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特殊の裏書(取立委任裏書・隠れた取立委任裏書・期限後裏書・戻裏書)とは

とくしゅのうらがき

商法 手形の流通と支払・小切手

特殊の裏書とは、通常の譲渡裏書と効力の異なる裏書のことで、取立ての代理権だけを与える取立委任裏書(「取立てのため」と記載する公然のものと、譲渡裏書の形式でする隠れたもの)、支払拒絶証書作成後又は作成期間経過後にされて債権譲渡の効力しか持たない期限後裏書、手形債務者に対してする戻裏書があります。

裏書の中には、権利を譲るためではなく、銀行に取立てを頼むためにする裏書があります。「取立てのため」と書けば代理権を与えるだけの裏書になりますが、実務では普通の譲渡裏書の形で取立てを頼むこともあり(隠れた取立委任裏書)、権利が移るのか移らないのかで債務者が出せる抗弁が変わります。また、支払を拒まれた後の裏書(期限後裏書)は、もう普通の流通の保護が要らないので、債権譲渡と同じ効力しかありません。裏書した人のところへ手形が戻ってくる戻裏書では、以前の抗弁がそのまま付いてきます。

銀行の窓口の場面。先生が手形の所持人役(札「裏書人」)で、約束手形の裏面に「取立てのため」と書いて署名し、窓口の男性行員(札「被裏書人 取立代理」)に渡している。カウンターの掲示「取立委任裏書(18条) 権利は裏書人に残る・被裏書人は代理権

公然の取立委任裏書では被裏書人は代理権を得るだけで、債務者は裏書人に対する抗弁だけを対抗できます

裏書に「取立ノ為」「代理ノ為」など単なる委任を示す文言があるときは、所持人は手形から生ずる一切の権利を行使できますが、代理のための裏書しかできません(手形法18条1項、77条1項1号)。手形上の権利は裏書人に残り、被裏書人は取立ての代理権を与えられるにすぎないので、被裏書人には固有の経済的利益が無く、人的抗弁の切断は働きません。債務者が所持人に対抗できる抗弁は、裏書人に対抗できたものに限られます(18条2項)。したがって、振出しの原因関係が消滅した後に受取人が取立委任裏書をした場合、振出人は、被裏書人が害意を持って取得したかどうかにかかわらず、原因関係の消滅を主張して支払を拒めます。「BがCに対し「取立てのため」との文言を付して裏書をしたときは,Aは,Cが債務者を害することを知って手形を取得した場合でなければ,当該原因関係が消滅したことを主張して,Cからの手形金請求を拒むことができない」という肢は誤りです。

隠れた取立委任裏書は、権利が移転するとする見解と、取立ての資格だけが与えられるとする見解とで、抗弁・担保責任・破産の帰結が分かれます

隠れた取立委任裏書とは、取立委任の目的で通常の譲渡裏書の形式でする裏書です。判例は、この裏書も形式上は通常の譲渡裏書と異ならず、手形上の権利は被裏書人に移転し、取立委任の合意は手形外の合意として当事者間の人的抗弁事由にとどまるとする見解(信託的譲渡説)に立っています(最判昭和44年3月27日)。これに対し、権利は依然として裏書人にあり、被裏書人は自分の名で権利を行使する資格と権限を与えられるにすぎないとする見解(資格授与説)があります。権利が移転するとする見解からは、債務者は被裏書人に対する人的抗弁を対抗でき、裏書人に対する抗弁は被裏書人が害意を持たない限り対抗できず、被裏書人から善意の第三者への譲渡では第三者は人的抗弁の切断で保護され、被裏書人が破産しても、権利の移転は取立ての目的でされた信託的なものにすぎないので、裏書人は取戻権を持つと解されています。したがって、「手形債務者は,被裏書人に対する人的抗弁を対抗することができない」という記述と、「被裏書人が取立委任の目的につき善意の第三者に手形を裏書譲渡したときは,その第三者は,善意取得の規定によって保護される」という記述は、この見解の結論になり得ません。他方、「被裏書人は,裏書人に対し,担保責任を追及することはできない」という記述は、裏書人が取立委任という原因関係上の抗弁を直接の被裏書人に主張できるので結論になり得ますし、「取立委任の合意が解除されると,被裏書人の取立権限は消滅する」、「被裏書人が破産した場合,裏書人は取戻権を有する」という記述も、取立委任の実質に従って解する限り結論になり得ます。資格授与説からは逆に、債務者は裏書人に対する人的抗弁を被裏書人に対抗でき、被裏書人に対する人的抗弁は対抗できず、被裏書人が破産しても裏書人は取戻権を持ち、取立委任の合意が解除されれば被裏書人の取立権限は消滅します。したがって、「手形債務者Aは,裏書人Bに対する人的抗弁をもって被裏書人Cに対抗することができない」という記述と、「被裏書人Cにつき破産手続が開始された場合,裏書人Bは取戻権を有しない」という記述は、資格授与説と整合しません。「裏書人Bは,被裏書人Cに対して担保責任を負わない」という記述は、どちらの見解でも代理権を与えたにすぎない裏書人に担保責任を負わせる理由が無いので、整合します。

