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行政上の強制執行とは

ぎょうせいじょうのきょうせいしっこう

行政法 その他の行為形式

行政上の強制執行とは、行政上の義務が履行されないときに、行政が裁判所の力を借りずに自らその内容を実現する仕組みです。代執行・執行罰・直接強制・強制徴収の四つがあり、一般法があるのは代執行だけです。

倒れそうな空き家の所有者に市が除却を命じても放置されたままなら、市が業者を使って自ら取り壊し、その費用を所有者から取り立てることができます。私人どうしなら裁判で判決をもらい、裁判所に執行してもらうところですが、行政は法律が認めた範囲で自分の手で義務の内容を実現できます。ただし、これは相手の財産や身体に実力を加える強い作用ですから、法律の定めがある手段しか使えません。誰でも代わりにできる作業なら代執行、金銭なら滞納処分という具合に、義務の性質ごとに使える手段が決まっています。

傾いた空き家の前の場面。先生が市長役(札「市長」)で「代執行」と書いた腕章を付け、解体業者の男性(札「業者」)に指示を出している。空き家の壁に「除却命令 期限切れ」の紙。先生の手に「費用 納付命令書」と書いた書類。先生の吹き出し「除却は他人

代執行の対象は他人が代わってできる作為義務に限られます

行政上の強制執行とは、行政上の義務が履行されない場合に、行政が自ら義務の内容を実現する仕組みをいいます。裁判所の債務名義を要しない点で民事執行と違います。一般法があるのは代執行だけで、ほかは個別法に散らばっています。行政代執行法2条は代執行の対象を「他人が代つてなすことのできる行為」、つまり代替的作為義務に限っています。建物の除却や物件の撤去は代執行できますが、土地建物の明渡し、営業の停止、使用の禁止のように義務者自身がしなければ意味のない義務や不作為義務は対象外です。他人が代わって実現できない義務では、代執行の仕組みそのものが働かないからです。「代執行の対象となる義務は代替的作為義務に限られますから、不作為義務が対象となることはありません」という肢は正しく、「使用禁止命令は,行政代執行法における「他人が代つてなすことのできる行為」に関するものではないので,行政代執行を行うことはできません」という肢も正しいです。退去も同じで、「市が庁舎の一部屋の使用許可を市の職員組合に与えていたが,当該使用許可の期限が経過した後も組合員が立ち退かない場合,同部屋からの組合員の退去について代執行をすることはできない」という肢は正しいです。義務の発生源は行政庁の命令に限られません。法律から直接生じる義務も対象になり、「火薬類取締法第22条に基づく火薬類の廃棄の義務は,法律に基づいて行政庁が命じるものではなく,法律から直接生じるものであるが,行政庁は,これを代執行の対象にすることができる」という肢は正しいです。代執行をするには、代替的作為義務の不履行のほか、他の手段によってその履行を確保することが困難であり、かつその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められることが要ります。四つの手段は次のとおりです。

  • 代執行代替的作為義務について、行政庁が自ら行い又は第三者に行わせ、費用を義務者から徴収します。一般法は行政代執行法
  • 執行罰義務の不履行に対し過料を予告して心理的に履行を促す手段。現行法では砂防法36条だけに残っています
  • 直接強制義務者の身体又は財産に直接実力を加える手段。成田新法に基づく封鎖など個別法にわずかに残ります
  • 強制徴収金銭債権について、国税徴収法の滞納処分の例により財産を差し押さえて換価します
市庁舎の場面。先生が市長役(札「市長」)で中央に立ち、左に「堆積物の撤去」と書いた札の付いたがれきの山、右に「一室の退去」と書いた札の付いた部屋の扉があり、扉の前に居座る職員組合の男性(札「職員組合」)。がれきの上に印、扉の上に深紅の×印と

