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用語集 / 行政法 / 法定受託事務と自治事務・国の関与

法定受託事務と自治事務・国の関与とは

ほうていじゅたくじむとじちじむ・くにのかんよ

行政法 行政立法

法定受託事務とは、地方公共団体が処理する事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるものです。自治事務とは、地方公共団体が処理する事務のうち法定受託事務以外のものをいい、どちらも地方公共団体の事務です。

旅券の交付や国政選挙の事務は、国の仕事のはずなのに都道府県や市町村の窓口で行われています。かつては知事や市長を国の機関とみなして国の指揮監督の下で処理させていましたが、平成11年の地方分権一括法でこの機関委任事務は廃止されました。いまは国の役割に係る事務も法律で配分された地方公共団体自身の事務で、国は上司として命令するのではなく、法律で定められた関与の手段を通じてだけ口を出せます。国と地方を対等の関係に組み替えたからです。

県庁の窓口の場面。先生が知事役(札「都道府県知事」)で「旅券」と書かれた冊子を申請者の男性(札「申請者」)に手渡している。先生の後ろの壁に「法定受託事務」の看板と、その下に小さく「地方自治法2条9項」。右上に小さく大臣の男性(札「大臣」)が

事務の区分は法律で定まり、法定受託事務も地方公共団体の事務です

法定受託事務は、法律又はこれに基づく政令が特に定めることで生じます(地方自治法2条9項、別表第一・第二)。自治事務は法定受託事務以外の事務と定義された残余の概念ですから(2条8項)、自治事務とする旨の明示は要りません。「処分の根拠となる法律が特に都道府県の自治事務とする旨を定めているときに限り、処分を行う事務は、都道府県の自治事務とされる」という肢は誤りです。そして、法定受託事務であっても、その事務は地方公共団体の事務であって、長が国の機関として処理するのではありません。「第一号法定受託事務は、国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして、地方公共団体の長に委任された事務であるから、地方公共団体の長は、国の機関としてその事務の処理を行う」という肢は誤りで、「この場合、都道府県等は、国の行政機関として当該事務を行うことになる」という肢も誤りです。法定受託事務は国から長に委任された事務ではなく、法律・政令によって地方公共団体に配分された事務だからです。これが機関委任事務との決定的な違いで、都道府県等が大臣の包括的な指揮監督に服することもありません。「当該事務を処理する都道府県等は、当該事務を所掌する国の大臣から、国の下級行政機関として指揮監督を受けるものではない」という肢は正しいです。法定受託事務についても、法令に違反しない限りで条例を制定できます(14条1項)。

  • 自治事務法定受託事務以外の事務。国の関与は助言・勧告、資料提出の要求、協議、是正の要求が基本
  • 第一号法定受託事務都道府県・市町村等が処理する、国が本来果たすべき役割に係る事務
  • 第二号法定受託事務市町村等が処理する、都道府県が本来果たすべき役割に係る事務
  • 是正の要求違反の是正のため必要な措置を講ずることを求める関与。自治事務が中心で、受けた側に措置義務が生じる
  • 是正の指示法定受託事務について、講ずべき措置に関し必要な指示をする関与
  • 代執行法定受託事務について、勧告・指示・裁判所の判決を経て国が代わって行う最後の手段

処分の取消訴訟の被告は、どちらの事務でも地方公共団体です

地方公共団体の事務である以上、その事務として行われた処分の効果は地方公共団体に帰属します。行政事件訴訟法11条1項1号は、処分をした行政庁が国又は公共団体に所属する場合には、その所属する国又は公共団体を被告とすると定めています。知事は都道府県の執行機関であって国の機関ではないので、知事がした処分の被告は、事務の区分にかかわらず都道府県です。「処分を行うことが都道府県の自治事務である場合、及び法定受託事務である場合のいずれにおいても、私人が処分の取消しを求める訴えの被告は、都道府県である」という肢は正しいです。機関委任事務の時代には知事が国の機関として処分をし、国が被告になる場面がありましたが、現在はそのような扱いはありません。これと別の仕組みとして、審査請求については、法定受託事務に係る都道府県知事の処分は、法律に特別の定めがある場合を除き、その事務を所掌する大臣に対してすることができます(地方自治法255条の2)。訴訟の被告と審査請求の相手方は別々に決まるということです。

国の関与には法律又はこれに基づく政令の根拠が必要で、必要最小限度でなければなりません

関与の法定主義は、地方自治法245条の2が定めています。普通地方公共団体は、その事務の処理に関し、法律又はこれに基づく政令によらなければ、国又は都道府県の関与を受け、又は要することとされることはありません。ここでいう関与には、是正の要求や指示のような権力的なものだけでなく、助言・勧告や資料の提出の要求のような非権力的なものも含まれます(245条)。この規定は自治事務と法定受託事務を区別せずに適用されます。「処分を行うことが都道府県の自治事務である場合、及び法定受託事務である場合のいずれにおいても、国が都道府県の事務処理について関与をするに際しては、法律の根拠が必要である」という肢は正しいです。あわせて245条の3第1項は、関与はその目的を達成するために必要な最小限度のものとし、地方公共団体の自主性及び自立性に配慮しなければならないと定めています。関与の比例原則と呼ばれる考え方です。「国が地方公共団体に対して関与を行う場合には、国の関与は、その目的を達成するために必要最小限度のものでなければならないが、法律又はこれに基づく政令の根拠までは必要とされていない」という肢は誤りです。比例原則の部分は正しいものの、法定主義を否定している点で誤っています。

