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行政契約とは

ぎょうせいけいやく

行政法 その他の行為形式

行政契約とは、行政主体が当事者となる契約で、相手方の同意に基づく非権力的な行為形式です。公定力も自力執行力もなく、行政手続法には行政契約の定義も手続規定も置かれていません。

町が産業廃棄物の処分場を受け入れるとき、業者との間で「いつまでに操業をやめる」「公害を出さない」という約束を交わすことがあります。法律で命じたわけではなく、業者が同意して結んだ約束です。役所は許可や命令のように一方的に決めるだけでなく、こうして相手と契約を結ぶ形でも仕事を進めます。相手が同意している以上、法律の根拠がなくても義務を負わせられますが、同意で作れるのはあくまで契約上の義務までで、実力行使の権限や刑罰を約束で生み出すことはできません。契約である以上、争いは民事の裁判で解決します。

町役場の会議室の場面。先生が町長役(札「町長」)で、机の上の「公害防止協定」と書いた書面に署名しており、向かいで処分業者の男性(札「処分業者」)も同じ書面に署名している。書面には「○年○月までに処理施設を廃止する」の一行。先生の吹き出し「こ

行政手続法には行政契約の規定がありません

行政契約とは、行政主体が当事者となる契約をいいます。行政行為と違って相手方の同意に基づく非権力的な行為形式ですから、公定力も自力執行力もなく、争いは原則として民事訴訟か当事者訴訟で解決します。行政手続法が規律するのは、申請に対する処分、不利益処分、行政指導、届出、意見公募手続です。行政契約は補助金の交付契約から公共調達、公害防止協定まで内容が多種多様で一律の手続規律になじまないため、定義も手続も置かれていません。したがって「行政手続法は,行政契約の定義及び手続的規律に関する規定を設け,行政契約の締結及び履行に関する公正の確保と透明性の向上を図っている」という肢は誤りです。契約の公正さは、地方自治法の入札に関する規定や会計法によって確保されます。地方公共団体が契約を締結する方法について、「地方自治法上、指名競争入札、一般競争入札、随意契約及びせり売りの方法のうち、機会均等、公正性、透明性及び経済性(価格の有利性)を確保する見地から、指名競争入札の方法で行うことが原則である」という肢も誤りで、原則は一般競争入札です(地方自治法234条2項)。短答では、次の四つの型を区別して考えると整理しやすくなります。

  • 調達契約物品の購入や公共工事の請負。地方自治法234条により一般競争入札が原則で、指名競争入札・随意契約・せり売りは政令の定める場合に限られます
  • 給付行政の契約水道の供給契約や補助金の交付など、住民に役務や金銭を提供する契約
  • 規制行政の契約公害防止協定のように、相手方に法令の水準を超える義務を負わせる契約
  • 行政主体間の契約事務の委託や、費用負担に関する協議

義務を課す契約に法律の根拠は要りません

侵害留保の考え方は、相手方の意思にかかわらず権力的に義務を課す場合に法律の根拠を要求するものです。契約は相手方の同意に基づき、義務が生じるのは相手方自身の意思表示によりますから、相手方に新たな義務を負わせる内容であっても、そのこと自体から法律の根拠が必要になるわけではありません。「国又は地方公共団体が,相手方に新たな義務を課することを内容とする契約を当該相手方と締結するに当たっては,法律による行政の原理ないし侵害留保原則の見地から,原則として,当該義務を課する法令上の根拠があることを要する」という肢は誤りです。「市町村は,処分業者との間で公害防止協定を締結し,法律又は条例に根拠がなくても,協定の定めにより処分業者に対し,公害防止のための義務を課すことができる」という肢は正しいです。考え方の出発点は法律による行政の原理にありますが、同意の有無で結論が分かれます。ただし限界はあります。契約で作れるのは当事者を拘束する契約上の義務までであり、相手方の抵抗を排除して実力で立ち入るような権力的な権限を契約によって創り出すことはできません。「公害防止協定を締結する場合には,当該協定において,必要があると認めるときは,D市職員をしてEの所有する処理施設に実力で立ち入らせ,検査を行わせることができる旨を定めることができる」という肢は誤りです。実力行使は法律の明文の根拠を要する権力的作用であり、契約で権力を創出することは法律による行政の原理が許さないからです。

先生が市長役(札「市長」)で「公害防止協定」の書面を持ち、隣に処分業者の男性(札「処分業者」)が立っている。書面に二つの条項が書かれ、上の「公害防止のための義務を負う」には印が付き、下の「市職員が実力で立ち入り検査できる」には深紅の×印。先

公害防止協定は許可の期間を超える廃止義務を定めても有効です

廃棄物処理法は処分業と処理施設について知事の許可制を採っていますが、これらの規定は処分業者の適格性や施設の要件適合性を審査して事業を適切に規制するためのもので、処分業者に対して許可の有効期間中は事業を継続すべき義務を課すものではありません。事業や施設の廃止は知事への届出で足ります。ですから、許可の期間内に事業や施設を廃止する旨を協定で約束することは処分業者自身の自由な判断で行えることであり、法律に抵触しません。最判平成21年7月10日(公害防止協定事件)はこの理由づけにより期限条項の効力を認めました。この理屈は協定の相手方が誰かを問いませんから、「市町村ではなく県が処分業者との間で公害防止協定を締結し,処分業者に対し,県知事が廃棄物処理法に基づいて行った許可が効力を有する期間内に,事業や処理施設を廃止する義務を課すことも,同法に抵触しない」という肢は正しく、「協定の相手方である町に対し,その事業や処理施設を将来廃止する旨を約束することは、廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づく都道府県知事の許可に期限を付するに等しいため、同法の趣旨に反する」という肢は誤りです。もっとも協定は契約にすぎませんから、違反があっても知事が許可を撤回できるわけではなく、「Yが本件協定の本件期限条項に違反して処理施設の使用を継続した場合,県知事は廃棄物処理法に基づく処理施設の設置許可を撤回することができる」という肢は誤りです。許可の撤回は法律の定める撤回事由に基づく処分であって、契約違反はその事由に当たらないからです。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座り、前に処分業者の男性(札「処分業者」)が「知事の許可 有効期間○年まで」と書いた許可証と「協定 期限条項」と書いた書面を両手に持っている。男性の吹き出し「許可の期間内に廃止を約束させるの

