白地手形と白地補充権(不当補充・補充権の時効)とは
しらじてがたとしらじほじゅうけん
白地手形とは、後で取得者に補充させる意思で、手形要件の一部を空欄のまま署名して流通に置いた未完成の手形のことで、その空欄を埋める権利を白地補充権といいます。合意と異なる補充(不当補充)は善意・無重過失の所持人に対抗できず(手形法10条)、満期白地の補充権は5年で時効にかかります。
商品を納めてもらう前に手形を渡したいが、金額や支払日がまだ決まっていないことがあります。そこで振出人は、金額欄や満期欄を空けたまま署名して渡し、「決まったらこの範囲で埋めてよい」と約束しておきます。これが白地手形で、埋める権利が白地補充権です。空欄のまま流通し、途中の人が約束と違う数字を書き込むこともあります。手形法は、そのような手形を事情を知らずに取得した人を守るため、振出人は約束違反を善意・無重過失の所持人に主張できないと定めました。
白地手形は補充を予定して署名した未完成の手形で、権限なく記載を消しただけでは白地手形になりません
白地手形とは、後で取得者に手形要件の全部又は一部を補充させる意思で、署名者がわざと空欄のまま流通に置いた証券をいいます。完成した手形と同じように流通できるのは、空欄をいつでも埋めて完成手形にできる権利(白地補充権)が付いているからです。したがって、補充権の無い空欄は白地手形を作りません。受取人から手形を預かっただけの者が、振出人と受取人の同意なく受取人の記載を抹消して空欄にしても、それは無権限者による変造であって白地補充権は生じないので、「この手形は,丙による受取人乙の記載の抹消により,白地手形となる」という肢は誤りです。白地手形は小切手にもあり、小切手要件の一部を欠いても白地小切手として有効になり得ます(小切手法13条)。「小切手が小切手要件の一部を欠く場合は白地小切手として有効になることはない」という肢は誤りです。受取人が白地の手形で振出人に権利を行使するには受取人の記載を補充しなければなりませんが、白地式裏書の被裏書人欄は裏書の方式として空欄のままでよく(手形法13条2項、14条2項)、補充しなくても裏書人に権利を行使できます。「受取人の記載のない手形について振出人に対し手形上の権利を行使するには,受取人の記載を補充する必要があるが,被裏書人の記載のない手形について裏書人に対し手形上の権利を行使するには,被裏書人の記載を補充する必要はない」という肢は正しいです。
合意と異なる補充は善意・無重過失の所持人に対抗できず、自分で補充した取得者にも同じ規律が及びます
あらかじめした合意と異なる補充がされた場合、その違反は所持人に対抗できません。ただし、所持人が悪意又は重大な過失によって手形を取得したときは対抗できます(手形法10条、77条2項)。判例は、この規定は、既に合意と異なる補充がされた手形を善意・無重過失で取得した所持人だけでなく、善意・無重過失で白地手形を取得したうえで、合意と異なる補充を自分でした所持人にも適用されるとしています(最判昭和41年11月10日)。したがって、「CがA・B間であらかじめされた白地の補充に関する合意と異なる補充をしたときは,Cが善意でかつ重大な過失がないときでも,Aは,その白地の補充に関する合意に反することをもってCに対抗することができる」という肢と、「当該所持人が善意でかつ重大な過失がないときであっても、当該振出人は、その白地の補充に関する合意に反することをもって当該所持人に対抗することができる」という肢はいずれも誤りで、「Cが善意でかつ重大な過失がないときは,Aは,その白地の補充に関する合意に反することをもってCに対抗することができない」という肢は正しいです。手形の取得者は補充権の範囲を手形の外から知ることができないので、流通の安全のために補充権の存在と範囲を信頼した者を保護する必要があるからです。
満期白地の補充権は5年で時効にかかり、補充した後の手形上の権利は満期から3年で時効にかかります
白地補充権は手形上の権利そのものではなく、補充の合意に基づく形成権なので、手形法70条の時効は直接には及びません。判例は、満期白地の手形の補充権には商行為によって生じた債権の時効の規定(旧商法522条)が準用され、行使できる時から5年で時効により消滅するとしています(最判昭和44年2月20日。白地小切手について最大判昭和36年11月24日、満期・受取人白地の手形について最判平成5年7月20日)。したがって、「満期を白地として振り出された約束手形の白地補充権」は、商行為によって生じた債権の時効の規定の適用又は準用がある債権に当たり、「白地が補充されないまま補充権を行使し得べき時から3年が経過したときは,白地補充権は時効により消滅する」という肢は、期間を3年とする点で誤りです。旧商法522条は平成29年民法改正に伴って削除されたので、現在は民法166条1項(権利を行使できることを知った時から5年)が根拠になり、5年という結論は変わりません。満期を5年以内に補充すれば手形は完成し、そこから手形上の権利の時効(満期の日から3年。手形法70条1項、77条1項8号)が進みます。受取人欄がまだ白地でも、手形上の権利が時効にかからない間は補充して請求できるので、「Bが振出日から5年以内にAとの間であらかじめされた白地の補充に関する合意に基づき満期の記載を補充し,Aに対し満期日から3年以内に受取人の記載を補充して手形金を請求したときは,Aは,その手形上の権利の消滅時効を援用することができない」という肢は正しいです。
白地手形の規律
- 成立: 手形要件の一部を空欄にして署名し、補充権を与えて流通に置く。無権限の抹消は変造で白地手形にならない
- 不当補充(10条・77条2項): 合意違反は善意・無重過失の所持人に対抗できない。自ら補充した取得者も同じ(最判昭和41年11月10日)
- 補充権の時効: 行使できる時から5年(最判昭和44年2月20日。現在は民法166条1項)。3年ではない
- 補充後の手形上の権利: 振出人に対して満期の日から3年(70条1項)
- 受取人白地は補充が要る。白地式裏書の被裏書人欄は補充不要(14条2項)
- 小切手にも白地小切手がある(小切手法13条)
手形法10条
未完成ニテ振出シタル為替手形ニ予メ為シタル合意ト異ル補充ヲ為シタル場合ニ於テハ其ノ違反ハ之ヲ以テ所持人ニ対抗スルコトヲ得ズ但シ所持人ガ悪意又ハ重大ナル過失ニ因リ為替手形ヲ取得シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
論文ではこう使う
論文では、金額白地の手形が合意の上限を超えて補充され、第三者が取得した事案で使います。「白地手形の所持人が合意と異なる補充をしても、その違反は善意・無重過失の所持人に対抗できない(手形法10条、77条2項)。判例は、既に不当補充された手形の取得者だけでなく、白地のまま取得して自ら補充した者にも同条を適用する」と規範を示し、取得者が補充権の範囲を知り得たか(手形の記載・取引の経緯・金額の不自然さ)から悪意・重過失をあてはめます。振出人は、補充された金額全額について責任を負い、合意の範囲を超えた部分は補充した者への求償で処理することを添えます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。