商行為の代理(顕名のない代理・本人の死亡と代理権)とは
しょうこういのだいり
商行為の代理とは、本人にとって商行為となる行為を代理人がする場合のことで、代理人が本人のためにすることを示さなくてもその行為は本人に対して効力を生じ、相手方が本人のためにすることを知らなかったときは代理人に対しても履行を請求できます(商法504条)。商行為の委任による代理権は、本人の死亡によっては消滅しません(商法506条)。
八百屋の店員が仕入先に「このみかんを20箱ください」と注文するとき、いちいち「店主の代わりに買います」とは言いません。民法では本人の名を示さない代理は代理人自身の行為と扱われますが、商売では毎回の顕名を求めると取引が止まるので、商法は本人の名を示さなくても本人に効果が生ずると決めました。そのかわり、店員個人と取引したと信じた相手方が困らないように、知らなかった相手方は代理人にも請求できることにし、判例はこの相手方にどちらと取引するかを選ばせています。
商行為の代理人が本人のためにすることを示さなくても、その行為は本人に対して効力を生じます
民法99条1項は、代理人が本人のためにすることを示してした意思表示だけが本人に効果を生ずるとし、示さなかった場合は代理人自身のためにしたものとみなします(民法100条本文)。商法504条本文はこの顕名主義の例外で、商行為の代理人が本人のためにすることを示さないでした場合であっても、その行為は本人に対して効力を生ずると定めます。商取引は反復・大量に行われ、相手方も代理人の背後に本人がいることを承知していることが多いので、形式としての顕名を省いて簡易迅速に処理させる趣旨です。ここでいう商行為の代理とは、代理の対象となる行為が本人にとって商行為である場合を指します。したがって、本人のためにすることを示さなかったからといって、本人に請求できなくなるわけではありません。「相手方において,代理人が本人のためにすることを知らなかったときは,代理人は自己のためにその行為をしたものとみなされ,相手方は,本人に対して履行の請求をすることができない」という肢は誤りです。会社の従業員が代理権を与えられて会社のためにすることを示さずに売買契約を締結した事例で、「乙社は、甲社に対し、その履行を請求することができない」という肢も、会社の事業のためにする行為は商行為(会社法5条)なので504条本文が適用され、誤りです。
相手方が本人のためにすることを知らなかったときは、代理人に対しても履行を請求できます
顕名を要しないとすると、代理人個人と取引したと信じていた相手方は、見ず知らずの本人を相手にさせられることになります。そこで504条ただし書は、相手方が、代理人が本人のためにすることを知らなかったときは、代理人に対して履行の請求をすることを妨げないと定め、善意の相手方を保護します。「商行為の代理人が本人のためにすることを示さないでこれをした場合には,相手方が,代理人が本人のためにすることを知らなかったときであっても,代理人に対して履行の請求をすることはできない」という肢は誤りです。本文で本人との法律関係が生じ、ただし書で代理人にも請求できるという二段構えなので、「本人にしか請求できない」「代理人にしか請求できない」と一方に決め付ける肢はどちらも誤りになります。
判例は、過失なく知らなかった相手方に本人との関係と代理人との関係のどちらかを選ばせ、代理人を選んだら本人は自分との関係を主張できないとします
504条ただし書の「知らなかった」の意味と、本人と代理人の両方に請求できるのかについて、判例は、ただし書は相手方が代理人が本人のためにすることを知らなかったとき(過失により知らなかったときを除く)に、相手方保護のため、相手方と代理人との間にも本人との間と同一の法律関係が生ずるものとし、相手方はその選択に従い、本人との法律関係を否定して代理人との法律関係を主張することができ、相手方が代理人との法律関係を主張したときは、本人はもはや相手方に対して本人と相手方の間の法律関係の存在を主張することができないとしました(最大判昭和43年4月24日)。善意でも過失があれば保護されず、保護される相手方は本人か代理人かを選べるという整理です。「商行為の代理人が本人のためにすることを示さないでこれをした場合であって、相手方が、代理人が本人のためにすることを知らず、そのことにつき過失もないときには、相手方は、本人との間の法律関係と代理人との間の法律関係のいずれかを選択することができる」という肢と、「相手方が代理人との法律関係を主張したときは,本人は,相手方に対し,本人相手方間の法律関係を主張することができない」という肢は正しいです。買主Bの代理人Cが、売主Aに対してBを代理する旨を示さずに契約した事例で、「売買契約はA・B間に成立し,A・C間に契約が成立することはない」という肢は、善意無過失のAがCとの関係を選べる以上、誤りです。これに対し、締約代理商が本人のためにすることを明示して契約した場合は民法の原則どおり本人と相手方の間に契約が成立するので、「CがAから委託を受けた締約代理商であり,その旨をBに明示して契約する場合には,売買契約はA・B間に成立する」という肢は正しいです。
商行為の委任による代理権は、本人が死亡しても消滅しません
民法では本人の死亡は代理権の消滅事由です(民法111条1項1号)。しかし商法506条は、商行為の委任による代理権は本人の死亡によっては消滅しないと定めます。営業は商人が死亡しても相続人によって続けられるのが通常で、取引のたびに代理人の権限が残っているかを確かめさせては営業が止まり、相手方も不安定になるからです。支配人の代理権も商行為の委任による代理権なので、商人が死亡しても消滅しません。「商行為の委任による代理権は,本人の死亡によっては,消滅しない」という肢と、「支配人の代理権は,当該支配人を選任した商人の死亡によっては,消滅しない」という肢は正しく、「商行為の委任による代理の場合であっても,代理権は,本人の死亡によって消滅する」という肢は誤りです。なお、商行為の受任者は、委任の本旨に反しない範囲内で委任を受けていない行為をすることができます(505条)。
商行為の代理の規律(商法504条〜506条)
- 504条本文: 本人のためにすることを示さなくても本人に効力が生ずる(民法99条・100条の例外)
- 504条ただし書: 相手方が本人のためにすることを知らなかったときは代理人にも履行を請求できる
- 判例(最大判昭43.4.24): 善意無過失の相手方は本人との関係と代理人との関係を選択でき、代理人を選んだら本人は自分との関係を主張できない。善意でも過失があれば保護されない
- 505条: 受任者は委任の本旨に反しない範囲で委任を受けていない行為もできる
- 506条: 商行為の委任による代理権は本人の死亡で消滅しない(民法111条1項1号の例外)
商法504条
商行為の代理人が本人のためにすることを示さないでこれをした場合であっても、その行為は、本人に対してその効力を生ずる。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知らなかったときは、代理人に対して履行の請求をすることを妨げない。
商法506条
商行為の委任による代理権は、本人の死亡によっては、消滅しない。
論文ではこう使う
従業員や代理人が会社名を示さずにした取引について相手方が会社に請求してきた事案では、まず会社にとってその取引が商行為であることを示して商法504条本文により会社に効果が帰属すると述べます。相手方が従業員個人と取引したと主張する事案では、504条ただし書と判例(最大判昭43.4.24)により、相手方が本人のためにすることを過失なく知らなかったときは本人との関係と代理人との関係を選択でき、代理人との関係を選んだ以上、会社は自己との法律関係を主張できないと論じます。相手方に過失があれば本人との関係しか生じないことも書き添えます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。