未補充の白地手形による権利行使(支払呈示・訴えの提起)とは
みほじゅうのしらじてがたによるけんりこうし
未補充の白地手形による権利行使とは、白地を埋めないまま支払呈示や訴えの提起をすることで、白地手形は補充があるまで未完成の手形なので、呈示には効力が無く、訴えも補充しないままでは認容されません。ただし判例は、白地のままの訴え提起に時効の完成猶予の効力を認めています。
白地手形は、空欄を埋めて初めて完成した手形になります。空欄のまま銀行の窓口に持ち込んで「払ってください」と言っても、紙としてはまだ手形になっていないので、支払の請求としての力がありません。振出人は遅れたことにならず、裏書人に遡求するための要件も満たしません。訴訟でも、空欄のまま判決の時を迎えれば請求は認められません。ただし判例は、空欄のまま訴えても時効を止める効果は認めています。
白地のままの支払呈示は効力が無く、振出人は遅滞に陥らず、後で補充しても遡って有効になりません
白地手形は、手形要件の記載が補充されて初めて完全な手形になり、補充があるまでは未完成の手形にすぎないので、それによって手形上の権利を行使することはできないと判例はしています(最判昭和41年6月16日)。したがって、受取人白地のまま満期日に振出人に手形金を請求しても、適法な支払呈示が無いので振出人は履行遅滞に陥りません。「CがAに対し満期日に受取人白地のまま手形金を請求したときは,Aは,履行遅滞に陥らない」という肢は正しいです。裏書人に遡求するには支払呈示期間内の適法な呈示が要りますが、判例は、白地手形を満期に支払のため呈示しても裏書人に対する権利行使の条件は備わらず、後日白地を補充しても呈示が遡って有効になるものではないとしています(最判昭和41年10月13日)。この事案は振出日が白地の確定日払手形で、振出日は権利の内容の確定に要らないという主張を、手形法75条・76条は確定日払かどうかで扱いを分けていないとして退けました。「白地手形について、その支払呈示期間内に手形要件を補充しないまま支払のための呈示がされた場合であっても、後日手形要件が補充されたときは、当該呈示は、遡って支払のための呈示としての効力を有する」という肢は誤りで、「支払呈示期間内に,振出日が白地である確定日払の手形を,白地を補充しないで支払のため呈示し,支払を拒絶された場合には,支払呈示期間経過後に白地を補充したとしても,遡求をすることができない」という肢は正しいです。
白地のまま訴えても請求は認容されませんが、事実審の口頭弁論終結時までに補充すれば足り、訴え提起の時に時効の完成猶予の効力が生じます
白地を補充しないまま手形金請求の訴えを提起した場合、口頭弁論終結時までに補充されなければ請求は棄却されます。手形訴訟で、別紙手形目録の振出日欄が空欄のままなら、手形要件を欠く未完成の手形による請求なので認容されません。「別紙手形目録の記載上,振出日欄が空欄であるときは,Xの手形金請求は認容されない」という肢は正しいです。他方で、事実審の口頭弁論終結時までに補充すれば、その手形による請求は認容されます。判例は、受取人欄が白地の約束手形の所持人が満期から3年以内に白地のまま振出人に手形金請求の訴えを提起し、その後に補充したときは、補充の時が満期から3年を経過した後であっても、手形上の権利の時効は訴え提起の時に中断されたものと解すべきで、この理は振出日が白地の約束手形でも変わらないとしています(最大判昭和41年11月2日、最大判昭和45年11月11日)。満期の記載がある白地手形は未補充のままでも満期から時効が進むので、それとの均衡上、所持人が未完成のまま時効を止める措置を執れるべきだからです。出題当時の「中断」は、現在の民法では裁判上の請求による「完成猶予」(民法147条1項1号)に当たりますが、結論は同じです。したがって、「Bが当該訴えの事実審口頭弁論終結時までに白地の補充をした場合において,その補充の時が満期日から3年を経過した後であったときは,Aは,その手形上の権利の消滅時効を援用することができる」という肢は誤りで、「受取人白地の手形による手形金請求の訴えを提起した場合でも,同訴訟の提起時に,手形債権について消滅時効の中断の効力が生ずる」という肢は正しいです。
白地手形を失って除権決定を得ても、手形の外で補充の意思表示をして請求することはできません
白地手形を紛失した所持人が公示催告を経て除権決定を得ても、除権決定によって白地手形そのものが復活するわけではありません。判例は、喪失した白地手形について除権判決を得た所持人が手形の外で白地を補充する旨の意思表示をしても、白地補充の効力は生じないとし、手形債務者に対して同じ内容の手形の再発行を請求する権利も無いとしています(最判昭和51年4月8日)。補充は手形の紙面に記載してするものであって、紙が無い以上補充のしようが無いからです。「当該手形について除権決定があったときは,Bは,Aに対し,手形外で白地を補充する旨の意思表示をすることにより手形金を請求することができる」という肢は誤りです。白地手形を失った所持人は、除権決定を得る前に補充しておくか、原因関係上の債権で回収することになります。
未補充の白地手形でできること・できないこと
- 支払呈示: 効力なし。振出人は遅滞に陥らず、遡求権も保全されない。後の補充で遡っては有効にならない(最判昭和41年10月13日)
- 訴え提起: 口頭弁論終結時までに補充しなければ請求棄却。終結時までに補充すれば認容
- 時効: 白地のままの訴え提起にも訴え提起の時に完成猶予(出題時は中断)の効力(最大判昭和41年11月2日・最大判昭和45年11月11日)
- 除権決定: 手形外の補充の意思表示は無効。再発行請求権も無い(最判昭和51年4月8日)
手形法76条1項
前条ニ掲グル事項ノ何レカヲ欠ク証券ハ約束手形タル効力ヲ有セズ但シ次ノ数項ニ規定スル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
論文ではこう使う
論文では、白地のまま手形金請求の訴えを提起した所持人が勝てるかを問われたときに使います。「白地手形は補充があるまで未完成の手形であり、これによる権利行使はできないから、白地のままの支払呈示には呈示としての効力が無く、訴えも白地のままでは認容されない。もっとも、事実審の口頭弁論終結時までに補充すれば足り、判例は、白地のままの訴え提起にも訴え提起の時に時効の完成猶予の効力を認める」と整理し、問題文の時系列(満期・訴え提起・補充・口頭弁論終結の順)に当てはめます。裏書人への遡求が問題なら、呈示期間内の呈示が白地のままだった時点で遡求権が保全されていないことを別に指摘します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。