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用語集 / 行政法 / 即時強制と行政調査

即時強制と行政調査とは

そくじきょうせいとぎょうせいちょうさ

行政法 その他の行為形式

即時強制とは、義務を命じていては目的を達せられない緊急の場面で、行政が義務を課すことなく直接に人の身体や財産へ実力を加える作用です。行政調査とは、処分や立法の前提となる情報を集める作用で、罰則の裏づけがある権力的なものには法律の根拠が要ります。

火事の現場で消防隊員が隣の家の壁を壊して延焼を止めるとき、持ち主に壊すよう命じてから壊す余裕はありません。これが即時強制です。一方、税務署の職員が店に来て帳簿を見せるよう求めるのは、課税の前に事実を知るための行政調査です。どちらも義務を命じてその不履行を待つ作用ではなく、人の身体や財産、営業の自由に直接踏み込むので、法律の根拠と限度が問題になります。

火事の現場。先生が消防隊長役(札「消防隊長」)で、燃えている家の隣の家の壁を斧で壊している。隣家の持ち主の男性(札「隣家の持ち主」)が驚いて見ている。先生の吹き出し「延焼を止めるには今壊すしかない。壊せと命じて待つ暇がないから、義務を課さず

即時強制は義務を命ずる暇のない場面で直接実力を加え、行政調査は処分の前提となる情報を集めます

即時強制とは、義務を命じていては目的を達せられない場合に、行政が直接に身体又は財産へ実力を加える作用をいいます。消防法29条の破壊消防、警察官職務執行法3条の保護、感染症法19条の入院措置が典型です。これに対し行政調査は、処分の前提や立法の資料となる情報を集める作用で、質問、立入検査、報告徴収、物件の提出要求などの形をとります。両者は義務の賦課を前提としない点で共通し、義務の不履行を待って実現する強制執行とは区別されます。行政調査のうち、報告や物件の提出を命ずる処分と、情報の収集を直接の目的とする処分や行政指導は、行政手続法3条1項14号により同法の第2章から第4章の2までの適用除外とされています。調査は強制の程度によって次のように分かれます。

  • 任意調査相手方の同意を前提とする調査。職務質問や統計調査が典型で、実力による強制はできません
  • 間接強制調査拒否に罰則が科される調査。税務調査や医師法の立入検査がこれに当たり、罰則により心理的に受忍を強制します
  • 実力強制調査令状なしで物理的な抵抗を排除できる調査。個別法に限られ、現行法ではまれです
  • 犯則調査国税通則法などの犯則事件の調査。実質は捜査手続で、臨検・捜索・差押えには裁判官の許可状を要します

即時強制は義務を前提としない点で直接強制と違い、義務を課す根拠とは別に法律の根拠が要ります

直接強制は、まず義務を課す行為があり、その不履行に対して義務者の身体又は財産に実力を加えます。即時強制には先行する義務賦課がなく、義務を命じる暇がないからこそ直接に実力を加えます。「直接強制では,相手方に義務を賦課する行為が実力行使に先行しますが,即時強制では,緊急性に応じて,義務を賦課する行為が先行する場合と,これが先行することなく実力行使がされる場合の両者が含まれる点」という肢は、即時強制に義務賦課が先行する場合を含めている点で誤りです。両者は義務の賦課という過程があるかどうかで区別されるからです。緊急だからといって法律の根拠が要らなくなるわけでもありません。即時強制は人の身体や財産に直接不利益を与える侵害行政ですから、法律による行政の原理のもとで個別の法律又は条例の根拠が要ります。行政処分で義務を課すことができると定めた規定は、義務を課す権限を与えるだけであって、義務の内容を実力で実現する権限や、義務賦課を経ずに実力を加える権限まで与えるものではありません。「行政庁が行政処分により私人に義務を課すことができる旨が法律に定められていても,即時強制を行うことができる旨が法律に定められていなければ,行政庁が行政処分を経ずに当該義務の内容を実現する即時強制を行うことは認められない」という肢は正しいです。義務を課す根拠と実力を加える根拠を切り分けて考えるのは、義務履行確保の場面で義務を課す法律とは別に行政代執行法という強制執行の根拠法が要るのと同じ理屈です。

左右対比。左は「直接強制」の看板の下、役所の男性(札「行政庁」)が「除却命令」と書いた紙を家の持ち主の男性(札「義務者」)に渡し、その後ろに小さく重機で家を壊す絵、矢印に札「義務を課す→不履行→実力」。右は「即時強制」の看板の下、先生が警察

