被告適格・管轄・出訴期間とは
ひこくてきかく・かんかつ・しゅっそきかん
被告適格・管轄・出訴期間とは、取消訴訟を誰に対し(行政事件訴訟法11条)、どの裁判所に(12条)、いつまでに(14条)起こすかを定める入口の三つの要件です。
市長の不許可処分を裁判で争おうと決めても、訴状の被告欄に市長と書くのか市と書くのか、東京の本庁が決めた処分を地元の裁判所で争えるのか、いつまでに出せばよいのかが分からなければ動けません。平成16年改正はこの三つをまとめて使いやすくしました。被告は処分をした行政庁ではなく、その行政庁が所属する国又は公共団体になり、原告の住所地に近い裁判所が加わり、出訴期間は3か月から6か月に延びました。法律関係を早く安定させたい行政の側と、争う機会を失いたくない国民の側の折り合いとして、この三つの決まりがあります。
被告は処分庁ではなく、処分庁が所属する国又は公共団体です
改正前は処分庁自身を被告とする行政庁主義でしたが、どの行政庁が処分をしたのかを原告が正確に突き止めるのは難しく、被告を誤って訴えが却下される例が絶えませんでした。そこで、処分庁が所属する行政主体を被告とする行政主体主義に改められました(11条1項)。市長がした使用不許可処分なら被告は市であり、知事がした認可なら被告は都道府県です。訴状には被告のほか、処分をした行政庁を記載しなければならず(11条4項)、被告となる国又は公共団体は、遅滞なくその行政庁を明らかにしなければなりません(11条5項)。もっとも住民訴訟のように個別法が被告を別に定める場合はそれに従うので、条文を読まずに常に行政主体が被告だと決めつけると誤ります。誤った相手を被告にしても直ちに終わりではありません。「取消訴訟において、原告が故意又は重大な過失によらないで被告とすべき者を誤ったときは、裁判所は、原告の申立てにより、決定をもって被告の変更を許すことができ、この決定に対しては、不服を申し立てることができない」という肢は正しいです(15条1項・5項)。この決定があったときは、新たな被告に対する訴えは当初の訴えの提起の時に提起されたものとみなされ(15条3項)、出訴期間の壁を越えられます。
- 被告適格(11条)処分庁が所属する国又は公共団体。訴状には処分庁も記載する
- 管轄(12条)被告の普通裁判籍か処分庁の所在地の裁判所。国等が被告なら原告の住所地を管轄する高裁所在地の地裁にも起こせる
- 出訴期間(14条)知った日から6か月、処分の日から1年。正当な理由があれば例外
特定管轄裁判所が加わり、原告は住所地の近くで訴えられます
原則は被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所、または処分をした行政庁の所在地を管轄する裁判所です(12条1項)。国の機関の処分は東京に集中しがちなので、12条4項は、国又は独立行政法人等を被告とする取消訴訟について、原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所にも提起できるとしました。これが特定管轄裁判所です。大阪在住の原告が国土交通大臣の処分を争うなら、東京地方裁判所まで行かずに大阪地方裁判所に訴えられます。ほかに、土地の収用・鉱業権の設定など不動産又は特定の場所に係る処分は、その不動産又は場所の所在地の裁判所に(12条2項)、事案の処理に当たった下級行政機関の所在地の裁判所にも提起できます(12条3項)。特定管轄裁判所に起こされた訴えについて、同一の処分に関する訴訟が他の裁判所に係属しているときは、裁判所は事案の性質や証拠の所在地を考慮して移送できます(12条5項)。
出訴期間は知った日から6か月、処分の日から1年で、いずれも正当な理由があれば延びます
主観的期間は処分又は裁決があったことを知った日から6か月、客観的期間は処分又は裁決の日から1年で、どちらか早い方で締め切られます(14条1項・2項)。「知った日」とは処分の存在を現実に知った日であり、抽象的に知り得た日ではありません。もっとも、処分を記載した書面が住所に配達されて社会通念上知り得る状態に置かれたときは、反証のない限り知ったものと推定されます(最判昭和27年11月20日)。「処分に係る通知の書面が当該処分の相手方の住所に郵便により配達された場合には、当該処分の取消しの訴えの出訴期間に係る「処分(中略)があつたことを知つた日」(行政事件訴訟法第14条第1項)については、反証のない限り、当該書面の配達された日がこれに当たるとされる」という肢は正しいです。名あて人が知らなかったと言いさえすれば起算点が動くのでは、出訴期間を法定した意味がなくなるからです。いずれの期間も「正当な理由があるとき」は例外が認められます。誤った教示を信じた場合や、天災で訴えられなかった場合が典型です。不変期間ではないので、民事訴訟法の追完ではなくこの正当な理由で処理します。収用裁決のように個別法が特則を置く場合はそちらが優先し、最判平成24年11月20日(出訴期間の原則と特則――収用裁決取消訴訟)はその適用関係を示しています。訴えの変更があった場合の期間遵守は変更の時を基準とするのが原則で、最判昭和61年2月24日(訴えの変更と出訴期間)が例外の枠を示します。
