訴えの利益とは
うったえのりえき
訴えの利益とは、処分を取り消すことによって現実に回復される法律上の利益があることです。処分の効果が期間の経過などで消えた後も、なお取消しによって回復すべき法律上の利益があれば訴えの利益は残ります(行政事件訴訟法9条1項括弧書)。
30日間の免許停止を受けて裁判を起こしたところ、判決より先に30日が過ぎてしまったとします。今から処分を取り消しても停止期間は戻ってきません。取消訴訟は処分の効力を消して失った地位や利益を取り戻す裁判なので、取り戻せるものが残っていないなら、裁判所は中身の審理に入らずに訴えを却下します。ただし、その処分を受けた履歴が次の処分を重くする定めがあるなら、まだ取り戻せるものが残っています。この「まだ回復できる利益が残っているか」を口頭弁論終結時を基準に判断するのが訴えの利益です。
訴えの利益は、口頭弁論終結時にまだ回復できる法律上の利益があるかで判断します
行政事件訴訟法9条1項の括弧書は、処分の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった後においてもなお処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する者を含む、と定めています。処分の本来の効果が消えても、取消しによって法律上取り戻せるものが残っていれば本案に進み、残っていなければ訴えを却下します。取り戻せるものが法律上の利益であることが必要で、名誉や感情、信用が傷ついたという事実上の不利益だけでは足りません。処分の直接の法的効果ではないからです。
開発許可は、工事が完了して検査済証が交付されると訴えの利益が消滅します
都市計画法の開発許可の本来の効果は、開発行為を適法に行える法的地位を申請者に与えることです。開発許可を受けた工事が完了して検査済証が交付されると、許可の有無はもう工事の適否に影響しません。最判平成5年9月10日(開発許可と工事完了)は、開発許可が判決で取り消されても、都道府県知事等が違反是正命令を発すべき法的拘束力が生じるわけではなく、開発許可の存在は違反是正命令を発するうえで法的障害になるものでもないとして、訴えの利益は消滅するとしました。「違法な開発行為であることが公権的に確定され、その拘束力により違反是正命令を発すべき義務を負うから、訴えの利益は消滅しない」という肢は誤りです。違反是正命令を出すかどうかは知事等の裁量に委ねられているので、取消判決の拘束力によって命令を出す義務が当然に生じるとはいえないからです。
保安林の指定解除は、代替施設によって危険が解消されれば訴えの利益が失われます
保安林の指定解除処分について、周辺住民の原告適格は、保安林の存在による洪水や渇水の防止上の利益を侵害される点にあります。最判昭和57年9月9日は、代替施設の設置によって洪水や渇水の危険が解消され、その防止上からは保安林の存続の必要性がなくなったと認められるに至ったときは、指定解除処分の取消しを求める訴えの利益は失われるとしました。「代替施設の設置によって洪水や渇水の危険が解消され、その防止上からは保安林の存続の必要性がなくなったと認められるに至ったときは、保安林指定解除処分の取消しを求める訴えの利益は失われます」という肢は正しいです。原告適格を支えていた利益そのものが、危険の解消という事実によって消えたからです。これに対し、「保安林指定解除処分の取消訴訟係属中に代替施設の設置によって洪水や渇水の危険が解消され、その防止上からは保安林の存続の必要性がなくなったとしても、そのような事情は、事情判決に関する規定の適用に際して考慮されるべき事柄であって、当該解除処分の取消しを求める訴えの利益を消滅させるものではない」という肢は誤りです。事情判決は、処分が違法で訴えの利益がなお残っていることを前提に、取消しが公共の福祉に適合しないときに請求を棄却する制度であって、訴えの利益の有無とは判断の局面が違います。土地改良事業のように原状回復が難しいというだけの事情とは違い、ここでは守るべき利益が存在しなくなっているので、事情判決で考慮する事柄ではなく訴えの利益そのものが失われます。
処分基準の加重規定があれば、処分の効果が消えた後も加重される期間は訴えの利益が残ります
行政手続法により定められ公にされている処分基準に、先行処分を受けたことを理由として後行処分の量定を加重する定めがある場合を考えます。最判平成27年3月3日(処分基準の加重規定と訴えの利益)は、行政庁は平等取扱いと相手方の信頼保護の要請から、特段の事情がない限りその基準に従って処分をすべき拘束を受けるので、先行処分を受けた者は、将来後行処分の対象となり得るときは、先行処分の効果が期間の経過でなくなった後も、処分基準の定めにより不利益な取扱いを受けるべき期間内はなお取消しによって回復すべき法律上の利益を有するとしました。「量定の加重は先行処分の法的効果によるものとはいえないから、利益は消滅する」という肢は誤りです。同じ理由で、自動車運転免許の効力停止処分でも、停止期間が経過しても、その処分を理由に道路交通法上不利益を受けるおそれがある期間が経過していないときは、取消しを求める法律上の利益は消滅しません。「自動車運転免許の効力停止処分を受けた者について、その効力停止期間が経過しても、当該処分を理由に道路交通法上不利益を受けるおそれがある期間が経過していないときは、当該処分の取消しを求める法律上の利益は消滅しない」という肢は正しいです。最判昭和55年11月25日は、処分の日から1年を無違反・無処分で経過した後は不利益を受けるおそれがなくなり、他に不利益に取り扱うことを認めた法令の規定もないとして訴えの利益を否定しましたが、この判断は、おそれのある期間が残っている間は利益が残ることを前提にしています。
土地改良事業は、原状回復が社会通念上不可能でも訴えの利益は消滅せず、事情判決で処理します
土地改良事業の施行認可の取消訴訟の係属中に、工事と換地処分がすべて完了した事案があります。最判平成4年1月24日(土地改良事業施行認可と工事完了)は、認可処分が取り消されれば事業施行の法的根拠が失われ、これを前提としてされた換地処分等の法的効力にも影響が及ぶので、なお取消しを求める法律上の利益は失われないとしました。そのうえで、事業施行地域を原状に回復することが社会通念上不可能であるという事情は、行政事件訴訟法31条の事情判決の適用に関して考慮されるべき事柄であって、法律上の利益を消滅させるものではないとしました。「原状回復が不可能だから法律上の利益は失われる」という肢は誤りです。原状回復が事実上難しいことは訴訟要件ではなく本案の問題であり、取消判決で除去できる法的効果が残っている限り訴えの利益はあるからです。
行政事件訴訟法 第9条 第1項 括弧書
処分の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。
論文ではこう使う
論文では、処分の効果がいつ、なぜ消えたのかを事実で特定し、その後に法律上取り戻せるものが残っていないかを探します。探し先は、根拠法令に置かれた後続の不利益の定めと、公にされた処分基準の加重規定の二つです。原告適格を支えていた利益そのものが事実の変化で消えたのか(保安林)、原状回復が難しいだけで法的効果は残っているのか(土地改良事業)を分けて書きます。残らなければ却下、残れば本案へ進むと明示して書きます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。