教示とは
きょうじ
教示とは、行政庁が処分を書面でするときに、不服申立てができる旨・不服申立てをすべき行政庁・不服申立てができる期間を相手方に書面で知らせる義務です(行政不服審査法82条)。取消訴訟についても、被告とすべき者と出訴期間を知らせる同様の教示が要ります(行政事件訴訟法46条)。
役所から届いた処分の通知書の末尾に、「この処分に不服があるときは、3か月以内に知事に審査請求をすることができます」と書いてあることがあります。これが教示です。不服申立てや取消訴訟の制度は、あることを知らなければ使えず、宛先や期限を間違えれば救済を受けられなくなります。処分をする側が救済の道筋を一緒に知らせることで、制度を知らないために争う機会を失う人を出さないようにしているのです。教示を間違えたり忘れたりしたときは、その不利益を相手方に負わせないための救済の規定も用意されています。
書面で処分をするときは、相手方に書面で教示しなければなりません
教示とは、行政庁が処分をする際に、その処分について不服申立てや取消訴訟ができることと、その相手方・期間を知らせる仕組みです。制度を知らないために救済の機会を失うことを防ぐもので、行政不服審査法82条・83条と行政事件訴訟法46条に置かれています。82条1項の教示は義務で、審査請求ができる旨、審査請求をすべき行政庁、審査請求ができる期間の三つを、相手方の求めがなくても職権で、書面で示します。口頭でする処分には教示義務がありません。「行政庁は,審査請求や異議申立てをすることができる処分をする場合には,処分を口頭でする場合を除き,処分の相手方に対し,不服申立てをすることができる旨やその期間などを必ず書面で教示しなければならないこととされている」という肢は正しいです。教示の相手は処分の相手方ですが、名あて人以外にはおよそ不要というわけではありません。利害関係人から、その処分が不服申立てをすることができる処分かどうか、不服申立てをすべき行政庁、不服申立てをすることができる期間について教示を求められたときは教示しなければならず(82条2項)、「処分に対して不服申立てをすることができる旨やその期間などについての書面による教示は,処分の名宛人以外の者に対しては,行う必要はないこととされている」という肢は誤りです。名あて人以外の第三者でも、処分に法律上の利益を持つ者は不服申立てができるので、求めがあれば同じ事項を知らせる必要があるからです。書面による教示を求められたときは書面でします(82条3項)。教示すべき内容と場面は次のとおりです。
- 書面による処分の教示不服申立てをすることができる処分を書面でするときは、処分の相手方に対し、審査請求をすることができる旨、審査請求をすべき行政庁、審査請求をすることができる期間を書面で教示する(行審法82条1項本文)
- 口頭による処分処分を口頭でする場合は教示義務がない(同項ただし書)
- 求めに応じた教示利害関係人から求められたときは、同じ事項を教示しなければならず、書面による教示を求められたときは書面でする(同条2項・3項)
- 訴訟の教示取消訴訟を提起できる処分を書面でするときは、被告とすべき者、出訴期間、審査請求前置の定めがあるときはその旨を書面で教示する(行訴法46条1項)
誤って他の行政庁を審査庁と教示したときは、書類が回されて初めから適法な申立てとみなされます
22条1項は、審査請求をすべき行政庁でない行政庁を審査庁と教示した場合に、その教示された行政庁に書面で審査請求がされたときは、当該行政庁は速やかに審査請求書を処分庁又は審査庁となるべき行政庁に送付し、その旨を審査請求人に通知しなければならないと定めます。送付があったときは、初めから審査庁となるべき行政庁に審査請求がされたものとみなされます(22条5項)。行政庁の教示を信じて申し立てた人に、誤教示の不利益を負わせない趣旨です。初めから正しい行政庁に申し立てたことになるので、審査請求期間も最初に提出した時を基準に判断されます。旧法下の異議申立てについても同じ構造で、審査請求ができる処分について処分庁が誤って異議申立てができる旨を教示し、処分庁に異議申立てがされたときは、処分庁が異議申立書を審査庁に送付し、初めから審査請求がされたものとみなされました。「処分庁が誤って異議申立てをすることができる旨を教示した場合において、当該処分庁に異議申立てがされたときは、異議申立書は審査庁に送付され、初めから審査庁に審査請求がされたものとみなされることとされている」という肢は正しいです。現行法では、再調査の請求ができない処分について処分庁が誤って再調査の請求ができる旨を教示し、処分庁に再調査の請求がされた場合に、処分庁が審査庁となるべき行政庁に送付して初めから審査請求がされたものとみなす規律が、これに対応します(22条3項・5項)。
再調査の請求ができる旨を教示しなかった場合は、申立人の意思が前提になります
