商事法定利率と商事消滅時効の廃止(旧514条・旧522条)とは
しょうじほうていりりつとしょうじしょうめつじこうのはいし
商事法定利率とは、商行為によって生じた債務の法定利率を年6分としていた旧商法514条の規律のことで、商事消滅時効とは、商行為によって生じた債権の消滅時効期間を5年としていた旧商法522条の規律のことです。いずれも平成29年民法改正に伴って削除され、現在は利率が民法404条、時効が民法166条1項によります。
かつての商法には、商売で生じた借金の利息は年6分、商売で生じた債権の時効は5年という二つの特別ルールがありました。民法の年5分・10年より、商人には高い利息と早い決済が似合うという考え方です。平成29年の民法改正で民法の法定利率が変動制になり、時効も「知った時から5年」になったので、この二つの特別ルールは役目を終えて削除されました。過去問には旧ルールを前提にした肢が多く残っているので、出題当時の規律と現在の規律を分けて押さえます。
旧514条は商行為によって生じた債務の法定利率を年6分とし、判例は債務不履行による損害賠償債務にも一方的商行為にも及ぼしていました
出題当時の商法514条は、商行為によって生じた債務に関しては法定利率を年6分とすると定め、民法の年5分より高い利率を置いていました。判例は、商行為である金銭消費貸借上の債務の不履行による損害賠償債務も「商行為によって生じた債務」に当たるとして年6分を適用し(最判昭和47年5月25日)、債務者と債権者のどちらにとって商行為であるかを問わず、一方的商行為によって生じた債務にも年6分を適用していました(商法3条1項)。平成29年民法改正に伴い旧514条は削除され、現在の法定利率は民法404条により年3パーセントから出発して3年ごとに見直される変動制で、商行為かどうかで変わりません。「商行為によって生じた債務の不履行による損害賠償債務についての法定利率は,年5分である」という肢は、出題当時は年6分とする判例に反して誤りで、現行法でも民法404条の法定利率によるので誤りです。「その債務者又は債権者のいずれのために商行為となるものであるかを問わず,その債務に関する法定利率は,年6分である」という肢は、出題当時は判例のとおり正しい肢でしたが、現行法では年6分という利率が無いので維持できません。
旧522条は商行為によって生じた債権の消滅時効を5年とし、一方的商行為や附属的商行為による債権にも及んでいました
出題当時の商法522条は、商行為によって生じた債権は、商法に別段の定めがある場合を除き5年間行使しないときは時効によって消滅し、他の法令に5年より短い時効期間の定めがあるときはそれによると定めていました。民法の10年より短い商事消滅時効です。「商行為によって生じた債権」であればよく、当事者双方が商人であることは要らず、一方的商行為によって生じた債権や附属的商行為によって生じた債権にも適用されました。「債権者のためには商行為ではなく,債務者のためにのみ商行為である行為によって生じた債権」や「商行為によって生じた債務の不履行に基づく損害賠償請求権」には旧522条の適用があり、「当該債務が附属的商行為によって生じたものであっても,…債権者が5年間行使しないときは,当該債務に係る債権は,時効によって消滅する」という肢も、出題当時は正しい肢でした。株式会社が信用金庫から事業資金を借りた場合も、会社にとって事業のためにする行為として商行為なので、出題当時はその元利金支払請求権の消滅時効期間は5年でした。「B信用金庫のA株式会社に対する元利金支払請求権の消滅時効期間は5年である」という肢は、出題当時は旧522条により正しい肢で、現行法でも、弁済期を知っている貸主の債権は民法166条1項1号により5年で時効が完成するので結論は変わりません。旧522条も平成29年民法改正に伴い削除され、現在は民法166条1項により、債権者が権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使できる時から10年で消滅時効が完成します。商行為かどうかで期間は変わりません。したがって、5年の商事消滅時効を前提にした肢は、現行法ではその規律自体が存在しません。
