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事情判決とは

じじょうはんけつ

行政法 取消訴訟の審理・判決

事情判決とは、処分が違法であっても、これを取り消すと公の利益に著しい障害を生ずるときに、判決の主文で処分が違法であることを宣言したうえで、取消しの請求を棄却する判決です(行政事件訴訟法31条1項)。

土地区画整理の手続に違法があったとしても、街が出来上がってから処分を取り消して全部やり直すと、そこに住む人みんなが困ります。そこで裁判所は、処分は違法だと判決の主文ではっきり宣言しつつ、取消しだけは認めないことができます。違法な処分をそのまま残す例外的な判決なので、要件は厳しく定められ、原告は国家賠償などで別に救済を求めることになります。

先生が裁判官役(札「裁判所」)が判決書を掲げ、判決書に大きく「主文 処分は違法である。請求を棄却する」。先生の吹き出し「処分は違法だと主文で宣言する。でも取り消すと出来上がった街全体が混乱して公の利益に著しい障害が出るから、取消しだけは認め

要件は三つそろって初めて満たされ、効果は請求を棄却しつつ主文で違法を宣言することです

要件は、①処分又は裁決が違法であること、②これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずること、③原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮したうえ、取り消すことが公共の福祉に適合しないと認められることの三つです。違法な処分を維持するという例外的な扱いなので、要件は厳格に解され、原告を救済するための手当てが同時に用意されています。効果は、請求を棄却しつつ、判決の主文において処分又は裁決が違法であることを宣言することです。条文は宣言を「しなければならない」と定めているので、裁判所が宣言を省くことはできません。裁判所は、終局判決の前に、処分又は裁決が違法であることを宣言する中間判決をすることもできます(31条2項)。中間判決をしたときは、終局判決に事実及び理由を記載するに当たって中間判決の事実及び理由を引用することができ、審理の進め方にも配慮されています(31条3項)。

先生が裁判官役(札「裁判所」)。目の前に大きなチェックリスト「事情判決の要件」で3項目「①処分が違法」「②取り消すと公の利益に著しい障害」「③一切の事情を考慮して、取消しが公共の福祉に適合しない」、全部にチェック。その下に矢印で「効果:請求
  • 要件1処分又は裁決が違法であること
  • 要件2これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずること
  • 要件3原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮し、取り消すことが公共の福祉に適合しないと認められること
  • 効果1請求を棄却する。ただし判決の主文において処分又は裁決が違法であることを宣言する
  • 効果2裁判所は終局判決前に、処分が違法であることを宣言する中間判決をすることができる(31条2項)

主文で違法を宣言するので、違法の判断には既判力が生じます

事情判決は請求を棄却しますが、通常の棄却判決とは違い、主文で処分の違法を宣言しなければなりません。既判力は判決の主文中の判断について生じるのが原則です(行政事件訴訟法7条、民事訴訟法114条1項)。主文の判断である以上、判決が確定すれば、処分が違法であることについて既判力が生じます。「処分の取消しの訴えについて、裁判所が、当該処分は違法ではあるが、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮した上、当該処分を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認め、請求を棄却する判決をし、当該判決が確定したときは、当該処分が違法であるとの当該判決における判断について既判力は生じない」という肢は誤りです。この既判力は後続の国家賠償請求で意味を持ちます。原告は違法を争点としてもう一度立証する必要がなく、あとは公務員の職務上の注意義務違反と損害を立証すれば足ります。もっとも取消訴訟の違法と国家賠償法上の違法は同じではないので、既判力が賠償請求の結論まで決めるわけではありません。判決の効力の全体像は判決の効力で扱います。

先生が原告役(札「原告」)。左に確定した判決書「主文 処分は違法である。請求を棄却する」に深紅の判「確定」。右に別の裁判「国家賠償請求」の入口。先生の吹き出し「主文で違法と宣言されたから、違法の判断に既判力がある。国家賠償ではもう一度違法を

請求は棄却されるので原告も、主文で違法を宣言された被告も控訴できます

違法の宣言と請求の棄却を一つの判決でするので、その実質は原告の主張を一部容れて一部斥ける、一部認容・一部棄却の終局判決だと考えられています。原告は取消しという本来の目的を達していないので不服の利益があり、被告も自らのした処分を主文で違法と宣言されているので、その判断を争う利益があります。「処分の取消しの訴えにおいて、処分が違法ではあるが、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮した上、処分を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認められるとして、裁判所が、処分が違法であることを宣言し、請求を棄却する旨の判決をしたときは、原告及び被告のいずれも控訴することができる」という肢は正しいです。行政事件訴訟法に控訴についての明文はありませんが、東京高判平成21年1月29日は、原審の事情判決で違法を宣言された処分庁側が控訴した例です。損害の賠償又は防止の措置は、裁判所が判決で命ずるものではなく、事情判決をするかどうかの考慮要素にとどまります。事情判決を受けた原告は、別途国家賠償請求や損失補償の請求によって救済を求めることになります。

中央に裁判官の男性(札「裁判所」)が判決書「主文 処分は違法である。請求を棄却する」を掲げる。左に先生が原告役(札「原告」)で吹き出し「取消しは得られなかった。だから控訴できる」。右に役人の男性(札「被告(処分庁)」)で吹き出し「主文で違法

