体が処分の取消事由になります。最判昭和47年12月5日は、青色申告に対する更正処分の理由付記に不備があった事案で、後日の審査裁決において処分の具体的な根拠が明らかにされたとしても、理由付記の不備という瑕疵は治癒されないとしました。理由提示は処分の時点で処分庁自身に理由を明らかにさせて判断を慎重にさせる仕組みなので、後から別の機関が根拠を説明しても、処分時の判断過程が慎重だったことにはならないからです。「後日の不服申立てに対する裁決又は決定において当該処分の具体的根拠が明らかにされれば、そのことにより治癒される」という肢は誤りです。なお、理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合には、行政手続法14条1項ただし書により、処分と同時に理由を示す必要はありません。この場合も理由提示そのものが免除されるわけではなく、同条2項により、名あて人の所在が判明しなくなったときなど処分後に理由を示すことが困難な事情があるときを除き、処分後相当の期間内に理由を示さなければなりません。「理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合には、処分と同時にその理由を提示する必要はない」という肢は正しいです。
行政手続法 第14条 第1項
行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。
論文ではこう使う
論文では、まず二つの趣旨を規範として立て、そこから「いかなる事実関係に基づき、いかなる法規を適用して処分がされたかを名あて人が了知し得るか」という基準を導きます。次に、処分基準が公にされているか、その内容が複雑かを事実から拾い、適用関係の摘示が必要だったかを当てはめます。理由が不十分であれば、後の裁決で根拠が明らかにされても治癒されないことに触れ、結論は処分の取消事由になると書きます。
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