判例は、取締役の任務懈怠責任・制限超過利息の不当利得返還請求権・個人の質屋の貸付債権には旧522条を適用せず、白地補充権には準用していました
旧522条の適用・準用の有無をめぐる判例が、過去問の素材になっています。取締役の会社に対する任務懈怠による損害賠償責任(会社法423条1項)について、判例は、法によって内容が加重された特殊な責任であって商行為である委任契約上の債務が態様を変じたにすぎないものとはいえないとして、商行為によって生じた債権に当たらず、時効期間は民法の10年であるとしました(最判平成20年1月28日)。「会社法第423条第1項に基づく株式会社の取締役に対する損害賠償請求権は,商行為によって生じた債権に当たり,その消滅時効期間は,5年である」という肢は誤りです。商行為である金銭消費貸借で利息制限法の制限を超えて支払われた利息・損害金の不当利得返還請求権は、法律の規定によって生ずる債権であって商取引の迅速な決済の要請が当てはまらないとして、旧522条の適用も類推適用も否定されました(最判昭和55年1月24日)。個人の質屋営業者の貸付けは、受信行為を伴わないので銀行取引(502条8号)に当たらず商行為ではないとされ(最判昭和50年6月27日)、その貸付債権にも旧522条の適用はありません。営業を始める目的を相手に説明せずにした借入れについて、判例は、金銭の借入れは外形から目的が分からないので相手方がその目的を知らない限り開業準備行為に当たらないとし(最判昭和47年2月24日)、その借入金返還請求権の時効は商事時効の5年ではなく民法の10年でした。「その金銭消費貸借契約に基づく返還請求権の消滅時効期間は,10年である」という肢は、出題当時は正しい肢でしたが、現行法では商行為かどうかにかかわらず民法166条1項によるので、10年という結論は維持できません。他方、満期を白地として振り出された約束手形の白地補充権には旧522条が準用され、振出しから5年で時効消滅するとされました(最大判昭和36年11月24日)。「商法第522条の適用又は準用がないもの」を問う問題では、債務不履行に基づく損害賠償請求権・債務者にとってのみ商行為である行為によって生じた債権・白地補充権には適用又は準用があり、制限超過利息の不当利得返還請求権・個人の質屋の貸付債権には適用がない、という振り分けになります。なお、信用金庫は営利を目的としないので商人に当たらないとした判例(最判昭和63年10月18日)がありますが、借主である会社にとって商行為であれば旧522条は適用されました。
旧514条・旧522条の整理(いずれも平成29年民法改正に伴い削除、令和2年4月施行)
- 旧514条 商事法定利率: 商行為によって生じた債務は年6分。債務不履行による損害賠償債務にも(最判昭47.5.25)、一方的商行為にも適用 → 現在は民法404条の法定利率(年3パーセント、3年ごとの変動制)
- 旧522条 商事消滅時効: 商行為によって生じた債権は5年。一方的商行為・附属的商行為の債権にも適用 → 現在は民法166条1項(知った時から5年・行使できる時から10年)
- 適用あり: 商行為上の債務の不履行に基づく損害賠償請求権、債務者にとってのみ商行為である行為による債権、会社の事業資金の借入れ
- 準用あり: 満期白地手形の白地補充権(最大判昭36.11.24)
- 適用なし: 取締役の任務懈怠責任(最判平20.1.28)、制限超過利息の不当利得返還請求権(最判昭55.1.24)、個人の質屋の貸付債権(最判昭50.6.27)、開業目的を知らない相手からの借入れ(最判昭47.2.24)
- 法定利率を前提にする他の規定(513条の法定利息、会社法の買取価格の利息など)も民法404条の法定利率による
旧商法522条(平成29年民法改正に伴い削除)
商行為によって生じた債権は、この法律に別段の定めがある場合を除き、五年間行使しないときは、時効によって消滅する。ただし、他の法令に五年間より短い時効期間の定めがあるときは、その定めるところによる。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。