県庁の会議室の場面。先生が知事役(札「都道府県知事」)で机に座り、向かいに大臣の男性(札「大臣」)が「関与」と書かれた紙を差し出している。先生が「地方自治法245条の2」と書かれた本を掲げ、吹き出し「国の関与は、助言や勧告のような弱いもので

自治事務には是正の要求、法定受託事務には是正の指示と代執行があります

関与の手段は事務の区分に対応します。各大臣は、都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、違反の是正又は改善のため必要な措置を講ずべきことを求めることができます(245条の5第1項)。これが是正の要求で、要求を受けた地方公共団体は必要な措置を講じなければなりません(同条5項)。どのような措置をとるかは地方公共団体が選びますが、措置を講ずる義務そのものは生じます。「各大臣は、その担任する事務に関し、都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反していると認めるときは、当該都道府県に対し、その違反の是正のため必要な措置を講ずることを求めることができ、これにより、当該都道府県は、当該措置を講ずる義務を負う」という肢は正しいです。自治事務について国が代執行で直接処理する仕組みはありません。法定受託事務については、講ずべき措置の内容まで指示できる是正の指示(245条の7)が用意され、それでも是正されない場合には、文書による勧告、指示、高等裁判所への訴えと判決を経て、なお知事が従わないときに大臣が代わって行う代執行ができます(245条の8)。「各大臣は、その所管する法律に係る都道府県知事の事務の管理又は執行が法令の規定に違反するものがある場合において、その事務が第一号法定受託事務であるときは、一定の要件の下で代執行をすることができる」という肢は正しいです。裁判所の判決を挟むのは、国が一方的に地方公共団体の事務を取り上げることを防ぐためです。

左右対比。上部の看板は左「自治事務」右「法定受託事務」。左: 先生が大臣役(札「大臣」)で「是正の要求」と書かれた紙を知事の男性(札「都道府県知事」)に渡し、吹き出し「法令に違反しているから、是正のため必要な措置を講ずることを求める。どんな

国地方係争処理委員会に審査を申し出られるのは地方公共団体の側です

関与をめぐる紛争を処理する仕組みは、国の関与から地方公共団体を守るために置かれたものです。総務省に置かれる国地方係争処理委員会に審査の申出ができるのは、是正の要求や許可の拒否その他の処分など公権力の行使に当たる国の関与に不服がある普通地方公共団体の長その他の執行機関で、相手方はその関与を行った国の行政庁です(250条の13)。国の側から申し出る仕組みではありません。「地方公共団体の事務の処理について、当該地方公共団体と国との間で紛争が生じた場合、国の行政庁は、国地方係争処理委員会に対し、当該地方公共団体の執行機関を相手方として、審査の申出をすることができる」という肢は誤りです。国の側が地方公共団体の不作為などを争う手段としては、別に違法確認訴訟の制度があります(251条の7)。委員会の審査を経てもなお不服があるときは、地方公共団体は高等裁判所に関与の取消し等を求める訴えを提起できます(251条の5)。最判令和2年6月30日(ふるさと納税に係る総務省告示)は、この関与の訴訟のなかで、地方税法の委任を受けた告示が過去の募集態様を指定の基準とした点について、委任の範囲を超えて違法とし、不指定を取り消しました。

国地方係争処理委員会の審査室の場面。中央に「国地方係争処理委員会(総務省)」の看板の机に委員たちが座る。左から先生が知事役(札「都道府県知事」)が「審査の申出」と書かれた文書を委員会に提出し、吹き出し「国の是正の要求に不服があるから、県の側

法律が定める処分の基準を条例で変えることはできません

自治事務であっても、根拠となる法律が処分の要件や基準を定めている場合、その基準を条例で変更することはできません。「処分を行うことが都道府県の自治事務である場合において、法律が定める処分の基準を、都道府県は条例により変更することができる旨が、地方自治法に定められている」という肢は誤りです。地方自治法にそのような一般的な規定はありません。2条13項は、自治事務については地域の特性に応じて処理できるよう国が特に配慮しなければならないと定めていますが、これは国が法律を作るときの配慮義務で、条例で法律の基準を上書きする権限を与えたものではありません。条例は法律の範囲内で(憲法94条)、法令に違反しない限りにおいて(地方自治法14条1項)制定できるにとどまります。法律と異なる規律を条例で置けるかどうかは、条例と規則で見た最大判昭和50年9月10日(徳島市公安条例事件)の枠組みによって、個別の法律の趣旨から判断されます。事務の区分は、条例制定権の範囲を直接に決めるものではありません。

地方自治法 第14条 第1項

普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第2条第2項の事務に関し、条例を制定することができる。

論文ではこう使う

論文では、事務の区分を出発点にして、誰の事務か、誰が被告か、どこまで条例で規律できるかを順に確かめます。法定受託事務であっても地方公共団体の事務であり、長が国の機関になるわけではないという点を最初に示すと、以下の議論が整理されます。国の関与が争われるときは、まず関与の法定主義から法律又は政令の根拠を確認し、次に必要最小限度と自主性への配慮という比例原則の観点から関与の内容を審査します。救済については、国地方係争処理委員会への審査の申出を経て関与の取消訴訟に至る流れを示し、申出ができるのは地方公共団体の側であることを明記します。私人が地方公共団体の処分を争う場面では、事務の区分にかかわらず通常の抗告訴訟の枠組みで処理します。

試験ではこう問われる

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