原因関係と手形関係(支払のために・支払に代えて)とは
げんいんかんけいとてがたかんけい
原因関係とは手形を授受する元になった売買などの法律関係のことで、手形関係とは手形そのものから生ずる権利義務のことです。手形は原因債務の「支払に代えて」振り出されれば原因債務が消滅し、「支払のために」振り出されれば両方の債務が併存し、当事者の意思が明らかでなければ支払のために振り出されたものと推定されます。
商品を買った代金を払うために手形を渡すことがあります。このとき、売買代金を払う義務(原因関係)と手形金を払う義務(手形関係)が並んで存在します。手形を渡しただけで代金債務が消えるわけではなく、当事者の意思がはっきりしなければ「支払のために」渡したものと扱われ、両方の債務が残ります。ただし二重に払うことにはならず、買主は代金を請求されたら手形を返してもらうことと引換えにすると主張でき、代金債務が履行や時効で消えていれば、売主からの手形金請求を拒めます。
意思が明らかでなければ「支払のために」振り出されたものと推定され、原因債務は消滅しません
手形を振り出す趣旨には、原因債務を消滅させて手形債務だけを残す「支払に代えて」と、原因債務を残したまま支払の手段として渡す「支払のために」(支払確保のため・担保のため)があります。判例は、原因債務の支払確保のために手形が振り出され、別段の意思表示が無く、債務者自身が唯一の手形上の義務者である場合には、担保供与の趣旨で授受されたものと推定するとしています(最判昭和23年10月14日)。したがって、当事者の意思が明らかでないときは、支払に代えてではなく支払のために振り出されたものと推定され、原因債務は消滅しません。「当事者の意思が明らかでない場合には、当該約束手形の振出しは、当該原因関係上の債務の支払に代えてされたものと推定される」という肢は誤りです。両方の債務が併存する場合、債権者はどちらを先に行使してもよいのが原則ですが、債務者には二重払いの危険があるので、判例は、原因債務の履行を請求された債務者は手形の返還と引換えに支払う旨の一種の同時履行の抗弁権を持ち、これが行使されれば裁判所は引換給付の判決をすべきであるとしています(最判昭和33年6月3日)。「Aは、Bからの当該原因関係上の債務の履行の請求について、当該原因関係上の債務の履行は当該約束手形の返還と引換えにする旨を主張することができない」という肢は誤りです。
手形振出しの趣旨
- 支払に代えて: 原因債務は消滅し、手形債務だけが残る。手形上の権利が時効で消えれば利得償還請求権が問題になる
- 支払のために(支払確保のため・担保のため): 原因債務と手形債務が併存。意思が明らかでなければこちらと推定(最判昭和23年10月14日)
- 併存する場合の原因債務の請求: 債務者は手形の返還と引換えにする旨を主張できる(最判昭和33年6月3日)
原因債務が履行・時効消滅したとき、売主が自分の債務を履行しないときは、直接の相手方からの手形金請求を拒めます
手形関係は原因関係から切り離されていますが(無因性)、手形を授受した直接の当事者の間では、原因関係上の事情を人的抗弁として主張して手形金の支払を拒めます。原因債務が履行されたのに手形が返されていなければ、振出人は受取人からの手形金請求を拒めるので、「当該原因関係上の債務が履行されたときは、Aは、Bからの当該約束手形に係る手形金請求を拒むことができる」という肢は正しいです。原因債権が時効で消滅した場合も同じで、判例は、原因債権である売掛代金債権が時効の満了で消滅したときは、原因債権上の債権者からの手形金請求を拒めるとしています(最判昭和43年12月12日)。「本件手形の振出し後に本件原因債務が時効により消滅した場合には,Aは,これを抗弁として,Bに対し,手形金の支払を拒むことができる」という肢は正しいです。売買の売主が商品を納入しないまま手形の支払呈示をしてきた場合も、判例は、売買代金債務の支払確保のために手形を振り出した債務者は、特段の事情が無い限り、売買代金の支払は手形の返還と引換えにする旨の同時履行の抗弁を手形金請求に対しても行使できるとしているので(最判昭和35年7月8日)、「Bが,本件売買契約に基づく衣料品の納入に係る債務を履行しないまま,支払呈示期間内に本件手形の支払呈示をした場合でも,Aは,手形金の支払を拒むことはできない」という肢は誤りです。
手形金請求の請求原因に原因関係の主張は要らず、原因契約の解除は抗弁になります
手形は無因証券なので、手形金請求の訴えでは、振出しと所持を主張すれば足り、原因関係である売買契約の成立や代金支払のために振り出されたことを請求原因として主張する必要はありません。「Xの手形金請求が認容されるためには,Xは,更にXY間の売買契約の成立及びその代金支払のため約束手形が振り出された旨を請求原因として主張しなければならない」という肢は誤りです。他方で、手形を授受した当事者間では原因関係上の抗弁を主張できるので、振出人は、受取人の債務不履行を理由に売買契約を解除したことを抗弁として主張できます。「Yは,この手形訴訟において,Xの債務不履行に基づく売買契約の解除の抗弁を主張することができない」という肢は誤りです。原因関係の主張・立証責任は、それを抗弁として出す債務者の側にあります。
手形金請求の訴えの提起は、原因債権の時効にも完成猶予の効力を及ぼします
判例は、債務の支払のために手形が授受された当事者間で債権者がする手形金請求の訴えの提起は、原因債権の消滅時効を中断(現在の民法では完成猶予・更新)する効力を有するとしています(最判昭和62年10月16日)。手形債権は原因債権と法律上は別の債権ですが、経済的には同一の給付を目的とし、原因債権の支払手段として併存するにすぎず、原因債権の時効消滅はその訴訟で債務者の人的抗弁になるので、訴えの提起後も原因債権の時効が進んで完成するとすれば、債権者の通常の期待に著しく反し、債務者が訴訟係属中に完成した時効を援用して手形債務の支払を免れる不合理な結果になるからです。「債務の支払のために手形の交付を受けた債権者が債務者に対し手形金請求の訴えを提起したときは,原因債権についても,消滅時効の中断の効力が生ずる」という肢は正しいです。出題当時の「中断」は、現在の民法147条では裁判上の請求による完成猶予と確定判決による更新に当たります。
手形法75条2号
約束手形ニハ左ノ事項ヲ記載スベシ(略)二 一定ノ金額ヲ支払フベキ旨ノ単純ナル約束
論文ではこう使う
論文では、売買代金の支払のために手形が振り出された事案で、売主がどちらの債権をどの順で行使できるか、買主が何を主張して拒めるかを整理します。「手形が原因債務の支払のために振り出された場合、原因債務と手形債務は併存し、当事者の意思が明らかでなければ支払のために振り出されたものと推定される(判例)。債権者はいずれの債権も行使できるが、原因債権を行使された債務者は、二重払いの危険を避けるため、手形の返還と引換えに支払う旨の抗弁を主張できる(判例)」と立て、さらに「手形を授受した直接の当事者間では、原因関係上の事由を人的抗弁として手形金請求を拒める」として、原因債務の履行・時効消滅・売主の未履行・契約の解除を当てはめます。手形金請求の訴えが原因債権の時効も止めることを最後に添えます。
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