協定に基づく義務の履行請求は法律上の争訟に当たります

行政上の義務の履行を求める訴えは、国や地方公共団体が専ら行政権の主体として提起するものであれば、法規の適用の適正や一般公益の保護を目的とするもので自己の権利利益の救済を求めるものではないため、法律上の争訟に当たりません(最判平成14年7月9日)。しかし公害防止協定に基づく義務は、当事者の合意から生じる契約上の債務で、私人間の債権債務と同じ性質のものですから、財産権の主体として請求している場合と同視でき、当事者間の具体的な法律関係の存否に関する紛争として法律上の争訟に当たります。「市町村が処分業者に対し,公害防止協定に基づく義務の履行を求める訴えは,法律上の争訟に当たる」という肢は正しく、「公害防止協定に基づく義務の履行を求める訴えは,法律上の争訟とはいえないから,不適法である」という肢は誤りです。この区別は行政上の強制執行の項目で扱う宝塚市の事件と一組にして覚えます。

法廷の入口の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で扉の前に立ち、左から町長の男性(札「町長」)が「協定に基づく施設使用の差止め請求」と書いた訴状を持って来ている。右奥にもう一人の市長の男性(札「宝塚市長」)が「条例に基づく建築中止命令の履行

給水契約は正当の理由がなければ拒めませんが、水不足は正当の理由になり得ます

水道法15条1項は、水道事業者は給水区域内の需要者から給水契約の申込みを受けたときは正当の理由がなければこれを拒んではならないと定めています。水は住民の生活に欠かせないので、給付行政でも事業者は契約の自由を大きく制限されるわけです。もっとも、正常な企業努力を尽くしてもなお近い将来に水不足が確実に予見される場合には、正当の理由が認められます(最判平成11年1月21日)。「B市が水道事業者として正常な企業努力をしているにもかかわらず近い将来において水不足が生ずることが確実に予見される場合には,水道法第15条第1項にいう「正当の理由」が認められることから,B市はAの給水契約の申込みを拒否することができる」という肢は正しく、「給水契約の申込みが適正かつ合理的な供給計画によっては対応することができないものである場合には、水道事業者は、水道法第15条第1項にいう「正当の理由」があるものとして、これを拒むことが許される」という肢も正しいです。これに対し、宅地開発指導要綱への不協力を理由とする拒否は正当の理由に当たりません(最決平成元年11月8日)。行政指導に従わせるために給水を止めることは、生活の基盤を人質にとる不利益な取扱いになるからです。

市の水道局の窓口の場面。先生が水道事業者役(札「市の水道局長」)でカウンターに立ち、手前にマンション事業者の男性(札「給水の申込者」)が「給水契約 申込書」を差し出している。先生の後ろに「貯水池 水位低下」と書いた看板と、水位の線が下がった

随意契約の制限に違反した契約は原則として私法上有効です

地方自治法と同法施行令の定める随意契約の制限に違反して締結された契約であっても、契約の相手方の取引の安全や履行済みの給付の清算を考えると直ちに無効とはできません。最判昭和62年5月19日は、当該契約を無効としなければ随意契約の制限を加える法令の規定の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められる場合に限り、私法上無効になるとしています。「地方自治法及び地方自治法施行令に定める随意契約の制限に違反して締結された契約であっても,私法上当然に無効になるものではない」という肢は正しく、「特段の事情が認められる場合に限り、私法上無効になる」という肢も正しいです。関連して、指名競争入札で地元企業を優先する指名は、工事現場に近く現場の知識があるため契約の確実な履行が期待でき、地元経済の活性化にも寄与することから、合理性を肯定できます(最判平成18年10月26日)。ただし同判例は、村内業者で対応できない工事以外は常に村内業者だけを指名するという運用については、価格の有利性の確保の観点から、常に合理的で裁量の範囲内とはいえないとしました。また、収用は協議が調わないときの最終手段ですから、収用裁決で取得できる場合に随意契約で取得することは妨げられず、「これを随意契約の方法によって取得することは,原則として許されない」という肢は誤りです。

最判平成21年7月10日(公害防止協定事件)

処分業者が、公害防止協定において、協定の相手方に対し、その事業や処理施設を将来廃止する旨を約束することは、処分業者自身の自由な判断で行えることであり、その結果、許可が効力を有する期間内に事業や処理施設が廃止されることがあったとしても、廃棄物処理法に何ら抵触するものではない。

論文ではこう使う

論文では、まず行政契約であることを確定し、権力的な行為形式ではないことから公定力も自力執行力も働かないことを述べます。義務を課す協定については、侵害留保は権力的作用に妥当するものであり、相手方の同意に基づく契約には法律の根拠を要しないとしたうえで、根拠法が業者に事業継続義務を課していない以上、許可の期間を超える廃止義務も法の趣旨に反しないと論じます。効力を争う側からは、契約自由にも公序良俗や法令の趣旨による限界があることを指摘し、実力行使の権限創設や罰則の設定はできないと線を引きます。履行を求める場面では、財産権の主体としての請求か行政権の主体としての請求かを分け、前者として法律上の争訟性を肯定して民事訴訟を選びます。

試験ではこう問われる

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