隠れた取立委任裏書の帰結

  • 信託的譲渡説(判例): 権利は被裏書人に移転。債務者は被裏書人に対する抗弁を対抗でき、裏書人に対する抗弁は害意が無ければ対抗できない。善意の譲受人は人的抗弁の切断で保護。被裏書人の破産でも裏書人は取戻権あり(信託的な移転にとどまるため)
  • 資格授与説: 権利は裏書人に残る。債務者は裏書人に対する抗弁を対抗でき、被裏書人に対する抗弁は対抗できない。被裏書人の破産で裏書人は取戻権あり。合意の解除で取立権限は消滅
  • 裏書人の担保責任: どちらの見解でも被裏書人に対して負わない
教室の場面。先生が教壇に立ち、黒板を左右に割った板書。見出し「隠れた取立委任裏書(譲渡裏書の形で取立てを頼む)」。左「信託的譲渡説(判例 最判昭44.3.27) 権利は被裏書人へ」の下に「被裏書人への抗弁 ○ 裏書人への抗弁 △(害意があれ

期限後裏書は債権譲渡の効力しかありませんが、満期の翌日にされただけの裏書は期限後裏書ではありません

満期後の裏書は満期前の裏書と同一の効力を有します。ただし、支払拒絶証書作成後の裏書又は支払拒絶証書作成期間経過後の裏書は、債権の譲渡の効力だけを有します(20条1項)。これが期限後裏書で、支払拒絶が明らかになるか支払われるべき時期を過ぎた後の裏書には流通の保護が要らないからです。確定日払手形の支払拒絶証書の作成期間は支払をすべき日とこれに次ぐ2取引日なので(44条3項)、満期の翌日にされた裏書は作成期間内の裏書であり、満期前の裏書と同じ効力を持ちます。「確定日払の約束手形の満期として記載されている日の翌日にされた裏書は,指名債権譲渡の効力のみを有する」という肢は誤りです(出題当時の「指名債権譲渡」は、現在の条文では「債権の譲渡」です)。振出しの原因関係が消滅した後、受取人が呈示をしないまま満期の翌日に善意の第三者へ裏書した場合も、期限後裏書ではないので人的抗弁は切断され、振出人は原因関係の消滅を主張して支払を拒めません。「Bが,支払のための呈示をすることなく,Cに対し満期日の翌日に裏書をしたときは,Cが当該原因関係の消滅の事実について善意であったとしても,Aは,当該原因関係が消滅したことを主張して,Cからの手形金請求を拒むことができる」という肢は誤りです。

人的抗弁の対抗を受ける者が善意者を経て戻裏書で再び所持人になっても、振出人は抗弁を対抗できます

戻裏書は、振出人や裏書人などの手形債務者に対する裏書です(11条3項)。振出人から直接抗弁の対抗を受ける受取人が、善意の第三者に裏書譲渡した後、戻裏書で再び所持人になった場合、判例は、その者は裏書譲渡の前から振出人の抗弁の対抗を受ける地位にあったのだから、善意者を経て受け戻したからといって、自分の裏書譲渡前より有利な地位を取得するわけではないとして、振出人は抗弁を対抗できるとしています(最判昭和40年4月9日)。「Bが当該原因関係の消滅の事実について善意であるCに対し裏書をした後,再度CからBに対し裏書がされたときは,Aは,当該原因関係が消滅したことを主張して,Bからの手形金請求を拒むことができる」という肢は正しいです。善意者を経由すれば後の悪意の取得者にも抗弁を対抗できないという規律(人的抗弁の切断の語で扱います)は、もともと抗弁の対抗を受けていた本人が戻ってきた場合には働きません。

手形法18条1項

裏書ニ「回収ノ為」、「取立ノ為」、「代理ノ為」其ノ他単ナル委任ヲ示ス文言アルトキハ所持人ハ為替手形ヨリ生ズル一切ノ権利ヲ行使スルコトヲ得但シ所持人ハ代理ノ為ノ裏書ノミヲ為スコトヲ得

手形法18条2項

前項ノ場合ニ於テハ債務者ガ所持人ニ対抗スルコトヲ得ル抗弁ハ裏書人ニ対抗スルコトヲ得ベカリシモノニ限ル

手形法20条1項

満期後ノ裏書ハ満期前ノ裏書ト同一ノ効力ヲ有ス但シ支払拒絶証書作成後ノ裏書又ハ支払拒絶証書作成期間経過後ノ裏書ハ民法第三編第一章第四節ノ規定ニ依ル債権ノ譲渡ノ効力ノミヲ有ス

論文ではこう使う

論文では、隠れた取立委任裏書の被裏書人から請求を受けた債務者がどの抗弁を出せるかを問われたときに使います。「隠れた取立委任裏書は形式上通常の譲渡裏書と異ならないから、手形上の権利は被裏書人に移転し、取立委任の合意は当事者間の人的抗弁事由にとどまる(判例・信託的譲渡説)。したがって、債務者は被裏書人に対する人的抗弁を対抗できる一方、裏書人に対する人的抗弁は被裏書人が害意を持って取得した場合でなければ対抗できない(手形法17条)」と立て、もっとも、被裏書人は取立ての目的で手形を取得したにすぎず固有の経済的利益を持たないから、裏書人に対する抗弁の対抗を認めるべきだという見解と、判例が害意の有無で処理することを対比させて当てはめます。戻裏書の事案では、受戻人がもともと抗弁の対抗を受ける地位にあったことを指摘します。

試験ではこう問われる

「特殊の裏書」が短答式でどう出題されてきたか、ひっかけの型4件と関係する過去問の肢14本は、無料のアカウントでログインすると読めます。

読んだあとに、商法の肢別演習を

この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。

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