条例上の義務にも行政代執行法がそのまま使えます

行政代執行法2条の「法律」には、法律の委任に基づく命令、規則および条例が含まれます。ですから条例で課された代替的作為義務も、条例に代執行の規定を置かずに代執行できます。「行政庁が条例によって課された代替的作為義務に違反した者に対し代執行を行うためには、代執行ができる旨の規定が条例中に定められていなければならない」という肢は誤りです。一方、代執行以外の手段は条例で創設できません。行政代執行法1条が、行政上の義務の履行確保に関しては別に法律で定めるものを除いては同法の定めるところによるとしており、条例を含める旨の括弧書きは2条から始まるので1条の「法律」には条例が含まれないと解されているからです。そこで「法律による行政の原理によれば,議会制定法によって義務の履行強制が可能であるから,現行法上,直接強制について,法律のほか条例を根拠規範とすることも許される」という肢は誤りです。執行罰も同じで、「本件命令違反に対する執行罰の規定が本件条例に置かれている場合には,Bは,Aに対して執行罰としての過料を課すことにより,本件命令に基づく義務の履行を確保することができる」という肢は誤りです。なお1条が対象とするのは義務の履行確保ですから、義務を前提としない即時強制を条例で定めることは妨げられません。

市議会の議場の場面。先生が市長役(札「市長」)で演壇に立ち、「条例案」と書いた冊子を開いている。冊子には三つの条項が書かれ、「違反者に撤去を命じる」には印、「代執行の規定」には札「不要:行政代執行法2条で直接できる」、「直接強制・執行罰」に

手続は戒告、代執行令書、実行、費用徴収の順です

代執行をするには、まず相当の履行期限を定め、その期限までに履行されないときは代執行をする旨を、文書で戒告しなければなりません(3条1項)。義務者が履行しないときは、代執行令書で時期・執行責任者・費用の概算見積額を通知します(3条2項)。非常の場合または危険切迫の場合で手続をとる暇がないときは、これらを省略できます(3条3項)。費用の徴収は代執行を終えた後です。実際に要した費用の額と納期日を定めて文書で納付を命じ(5条)、納付がなければ国税滞納処分の例により徴収します(6条1項)。実施前には徴収すべき費用の額が確定しておらず、納付命令の対象もないからです。ですから「代執行の終了後においては,代執行に要した費用を義務者から徴収できなくなるおそれがあるときは,行政庁は,代執行をする前に,国税滞納処分の例により,費用を徴収することができる」という肢は誤りです。戒告や代執行令書の通知は処分であり、取消訴訟の対象になります。行政罰が用意されていることは代執行を妨げません。罰則は過去の違反への制裁で、義務の内容を実現する手段ではないからです。「行政罰は,間接的に行政上の義務の履行を確保する機能を果たすことから,行政罰が適用できる場合,代執行以外の手段によってその履行を確保することが困難とはいえないため,代執行をすることはできない」という肢は誤りです。

市役所の廊下の場面。先生が市長役(札「市長」)で、四枚の書類を順に並べた机の前に立っている。左から「戒告(3条1項)」「代執行令書(3条2項)」「実行」「費用の納付命令(5条)→滞納処分(6条)」。向かいの義務者の男性(札「義務者」)の吹き

先行する命令の違法は戒告の取消訴訟で主張できることがあります

除却命令に続いて戒告がされた場合、命令が無効であれば、その無効を理由に戒告の取消しを求めることができます。無効な命令からは義務が生じず、代執行の前提を欠くからです。「都市公園内に設置された工作物につき,都市公園法第27条第1項による除却命令に続いて,行政代執行法第3条第1項による戒告を受けたXが,当該戒告の取消訴訟を提起した場合において,Xは,除却命令が無効であるとしても,これを,戒告の取消しを求めるために主張することはできない」という肢は誤りです。命令が取り消し得るにとどまる場合は、公定力が働くため、原則として戒告の取消訴訟でその違法を主張できず、違法性の承継が認められるかどうかの問題になります。なお、法定の手続を踏まずに物件を撤去した場合でも、緊急の必要から費用の支出がやむを得なかったと認められるときは、支出が違法であるとして長個人の賠償責任を問うことはできないとした例があります(最判平成3年3月8日、ヨット係留施設の撤去)。

