民衆訴訟・機関訴訟(住民訴訟・選挙訴訟)とは
みんしゅうそしょう・きかんそしょう
民衆訴訟・機関訴訟とは、国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起する民衆訴訟と、国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争についての訴訟である機関訴訟をあわせた呼び名で、二つをまとめて客観訴訟といいます(行政事件訴訟法5条・6条)。いずれも法律に定める場合において、法律に定める者に限り提起することができます(同法42条)。
一票の重みが選挙区で大きく違う選挙があったとき、有権者はその選挙を無効にしてほしいと考えますが、自分の財産や地位が奪われたわけではありません。取消訴訟は自分の権利利益が害された人のための訴訟なので、この場面には合いません。そこで法律は、選挙人や住民が自分の利益と関係なく行政の適法性を正す訴訟と、役所どうしの権限の争いを裁く訴訟を特別に用意しました。裁判所の本来の仕事は具体的な権利の争いを裁くことなので、法律が特に認めた場合にだけ使えます。
客観訴訟は法律上の争訟ではないので、法律の根拠が要ります
行政事件訴訟には、自分の権利を守るための主観訴訟と、行政の適法性そのものを正すための客観訴訟があります。客観訴訟が民衆訴訟と機関訴訟です。裁判所法3条1項の法律上の争訟とは、当事者間の具体的な権利義務に関する紛争で、法令の適用により終局的に解決できるものをいいます。最大判昭和27年10月8日(警察予備隊違憲訴訟)は、「わが裁判所が現行の制度上与えられているのは司法権を行う権限であり、司法権が発動するためには具体的な争訟事件が提起されることを必要とする」として、具体的な争訟を離れて法令の合憲性を判断する権限はないとしました。民衆訴訟と機関訴訟は、原告自身の権利義務を争うものではないので、この意味の法律上の争訟には当たりません。それでも裁判所が審理できるのは、裁判所法3条1項後段が「その他法律において特に定める権限」を裁判所に与え、行政事件訴訟法42条が法律に定める場合において法律に定める者に限って提起を認めているからです。逆にいえば、法律の明文がなければ客観訴訟は提起できず、原告が自己の権利や地位を争っているのなら、それは客観訴訟ではありません。法律が客観訴訟を設けること自体は憲法上許されており、住民訴訟や選挙訴訟は、行政の適法性を住民や選挙人の手で確保するための制度として定着しています。どの範囲で誰に出訴を認めるかは立法政策の問題です。
- 民衆訴訟(5条)国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するもの。選挙無効訴訟と住民訴訟が二大類型
- 機関訴訟(6条)国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争についての訴訟。地方自治法251条の5の関与に関する訴えなどがある
自己の権利を争う訴えは、選挙がらみでも民衆訴訟になりません
選挙に関係する訴えがすべて民衆訴訟になるわけではありません。選挙人たる資格で選挙そのものの効力を争うなら公職選挙法204条の選挙無効訴訟で、これは民衆訴訟です。しかし自分が投票できる地位を確認せよという訴えは、原告自身の選挙権という自己の法律上の利益をめぐる争いですから、実質的当事者訴訟になります。最大判平成17年9月14日(在外日本人選挙権訴訟)は、在外国民が次回の選挙で投票できる地位の確認を求めた訴えを、公法上の当事者訴訟のうち公法上の法律関係に関する確認の訴えとして適法としました。ですから「国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民が提起する、衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙において選挙権を行使する権利を有することの確認を求める訴えは、公職選挙法上の選挙訴訟であって、法第5条の民衆訴訟である」という肢は誤りです。民衆訴訟かどうかは、訴えが自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起されているかで決まり、選挙に関係する訴えかどうかで決まるのではありません。当選人の決定を争う当選訴訟も、当選人や候補者の地位に関わるとはいえ、公職選挙法が選挙人にも出訴を認める限度では民衆訴訟として扱われます。
選挙無効訴訟では、事情判決の法理が判例上用いられます
議員定数の不均衡が争われる訴訟は、公職選挙法204条に基づく選挙無効訴訟という民衆訴訟の形で提起されます。もっとも選挙を無効にすれば当選人の地位が失われ、選挙のやり直しまで議員が不在になるなど、かえって混乱が生じます。最大判昭和51年4月14日(衆議院議員定数不均衡事件)は、選挙は違憲であると判断しつつ、行政事件訴訟法31条1項の事情判決そのものは公職選挙法219条で準用が排除されていることを前提に、同項に含まれる一般的な法の基本原則を適用して、選挙を無効とはせず違法を宣言するにとどめました。これがいわゆる事情判決の法理です。条文の準用ではなく法の一般原則として使っている点が答案でも問われます。なお選挙無効訴訟は、選挙の日から30日以内に高等裁判所へ提起するものとされ、被告は当該都道府県の選挙管理委員会などです。出訴期間も被告も公職選挙法が個別に定めており、行政事件訴訟法の取消訴訟の規定がそのまま当てはまるわけではありません。
