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用語集 / 行政法 / 取消訴訟における主張制限

取消訴訟における主張制限とは

とりけしそしょうにおけるしゅちょうせいげん

行政法 取消訴訟の審理・判決

取消訴訟における主張制限とは、取消訴訟の原告は自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができないという規律です(行政事件訴訟法10条1項)。処分の取消訴訟と裁決の取消訴訟の双方を提起できる場合に、裁決の取消訴訟では処分の違法を主張できないという規律(同条2項、原処分主義)も、主張制限と呼びます。

空港の近くに住む人が、騒音を理由に航空会社への免許の取消しを求める裁判を起こしたとします。裁判で「この免許は会社の経営計画の審査が甘かったから違法だ」と主張しても、裁判所はその主張を取り上げません。経営計画の審査は会社や利用者のための決まりであって、住民の騒音被害とは関係がないからです。取消訴訟は違法一般を正す制度ではなく、自分の利益を守るための制度なので、主張できる違法もその利益に関係するものに絞られます。

空港を背景にした法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座る。左に周辺住民の男性(札「原告(周辺住民)」)が二枚の紙を掲げ、一枚は「騒音の審査に不備」、もう一枚は「会社の経営計画の審査が甘い」。二枚目の紙の上に深紅の×印と札「自己

原告適格が誰を入口に通すかを決め、主張制限が何を主張できるかを絞ります

取消訴訟の門をくぐった原告でも、どんな違法でも主張できるわけではありません。行政事件訴訟法10条1項は、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができないと定めます。原告適格(9条1項)が「誰が訴えられるか」を決めるのに対し、この規定は「何を主張できるか」を絞ります。主張制限には二つの場面があります。

  • 10条1項自己の法律上の利益に関係のない違法の主張の制限。主に第三者が提起する取消訴訟で問題になる
  • 10条2項処分の取消訴訟と裁決の取消訴訟を提起できる場合、裁決の取消訴訟では処分の違法を主張できない(原処分主義)

主張制限に触れる主張しかない場合でも、訴えは却下ではなく棄却されます

10条1項は訴訟要件ではなく本案の規律です。原告適格が認められて訴えが適法である以上、裁判所は本案の判断に進み、主張された違法が自己の法律上の利益に関係しないと判断すれば、その主張は理由がないものとして請求を棄却します。したがって「取消訴訟においては、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができず、原告がこの制限に触れる主張のみを行っている場合には、訴えが却下されることになる」という肢は誤りです。却下と棄却の違いは既判力の及ぶ範囲に影響し、判決の効力の理解とも結びつきます。9条1項の原告適格の判断で訴えの入口を通したのに、10条1項で出口を閉じることがあるのは、両者が別の規律だからです。原告適格は法律上の利益を有するかを問い、主張制限はその利益と主張された違法との結びつきを問います。もっとも実際には、原告適格を認めた根拠が主張できる違法の範囲を決めるので、二つの判断は連続しています。原告適格を広く認めながら主張制限で切り落とすという運用は救済の実効性を損なうため、判例は主張制限の運用に抑制的です。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で、法廷の入口の扉と法壇の間に立つ。扉に札「原告適格(9条1項):誰が訴えられるか」、法壇に札「主張制限(10条1項):何を主張できるか」。原告の男性(札「原告」)は扉を通って法廷の中に入っているが

原告適格を基礎づけた利益と結びつく違法だけが主張できます

主張制限は、第三者が提起する取消訴訟で実質的な意味を持ちます。空港の周辺住民が定期航空運送事業免許の取消しを求める場合、住民の原告適格は騒音による健康・生活環境被害から基礎づけられます。そうすると主張できる違法も、騒音に関する審査の不備など、その利益に関係するものに限られます。最判平成元年2月17日(新潟空港訴訟)は、免許基準のうち騒音障害の防止に関する規定を根拠に周辺住民の原告適格を認め、審理の対象もその観点から画しました。もっとも、主張制限を厳格に運用しすぎると第三者の救済が形骸化します。最大判平成17年12月7日(小田急高架訴訟)は、都市計画事業認可の取消訴訟で、周辺住民の原告適格を騒音・振動による健康被害の観点から広く認めました。大法廷判決を受けて本案を判断した最判平成18年11月2日は、主張できる違法を騒音に関するものに限ることなく、事業計画の合理性に関する裁量判断の当否を審理しています。公益に関わる違法であっても、それが原告の利益を保護する趣旨を含むなら主張できます。原告適格の範囲と主張制限の範囲は連動しており、原告適格の議論を主張の段階でもう一度繰り返す形になります。

高架の鉄道と住宅地を背景にした法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)。左に多数の周辺住民(札「原告(周辺住民)」)が並び、先頭の男性が「事業計画は合理性を欠く」と書いた紙を掲げる。先生の吹き出し「原告適格は騒音・振動による健康被害の観点

