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手形理論(創造説・契約説と交付欠缺・意思表示の瑕疵)とは

てがたりろん

商法 手形行為と振出し

手形理論とは、手形債務がいつ、どのような行為によって発生するかの説明の仕方のことで、手形の作成・署名で発生するとする創造説と、相手方への交付で発生するとする交付契約説・発行説が対立し、交付前に手形が盗まれた場合(交付欠缺)の取得者の保護の仕方に違いが表れます。

手形は、振出人がサインした紙を受取人に手渡して初めて世に出ます。では振出人の「手形金を払う義務」は、サインをした瞬間に生まれるのか、それとも相手に手渡した瞬間に生まれるのかが問題になります。差が出るのは、サインした手形が金庫から盗まれて流通してしまったときです。義務はサインで生まれると考えれば、盗まれた手形にも権利が乗っているので、事情を知らずに取得した人は善意取得で守れます。手渡しで生まれると考えれば、盗まれた手形には権利がまだ無いので、取得者を守るには権利外観理論が要ります。

教室の場面。先生が教壇に立ち、黒板を左右に割った板書。左「創造説」の下に、手形にサインする手の絵と「署名 → 手形債務が発生(署名者自身が権利者)」「交付 → 権利の譲渡」。右「交付契約説・発行説」の下に、手形を手渡す二人の手の絵と「交付

創造説は署名で手形債務が生まれると考え、交付契約説・発行説は交付で生まれると考えます

約束手形の振出人の手形債務がいつ生ずるかについて、見解が分かれています。創造説(二段階創造説)は、手形の作成と署名という振出人の一方的な行為で手形債務が発生し、その時点では署名者自身を権利者とする手形上の権利が成立していて、その権利が手形の交付によって相手方に譲渡されると説明します。交付契約説は、振出人が手形を相手方に交付し、相手方がこれを受け取ることで、両者の間に手形債務を負担する契約が成立して債務が発生すると説明します。発行説は、手形という書面を通じて意思表示がされ、手形を相手方に交付(授受)することで意思表示が相手方に到達して債務が発生すると説明し、契約ではなく相手方のある単独行為と見ます。さらに、特定の相手方への交付が無くても、振出人が自分の意思で手形の占有を手放せば債務が発生するとする見解(権利外観理論を取り込んだ修正発行説)もあります。「署名によって署名者自身を権利者とする手形上の権利が成立し,その権利が手形の交付によって相手方に譲渡される」という説明は創造説のもので、「手形の授受により,意思表示が相手方に到達する」という説明は発行説のもの、「占有を手放すまでは,署名者は自由に手形債務の内容を変更し,又は消滅させることができるから,手形を相手方に交付して初めて債務を負担する」という根拠は交付を要する見解のものです。「相手方の承諾を必要と考えるのは擬制的である」という批判は、受取人の承諾を要する交付契約説に向けられるもので、創造説への批判ではありません。

手形債務の発生時期についての見解

  • 創造説(二段階創造説): 手形の作成・署名で債務が発生し、署名者を権利者とする権利が成立する。交付は権利の譲渡
  • 発行説: 手形の作成に加えて相手方への交付(授受)で意思表示が到達し、相手方のある単独行為として債務が発生する
  • 交付契約説: 交付と相手方の受領(承諾)で手形債務負担の契約が成立して債務が発生する。承諾を要する点が擬制的だと批判される
  • 修正発行説: 特定の相手方への交付が無くても、意思に基づいて占有を手放せば債務が発生する(郵送した場合など)
  • どの見解も、脅されて抗拒できない状態で作成・交付した手形の債務は認めない

交付前に盗まれた手形の取得者は、創造説では善意取得で守られ、交付を要する見解では権利外観理論で守られます

見解の違いが結論に表れるのは、振出人が署名した後、相手方に交付する前に手形が盗まれたり、寄託先が勝手に流通させたりした場面(交付欠缺)です。創造説では、署名の時点で手形債務と手形上の権利が成立しているので、盗取者は有効に存在する権利について無権利者であるにすぎず、盗取者から善意・無重過失で手形を取得した者は善意取得(手形法16条2項)によって権利を取得します。「交付する前の手形が振出人の下で保管されていた間に盗取されたときは,当該手形を盗取した者から,善意でかつ重大な過失がなく当該手形を取得した者は,善意取得によって保護される」という説明は、創造説の帰結です。これに対し、交付契約説や発行説では、交付が無い以上まだ手形債務が発生しておらず、どこにも成立していない権利を善意取得することはできないので、原則として取得者は保護されず、振出人が外観を作り出した帰責性と取得者の信頼を根拠にする権利外観理論で例外的に保護を図ります。したがって、「甲が乙に対して交付するつもりで手形要件を満たした証券を作成し,保管していたところ,丙に盗取された場合,A見解又はB見解のいずれによったとしても,丙から善意で手形の譲渡を受けた丁が善意取得をすることはない」という記述は、交付を要する見解(契約説と交付による単独行為説)からの帰結として正しいです。寄託先が勝手に裏書して流通させた事案では、意思に基づいて占有を手放せば足りるとする見解によれば、寄託の時点で手形行為が成立して裏書で権利が移転し、原因関係の抗弁は人的抗弁の切断(17条)で切られますが、作成だけで債務が成立するとする見解によれば、交付が無いので第三者は権利を承継取得せず、善意取得(16条2項)で保護されることになります。「C見解又はD見解のいずれによったとしても,丙は,手形法第17条に規定する人的抗弁の切断によって保護が図られる」という記述は、作成だけで成立するとする見解の帰結を取り違えています。郵送中の事故で受取人に届かなかった事案では、交付契約説と交付を要する単独行為説では債務が発生せず、意思に基づいて占有を手放せば足りる見解と作成で成立する見解では債務が発生します。「A見解からC見解までのいずれによったとしても,甲は手形金支払債務を負わない」という記述は、占有を手放せば足りる見解の帰結を誤っています。