即時強制は条例でも定められ、警察比例の原則が働き、差止めの訴えで争えます

行政代執行法1条は、行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては同法の定めるところによると定めています。同法2条の括弧書きとの対比から1条の「法律」に条例は含まれないと解されるので、条例で独自の義務履行確保の手段を作ることはできません。しかし即時強制は義務を前提としませんから、義務の履行確保を規律する同法の射程外であり、条例で定めることができます。「行政代執行法は,行政上の義務の履行確保に関しては,別に法律で定めるものを除いては,同法の定めるところによるとしているから,条例に即時強制の手法を定めることは許されない」という肢は誤りです。「行政代執行法は,地方公共団体が条例に基づき即時強制を行うことを禁止する明文の規定を置いている」という肢も誤りで、そのような明文はありません。また、実力を加える以上、目的達成に必要な最小限度でなければならないという警察比例の原則が働きます。警察官職務執行法1条2項が、同法の手段は目的のため必要な最小の限度において用いるべきだと定めるのはこの原則を明文にしたもので、今日では権力的な行政作用一般に及ぶ比例原則として理解されています。即時強制は事前の告知や弁明の手続が及びにくいので、比例原則による統制はむしろ強く要請されます。「行政上の即時強制は,義務を命ずる暇のない緊急事態において行われるものであるから,いわゆる警察比例の原則の適用を受けない」という肢は誤りです。さらに、即時強制は権力的事実行為として行政事件訴訟法3条2項の「その他公権力の行使に当たる行為」に含まれ、処分に当たります。したがって同条7項の差止めの訴えの対象になり、「即時強制が行われる前に差止めの訴えを提起することができます」という肢は正しいです。

駅前の歩道。先生が市長役(札「市長」)で、「○○市放置自転車条例」と書かれた立看板の横で放置自転車を軽トラックに積んでいる。自転車の持ち主の男性(札「自転車の持ち主」)が吹き出し「条例で即時強制なんてできるのか」。先生の吹き出し「行政代執行

拒否に罰則がある調査は間接強制にとどまり、実力で抵抗を排除することはできません

医師法7条の3第1項は厚生労働大臣に医師の診療所などへの立入検査の権限を与え、同法33条の2第3号は検査を拒んだ者に罰金を定めています。罰則は、拒めば処罰されるという心理的な圧力で受忍を促す仕組みであって、職員に実力行使の権限を与えるものではありません。「医師法第33条の2第3号により,立入検査の拒否に罰則が定められていることからすると,同法は,間接的心理的に立入検査の受忍を強制しようとするものといえます」という肢は正しく、「立入検査をしようとする職員は,必要最小限の実力を行使して当該医師を排除した上で,立入検査を行うことができます」という肢は誤りです。実力で妨害を排除するには、法律による行政の原理からそのことを認める法律の規定が要りますが、医師法にはそのような規定がないからです。罰則の裏づけがある調査は、相手方に受忍義務があるという意味で権力的な調査であり、法律の根拠を要します。これに対し任意の協力を求めるにとどまる調査は、相手方の任意の協力によってのみ実現され、行政指導と同じ性質をもちます。最決昭和55年9月22日(自動車の一斉検問)は、警察法2条1項が交通の取締りを警察の責務と定めていることを根拠に、交通の取締りの必要に応じ、相手方の任意の協力を求める形で、自動車利用者の自由を不当に制約しない方法・態様で行われる限り適法だとしました。

診療所の入口。先生が検査職員役(札「立入検査の職員(医師法7条の3)」)で、扉の前で腕を組んで拒んでいる白衣の医師の男性(札「医師」)と向き合っている。医師の吹き出し「検査は受けない」。先生の吹き出し「拒めば医師法33条の2第3号の罰金にな

質問検査の細目は、客観的な必要性と相手方の私的利益との衡量のもとで職員の合理的な選択に委ねられます

国税通則法74条の2第1項は、所得税などの調査について必要があるときに、職員が関係者に質問し、帳簿書類その他の物件を検査し、その提示又は提出を求めることができると定めています。拒めば罰則があるので間接強制を伴う調査ですが、時期、場所、方法などの実施の細目は法律に細かな定めがありません。最決昭和48年7月10日(荒川民商事件)は、質問検査は諸般の具体的事情にかんがみ客観的な必要性があると判断される場合に認められ、法律上特段の定めのない実施の細目は、その必要性があり、かつ相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある職員の合理的な選択に委ねられるとしました。同決定は、実施の日時場所の事前通知や、調査の理由と必要性の個別的な告知も、質問検査を行ううえで法律上一律の要件とされているものではないとしています。「国税通則法第74条の2第1項に基づく質問検査は、諸般の具体的事情に鑑み、質問検査の客観的な必要性があると判断される場合に認められるものであって、この場合の質問検査の範囲、程度、時期、場所等法律上特段の定めのない実施の細目については、上記のような質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある職員の合理的な選択に委ねられている」という肢は正しいです。なお、平成23年の国税通則法改正により、現在は事前通知(同法74条の9)や調査終了時の手続(同法74条の11)が条文で整備されています。

