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用語集 / 行政法 / 理由の追加・差替え

理由の追加・差替えとは

りゆうのついか・さしかえ

行政法 取消訴訟の審理・判決

理由の追加・差替えとは、取消訴訟で被告が、処分の際に示した理由とは別の理由を持ち出して処分の適法性を主張することです。判例は処分の同一性が保たれる限りこれを認めますが、別の懲戒事由への差替えのように処分の同一性を失わせるものは許されません。

役所から「文書は保有していないので開示しない」と断られた人が裁判を起こしたところ、裁判の途中で役所が「実は保有しているが、個人情報が含まれるから開示できない」と言い直したとします。処分の時に書かれていなかった理由を裁判で持ち出してよいかが問題になります。取消訴訟で裁判所が見るのはその処分が違法かどうかの全体なので、判例は同じ処分を支える別の理由なら主張してよいとします。ただし、理由を入れ替えると別の処分になってしまう場合は許されません。

情報公開訴訟の法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座る。左に開示請求者の男性(札「原告」)が「不開示決定 理由:文書を保有していない」と書かれた通知書を持つ。右に役所の職員の男性(札「被告」)が「追加の理由:個人情報が含まれる

処分の同一性が保たれる限り、別の理由を主張できます

行政庁は不利益処分や申請拒否処分をするとき、理由を示さなければなりません(行政手続法8条・14条)。ところが取消訴訟になると、被告は通知書に書かれていない事情を持ち出して処分は適法だと主張したくなります。取消訴訟の訴訟物は処分の違法性一般であり、裁判所は処分を支える事由をすべて審理できます。被告が処分時に示した理由に拘束されるとすると、実体的には適法な処分が理由の書き方だけで取り消され、行政庁が同じ処分をやり直すことになって無駄が生じます。そこで判例は、処分の同一性が失われない限り理由の追加・差替えを認めます。青色申告に対する更正処分は理由付記が法律上要求されている典型ですが、最判昭和56年7月14日(青色申告更正処分と理由の差替え)は、理由付記制度の趣旨は処分庁の判断の慎重・合理性を担保しその恣意を抑制するとともに処分の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えることにあるとした上で、訴訟の段階で更正の理由とは異なる事実を主張することを一般的に禁ずるものではないとしました。情報公開の分野でも同様で、最判平成11年11月19日(処分理由の差替え(情報公開))は、理由付記の目的は非公開の理由を具体的に記載して請求者に通知させること自体によって一応達せられるので、一たび通知書に理由を付記した以上はそれ以外の理由を取消訴訟で主張することを許さない趣旨を含むと解すべき根拠はないとして、当初示されていた非公開事由とは別の事由を訴訟で主張することを認めました。したがって「申請拒否処分については、理由の提示が義務付けられているが、これは行政庁の判断の恣意を抑制するとともに不服申立てに便宜を与えることを目的としているので、行政文書を開示しない決定の取消訴訟において、被告が当該決定の際に提示されていた処分理由とは異なる処分理由を追加して主張することが許されることはない」という肢は誤りです。前半の理由提示の目的は判例のとおりですが、その目的から理由の追加が禁じられるという結論は導かれません。

  • 理由提示の瑕疵処分の時点で理由が不十分なら、それ自体が取消事由。訴訟での説明で治癒されない
  • 理由の差替え理由提示に瑕疵がない処分について、訴訟で別の理由を追加・主張できるか
  • 処分の同一性同じ処分を支える別の根拠なら可。別の処分に組み替えることになるなら不可
  • 違法判断の基準時差し替えられる理由は処分時に存在した事実に限られる

別の懲戒事由への差替えは、処分の同一性を欠くため許されません

限界は処分の同一性です。行政庁が特定の事実を捉えて処分をした以上、その事実とは無関係の事実に入れ替えることは、外見だけ同じ処分を別の処分に作り替えることになります。懲戒処分がわかりやすい例です。「飲酒運転を理由とする公務員の懲戒処分の取消訴訟において、当該公務員が処分時以前に公金横領をしていたことが判明したとして、被告がこれを懲戒事由として主張することは許されない」という肢は正しいです。公金横領は処分時より前の事実なので違法判断の基準時の壁には触れませんが、懲戒処分はどの非違行為を理由とするかが処分の内容と不可分に結び付いており、飲酒運転に対する懲戒と公金横領に対する懲戒は、対象とする非違行為も量定の判断過程も異なるので、同じ処分とはいえません。行政庁が公金横領を理由に処分したいのであれば、改めて手続を踏んで新たな懲戒処分をすべきです。これに対し、課税処分のように、同一の課税期間・同一の税額を支える計算の内訳が入れ替わるだけの場合は、処分の同一性が保たれるので差替えが許されます。理由の差替えの可否は、差し替えられる事実が処分の基礎となる社会的事実として同じ枠に収まるかで判断します。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)。左に公務員の男性(札「原告」)と「懲戒処分 理由:飲酒運転」の書類。右に役所側の代理人の男性(札「被告」)が「処分時以前の公金横領」と書いた紙を差し出し、吹き出し「処分より前の事実だから懲戒事由と

