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用語集 / 商法 / 運送人の損害賠償責任

運送人の損害賠償責任(賠償額の定型化・高価品の特則・責任の消滅・旅客運送)とは

うんそうにんのそんがいばいしょうせきにん

商法 商行為

運送人の損害賠償責任とは、運送人が運送品の受取から引渡しまでの間の滅失・損傷・延着について負う責任のことで、滅失・損傷の賠償額は引渡しがされるべき地及び時の市場価格で定まり(商法576条)、高価品は種類と価額の通知が無ければ責任を負わず(商法577条)、引渡しから1年以内に裁判上の請求が無いと消滅します(商法585条)。旅客から引渡しを受けた手荷物についても無償で物品運送人と同じ責任を負います(商法592条)。

宅配便で送った荷物が途中でなくなったとき、運送会社がいくら払うかは、ふつうの損害賠償のように個別に計算するのではなく、届くはずだった場所と時の市場価格で機械的に決まります。たくさんの荷物を安い運賃で運ぶ運送人の責任を予測できる範囲にとどめるためです。宝石や現金のような高価品は、送るときに種類と価額を知らせていなければ、運送人は原則として責任を負いません。責任は荷受人が黙って受け取ると消え、引渡しから1年以内に裁判上の請求が無いと消滅します。

運送会社の営業所の窓口の場面。先生が運送会社の係員役(札「運送人」)で窓口に座り、机の上に荷物の伝票「到達地の市場価格で賠償」。向かいに男性の荷主(札「荷送人」)が「荷物がなくなった」と書いた紙を持つ。壁の板書「運送人の責任(商法575条・

運送品の滅失・損傷の賠償額は引渡しがされるべき地・時の市場価格で定まり、運送人に故意・重過失があるときは定額化されず、延着は民法の一般規定によります

運送人は、運送品の受取から引渡しまでの間に運送品が滅失・損傷し、又は延着したときは、受取・運送・保管・引渡しについて注意を怠らなかったことを証明しなければ損害賠償責任を負います(575条)。滅失又は損傷の場合の損害賠償の額は、その引渡しがされるべき地及び時における運送品の市場価格(取引所の相場がある物品はその相場)によって定まります(576条1項)。「運送人の過失(重大な過失を除く。)によって運送品の全部が滅失した場合には,運送契約の債務不履行による損害賠償の額は,運送品の引渡しがあるべき日における到達地での運送品の価格によって定まる」という肢は正しいです。送り状に価額が記載されていても、それが賠償額の限度になる規定は無く、「送り状に当該運送品の価額が記載されていたときは,…その価額を限度とする」という肢は誤りです。滅失・損傷のために支払を要しなくなった運送賃などは賠償額から控除され(576条2項)、運送人の故意又は重大な過失によって滅失・損傷が生じたときはこの定額化は適用されません(576条3項)。延着については576条に定めが無いので、賠償額は債務不履行に関する民法の規定(民法416条)によります。「運送人がその延着について賠償の責任を負う額は,債務不履行責任に関する民法の規定により定められる」という肢は正しいです。判例は、576条の趣旨は運送人の責任を一定限度にとどめて賠償額を画一化する点にあるとしつつ、荷送人又は荷受人に損害が全く生じなかった場合には運送人は損害賠償責任を負わないとしました(最判昭和53年4月20日)。「荷送人又は荷受人に損害が全く生じなかったとしても,…賠償責任を負う」という肢は誤りです。

高価品は荷送人が種類と価額を通知しなければ運送人は一切責任を負わず、運送人が知っていたとき・故意重過失のときは例外です

577条1項は、貨幣、有価証券その他の高価品については、荷送人が運送を委託するに当たりその種類及び価額を通知した場合を除き、運送人はその滅失、損傷又は延着について損害賠償の責任を負わないと定めます。通知を受ければ運送人は割増運賃や特別の保管で備えられるので、通知しなかった荷送人に不利益を負わせる趣旨です。効果は全部免責で、高価品でなかったとした場合の損害額を上限に賠償するのではありません。「高価品の種類及び価額の明告がされなかった場合には,…運送品が高価品でなかったとしたときに生ずるであろう損害の額が上限となる」という肢は誤りです。平成30年改正で例外が明文化され、物品運送契約の締結の当時に運送品が高価品であることを運送人が知っていたとき、又は運送人の故意若しくは重大な過失によって滅失等が生じたときは免責されません(577条2項)。「荷送人が運送を委託するに当たりその種類及び価額を通知しなかったときは,運送人は,物品運送契約の締結の当時,当該運送品が高価品であることを知っていたとき又は運送人の故意若しくは重大な過失によってその滅失若しくは損傷が生じたときを除き,その滅失又は損傷について損害賠償の責任を負わない」という肢は正しいです。高価品とは容積又は重量の割に著しく高価な物品をいい、判例は、容積重量とも相当巨大で高価であることが一見明瞭な研磨機は高価品に当たらないとしました(最判昭和45年4月21日)。「当該高価品が,容積重量とも相当巨大であって,高価であることが一見明瞭な品種である場合には,その滅失につき運送人に対し損害賠償を請求することができる」という肢は正しいです。出題当時の「明告」は現行法では「通知」です。

同じ運送会社の窓口で、男性の荷主(札「荷送人 種類・価額を通知していない」)が小さな箱(札「中身は宝石」)を差し出す場面。先生が係員役(札「運送人」)で伝票の「高価品の通知欄」が空欄のまま。壁の板書「高価品の特則(商法577条) 種類と価額