審査請求を経たときは、裁決があったことを知った日から改めて6か月です
処分に審査請求ができる場合でも、直ちに取消訴訟を起こせるのが原則です(8条1項本文、自由選択主義)。審査請求がされている間、裁判所は裁決があるまで訴訟手続を中止できますが(8条3項)、訴えの提起自体は妨げられません。したがって「当該処分につき審査請求がされているときは、その審査請求に対する裁決があるまで、提起することができない」という肢は誤りです。法律が審査請求前置を定めるときは裁決を経なければなりませんが、審査請求から3か月を経過しても裁決がないとき、処分等により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき、その他正当な理由があるときは、裁決を経ずに訴えられます(8条2項)。「審査請求があった日から3か月を経過しても裁決がないときに限り」とする肢は、他の例外を落としているので誤りです。前置が定められている場合に、不適法な審査請求に対し裁決庁が誤って棄却裁決をしたとしても、適法な審査請求を経たことにはならないので、「適法に処分の取消しの訴えを提起することができる」という肢は誤りです(最判昭和48年6月21日)。裁決庁の過誤によって、審査請求期間を過ぎた者が出訴の途を回復するのは筋が通らないからです。審査請求をした者については、出訴期間は裁決があったことを知った日から6か月、裁決の日から1年に置き換わります(14条3項)。「処分につき審査請求をすることができる場合において、適法な審査請求があったときは、処分の取消しの訴えは、その審査請求をした者については、これに対する裁決があったことを知った日から6か月を経過するまでは、処分があったことを知った日から6か月を経過した後であっても、適法に提起することができる」は正しいです。裁決を待つうちに処分からの期間が過ぎて出訴の機会を失うのでは、不服申立てを使う人がいなくなるからです。
期間が過ぎても国家賠償で違法を主張することはでき、教示の誤りは正当な理由の材料になります
出訴期間の経過で失われるのは処分の効力を争う道だけです。処分が違法であったことを理由に損害賠償を求めるのは別の訴訟であり、妨げられません。「処分があったことを知った日から6か月を経過したとき又は処分の日から1年を経過したときは、正当な理由がない限り、処分の取消しの訴えを提起して当該処分の効力を争うことができなくなるとともに、国家賠償請求訴訟を提起して当該処分の違法性を主張することもできなくなる」という肢は、後半が誤りです。この理は取消訴訟の排他的管轄の限界として整理され、無効の処分なら期間の制限を受けずに無効等確認訴訟で争えます。期間の起算に響くのが教示です。行政庁は不服申立てができる処分を書面でするときは、処分の相手方に対し、不服申立てができる旨、不服申立てをすべき行政庁、不服申立てができる期間を書面で教示しなければなりません(行政不服審査法82条1項)。「行政庁は、審査請求や異議申立てをすることができる処分をする場合には、処分を口頭でする場合を除き、処分の相手方に対し、不服申立てをすることができる旨やその期間などを必ず書面で教示しなければならないこととされている」という肢は正しいです。利害関係人から教示を求められたときも教示しなければならず、書面による教示を求められたときは書面でしなければなりません(同条2項・3項)。「処分に対して不服申立てをすることができる旨やその期間などについての書面による教示は、処分の名宛人以外の者に対しては、行う必要はないこととされている」という肢は誤りです。取消訴訟についても、被告とすべき者と出訴期間の教示義務があります(行政事件訴訟法46条)。教示を怠り、または誤って長い期間を教示した場合は、正当な理由の判断で原告に有利に働きます。
行政事件訴訟法 第11条 第1項
処分又は裁決をした行政庁が国又は公共団体に所属する場合には、取消訴訟は、次の各号に掲げる訴えの区分に応じてそれぞれ当該各号に定める者を被告として提起しなければならない。一 処分の取消しの訴え 当該処分をした行政庁の所属する国又は公共団体
論文ではこう使う
論文では、訴訟要件の検討順序の中で被告適格・管轄・出訴期間を淡々と潰します。被告は処分庁が所属する行政主体だと条文を挙げて特定し、処分庁が個別法で別に定められていないかを確認します。出訴期間は、通知書の到達日を「知った日」とし、6か月の起算点を示した上で、審査請求を経ていれば裁決を知った日に起算点が移ることを14条3項で説明します。期間を過ぎている事案では、誤教示や重大な事情を拾って正当な理由を主張し、それが通らないなら無効等確認訴訟や国家賠償へ訴訟選択を切り替えます。被告を誤った設例では、15条の被告変更により当初の訴え提起時に遡ることを述べ、期間徒過の不利益が生じないと結びます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。