理由提示の瑕疵は、訴訟や裁決での説明によって治癒されません

理由の差替えを認めることと、処分時の理由提示が不十分でよいこととは別です。理由提示は処分の時点で果たすべき義務であり、判例は、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して処分がされたかを、名宛人が提示された書面の記載自体から了知できなければならないとしています(最判昭和38年5月31日、最判昭和60年1月22日)。最判平成23年6月7日も、根拠法令の規定内容、処分基準の存否・内容・公表の有無、処分の性質・内容、原因となる事実関係の内容などを総合して、理由提示が十分かを判断しました。理由提示が十分かどうかは処分庁が名宛人に示した記載それ自体で判断されるので、名宛人が別の経路から処分理由を推知できたかどうかで左右されません。「法第13条第1項第1号に基づく聴聞手続が行われ、不利益処分の名宛人が、聴聞の期日におけるやり取りの状況から処分理由を事前に予測し得る場合であっても、不利益処分の理由の提示における記載自体から、いかなる事実関係に基づいて、いかなる法規を適用して当該処分が行われたかを知ることができないときは、当該処分理由の提示に瑕疵があることになる」という肢は正しいです。そして瑕疵は後から埋められません。最判昭和47年12月5日(更正処分の理由付記不備と瑕疵の治癒)は、更正の理由付記に不備がある場合、審査裁決において処分の具体的根拠が明らかにされたとしても瑕疵は治癒されないとしました。訴訟で被告が詳細な理由を述べても同じです。したがって、理由提示に瑕疵がある事案では、被告は差替えの議論に入る前に取消しを免れません。訴訟で理由を説明したから瑕疵が治ったという結論にはならないので、二つの論点は順番に分けて考えます。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)が「更正処分 理由:(空欄が多く不備)」と書かれた通知書を手に持つ。右に役所の職員の男性(札「被告」)が「詳しい根拠はこちら」と書いた厚い説明書を差し出し、吹き出し「裁判で具体的な根拠を説明したから

審査請求の裁決で示された理由と、訴訟での主張は別に扱います

審査庁は裁決に理由を付さなければなりません(行政不服審査法50条1項4号)。裁決の理由が処分庁の示した理由と違っていても、それだけで処分が違法になるわけではありません。審査庁は処分の適否を自ら審理するので、別の観点から処分を維持することがあり得るからです。もっとも、原処分の理由提示の瑕疵が裁決によって治癒されないことは前に述べたとおりです。訴訟の段階では、裁決で示された理由に被告が縛られることもありません。原処分の取消訴訟では原処分の適法性が審理の対象であり、被告は処分の同一性の範囲で理由を主張できます。なお、裁決の取消訴訟では裁決固有の瑕疵だけが主張できるという主張制限が働くので(行政事件訴訟法10条2項)、どの処分を争っているのかを最初に確かめる必要があります。

理由の差替えを認めても、原告の防御の機会は手続で確保します

理由の差替えを広く認めると、原告は訴訟の途中で新しい争点に直面します。そこで裁判所は釈明処分の特則(行政事件訴訟法23条の2)により処分の理由を明らかにする資料の提出を求め、争点を早期に確定させます。被告が終盤になって新しい理由を持ち出した場合には、時機に後れた攻撃防御方法として却下されることもあります。また、理由の差替えが認められても原告が敗訴するとは限りません。新しい理由についても被告が要件事実を主張立証しなければならず、その分配は立証責任の問題です。結局、理由の差替えは被告に無制限の自由を与えるものではなく、処分の同一性という実体の枠と、訴訟手続上の制約の二重の縛りの中で認められています。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)が右側の役所の職員の男性(札「被告」)に向けて「処分の理由を明らかにする資料を提出せよ(釈明処分の特則 23条の2)」と書いた紙を渡し、吹き出し「理由の差替えを認める代わりに、争点を早く固めて原告に

論文ではこう使う

論文では、二段構えで書きます。第一に、処分時の理由提示に瑕疵がないかを検討し、記載自体からの了知可能性を規範として当てはめ、瑕疵があれば治癒を否定して取消しに直結させます。第二に、理由提示が適法であることを前提に差替えの可否を論じます。取消訴訟の訴訟物は処分の違法性一般であり、理由提示制度の趣旨は処分時の恣意抑制にあるから、訴訟段階での理由の追加は一般に妨げられない、という規範を立てます。その上で、差し替えられる事実が処分の基礎となる事実と同一の枠に収まるかを当てはめ、懲戒事由の入替えのように処分の同一性を欠く場合には許されないと結びます。

試験ではこう問われる

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