55条1項は、再調査の請求をすることができる処分について、処分庁が誤って再調査の請求をすることができる旨を教示しなかった場合に、当該処分について審査請求がされたときの扱いを定めます。この場合、審査請求人から申立てがあったときに限り、審査庁は速やかに審査請求書又は審査請求録取書を処分庁に送付しなければならず、送付があれば初めから処分庁に再調査の請求がされたものとみなされます(55条3項)。申立てがなくても送付しなければならないとする「審査庁は,審査請求人からの申立てがなくとも,速やかに審査請求書又は審査請求録取書を処分庁に送付しなければならず」という肢は誤りです。再調査の請求は審査請求との自由選択ですから、どちらで争うかは申立人が決めるべきであり、行政庁の判断で一方に振り替えるのは相当でないという考え方です。審査請求人に弁明書が送付された後は、送付をしません(55条1項ただし書)。審理が進んだ後で手続を振り替えると、かえって審査請求人の不利益になるからです。制度の関係は不服申立ての種類の項目のとおりです。
教示がされなかったときは、処分庁に不服申立書を提出できます
83条1項は、行政庁が教示をしなかった場合に、当該処分について不服がある者は処分庁に不服申立書を提出することができると定めます。処分庁は、審査請求をすべき行政庁が他にあるときは、速やかに不服申立書を当該行政庁に送付し、その旨を申立人に通知しなければならず(83条3項)、送付があったときは初めから審査請求がされたものとみなされます(83条4項・5項)。申立人はとりあえず処分をした行政庁に書面を出せばよく、正しい宛先を探す負担を負いません。教示を怠ったこと自体が、審査請求期間の徒過についての正当な理由(18条1項ただし書)と評価される余地もあります。実際より長い期間を教示したために徒過した場合も同じで、行政庁の誤りによる不利益を申立人に負わせるのは相当でないと考えられています。83条の不服申立書には、審査請求書の記載事項に準じた事項を書き、処分の内容と処分があったことを知った年月日を明らかにします。
教示を欠いても、処分そのものが違法になるわけではありません
教示は救済の道筋を知らせる手続で、処分の内容を決める手続ではありません。したがって、教示を怠ったり誤ったりしても、22条・55条・83条の救済が働くだけで、処分そのものが違法になったり効力を失ったりはしません。最判昭和61年6月19日(壁面線指定と不服申立ての教示)は、建築基準法上の壁面線の指定について、教示をしなかったことが処分の効力に影響を及ぼすものではないとしました。教示の有無は処分を受けた人がどう争えるかに関わるだけで、処分の中身の正しさとは別だからです。他方で、告示によってされる処分では期間の起算点が告示の日となるため、教示の有無が実際の救済の可否を大きく左右します。最判平成14年10月24日(処分の告示と不服申立期間の起算点)が起算点を明らかにしたのも、この場面です。処分手続の瑕疵一般の扱いは手続の瑕疵の項目で扱います。
取消訴訟についても、被告と出訴期間を教示しなければなりません
行政事件訴訟法46条1項は、取消訴訟を提起することができる処分又は裁決を書面でする場合に、被告とすべき者、出訴期間、審査請求前置の定めがあるときはその旨を、相手方に書面で教示しなければならないと定めます。形式的当事者訴訟を提起できる処分についても、被告とすべき者と出訴期間を教示します(同条3項)。行政不服審査法の教示と違い、利害関係人の求めに応じて教示する規定は置かれていません。また、こちらにも誤った教示を救済する規定はなく、誤教示によって出訴期間を徒過した場合は、14条1項ただし書の「正当な理由」の解釈で救済するほかありません。裁決についても教示が必要で、審査庁は裁決書に再審査請求に関する事項を教示します(行審法50条3項)。
行政不服審査法 第82条 第1項
行政庁は、審査請求若しくは再調査の請求又は他の法令に基づく不服申立て(以下この条において「不服申立て」と総称する。)をすることができる処分をする場合には、処分の相手方に対し、当該処分につき不服申立てをすることができる旨並びに不服申立てをすべき行政庁及び不服申立てをすることができる期間を書面で教示しなければならない。ただし、当該処分を口頭でする場合は、この限りでない。
行政不服審査法 第82条 第2項
行政庁は、利害関係人から、当該処分が不服申立てをすることができる処分であるかどうか並びに当該処分が不服申立てをすることができるものである場合における不服申立てをすべき行政庁及び不服申立てをすることができる期間につき教示を求められたときは、当該事項を教示しなければならない。
論文ではこう使う
論文では、教示の瑕疵を救済規定の適用と期間の徒過の二面から論じます。誤った行政庁を審査庁として教示した事案では、22条1項の送付と5項のみなし規定により、初めから正しい行政庁に審査請求がされたものとして扱い、期間も当初の提出時を基準に判断すると構成します。教示がされなかった事案では、83条により処分庁に不服申立書を提出できること、送付によって審査請求とみなされることを述べます。期間を徒過している場合は、教示の欠缺や誤りが18条1項ただし書の正当な理由に当たると論じ、申立人の責めに帰すべき事由がないことを当てはめます。そのうえで、教示の瑕疵は処分の効力そのものには影響しないという判例の立場を確認し、処分の違法事由として主張することはできないと結論づけます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。