荷受人が異議をとどめずに受け取ると直ちに発見できる損傷・一部滅失の責任は消滅し、引渡しから1年以内に裁判上の請求が無いと責任は消滅します

584条1項は、運送品の損傷又は一部滅失についての運送人の責任は、荷受人が異議をとどめないで運送品を受け取ったときは消滅すると定め、直ちに発見できない損傷・一部滅失については荷受人が引渡しの日から2週間以内に通知を発したときは消滅しません。引渡しの当時に運送人がその損傷・一部滅失を知っていたときは適用されません(584条2項)。「運送人がその損傷又は一部滅失について負う損害賠償責任は,荷受人が異議をとどめないで当該運送品を受け取ったときは,当該運送品の引渡しの当時,当該運送人が当該運送品にその損傷又は一部滅失があることを知っていたときを除き,消滅する」という肢は正しいです。責任の期間制限について、出題当時の旧589条が準用する旧566条は、運送人の責任は荷受人が運送品を受け取った日から1年で時効消滅し、運送人に悪意があるときは適用しないと定めていました。「運送契約の債務不履行に基づく運送人の損害賠償責任の消滅時効期間は,運送人に悪意があるときを除き,1年である」という肢は、出題当時は正しい肢でした。平成30年改正後の585条1項は、運送品の滅失等についての運送人の責任は、運送品の引渡しがされた日(全部滅失の場合は引渡しがされるべき日)から1年以内に裁判上の請求がされないときは消滅すると定め、消滅時効ではなく除斥期間とし、運送人の悪意による例外も設けていません。現行法ではこの肢は維持できません。この期間は損害が発生した後に限り合意で延長できます(585条2項)。

湖の遊覧船にも運送営業の規定が適用され、旅客から引渡しを受けた手荷物は無償でも物品運送人と同じ責任を負います

平成30年改正で運送の区分は陸上運送・海上運送・航空運送に整理され、海上運送には専ら湖川・港湾など海以外の水域で航行する非航海船による運送も含まれます(569条)。したがって湖上を航行する遊覧船の事業者も運送人で、運送営業の規定が適用されます。「湖上を航行する遊覧船の事業者が顧客と締結する契約には,…運送営業に関する規定は,適用されない」という肢は誤りです。旅客運送では、運送人は旅客が運送のために受けた損害について、注意を怠らなかったことを証明しなければ責任を負い(590条)、旅客の生命・身体の侵害による責任を免除・軽減する特約は原則として無効です(591条)。旅客から引渡しを受けた手荷物については、運送賃を請求しないときであっても物品運送契約における運送人と同一の責任を負います(592条1項)。従業員の過失で手荷物が損傷すれば、従業員の選任監督に注意を払っていても責任を免れません。判例も、運送人は使用した者に過失が無かったことを立証しない限り、その選任監督について注意を怠らなかったことを証明しても責任を免れないとしています(大判昭和5年9月13日)。「当該従業員に対する監督を怠っていなければ,損害賠償の責任を負わない」という肢は誤りです。引渡しを受けていない手荷物(身の回り品を含む)については、運送人に故意又は過失がある場合に限って責任を負います(593条1項)。

運送人の責任(商法575条〜585条・592条)

  • 575条: 受取から引渡しまでの滅失・損傷・延着。注意を怠らなかったことの証明で免責
  • 576条: 滅失・損傷の賠償額は引渡しがされるべき地・時の市場価格(定額化)。運送賃等は控除。故意・重過失があれば適用なし。延着は民法416条。損害が全く無ければ責任なし(最判昭53.4.20)
  • 577条: 高価品は種類・価額の通知が無ければ全部免責。例外は運送人が高価品と知っていたとき・故意重過失(2項)。一見明瞭に高価な巨大物は高価品でない(最判昭45.4.21)
  • 584条: 異議をとどめない受取で損傷・一部滅失の責任消滅。直ちに発見できないものは2週間以内の通知。運送人が知っていたときは適用なし
  • 585条: 引渡し(全部滅失は引渡しがされるべき日)から1年以内に裁判上の請求が無いと消滅。悪意の例外なし。損害発生後は合意で延長可
  • 592条・593条: 引渡しを受けた手荷物は無償でも物品運送人と同一の責任。引渡しを受けていない手荷物は故意・過失がある場合だけ

商法577条

貨幣、有価証券その他の高価品については、荷送人が運送を委託するに当たりその種類及び価額を通知した場合を除き、運送人は、その滅失、損傷又は延着について損害賠償の責任を負わない。2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。一 物品運送契約の締結の当時、運送品が高価品であることを運送人が知っていたとき。二 運送人の故意又は重大な過失によって高価品の滅失、損傷又は延着が生じたとき。

商法585条1項

運送品の滅失等についての運送人の責任は、運送品の引渡しがされた日(運送品の全部滅失の場合にあっては、その引渡しがされるべき日)から一年以内に裁判上の請求がされないときは、消滅する。

論文ではこう使う

運送中の事故で荷主が運送人に請求できる額を論じるときは、575条の責任が成立することを確認したうえで、576条1項により引渡しがされるべき地・時の市場価格で賠償額が定まること、運送人に故意・重過失があれば同条3項で定額化が外れ民法416条によることを順に書きます。高価品の通知が無い事案では、577条1項の全部免責を原則とし、運送人が高価品であることを知っていたか、故意・重過失があるかを2項で検討します。荷主が不法行為構成をとる事案では、587条が576条・577条・584条・585条を不法行為責任にも準用することを示し、免責や期間制限を回避できないと論じます。

試験ではこう問われる

「運送人の損害賠償責任」が短答式でどう出題されてきたか、ひっかけの型8件と関係する過去問の肢11本は、無料のアカウントでログインすると読めます。

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