手形要件と有益的・無益的・有害的記載事項とは
てがたようけんとゆうえきてきむえきてきゆうがいてききさいじこう
手形要件とは、手形法が手形に必ず記載すべきものと定めた事項のことで、約束手形では手形文句・一定の金額を支払う単純な約束・満期・支払地・受取人・振出日と振出地・振出人の署名の7つです(手形法75条)。これ以外の記載は、書けば効力がある有益的記載事項、書いても無いものとみなされる無益的記載事項、書くと手形が無効になる有害的記載事項に分かれます。
手形は、受け取った人が次々と他人に渡していく紙です。受け取る側は、紙に書いてあることだけを見て「いくらを、いつ、誰が払うのか」を判断しなければなりません。そこで手形法は、必ず書くべき事項(手形要件)を決め、一つでも欠ければ手形として無効にしました。ただ、少しの書き漏れで全部が無効になると取引が不安定になるので、満期が無ければ一覧払とみなすなど、法律が代わりに穴を埋める場合も用意しています。書いても無視される記載や、書くと手形全体を無効にしてしまう記載も決まっています。
約束手形の要件は7つで、満期・振出地のように欠けても法律が補う事項があります
約束手形には、約束手形であることを示す文字(手形文句)、一定の金額を支払うべき旨の単純な約束、満期の表示、支払をすべき地、受取人の名称、振出日と振出地、振出人の署名を記載しなければなりません(手形法75条)。これらのいずれかを欠く証券は約束手形としての効力を有しません(76条1項本文)。ただし、満期の記載が無い約束手形は一覧払のものとみなされ、振出地の記載が無ければ振出人の名称に附記した地で振り出したものとみなされ、支払地の記載が無ければ振出地が支払地とみなされます(76条2項〜4項)。「手形に満期の記載がない場合でも,その手形は,無効とはならない」という肢は正しいです。満期の定め方は一覧払・一覧後定期払・日附後定期払・確定日払の4種類に限られ(33条1項、77条1項2号)、「約束手形は,一覧払でも振り出すことができる」という肢は正しいです。手形要件さえ記載されていれば用紙は問わないので、「全国銀行協会が規格・様式を定めた統一手形用紙によらないで振り出された約束手形も,有効である」という肢は正しいです。手形要件を欠いて振出しが無効なら、その手形にされた裏書も無効になります。「約束手形の振出しについて手形要件が満たされず,振出しが無効である場合には,当該手形にされた裏書も無効となる」という肢は正しく、手形行為独立の原則は方式の瑕疵には働きません。
約束手形の手形要件(手形法75条)と救済規定(76条)
- 約束手形文句/一定の金額を支払う旨の単純な約束/満期/支払地/受取人の名称/振出日・振出地/振出人の署名
- 満期の記載なし → 一覧払とみなす(76条2項)
- 支払地の記載なし → 振出地を支払地・振出人の住所地とみなす(76条3項)
- 振出地の記載なし → 振出人の名称に附記した地とみなす(76条4項)
- 金額・受取人・振出日・署名などに救済規定は無く、欠ければ無効(白地手形として補充を予定している場合は別)
金額の食い違い・確定日払手形の利息文句は無効にならず、分割払・条件付きの約束は無効になります
手形金額が文字と数字で記載されていてその金額に差異があるときは文字で記載した金額が、文字どうし又は数字どうしで重複して記載されていて差異があるときは最小金額が手形金額になります(6条、77条2項)。どちらの場合も手形は無効になりません。「手形の金額として二つの異なる金額を記載した場合,その手形は,無効となる」という肢と、「約束手形の金額として数字で二つの金額が記載されている場合において,それら二つの金額に差異があるときは,当該約束手形は無効である」という肢はいずれも誤りで、「文字によって記載された金額と数字によって記載された金額とに差異があるときは,文字によって記載された金額が手形金額となる」という規律は、手形面の記載だけで金額を定められるようにして約束手形の流通性を高める趣旨のものです。