除権決定と手形の喪失とは
じょけんけっていとてがたのそうしつ
除権決定とは、手形を喪失した所持人が公示催告の手続を経て裁判所から得る、その手形を無効とする決定のことで、申立人は手形なしに手形上の権利を行使できるようになります。除権決定は申立人に手形を所持するのと同じ地位を回復させるにとどまり、それより前に善意取得した者の権利は失われません。
手形を火事で失ったり、落としたりしても、手形に書かれた権利そのものが消えるわけではありません。ただ、紙が無ければ呈示も裏書もできないので、裁判所に申し立てて「この手形は無効」と宣言してもらい、紙なしで権利を行使できるようにします。これが除権決定です。もっとも、除権決定は失った人に紙を持っているのと同じ地位を返すだけで、その人が本当の権利者だと決めるものではありません。先に善意取得した人がいれば、権利はその人のものです。
手形を失っても手形上の権利は消えず、公示催告を経て除権決定を得れば手形なしに権利を行使できます
手形上の権利と手形証券との結び付きは手形制度の目的のためのもので、いったん有効に成立した手形上の権利は、証券が焼失・紛失しても消滅しません。「火災によりBが本件手形を焼失した場合には,Bは,Aに対し,手形金の支払を求めることはできない」という肢は誤りです。ただし、手形は証券を呈示して権利を行使する有価証券なので、紙を失った所持人は、簡易裁判所に公示催告を申し立て、期間内に権利の届出が無ければ除権決定を得て、その手形を無効にしたうえで、手形なしに振出人に支払を請求できます(非訟事件手続法114条以下)。除権決定の効果は、手形を無効にし、申立人に手形を所持するのと同じ地位を回復させることです。
除権決定より前に善意取得した者は、除権決定があっても権利を失いません
失われた手形が流通して第三者が善意取得していた場合、除権決定を得た申立人と善意取得者のどちらが権利者かが問題になります。判例は、除権判決(現在の除権決定)の効果は手形を無効にして申立人に手形を所持するのと同一の地位を回復させるにとどまり、申立人が実質的な権利者であることを確定するものではないとしたうえで、手形が善意取得されたときは従前の所持人はその時点で権利を失うので、その後に除権判決を受けても手形上の権利まで回復するものではなく、権利は善意取得者に帰属するとしています(最判平成13年1月25日)。公示催告の公告の現状では善意取得者が期間内に届け出ることは実際上難しく、除権決定で善意取得者が権利を失うとすると手形の流通保護を損なうからです。「手形を善意取得した者は,その手形について除権決定があったときは,その手形に表章された手形上の権利を失う」という肢は誤りで、「手形について除権決定があったとしても,これよりも前に当該手形を善意取得した者は,当該手形に表章された手形上の権利を失わない」という肢は正しいです。
白地手形について除権決定を得ても、手形の外で白地を補充して請求することはできません
白地手形を白地のまま失った所持人が除権決定を得ても、除権決定によって白地手形そのものが復活するわけではありません。判例は、喪失した白地手形について除権判決を得た所持人が手形の外で白地を補充する旨の意思表示をしても、白地補充の効力は生じないとし、手形債務者に対して同じ内容の手形の再発行を請求する権利も無いとしています(最判昭和51年4月8日)。「当該手形について除権決定があったときは,Bは,Aに対し,手形外で白地を補充する旨の意思表示をすることにより手形金を請求することができる」という肢は誤りです。補充は証券の紙面にするものなので、紙を失えば補充のしようが無く、白地手形の所持人は失う前に補充しておくか、原因関係上の債権で回収するほかありません。
除権決定の効果
- 手形の喪失(焼失・紛失・盗難): 手形上の権利は消えない
- 公示催告→除権決定: 手形を無効にし、申立人に手形を所持するのと同一の地位を回復させる。実質的な権利者と確定するものではない
- 除権決定前の善意取得者: 権利を失わない(最判平成13年1月25日)
- 白地手形の除権決定: 手形外の補充は無効。再発行請求権も無い(最判昭和51年4月8日)
論文ではこう使う
論文では、盗まれた手形について元の所持人が除権決定を得た後に、善意取得者が振出人に請求してきた事案で使います。「除権決定は手形を無効にして申立人に手形を所持するのと同一の地位を回復させるにとどまり、申立人が実質的権利者であることを確定するものではない。手形が善意取得されたときは、従前の所持人はその時点で権利を失うから、その後の除権決定によって権利を回復することはなく、権利は善意取得者に帰属する(判例)」と立て、善意取得の成否(裏書の連続・悪意重過失)を先に検討してから、除権決定の時期との先後を当てはめます。白地手形の事案では、手形外の補充ができないことを別に指摘します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。