手形の変造とは
てがたのへんぞう
手形の変造とは、権限の無い者が手形の記載内容を変更することで、変造後の署名者は変造した文言に従い、変造前の署名者は原文言に従って責任を負います(手形法69条)。
100万円の手形が、途中で誰かに「200万円」に書き換えられたとします。振出人は100万円と書いた紙に署名したのであって、200万円の約束をした覚えはありません。他方、書き換えられた後に裏書した人は、200万円の手形として裏書しています。そこで手形法は、変造の前に署名した人は元の文言、後に署名した人は変造後の文言に従って責任を負うと定めました。元の文言が何だったか分からないときにその不利益を誰が負うか、受取人の名前が書き換えられたときに裏書の連続をどう見るかが問題になります。
変造前の署名者は原文言に従い、変造後の署名者は変造後の文言に従って責任を負います
変造とは、権限の無い者が手形の記載内容を変更することです。手形の文言が変造された場合、変造後の署名者は変造した文言に従って責任を負い、変造前の署名者は原文言に従って責任を負います(手形法69条、77条1項7号)。各署名者は自分が署名した時の記載を自分の意思表示の内容として手形行為をしているからです。手形金額を100万円とする手形が振り出された後に200万円に変造され、その後に裏書がされた場合、振出人は100万円、裏書人は200万円の限度で責任を負います。「振出人及び裏書人は,100万円の限度で手形上の債務を負う」という肢は誤りです。受取人から手形を預かった者が無断で受取人欄を抹消して自分の名を書き、満期前に第三者に裏書した場合も、その者は変造後の文言で裏書をした変造後の署名者なので、無担保裏書でない限り裏書人として担保責任を負い、「丙が受取人欄に自己の名前を記載して満期前に丁に裏書をした場合において,その裏書が無担保裏書でないときは,丙に対する遡求権が発生する」という肢は正しいです。
権限の無い者が記載を抹消しても手形上の権利は消えず、原文言が判明しない不利益は所持人が負います
いったん有効に成立した手形上の権利は、無権限者が証券の記載を塗りつぶしたり削ったりしても、変更も消滅もしません。したがって、「甲の手形金を支払う義務は,丙による受取人乙の記載の抹消により,消滅しない」という肢は正しいです。振出人は原文言(受取人乙)に従って責任を負うので、抹消した者が受取人欄に自分の名を書いて請求しても、振出人はその者に支払義務を負わず(最判昭和41年11月10日)、「丙が受取人欄に自己の名前を記載して満期に甲に手形金の請求をした場合,甲は,丙に対し,手形金を支払う義務を負わない」という肢は正しいです。無権限の抹消は変造であって、白地手形にはなりません。満期が変造された手形で所持人が原文言を証明できないとき、判例は、振出人は原文言に従って責任を負うにとどまるから、所持人は原文言を主張・立証してそれに従って請求するほかなく、証明できないときの不利益は所持人に帰するとしています(最判昭和42年3月14日)。「手形所持人が原文言を立証することができないときは,原文言が判明しないことの不利益は,手形所持人に帰する」という肢は正しいです。
受取人欄が変造されても、変造後の受取人から連続した裏書があれば、所持人は振出人との関係でも適法な所持人と推定されます
裏書の連続は裏書の形式で判定すれば足ります。判例は、約束手形の受取人欄の記載が変造された場合でも、手形面上、変造後の受取人から現在の所持人へ順次連続した裏書の記載があるときは、所持人は振出人に対する関係でも手形法16条1項により適法な所持人と推定されるとしています(最判昭和49年12月24日)。69条は、権限の無い者に文言を変えられても成立済みの手形債務の内容に影響しないという法理を定めたにすぎず、原文言の記載が紙面に残っているとみなす趣旨ではないからです。「変造後の受取人から現在の手形所持人へ順次連続した裏書の記載があるときは,当該手形所持人は,振出人に対する関係においても,当該手形の適法な所持人と推定される」という肢は正しく、「変造前の記載に従えば裏書が連続していなければ,現在の手形所持人が,当該約束手形の適法な所持人と推定されることはない」という肢は誤りです。推定を受けた所持人に対して、振出人は、原文言に従った責任しか負わないことや所持人の悪意・重過失を主張して争うことになります。
変造の効果
- 変造前の署名者: 原文言に従って責任(69条)。変造後の署名者: 変造後の文言に従って責任
- 無権限の抹消: 手形上の権利は消えない。白地手形にもならない。抹消した者が自分の名を書いても権利者にならない
- 原文言が判明しない不利益: 原文言に従った請求をする所持人が負う(最判昭和42年3月14日)
- 受取人欄の変造: 変造後の受取人から連続する裏書があれば振出人との関係でも適法な所持人と推定(最判昭和49年12月24日)
手形法69条
為替手形ノ文言ノ変造ノ場合ニ於テハ其ノ変造後ノ署名者ハ変造シタル文言ニ従ヒテ責任ヲ負ヒ変造前ノ署名者ハ原文言ニ従ヒテ責任ヲ負フ
論文ではこう使う
論文では、金額や満期が変造された手形の所持人が振出人に請求する事案で使います。「手形の文言が変造された場合、変造前の署名者は原文言に従い、変造後の署名者は変造後の文言に従って責任を負う(手形法69条、77条1項7号)。振出人は変造前の署名者であるから原文言に従った責任を負うにとどまり、所持人は原文言を主張・立証して請求しなければならず、立証できない不利益は所持人が負う(判例)」と規範を示し、誰がいつ署名したかを時系列で当てはめます。変造者自身が裏書していれば変造後の文言で裏書人としての責任を負うこと、受取人欄の変造では裏書の連続を形式的に判断することを添えます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。