工事完了などの既成事実は、事情判決で考慮する場合と、訴えの利益を失わせる場合に分かれます

工事が完了した、施設ができてしまったという事情は、取消しを求める実益を失わせるように見えます。最判平成4年1月24日(土地改良事業と訴えの利益)は、土地改良事業の施行認可処分の取消訴訟について、訴訟の係属中に事業計画に係る工事と換地処分がすべて完了し、原状回復が社会通念上不可能になったとしても、それは事情判決の適用に関して考慮されるべき事柄であって、認可処分の取消しを求める訴えの利益を消滅させないとしました。認可処分が取り消されれば、その後に行われた換地処分などの一連の手続と処分は法的根拠を失うので、原告が守ろうとする利益はなお法的に回復の余地があるという理由です。一方、建築確認は、それを受けなければ工事をすることができないという法的効果を与えられているにすぎないので、工事が完了すれば取消しを求める訴えの利益は失われます(最判昭和59年10月26日)。「建築工事が完了して建築物が完成してしまうと、建築確認が違法であるとして取り消されたとしても、社会的、経済的損失の観点からみて、社会通念上、当該建築物を除却することは不可能であると考えられますが、そのような事情は、事情判決に関する規定の適用に際して考慮されるべき事柄であって、建築確認の取消しを求める訴えの利益を消滅させるものではないと考えられます」という肢は誤りです。保安林の指定解除も、代替施設の設置によって洪水や渇水の危険が解消され、保安林の存続の必要性がなくなったときは、訴えの利益が失われます(最判昭和57年9月9日)。「保安林指定解除処分の取消訴訟係属中に代替施設の設置によって洪水や渇水の危険が解消され、その防止上からは保安林の存続の必要性がなくなったとしても、そのような事情は、事情判決に関する規定の適用に際して考慮されるべき事柄であって、当該解除処分の取消しを求める訴えの利益を消滅させるものではない」という肢も誤りです。区別の基準は、原告が保護を求める利益が処分の取消しによってなお回復できるかどうかです。訴えの利益は口頭弁論終結時を基準に判断され、回復すべき法律上の利益が消滅していれば訴えは却下されます。事情判決は、訴えの利益がなお存在することを前提に、本案で処分の違法を認めたうえでする判決です。土地区画整理の事業計画をめぐる争いでも同じ枠組みが使われます。

無効確認訴訟には準用されず、審査請求では事情裁決になります

事情判決は取消訴訟に特有の制度です。38条は31条を無効等確認訴訟に準用していません。無効な処分は初めから効力がなく、判決によって効力を奪うわけではないので、取消しによる公益への障害という発想が働かないからです。「行政事件訴訟法においては、裁判所は、処分の無効確認を求める訴えにおいて、当該処分が違法かつ無効なものであるものの、これを無効とすることにより公の利益に著しい障害を生ずる場合であって、処分を無効とすることが公共の福祉に適合しないと認めるときは、請求を棄却することができる旨条文上規定されている」という肢は誤りです。行政不服審査では対応する仕組みが置かれています。審査庁は、処分が違法又は不当ではあるが、これを取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、審査請求を棄却しつつ、裁決の主文で処分が違法又は不当であることを宣言できます(行政不服審査法45条3項)。これが事情裁決で、違法だけでなく不当も対象になる点が事情判決との違いです。詳しくは裁決と決定で扱います。

先生が裁判官役(札「裁判所」)で中央。左に扉「無効確認訴訟」の札「38条は31条を準用しない」に深紅の×印、右に扉「審査請求」の札「事情裁決:違法又は不当でも棄却しつつ主文で宣言(行政不服審査法45条3項)」。先生の吹き出し「無効な処分は最

選挙訴訟では条文の準用なしに一般的法理として用いられました

公職選挙法は、選挙の効力に関する訴訟について行政事件訴訟法31条の準用を明文で排除しています(219条)。ところが最大判昭和51年4月14日(衆議院議員定数不均衡事件)は、議員定数配分規定が違憲であると判断しながら、選挙を無効とすると憲法の所期しない結果が生ずるとして、31条に含まれる一般的な法の基本原則に立脚し、選挙を無効としない旨を主文で宣言しました。準用規定がなくても、違法を宣言しつつ効果の発生を差し控えるという法理が働くという理解です。事情判決の条文がどこまで一般化できるかという論点であり、選挙訴訟以外に安易に広げるべきではないと批判されてもいます。事情判決の例は実際にはごく少なく、土地区画整理事業や土地改良事業のように既成事実が積み上がった大規模事業で適用が議論されます。違法な処分が是正されないままになるので、31条は最後の手段として厳格に運用されます。

行政事件訴訟法 第31条 第1項

取消訴訟については、処分又は裁決が違法ではあるが、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分又は裁決を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、請求を棄却することができる。この場合には、当該判決の主文において、処分又は裁決が違法であることを宣言しなければならない。

論文ではこう使う

論文では、処分の違法を認定した後、取消しの効果が現実にどう波及するかを描きます。すでに工事が完了し多数の権利関係が形成されている事案では、取り消すと権利関係が根本から覆り公の利益に著しい障害が生ずると述べ、原告の損害が金銭賠償で相当程度填補できることを示した上で、取消しが公共の福祉に適合しないと結びます。その際、事情判決は違法状態を追認するものであるから要件は厳格に解すべきだと断り、安易な適用を戒める姿勢を見せます。結論としては請求を棄却しつつ主文で違法を宣言し、原告は国家賠償等により救済を求めるべきだと締めます。無効確認訴訟が選ばれている設例では、準用がないことを指摘します。

試験ではこう問われる

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読んだあとに、行政法の肢別演習を

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