機関訴訟は行政内部の権限争いで、法律の定めがなければ却下されます
機関相互の紛争は、同じ法人の中の役割分担をめぐる争いで、法人格者どうしの権利義務の争いではありません。本来はその組織の内部で解決すべきもので、裁判所が裁く法律上の争訟に当たらないからです。最判昭和28年6月12日(市議会議員としての資格において提起する訴訟)は、執行機関と議決機関との関係は市の内部の機関相互間の関係であり、法律が内部的解決に委ねることを不適当として特に訴えの提起を許している場合にのみ訴訟の対象になるとして、市議会議員が市又は市長を被告として議決の無効確認を求めた訴えを却下しました。「執行機関と議決機関との関係は、地方公共団体の内部の機関相互間の関係であり、法律が内部的解決に委ねることを不適当として特に訴えの提起を許している場合を除き、機関相互間の権限の紛争は、訴訟の対象とはならないから」議決の無効確認を求める訴えは不適法だという肢は正しいです。市長が市議会の議決に拘束されるとしても、その拘束は行政内部の関係にとどまるので、結論は変わりません。法律が特に許した例が、国の関与に不服がある地方公共団体の訴え(地方自治法251条の5)や、是正の指示に従わない場合の不作為の違法確認の訴え(同法251条の7)で、最判平成28年12月20日(公有水面埋立承認の職権取消し(辺野古訴訟))はその例です。
行政主体が固有の利益を主張する訴えは、機関訴訟ではありません
同じ国や地方公共団体が当事者でも、財産権など固有の利益が侵害されたと主張するのであれば、それは権利主体としての争いですから、法律上の争訟に当たり、通常の抗告訴訟になります。最判平成13年7月13日は、県知事が情報公開条例に基づいてした自衛隊庁舎の設計図面の公開決定を国が争った事案で、国が建物の所有者として有する固有の利益が侵害されることを理由とする訴えは法律上の争訟に当たるとし、通常の取消訴訟の枠組みで判断しました。ですから「地方公共団体の長が情報公開条例に基づいてした自衛隊庁舎の設計図面の公開決定に対して国が提起する、当該決定の取消しを求める訴えは、国が建物の所有者として有する固有の利益が侵害されることを理由とするものであっても、行政主体間の権限の行使に関する紛争に該当し、法第6条の機関訴訟である」という肢は誤りです。判断の軸は当事者の顔ぶれではなく、主張されている利益が権限に関するものか固有の権利利益かという点にあります。国や地方公共団体も、財産の所有者や事業者としての立場では私人と同じように処分性のある行為の名あて人になり得ます。その立場で受けた不利益を争うのであれば、原告適格も通常の取消訴訟と同じ枠組みで判断され、この判例の事案では国の原告適格が否定されて訴えは却下されました。
準用される規定は、取消しを求めるものか、無効確認か、それ以外かで振り分けられます
43条は、民衆訴訟又は機関訴訟で処分又は裁決の取消しを求めるものには9条と10条1項を除いて取消訴訟の規定を、処分又は裁決の無効の確認を求めるものには36条を除いて無効等確認訴訟の規定を、それ以外のものには当事者訴訟の規定を準用するとしています。原告適格の9条を除くのは、客観訴訟の原告は自己の法律上の利益とは無関係に法律が定めた資格で訴えるからです。住民訴訟の各号がどの規定の準用を受けるかを考えるときの手がかりになり、たとえば処分の取消しを求める2号請求では11条が準用されて処分庁の所属する地方公共団体が被告になり、差止めを求める1号請求では当事者訴訟の規定が準用されるにとどまるので、地方自治法の文言どおり執行機関又は職員が被告になります。なお、住民訴訟は地方自治法が住民に与えた特別の権能ですから、対象も同法の定める財務会計上の行為に限られ、被告も執行機関又は職員に限られます。「市の住民であるXは、市の所有地上に産業廃棄物の処理施設を設置、操業して違法に有害な物質を排出している産業廃棄物処理業者を被告として、当該施設の操業の差止めを求める住民訴訟を適法に提起することができる」という肢は、私人の事業活動の差止めは住民訴訟の対象でなく、私人を被告にもできないので誤りです。
行政事件訴訟法 第42条
民衆訴訟及び機関訴訟は、法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができる。
論文ではこう使う
論文では、まず原告が誰のどんな利益を主張しているかを確かめます。自己の権利利益なら主観訴訟として抗告訴訟か当事者訴訟に進み、自己の利益にかかわらない資格で行政の適法性を正そうとしているなら客観訴訟だと位置づけます。そのうえで、その訴えを許す法律の規定を必ず挙げます。規定がなければ法律上の争訟に当たらず却下だと書きます。選挙の効力を争う事案では、無効とした場合の弊害を具体的に指摘して事情判決の法理の適用を論じます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。