会社の事務室の場面。先生が振出人役(札「振出人」)で、開いたままの金庫の前に立ち、金庫の中に「約束手形 署名済み・未交付」と書かれた手形の束。窓から逃げる男性(札「盗取者」)が手形を1枚持ち、その先で別の男性(札「善意の取得者」)が手形を受

受取人が未成年者であるときは、交付契約説でだけ振出人の債務の成否が変わります

手形行為も法律行為であり、意思表示として有効に成立していることが必要です。受取人が未成年者であった場合、交付契約説では、受取人の承諾の意思表示も契約の成立要件なので、法定代理人の同意の無い承諾は取り消すことができ(民法5条1項・2項、120条1項)、取り消されれば振出人は手形債務を負いません。手形の振出しを受ける行為に、単に権利を得る行為として民法5条1項ただし書を適用する余地は無いと解されています。これに対し、意思に基づいて占有を手放せば足りる見解や創造説では、受取人の承諾は要件ではないので、受取人が未成年者でも振出人は手形債務を負います。「甲が乙に対して約束手形を振り出した際に乙が未成年者であった場合,A見解とC見解のいずれによったとしても,甲が乙に対して手形金支払債務を負うかどうかの結論は,異ならない」という記述は、契約説と単独行為説で結論が分かれる点を見落としています。他方で、どの見解でも、意思表示そのものが無い場合には手形債務は成立しません。「甲が乙から脅され,その意思に基づかずに,手形要件を満たした証券を作成し,これを手渡した場合,A見解からD見解までのいずれによったとしても,甲が手形金支払債務を負うことはない」という記述は、見解を問わない帰結として正しいです。

強迫を理由とする振出しの取消しは人的抗弁であり、善意の裏書譲受人には対抗できません

振出人が受取人の強迫を理由に振出しの意思表示を取り消した場合、その取消しは、取り消した事情を知らずに手形を裏書で譲り受けた第三者には対抗できません。判例は、強迫を理由に約束手形の振出しの意思表示を取り消した場合、手形行為の成立に意思の瑕疵があるにとどまるときは人的抗弁になるとしています(最判昭和26年10月19日)。人的抗弁は、所持人が債務者を害することを知って手形を取得したときでなければ対抗できないので(手形法17条、77条1項1号)、「AがBの強迫を理由に当該約束手形の振出しに係る意思表示を取り消した場合において、Bがそのことにつき善意のCに対して当該約束手形を裏書譲渡したときは、Aは、Cからの当該約束手形に係る手形金請求を拒むことができる」という肢は誤りです。民法96条3項が詐欺の取消しについてだけ善意の第三者を保護しているのと違い、手形では強迫の取消しも流通した後の善意の所持人には主張できないことになります。意思表示が存在しない場合(抗拒できない状態で作成させられた場合)との違いに注意してください。

手形法17条

為替手形ニ依リ請求ヲ受ケタル者ハ振出人其ノ他所持人ノ前者ニ対スル人的関係ニ基ク抗弁ヲ以テ所持人ニ対抗スルコトヲ得ズ但シ所持人ガ其ノ債務者ヲ害スルコトヲ知リテ手形ヲ取得シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ

手形法16条2項

事由ノ何タルヲ問ハズ為替手形ノ占有ヲ失ヒタル者アル場合ニ於テ所持人ガ前項ノ規定ニ依リ其ノ権利ヲ証明スルトキハ手形ヲ返還スル義務ヲ負フコトナシ但シ所持人ガ悪意又ハ重大ナル過失ニ因リ之ヲ取得シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ

論文ではこう使う

論文では、振出人が署名した手形が交付前に盗まれ、第三者が取得した事案で使います。まず「手形債務は、振出人が手形を作成・署名し、これを相手方に交付することによって発生すると解する(交付契約説)。本件では交付が無いから、原則として振出人は手形債務を負わない」と立てます。次に「もっとも、手形の流通保護の要請から、振出人が手形債務を負担するかのような外観を作出し、その外観の作出につき帰責性があり、第三者がその外観を信頼して取得したときは、権利外観理論により振出人は善意・無重過失の取得者に対して手形上の責任を負う」と規範を示し、署名済みの手形を保管していた管理の状況から帰責性を、取得の経緯から第三者の善意・無重過失をあてはめます。創造説に立つなら、署名で権利が成立しているので善意取得(手形法16条2項)の要件を検討する構成になります。

試験ではこう問われる

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読んだあとに、商法の肢別演習を

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