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用語集 / 行政法 / 住民訴訟における原因行為の違法と財務会計行為の違法

住民訴訟における原因行為の違法と財務会計行為の違法とは

じゅうみんそしょうにおけるげんいんこういのいほうとざいむかいけいこういのいほう

行政法 その他の抗告訴訟・当事者訴訟

住民訴訟における原因行為の違法と財務会計行為の違法とは、住民訴訟で争えるのが支出命令などの財務会計上の行為の違法に限られるため、その原因となった先行行為の違法がどこまで財務会計行為の違法につながるかという問題です。先行行為が違法でも、財務会計行為が当然に違法になるわけではありません。

市が退職直前の教員を一日だけ校長にして退職金を増やしたとします。住民は「あの人事はおかしい」と怒りますが、住民訴訟で争えるのは退職金の支出という財務会計上の行為の違法だけです。人事の発令は支出の原因ではあっても、住民訴訟の対象そのものではありません。そこで、原因の側の違法がどこまで支出の側に持ち込めるかが問題になります。原因行為の違法をそのまま持ち込めるとすると、住民訴訟が行政活動一般の適法性を争う訴訟に変わってしまうため、判例は両者を切り離して考えます。

市役所の場面。先生が市長役(札「市長」)で「支出命令」と書かれた書類に判を押そうとしている。左奥に教育委員会の机(看板「教育委員会」)で「校長発令(一日)」と書かれた辞令を掲げる男性(札「教育委員会」)。右に市民の男性(札「住民」)が指をさ

先行行為が違法にとどまる場合、無効な場合、財務会計行為自体に瑕疵がある場合の三つに分けて考えます

住民訴訟で正せるのは、住民訴訟の対象となる財務会計上の行為の違法だけです。ところが現実の紛争では、支出そのものではなく、その原因となった人事の発令や契約の締結が違法だと主張されます。そこで、先行する原因行為の違法がどこまで支出命令などの財務会計行為の違法につながるかが問題になります。場面は三つに整理できます。原因行為が違法にとどまる場合、原因行為が無効である場合、財務会計行為自体に瑕疵がある場合です。

  • 原因行為が違法にとどまる場合著しく合理性を欠き予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵がある場合に限って、財務会計行為も違法になる
  • 原因行為が無効である場合無効な契約に基づく義務の履行をしてはならない財務会計法規上の義務が生じ、履行としての支出は違法になる
  • 財務会計行為自体に瑕疵がある場合支出負担行為の確認を経ない支出命令など、財務会計法規そのものへの違反を直接に論じる

先行行為が違法でも、支出が当然に違法になるわけではありません

退職直前に一日だけ校長に発令して退職金を増額した事案で、判例は原因行為と財務会計行為を切り離しました。最判平成4年12月15日(一日校長事件)で示された規範は、支出命令を行う長は、先行する行為が著しく合理性を欠きそのため予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存する場合でない限り、その行為を前提として支出をすべき義務があるというものです。つまり長には先行行為の適否を独自に審査する一般的な権限はなく、明らかに看過できない瑕疵があるときだけ支出を拒む義務が生じます。この規範は、財務会計行為の違法を先行行為の違法と同視する主張を封じる役割を果たします。住民訴訟の対象が財務会計上の行為に限られていることの裏返しだと理解してください。原因行為の違法をそのまま持ち込めるとすれば、住民訴訟が行政活動一般の適法性を争う訴訟に変質してしまうからです。鍵になるのは、財務会計行為を行う者が先行行為についてどこまで口を出せる立場にあるかです。人事の発令のように別の権限に基づいてされた行為であれば、支出を命じる長はその判断を尊重せざるを得ません。これに対し、先行行為も同じ長の権限に属し、長自身が違法を作り出したような場合には、看過し得ない瑕疵が認められやすくなります。行政裁量の幅が広い補助金の交付決定などでは、裁量の逸脱濫用が明白といえるかを裁量審査の枠組みで検討します。答案では、誰のどの権限に基づく行為なのかを特定してから規範に当てはめるのが順序です。先行行為が処分である場合には、それが取り消されない限り有効なものとして扱われる公定力も働きますから、支出を命じる側はその処分を前提とせざるを得ません。この点も、財務会計行為の違法を認めにくくする方向に作用します。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座り、手元に「一日校長事件 最判平成4年12月15日」と書いた判例カードを置いている。法壇の前に二枚の紙が横に並び、左「校長発令(原因行為)」、右「退職金の支出命令(財務会計行為)」で、その

契約が私法上無効なら、履行してはならない義務が生じます

先行行為が単に違法な場合と、無効な場合とでは結論が変わります。最判平成20年1月18日(土地開発公社との委託契約の履行義務)は、委託契約が私法上無効であるときは、契約締結権者は「無効な委託契約に基づく義務の履行として買取りのための売買契約を締結してはならない」という財務会計法規上の義務を負い、これに違反して売買契約を締結すればその締結は違法になるとしました。無効な契約には履行義務がないのだから、履行としての支出は正当化されないという筋です。逆に契約が有効である限り、地方公共団体は債務を履行しなければならず、その支出を違法とはいえません。契約の効力そのものを検討する必要がある点で、違法にとどまる場合と分けて論じます。随意契約の要件を欠く契約についても、最判昭和62年5月19日(随意契約の制限に違反した契約の効力)は、契約の効力を否定しなければ法の趣旨を没却する特段の事情がある場合に限って無効になるとしており、違法即無効とはしていません。