調査の権限を犯罪捜査の手段に使うことはできませんが、犯則調査は実質的に捜査手続で、身体の捜索には許可状が要ります

行政調査の権限は行政目的のために与えられたものですから、犯罪捜査の手段として行使することは許されません。医師法7条の3第3項のように、立入検査の権限は犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならないと明文で定める例も多くあります。「立入検査の権限を犯罪捜査のための手段として行使したような場合には,その立入検査は医師法第7条の3第3項に違反します」という肢は正しいです。もっとも、これは権限を行使する目的を縛る規定であって、結果として得られた資料が後に刑事手続で使われる可能性があるからといって権限行使が違法になるわけではありません。最決平成16年1月20日は、法人税法の質問検査について、取得収集される証拠資料が後に犯則事件の証拠として利用されることが想定できたとしても、そのことによって直ちに質問検査の権限が犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として行使されたことにはならないとしました。「国税通則法の定める税務調査は犯罪捜査のために認められたものと解してはならないから、当該調査により取得収集される証拠資料が後に犯則事件の証拠として利用されることが想定されるときは、質問検査の権限を行使することは許されない」という肢は誤りです。転用の可否は行政調査の他目的利用と調査の瑕疵の項目で詳しく扱います。これに対し、国税通則法第11章の定める犯則事件の調査手続は、刑事責任の追及に直結する資料の取得収集に向けられており、実質的に捜査手続としての性質をもちます。そこで同法132条1項は、犯則嫌疑者の身体、物件又は住居その他の場所に対する臨検、捜索、差押えには、裁判官があらかじめ発する許可状を要するとしています。他方、同法131条1項により、犯則嫌疑者が所持し又は置き去った物件を検査したり、任意に提出し又は置き去った物件を領置したりする場合には許可状は要りません。「国税通則法の定める犯則事件の調査手続は、実質的に捜査手続としての性質を有し、犯則嫌疑者の身体を捜索する場合には裁判官の発する許可状が必要となるが、犯則嫌疑者が置き去った物件を検査する場合には許可状を要しない」という肢は正しいです。憲法35条・38条の保障が行政手続に及ぶかについて、最大判昭和47年11月22日(川崎民商事件)は、これらの規定による保障は刑事手続以外の手続に一切及ばないわけではないとしつつ、旧所得税法の質問検査は刑事責任の追及を目的とする手続ではなく、罰則による間接強制にとどまり、公益上の必要と均衡を失しないとして、裁判官の令状なしに行えても憲法35条に反せず、38条1項の供述拒否権の保障も及ばないとしました。

裁判所の窓口。先生が国税の職員役(札「国税庁の職員(犯則調査)」)で、窓口の裁判官の男性(札「裁判官」)から「許可状」と書かれた紙を受け取っている。先生の吹き出し「犯則調査は実質的に捜査手続だから、身体や住居の捜索、差押えには裁判官の許可状

最決昭和48年7月10日(荒川民商事件)

国税通則法に基づく質問検査は、諸般の具体的事情にかんがみ、客観的な必要があると判断される場合に認められ、その範囲、程度、時期、場所等法律上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある職員の合理的な選択に委ねられている。

論文ではこう使う

論文では、問題の作用が義務の履行確保か、義務を前提としない実力行使かをまず切り分けます。即時強制であれば、法律又は条例の根拠があるか、目的達成に必要な最小限度かを比例原則で審査し、権力的事実行為として処分に当たるので差止訴訟や執行停止で争えると述べます。行政調査では、罰則の有無から権力的調査かを判定し、権力的であれば法律の根拠を要求したうえで、荒川民商事件の枠組みに従い、客観的必要性と私的利益との衡量による相当性を当てはめます。憲法35条・38条の準用が問われたら、刑事責任追及を目的とする手続でなくても一切保障が及ばないわけではないとしたうえで、罰則が間接強制にとどまる点、実力による貫徹を認めていない点を指摘して、令状主義の適用を否定する筋を立てます。

試験ではこう問われる

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