手続上の違法も、自己の利益に関係する限り主張できます

処分の手続的な瑕疵は、誰の利益を守るための手続かを見て判断します。名あて人に与えられた聴聞や弁明の機会を欠いたことは、名あて人自身が主張できる違法です。第三者が、自分には無関係な相手方への手続違反を持ち出しても、10条1項で排斥されます。逆に、周辺住民の意見を聴く手続や公聴会が法定されている場合、その手続を欠いたことは周辺住民の利益に関係する違法として主張できます。手続の瑕疵が取消事由になるかという問題とは別に、そもそも誰がその瑕疵を主張できるかという層があります。なお、10条1項は個別法が定める審理範囲の制限とも関係します。最判平成5年2月16日(労災保険不支給決定取消訴訟と審理範囲の制限)は、個別の制度の仕組みから、取消訴訟で審理できる違法事由が限られることを示しました。処分が段階的に積み重なる仕組みでは、先行処分の違法を後行処分の取消訴訟で主張できるかという違法性の承継の問題も重なります。主張制限は原告と違法事由の関係を問うのに対し、違法性の承継は処分と処分の関係を問うので、両者は別の関門です。

裁決の取消訴訟では裁決固有の瑕疵しか主張できず、処分の取消訴訟を後から併合できます

処分と、審査請求を棄却した裁決の双方に取消訴訟を提起できる場合、原告は処分の違法を処分の取消訴訟で主張すべきです。裁決の取消訴訟では、審査手続の違法、審理員の関与の違法、裁決書の理由の提示の不備など、裁決固有の違法だけを主張できます(10条2項)。これを原処分主義といいます。同じ違法事由を二つの訴訟で審理して判断が矛盾することを避けるためです。「原処分の取消訴訟と原処分についての審査請求を棄却した裁決の取消訴訟とを提起することができる場合、裁決の取消訴訟においては、原処分の違法を理由として取消しを求めることができない」という肢は正しいです。裏返しに、「処分の取消訴訟と当該処分についての審査請求を棄却した裁決の取消訴訟とを提起することができる場合であっても、原告は、当該裁決の取消訴訟において、当該処分の違法を主張することが許される」という肢は誤りです。裁決の取消訴訟だけを起こしていた原告が、処分の違法を主張する機会を出訴期間の経過で失わないように、19条と20条が手当てをしています。処分の取消しの訴えは裁決の取消しの訴えの関連請求なので、口頭弁論の終結に至るまで併合して提起でき(19条1項)、この場合は被告の同意を要せず、出訴期間は裁決の取消しの訴えを提起した時に提起されたものとみなされます(20条)。「処分についての審査請求を棄却した裁決の取消訴訟を提起した後であっても、原告は、法令に特別の定めがある場合を除き、当該訴訟の口頭弁論の終結に至るまで、当該訴訟に併合して、当該処分の取消訴訟を適法に提起することができる」という肢は正しいです。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座り、机の上に二つの書類。左の書類「裁決の取消訴訟」には札「裁決固有の瑕疵だけ(10条2項 原処分主義)」、右の書類「処分の取消訴訟」には札「処分の違法はこちらで」。原告の男性(札「原告」)

個別法が裁決主義を採る場合は、裁決の取消訴訟で原処分の違法も主張します

個別法が、処分に対する不服は裁決の取消訴訟によってのみ争えると定めることがあります。これが裁決主義で、電波法や弁護士法などに例があります。この場合は原処分の取消訴訟を提起できず、裁決の取消訴訟で原処分の違法も含めて主張します。10条2項は処分の取消訴訟と裁決の取消訴訟の双方を提起できることを前提とする規定なので、裁決主義の下ではそもそも適用されないからです。原処分主義と裁決主義は結論が正反対になるので、個別法にどのような定めがあるかで答えが決まります。裁決主義が採られている場合でも、裁決の取消しを求める訴訟の被告は裁決庁が所属する行政主体であり、訴訟の形が変わるだけで救済の中身は変わりません。原処分主義の下では、原処分の取消訴訟を本筋とし、裁決の取消訴訟は審査手続そのものに瑕疵がある場合の補助的な手段になります。審査庁が審理員の意見書を踏まえずに裁決をした、審査請求人に口頭意見陳述の機会を与えなかったといった事情が、裁決固有の瑕疵の典型です。

行政事件訴訟法 第10条 第1項

取消訴訟においては、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができない。

論文ではこう使う

論文では、原告適格を認めた根拠を明示し、その根拠となった利益を基準に主張できる違法を絞ります。第三者の訴訟なら、根拠法令が原告の個別的利益を保護する趣旨を含む範囲で違法事由を組み立て、それ以外の公益違反の主張は10条1項に触れると述べます。制限に触れる主張しかないときは訴え却下ではなく請求棄却だと明記します。裁決を争う設例では、まず個別法が裁決主義を採るかを確認し、採っていなければ10条2項を挙げて裁決固有の瑕疵に限ると述べ、原処分の違法を争うには19条・20条で処分の取消訴訟を追加的に併合すべきだと道筋を示します。

試験ではこう問われる

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