市役所の契約担当の場面。先生が市長役(札「市長(契約締結権者)」)で机に座り、目の前の「委託契約書」に深紅で大きく「無効」の判が押されている。隣に「買取りの売買契約書」が置かれ、先生はそれに判を押す手を止めている。土地開発公社の職員の男性(

議会が債権を放棄しても、その議決が裁量権の逸脱濫用に当たれば無効になります

4号請求で損害賠償を命じられそうな局面で、議会が当該損害賠償請求権を放棄する議決をすることがあります。地方自治法96条1項10号は権利の放棄を議会の議決事項としており、議決があれば請求権は消滅するのが原則です。もっとも判例は、住民訴訟制度の趣旨を没却するような放棄を無条件に認めてはいません。議会の債権放棄議決に関する最判平成24年4月20日で、判例は、放棄の適否は議会の裁量に委ねられるとしつつ、当該請求権の発生原因である財務会計行為の性質や内容、違法事由の重大性、放棄により生ずる影響などを総合考慮して、議決が裁量権の範囲の逸脱濫用に当たるときは無効になるとしました。訴訟の係属中に放棄がされた事案では、この判断枠組みを使って議決の効力を検討します。考慮要素としては、損害賠償を命じられる職員の帰責性の程度、地方公共団体が受けた損害の額と回復の可能性、放棄に至る議会の審議の経過などが挙げられます。放棄を認める方向に働く事情と認めない方向に働く事情を両方拾って比較するのが、答案での書き方です。

議会の議場の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で議場の脇に立ち、議長席の男性(札「議会」)が「損害賠償請求権の放棄 可決」と書かれた議決書を掲げている。議場の後ろの傍聴席に住民の男性(札「住民」)が吹き出し「4号請求で勝ちそうになった途端

請求の相手方と義務違反を特定してから4号請求に乗せます

4号請求は、執行機関に対して職員や相手方への請求を求める形をとります。そのため、請求の相手方とされる職員がどの財務会計法規上の義務に違反したのかを具体的に示す必要があります。認容判決が確定すると、長は確定の日から60日以内に支払を請求しなければならず、支払われなければ訴訟を提起しなければなりません(地方自治法242条の3第1項・2項)。「Xが法第242条の2第1項第4号本文の規定に基づきA市の市長においてCに対して損害賠償の請求をすることを求める住民訴訟を適法に提起した事例において、損害賠償の請求を命ずる判決が確定した場合には、A市の市長は、Cに対して損害賠償金の支払を請求することを義務付けられる」という肢は正しいです。被告は執行機関ですから、「支出行為をした当時の市長個人を被告として、市への損害賠償の支払を求める住民訴訟を適法に提起することができる」という肢は誤りです。平成14年改正で住民が職員個人を直接訴える代位請求はなくなり、執行機関に請求を義務付ける形に改められたからです。原因行為の違法をいくら丁寧に論じても、財務会計法規上の義務違反に落とし込めなければ請求は通りません。

請求権を行使しない事案では、怠る事実の違法を正面から論じます

先行行為をめぐる争いは、支出の違法という形だけでなく、請求権を行使しないことの違法という形でも現れます。占用料を請求しない、貸付料の回収を放置するといった場合です。「市が特定の市有地を権原なく占用する者に対し占用料相当額の請求を怠ることの違法確認を求める住民訴訟を、市長を被告として適法に提起することができる」という肢は正しいです。市の財産の管理や債権の行使について権限をもつのは執行機関である市長なので、3号の怠る事実の違法確認の被告になります。もっとも請求の内容には限界があり、「市長Cが町内会Dに契約による債務の履行としての貸付料の支払を請求することを求める住民訴訟を、適法に提起することができる」という肢は、4号が損害賠償又は不当利得返還の請求に限られるため誤りです。契約に基づく貸付料の支払は契約の履行請求であって、損害賠償でも不当利得返還でもないからです。特定の財務会計行為の違法を前提としない怠る事実には監査請求の期間制限が原則として働かない点も、先行行為が古い事案では実益があります。

地方自治法 第232条の4 第2項

普通地方公共団体の長は、政令で定める基準に従つて会計管理者をして支出負担行為に関する確認をさせた後でなければ、支出を命ずることができない。

論文ではこう使う

論文では、まず住民が攻撃している行為を財務会計行為とその原因行為に腑分けします。次に、財務会計行為を行った者が原因行為についてどこまで審査できる立場にあったかを条文と権限分配から確認します。そのうえで、一日校長事件の規範を立て、瑕疵が著しく合理性を欠き予算執行の適正確保の見地から看過し得ないかを事実に当てはめます。契約が問題となる事案では、まず私法上の効力を判断し、無効なら履行してはならない義務に切り替えます。最後に4号請求の枠に戻り、誰に対する何の請求を求めるのかを明示して結びます。

試験ではこう問われる

「住民訴訟における原因行為の違法と財務会計行為の違法」が短答式でどう出題されてきたか、ひっかけの型8件と関係する過去問の肢4本は、無料のアカウントでログインすると読めます。

読んだあとに、行政法の肢別演習を

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