売主の供託・競売権と買主の保管義務(商人間の売買)とは
うりぬしのきょうたくけいばいけんとかいぬしのほかんぎむ
売主の供託・競売権とは、商人間の売買で買主が目的物の受領を拒み又は受領できないときに、売主が目的物を供託し、又は相当の期間を定めて催告した後に裁判所の許可なく競売に付すことができる権利のことです(商法524条)。買主の保管義務とは、契約を解除した買主も、売主と営業所が同一の市町村に無いときは売主の費用で目的物を保管又は供託しなければならない義務のことです(商法527条)。
商品を納めに行ったのに買主が受け取ってくれなければ、売主は商品を抱えたまま保管料と値下がりの危険を負うことになります。商人間の売買では、売主は供託するか、相当の期間を定めて催告したうえで競売にかけて代金に充てることができ、裁判所の許可は要りません。逆に、買主が不良品を理由に解除したときも、遠くの売主にすぐ送り返す必要はなく、売主の費用で手元に保管しておけばよいことになっています。どちらも、商品が無駄に行き来して傷むのを避けるための決まりです。
買主が受領を拒んだとき、売主は目的物を供託するか、相当の期間を定めて催告した後に競売に付すことができ、裁判所の許可は要りません
商法524条1項前段は、商人間の売買において、買主がその目的物の受領を拒み、又は受領することができないときは、売主はその物を供託し、又は相当の期間を定めて催告をした後に競売に付することができると定めます。民法の自助売却(民法497条)が裁判所の許可を要するのと違い、商法では許可は要りません。「売主がその物を競売に付するためには,裁判所の許可を得なければならない」という肢は誤りです。催告そのものは原則として必要で、催告なしに直ちに競売できるのは、損傷その他の事由による価格の低落のおそれがある物に限られます(524条2項)。「買主がその目的物の受領を拒んだときは、売主は、相当の期間を定めて催告をすることなく、直ちにその物を競売に付すことができる」という肢は誤りです。競売したときは代価を供託しなければなりませんが、その全部又は一部を代金に充当することもできます(524条3項)。受領拒絶があっても売買契約が当然に解除されるわけではなく、「買主が売買の目的物の受領を拒んだ場合には,売買契約は,直ちに解除されたものとみなされる」という肢は誤りです。
供託・競売をした売主は遅滞なく買主に通知しなければなりませんが、通知を怠っても競売は無効になりません
524条1項後段は、売主が目的物を供託し又は競売に付したときは、遅滞なく買主に対してその旨の通知を発しなければならないと定めます。買主に事後の対応の機会を与えるための義務で、競売の成立要件ではありません。判例は、この通知が競売成立の要件でないことは、条文が競売をした後に遅滞なく通知を発することを命じていることから明らかであるとしています(大判大正10年6月10日)。通知を怠った売主は買主に生じた損害を賠償する責任を負うにとどまります。「売主は,遅滞なく,買主に対してその旨の通知を発しなければならず,これを怠ったときは,その競売は,無効となる」という肢と、「売主が買主に対してその旨の通知を遅滞なく発しなかったときは,当該競売は無効となる」という肢はいずれも誤りです。
契約を解除した買主も、売主と営業所が異なる市町村にあるときは、売主の費用で目的物を保管・供託しなければならず、送り返す必要はありません
商法527条1項本文は、526条1項に規定する場合、すなわち商人間の売買において、買主は契約の解除をしたときであっても、売主の費用をもって売買の目的物を保管し、又は供託しなければならないと定めます。目的物に滅失又は損傷のおそれがあるときは、裁判所の許可を得て競売に付し、その代価を保管又は供託します(同項ただし書)。解除のたびに遠くの売主に送り返させると運送費と危険が増えるので、買主の手元で保管させる方が合理的だからです。この義務は、売主と買主の営業所(営業所が無い場合は住所)が同一の市町村の区域内にある場合には適用されません(527条4項)。したがって、営業所が異なる市町村にあるときは、買主は保管・供託の義務を負いますが、送り返す義務はありません。「売買契約の売主及び買主の営業所が異なる市町村内にある場合には,買主が売買の目的物に瑕疵があることを理由にその売買契約を解除したときであっても,買主は,その目的物を売主に送り返すことを要しない」という肢は正しく、「売主及び買主の営業所が異なる市町村内にあるときであっても,買主は,直ちにその目的物を売主に送り返さなければならない」という肢は誤りです。買主が競売に付したときは遅滞なく売主に通知します(527条3項)。この保管・供託の規律は、引き渡された物品が注文と異なる場合と、数量が注文を超過した場合の超過部分にも準用されます(528条)。
供託・競売権と保管義務(商法524条・527条・528条)
- 524条1項 売主の供託・競売: 買主の受領拒絶・受領不能 → 供託 or 相当の期間を定めて催告した後に競売。裁判所の許可は不要。供託・競売後は遅滞なく買主に通知
- 524条2項: 価格の低落のおそれがある物は催告なしに競売できる
- 524条3項: 競売代価は供託。代金への充当も可
- 通知を怠っても競売は有効(大判大10.6.10)。受領拒絶で契約が当然に解除されることは無い
- 527条 買主の保管・供託: 解除しても売主の費用で保管・供託。滅失・損傷のおそれがあれば裁判所の許可を得て競売。営業所が同一市町村なら適用なし(4項)。送り返す義務は無い
- 528条: 注文と異なる物品・数量超過分に527条を準用
商法524条1項・2項
商人間の売買において、買主がその目的物の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、売主は、その物を供託し、又は相当の期間を定めて催告をした後に競売に付することができる。この場合において、売主がその物を供託し、又は競売に付したときは、遅滞なく、買主に対してその旨の通知を発しなければならない。2 損傷その他の事由による価格の低落のおそれがある物は、前項の催告をしないで競売に付することができる。
商法527条1項
前条第一項に規定する場合においては、買主は、契約の解除をしたときであっても、売主の費用をもって売買の目的物を保管し、又は供託しなければならない。ただし、その物について滅失又は損傷のおそれがあるときは、裁判所の許可を得てその物を競売に付し、かつ、その代価を保管し、又は供託しなければならない。
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