適時提出主義と時機に後れた攻撃防御方法の却下(156条・157条)とは
てきじていしゅつしゅぎとじきにおくれたこうげきぼうぎょほうほうのきゃっか
適時提出主義とは、攻撃又は防御の方法は訴訟の進行状況に応じ適切な時期に提出しなければならないという原則です(156条)。時機に後れた攻撃防御方法の却下とは、当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃防御方法で、訴訟の完結を遅延させるものを、裁判所が申立てにより又は職権で却下することです(157条1項)。
審理の終盤になってから、それまで出せたはずの主張や証拠を小出しにされると、相手方は準備をやり直し、判決はいつまでも出ません。そこで民事訴訟法は、攻撃防御方法は訴訟の進行状況に応じ適切な時期に出すことを求め(適時提出主義)、故意又は重大な過失で遅れて出し、そのために訴訟の完結が遅れるものは却下できるとしました。却下は真実の発見を犠牲にするので、要件は三つそろわなければなりません。
却下には、時機に後れたこと・故意又は重大な過失・訴訟の完結を遅延させることの三つが必要で、遅延しなければ却下できません
156条は、攻撃又は防御の方法は訴訟の進行状況に応じ適切な時期に提出しなければならないと定めます。これを受けて157条1項は、当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法について、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は申立てにより又は職権で却下の決定をすることができるとしています。最判昭和30年4月5日は、却下するには、その主張を審理するために具体的に訴訟の完結を遅延させる結果を招く場合でなければならないとしました。故意であっても遅延しなければ却下できないので、「当事者が故意により時機に後れて提出した攻撃防御方法については,これにより訴訟の完結を遅延させることとならない場合でも,裁判所はこれを却下することができる」という肢は誤りです。却下は相手方の申立てがなくても職権でできるので、「相手方の申立てがなくても,却下の決定をすることができる」という肢は正しいです。適切な時期に出さずに訴訟を遅滞させた当事者には、勝訴しても遅滞によって生じた訴訟費用の全部又は一部を負担させることができ(63条)、この点を問う肢も正しいです。
形成権の行使も唯一の証拠方法も却下の対象になり、自白の撤回も時機に後れたものとして却下されることがあります
訴訟の中で建物買取請求権や相殺権のような形成権を行使する主張も、事実の主張として攻撃防御方法に当たります。最判昭和30年4月5日は、建物買取請求権の行使に関する主張について、時機に後れた防御方法に当たらないと断定することはできないとして、却下の対象になることを前提にしています。「実体法上の形成権を訴訟上行使する旨の主張は,時機に後れた攻撃防御方法の却下の対象とならない」という肢は誤りです。判例は、時機に後れた攻撃方法である以上、一定の要証事項に対する唯一の証拠方法であっても却下できるとしており、「それが唯一の証拠方法であっても却下することができる」という肢は正しいです。自白の撤回も、弁論終結の直前まで撤回の機会がありながら何もせず、弁論の再開を申請して撤回しようとした事案で、時機に後れたものとして却下された裁判例があります。「自白の撤回は,時機に後れたものとして却下されることはない」という肢は誤りです。他方、独立当事者参加の申出は、第三者が自分の請求を立てる申立てであって当事者の攻撃防御方法ではないので、「独立当事者参加の申出が時機に後れた攻撃防御方法として却下されることはない」という肢は正しいです。
控訴審で初めて出したものが時機に後れたかは、第一審以来の経過を通して判断します
控訴審は第一審の続審であり、控訴審の口頭弁論は第一審の口頭弁論と一体をなします(297条で157条が準用されます)。そのため、控訴審で出された攻撃防御方法が時機に後れたかは、控訴審に来てからの経過だけでなく、第一審の訴訟手続の経過をも通観して判断します(最判昭和30年4月5日)。「控訴審において初めて提出した攻撃防御方法が時機に後れたものかどうかは,第一審以来の訴訟手続の経過を勘案して判断すべきである」という肢も、第一審と控訴審を通じて判断するので控訴審の第1回期日に出しても却下されることがあるとする肢も、「第一審における審理経過についても考慮し,時機に後れたものであるか否かを判断する」という肢も正しいです。逆に、「控訴審の第一回口頭弁論期日において初めて提出された攻撃又は防御の方法を,時機に後れたものとして却下することはできない」という肢は誤りです。
趣旨が明瞭でない攻撃防御方法は、必要な釈明をしないか釈明の期日に出頭しないときも却下でき、遅延は要件になりません
157条2項は、攻撃又は防御の方法でその趣旨が明瞭でないものについて、当事者が必要な釈明をせず、又は釈明をすべき期日に出頭しないときも、1項と同様とすると定めています。「必要な釈明をしない場合,裁判所は,その攻撃又は防御の方法を却下することができる」という肢も、「釈明をすべき期日に出頭しない場合,裁判所は,その攻撃又は防御の方法を却下することができる」という肢も正しいです。2項は1項と違い訴訟の完結の遅延を要件として書いていないので、「訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときでなければ,当該攻撃又は防御の方法について却下の決定をすることができない」という肢は誤りです。なお、審理の計画で定めた期間の経過後に出した攻撃防御方法は、審理の計画に従った進行に著しい支障を生ずるおそれがあれば、157条の2で却下されることがあります。
争点整理手続や中間判決の後も提出は禁じられませんが、説明を求められたり中間判決の判断を争えなかったりします
弁論準備手続などの争点整理手続を終えた後も攻撃防御方法を出すことはでき、相手方の求めがあれば終結前に出せなかった理由を説明しなければならないにとどまります(174条・167条)。故意又は重大な過失により終結までに出さなかった攻撃防御方法は「口頭弁論において提出することができない」とする肢も、「弁論準備手続の終結後においては、新たな攻撃防御方法を提出することはできない」という肢も誤りです。説明がないか不合理なときは、157条1項の故意又は重大な過失を認める事情になります。これに対し、請求の原因について中間判決(245条)がされると、その審級の裁判所は中間判決の判断に拘束されるので、中間判決の直前の口頭弁論終結前に存在した事実を主張して中間判決の判断を争うことはできません。判例は、過失相殺の抗弁も原因判決の前に主張しておかなければならないとしています。主張しなかったことに相当の理由があっても同じ審級で争えるわけではないので、「相当の理由があることの証明があったときは,当該審級においてその事実を主張して中間判決で示された判断を争うことが許される」という肢は誤りです。
民事訴訟法156条
攻撃又は防御の方法は、訴訟の進行状況に応じ適切な時期に提出しなければならない。
民事訴訟法157条1項
当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。
民事訴訟法157条2項
攻撃又は防御の方法でその趣旨が明瞭でないものについて当事者が必要な釈明をせず、又は釈明をすべき期日に出頭しないときも、前項と同様とする。
論文ではこう使う
論文では、相殺の抗弁・建物買取請求権・取消権などが控訴審や弁論終結間際に出された事例で使います。①時機に後れたか(第一審以来の経過を通観し、より早く提出できたか)、②故意又は重大な過失(法律の素人か、代理人が付いているか、争点整理手続後の説明義務を果たしたか)、③訴訟の完結を遅延させるか(その主張を審理するために新たな証拠調べが必要か、既に取り調べた証拠で判断できるか)の順に当てはめ、形成権の行使も攻撃防御方法に当たることを先に確認します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。