処分性とは
しょぶんせい
処分性とは、ある行為が取消訴訟の対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(行政事件訴訟法3条2項)に当たることです。
役所から届く紙には、営業許可の取消しのように生活を直接左右するものと、工事の予定のお知らせのように読んで終わるものがあります。取消訴訟で争えるのは前の方だけです。取消訴訟は行為の効力を消して権利義務を元に戻す裁判なので、消すべき効力を持たない行為を対象にしても意味がないからです。ある行為が国民の権利義務を直接動かす力を法律上持っているかどうかを見て、裁判所は取消訴訟の入口を開くかを決めます。この入口の判断が処分性です。
処分性は、公権力の主体の行為であることと、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することの二段で判断します
最判昭和39年10月29日(大田区ごみ焼却場設置事件)は、行政庁の処分とは、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいうとしました。第一に、優越的な地位に立って一方的に行う行為かどうかを見ます。第二に、その行為が個人の権利義務を直接変動させることが法律上認められているかどうかを見ます。どちらかが欠ければ処分性は否定されます。第二の要素は、その行為に取消訴訟によらなければ覆せない効力が法律上与えられているか、という言い方でも表されます。労災就学援護費の支給・不支給の決定について、判例(最判平成15年9月4日)は、法が保険給付と同様の手続で支給できる旨を定めていると解し、労働基準監督署長の決定によって初めて具体的な支給請求権を取得する仕組みが採られていることから、法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使として処分性を認めました。「取消訴訟によらなければその判断を覆すことができないとの効力が法律上与えられたものとはいえない」という理由づけで労災就学援護費の不支給決定の処分性を否定する肢は誤りです。支給の要件や金額の細目が法令でなく通達に置かれていても、法律が支給の仕組みを用意している以上、決定は法を根拠とする公権力の行使だからです。
一般的・抽象的な定めにとどまる行為には処分性がありませんが、みなし道路の一括指定は個別の土地に私権制限を生じさせます
行為が特定の者に向けられず、一般的・抽象的な基準を定めるにとどまるなら、処分性は否定されるのが原則です。最判昭和43年12月24日(墓地埋葬通達事件)は、通達は原則として法規の性質をもたず、「一般の国民は直接これに拘束されるものではな」いとして、通達の処分性を否定しました。もっとも、建築基準法42条2項のいわゆるみなし道路について、告示により一定の条件に合致する道を一括して指定する方法がとられた場合でも、判例(最判平成14年1月17日)は、指定の効果が及ぶ個々の道の敷地所有者は道路内の建築の制限や私道の変更・廃止の制限という具体的な私権制限を受けるので、指定は個別の土地についてその本来的な効果として私権制限を発生させ、個人の権利義務に直接影響を与えるとして処分性を認めました。「一般的抽象的な基準を定立するものにすぎないから処分に当たらない」という肢は誤りです。指定の方法が一括か個別かではなく、指定の効果が個々の土地に法律上直接生じるかどうかで判断するからです。
行政指導として定められた勧告でも、従わないときの不利益が相当程度確実なら処分性が認められます
病院開設中止の勧告は、医療法上は勧告を受けた者が任意に従うことを期待してされる行政指導として定められています。しかし、勧告に従わないと、相当程度の確実さをもって、病院を開設しても保険医療機関の指定を受けられなくなります。国民皆保険制度の下で保険医療機関の指定を受けられない病院はほとんど成り立たないので、実際上は開設自体を断念せざるを得ません。判例(最判平成17年7月15日)はこの点を捉えて、勧告に処分性を認めました。「病院開設中止の勧告は、医療法上は当該勧告を受けた者が任意にこれに従うことを期待してされる行政指導として定められているものの、当該勧告を受けた者に対し、これに従わない場合には、相当程度の確実さをもって、病院を開設しても保険医療機関の指定を受けることができなくなるという結果をもたらすものであり、その結果、実際上病院の開設自体を断念せざるを得ないことになるから、上記勧告は、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる」という肢は正しいです。行為の形式が行政指導でも、後続の仕組みまで見て法的効果を判断するという発想です。
土地区画整理事業の事業計画の決定には処分性が認められます
土地区画整理事業の事業計画が決定されると、施行地区内の宅地所有者等は換地処分を受けるべき地位に立たされ、建築行為等の制限も受けます。最大判平成20年9月10日(土地区画整理事業計画決定事件)は、事業計画の決定は施行地区内の宅地所有者等の法的地位に変動をもたらすものであって抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有し、実効的な権利救済を図るという観点から見ても、この段階で抗告訴訟の提起を認めるのが合理的であるとして、処分性を認めました。後続の換地処分の取消訴訟を待たせると、事業が進んだ後では事情判決で取消しが得られないおそれがあるからです。「後続の仮換地指定や換地処分の取消訴訟によって権利救済の目的が十分達成でき、事件の成熟性が欠けるから処分性は認められない」という肢は誤りです。
有効に成立した処分を撤回する行為にも処分性があり、撤回の明文の規定がなくても変わりません
撤回は、瑕疵なく成立した処分を、その後の事情の変更を理由に将来に向かって失効させる行為です。相手方が持っていた法的地位を処分庁が一方的に消滅させるので、撤回そのものが行政事件訴訟法3条2項の処分に当たります。判例(最判昭和63年6月17日)は、実子あっせん行為をした医師に対する指定医師の指定の撤回について、法令上撤回について直接明文の規定がなくとも、指定の権限を付与されている医師会はその権限において指定を撤回できるとし、撤回の処分性を前提に適法性を判断しました。「有効に成立した行政処分を処分後の事情の変更を理由として撤回する行為は、法令上当該撤回について直接明文の規定がない場合には、処分性が認められない」という肢は誤りです。明文の規定の有無は撤回が許されるかという本案の問題であって、処分性の問題ではないからです。
最判昭和39年10月29日(大田区ごみ焼却場設置事件)
行政庁の処分とは、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。
論文ではこう使う
論文では、定義を書いてから二段で当てはめます。公権力性はほとんど争いになりませんから、配点は法的効果に集まります。根拠法令を辿って、その行為が何を法的に変えるのか、後続の処分を待っていては救済が間に合わないのではないかを、条文を引きながら具体的に書きます。行政指導の形式をとる行為なら、従わない場合に法律上どのような不利益が続くのかを健康保険法などの関連法令から示し、その確実さを事実で詰めます。計画の決定なら、施行地区内の者の法的地位がどう変わるか、後続処分の段階で争わせると事情判決により救済が失われないかを書きます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。