利息の約定は、一覧払と一覧後定期払の手形でだけ効力があり、確定日払や日附後定期払の手形に記載しても記載が無いものとみなされます(5条1項、77条2項)。書いても効力が無いだけで手形は有効なので、「確定日払の手形において,手形金額につき利息を生ずる旨の約定を記載した場合,その手形は,無効となる」という肢と、「利息文句の付された約束手形は,無効である」という肢はいずれも誤りです。これに対し、分割払の手形は無効です(33条2項、77条1項2号)。満期が複数になると遡求の基準が定まらず手形関係が複雑になるからで、「手形の金額として毎月末に一定金額ずつ支払う旨の記載をした場合でも,手形金額となる総額が確定していれば,その手形は,無効とはならない」という肢は誤りです。支払の約束は単純でなければならず(75条2号)、条件を付けることはできません。小切手の支払委託も同じく単純でなければならないので(小切手法1条2号)、「小切手は支払委託に条件を付すことができるが、約束手形は手形金を支払う旨の約束に条件を付すことはできない」という肢は誤りです。
記載事項の3分類
- 有益的記載事項(書けば効力がある): 第三者方払文句(4条・77条2項)、一覧払・一覧後定期払手形の利息文句(5条1項)、指図禁止文句(11条2項)、拒絶証書作成免除(46条)など
- 無益的記載事項(書いても記載が無いものとみなされる): 確定日払・日附後定期払手形の利息文句(5条1項後段)、裏書に付した条件(12条1項)、振出人の支払担保を免れる文言(9条2項)など
- 有害的記載事項(書くと手形が無効になる): 分割払(33条2項)、法定外の満期(同項)、支払約束に付けた条件(75条2号)など
判例は、平年の2月29日を満期とする手形を有効とし、振出日より前の日を満期とする確定日払手形を無効としています
手形の記載は、社会通念に従って合理的に解釈し、できる限り有効に扱うのが判例の姿勢です。判例は、平年の2月29日を満期とする約束手形について、2月末日を満期とする記載と解して有効としました(最判昭和44年3月4日)。「判例によれば,手形の満期として平年の2月29日を記載した場合,その手形は,無効となる」という肢と、「暦に存在しない平年における2月29日が満期として記載されている約束手形は,無効である」という肢はいずれも誤りです。他方で、確定日払の約束手形についても振出日は手形要件であり、振出日より前の日が満期として記載されている確定日払の約束手形は、記載どうしが矛盾するものとして無効であると判例はしています(最判平成9年2月27日)。「振出日として記載された日よりも前の日が満期として記載されている確定日払いの約束手形は,無効である」という肢は正しいです。振出人の住所地以外の第三者の住所で支払う旨の記載(第三者方払文句)は、約束手形にも準用されて有効なので(4条、77条2項)、「振出人が第三者の住所で支払うべき旨が記載されている約束手形も,有効である」という肢は正しいです。
手形法75条
約束手形ニハ左ノ事項ヲ記載スベシ 一 証券ノ文言中ニ其ノ証券ノ作成ニ用フル語ヲ以テ記載スル約束手形ナルコトヲ示ス文字 二 一定ノ金額ヲ支払フベキ旨ノ単純ナル約束 三 満期ノ表示 四 支払ヲ為スベキ地ノ表示 五 支払ヲ受ケ又ハ之ヲ受クル者ヲ指図スル者ノ名称 六 手形ヲ振出ス日及地ノ表示 七 手形ヲ振出ス者(振出人)ノ署名
手形法76条1項
前条ニ掲グル事項ノ何レカヲ欠ク証券ハ約束手形タル効力ヲ有セズ但シ次ノ数項ニ規定スル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
手形法6条1項
為替手形ノ金額ヲ文字及数字ヲ以テ記載シタル場合ニ於テ其ノ金額ニ差異アルトキハ文字ヲ以テ記載シタル金額ヲ手形金額トス
手形法33条2項
前項ト異ル満期又ハ分割払ノ為替手形ハ之ヲ無効トス
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。