商人間の契約の申込みと諾否通知義務(物品保管義務を含む)とは
しょうにんかんのけいやくのもうしこみとだくひつうちぎむ
諾否通知義務とは、商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときに、遅滞なく諾否の通知を発しなければならない義務のことで、これを怠った商人は申込みを承諾したものとみなされます(商法509条)。商人が営業の部類に属する申込みとともに物品を受け取ったときは、申込みを拒絶しても申込者の費用でその物品を保管しなければなりません(商法510条)。
毎月取引している問屋から「いつもの商品を100個お願いします」と注文書が届いたのに、店主が返事をしないまま放っておいたとします。民法なら黙っていても契約は成立しませんが、商法は、平常取引をしている相手からの注文に商人が遅滞なく諾否を知らせなければ承諾したものとみなします。相手は当然に承諾されると思って準備を進めているからです。注文と一緒に見本や商品が送られてきたときは、断る場合でも相手の費用で預かっておかなければなりません。
商人である隔地者の間で承諾の期間を定めない申込みを受けた者が相当の期間内に承諾の通知を発しなければ、申込みは効力を失います
民法では、承諾の期間を定めないで隔地者にした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまで撤回できないにとどまり(民法525条1項)、相当な期間が過ぎても申込み自体が当然に失効するわけではありません。商法508条1項は、商人である隔地者の間において承諾の期間を定めないで契約の申込みを受けた者が相当の期間内に承諾の通知を発しなかったときは、その申込みは効力を失うと定め、申込者を早く拘束から解放します。この規律は申込者と相手方の双方が商人であることを要します。「商人である隔地者の間において承諾の期間を定めないで契約の申込みを受けた者が相当の期間内に承諾の通知を発しなかったときは,その申込みは,効力を失う」という肢と、「商人である隔地者の間において,承諾の期間を定めない契約の申込みを受けた者が相当の期間内に承諾の通知を発しなかったときは,その申込みは効力を失う」という肢はいずれも正しいです。対話者間の申込みについては、出題当時の商法507条が、商人である対話者の間で申込みを受けた者が直ちに承諾をしなかったときは申込みは効力を失うと定めていました。「商人である対話者の間において契約の申込みを受けた者が直ちに承諾をしなかったときは,その申込みは,その効力を失う」という肢は、出題当時は正しい肢でしたが、平成29年民法改正に伴い商法507条は削除され、現在は民法525条3項が、対話者に対してした申込みは対話が継続している間に承諾の通知を受けなかったときは効力を失うと定めています。現行法では商人かどうかを問わず民法の規律によるので、対話者間の申込みの失効が商人間に限って適用される規律であるという当時の整理は維持できません。
平常取引をする者からの申込みに遅滞なく諾否の通知を発しなかった商人は、承諾したものとみなされます
商法509条1項は、商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならないと定め、2項は、この通知を発することを怠った商人は申込みを承諾したものとみなすと定めます。民法では沈黙は承諾になりませんが、継続的に取引している相手は当然に承諾されると期待して履行の準備を進めるのが通常なので、商人に迅速な返事を義務づけ、返事をしなければ承諾の方向に扱うのです。要件は、申込みを受けた者が商人であること、申込者が平常取引をする者であること、営業の部類に属する契約の申込みであることの3つで、初めての相手からの申込みや営業の部類に属しない申込みには適用されません。効果は承諾の擬制であって拒絶の擬制ではありません。「商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けた場合において,遅滞なく諾否の通知を発することを怠ったときは,その商人は,その契約の申込みを承諾したものとみなされる」という肢、「商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは,遅滞なく,契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならず,これを怠ったときは,その商人は,当該契約の申込みを承諾したものとみなされる」という肢、「商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けた場合において、当該契約の申込みに対する諾否の通知を遅滞なく発することを怠ったときは、当該商人は、当該契約の申込みを承諾したものとみなされる」という肢はいずれも正しく、「遅滞なく,契約の申込みに対する諾否の通知を発しないときは,その申込みを拒絶したものとみなされる」という肢は誤りです。
営業の部類に属する申込みとともに受け取った物品は、申込みを拒絶しても申込者の費用で保管しなければならず、平常取引をする者からの申込みかどうかは問いません
商法510条本文は、商人がその営業の部類に属する契約の申込みを受けた場合において、その申込みとともに受け取った物品があるときは、その申込みを拒絶したときであっても、申込者の費用をもってその物品を保管しなければならないと定めます。契約が成立していないのに保管を義務づけるのは、その物品の扱いに慣れた商人に預かってもらうのが申込者の利益になり、物を先に送って取引を進める商取引の円滑に資するからです。509条と違い、申込者が平常取引をする者であることは要件ではありません。「商人がその営業の部類に属する契約の申込みを受けた場合において,その申込みとともに受け取った物品があるときは,その申込みを拒絶したときであっても,その物品を保管する必要はない」という肢は誤りで、「平常取引をする者から申込みを受けたときでなければ,その商人は,その物品を保管する義務を負わない」という肢も誤りです。ただし、物品の価額がその保管の費用を償うのに足りないとき、又は商人がその保管によって損害を受けるときは、保管義務を負いません(510条ただし書)。取引関係の無かった相手から申込みとともに目的物の引渡しを受け、契約を結ぶ意思が無い事例で、「乙社から引渡しを受けた目的物の価額にかかわらず、直ちにその目的物を廃棄することができる」という肢は、価額が保管費用を償うかどうかで結論が変わるので誤りです。
申込みに関する商法の特則(508条〜510条)
- 508条1項: 商人である隔地者間・承諾期間の定め無し → 相当の期間内に承諾の通知を発しなければ申込みは失効(双方が商人)
- 旧507条(削除): 商人である対話者間の申込みは直ちに承諾されなければ失効 → 現在は民法525条3項(商人に限らない)
- 509条: 商人が平常取引をする者から営業の部類に属する申込み → 遅滞なく諾否の通知。怠れば承諾とみなす(拒絶ではない)
- 510条: 営業の部類に属する申込みとともに受け取った物品 → 拒絶しても申込者の費用で保管。平常取引をする者からかは問わない。価額が費用を償わないとき・保管で損害を受けるときは不要
商法509条
商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならない。2 商人が前項の通知を発することを怠ったときは、その商人は、同項の契約の申込みを承諾したものとみなす。
商法510条
商人がその営業の部類に属する契約の申込みを受けた場合において、その申込みとともに受け取った物品があるときは、その申込みを拒絶したときであっても、申込者の費用をもってその物品を保管しなければならない。ただし、その物品の価額がその費用を償うのに足りないとき、又は商人がその保管によって損害を受けるときは、この限りでない。
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