強制徴収が用意された金銭債権について民事訴訟は使えません

金銭債権のうち、法が国税滞納処分の例による徴収を認めているものについては、簡易迅速な特別の手続を設けた趣旨から、民事訴訟による請求も民事執行も許されません。最大判昭和41年2月23日(行政上の強制徴収と民事手続による執行)は、農業共済組合が法律上特に独自の強制徴収の手段を与えられながら、この手段によることなく一般私法上の債権と同様に訴えを提起し民事執行の手段で債権の実現を図ることは、立法の趣旨に反し、公共性の強い組合の権能行使の適正を欠くものとして許されないとしました。「行政上の強制徴収が認められている金銭債権については,その履行を求める民事訴訟を提起することはできず,民事執行法による強制執行をすることも許されない」という肢は正しく、「金銭債権に行政上の強制徴収という簡易迅速な手段が認められている以上、その手段によることなく、当該金銭債権に係る債務の履行を求める民事訴訟を提起することは許されないものと解されます」という肢も正しいです。逆に、強制徴収の手段が与えられていない債権は民事訴訟で請求します。滞納処分は民事執行に類する性質をもち、「国税滞納処分における国の地位は,民事上の強制執行における差押債権者の地位に類するものであるから,国税滞納処分による差押えの関係においても民法第177条の適用がある」という肢は正しいです。

非金銭的な義務を民事訴訟で実現することは原則としてできません

最判平成14年7月9日(条例上の義務と民事手続による執行)は、国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴えは、法規の適用の適正や一般公益の保護を目的とし自己の権利利益の保護救済を求めるものではないから、法律上の争訟に当たらず不適法だとしました。財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求める場合は別ですから、市有地上の不法占拠者に対する所有権に基づく妨害排除請求のような訴えは許されます。もっとも、それは民事の手続であって代執行ではありません。「市が所有する土地に権原なく工作物が設置された場合,市長は,当該土地の所有権に基づき代執行により当該工作物を除却することができる」という肢は誤りです。代執行は法律や条例に基づく行政上の義務を前提とするもので、所有権を根拠に行うことはできません。条例上の義務の履行を求める民事訴訟について、「建築工事の中止命令の不履行があったときにこれを強制的に履行させるための手段が当該条例に定められていない場合であれば、当該工事の続行禁止を求める民事訴訟を提起することは許されるものと解されます」という肢も誤りです。強制手段の定めがないからといって、行政権の主体としての請求が法律上の争訟になるわけではないからです。

法廷の入口の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で扉の前に立ち、左から農業共済組合の男性(札「農業共済組合」)が「共済掛金の支払を求める訴え」と書いた訴状を持って来ているが、その手には「滞納処分の権限」と書いた札も付いている。右から市長の男

行政代執行法 第2条

法律により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為(他人が代つてなすことのできる行為に限る。)について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。

論文ではこう使う

論文では、まずどの手段が使えるかを義務の性質から振り分けます。代替的作為義務であれば代執行を検討し、行政代執行法2条の三要件、すなわち法律または条例による義務、他の手段による履行確保の困難、不履行の放置が著しく公益に反すること、を順に当てはめます。代替性がない義務では代執行を否定し、個別法に直接強制の定めがあるかを探し、なければ罰則による間接強制にとどまることを述べます。条例で独自の強制手段を作れるかが問われたら、行政代執行法1条を引いて否定し、義務を前提としない即時強制であれば条例でも定められると区別します。金銭債権では、滞納処分の定めの有無を確認し、定めがあれば民事訴訟の途は閉ざされること、非金銭的義務では法律上の争訟性の壁があることを、二つの判例を対にして論じます。

試験ではこう問われる

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