荷受人の権利と運送人の不法行為責任とは
にうけにんのけんりとうんそうにんのふほうこういせきにん
荷受人の権利とは、物品運送契約の当事者でない荷受人が、運送品が到達地に到着したとき又は運送品の全部が滅失したときに、運送契約によって生じた荷送人の権利と同一の権利を取得することです(商法581条)。運送人の不法行為責任とは、運送品の滅失等について運送人が荷送人・荷受人に対して負う不法行為による損害賠償責任のことで、賠償額の定型化や高価品の特則などの規定が準用されます(商法587条)。
通販で買った商品が運送中に壊れたとき、運送契約を結んだのは売主と運送会社ですが、損をするのは受け取るはずだった買主です。そこで商法は、荷物が到着したとき、または荷物が全部なくなったときに、荷受人が荷送人と同じ権利を取得すると決めました。また、運送人が荷物を壊した行為は契約違反であると同時に不法行為でもあり、判例は両方の請求を認めますが、不法行為で請求すれば運送人の免責や賠償額の定型化を免れられるとすると不公平なので、現在の商法はそれらの規定を不法行為責任にも準用しています。
荷受人は、運送品が到達地に到着したとき、又は運送品の全部が滅失したときに、荷送人と同一の権利を取得します
物品運送契約は荷送人と運送人の間の契約で、荷受人は当事者ではありません。しかし商法581条1項は、荷受人は、運送品が到達地に到着し、又は運送品の全部が滅失したときは、物品運送契約によって生じた荷送人の権利と同一の権利を取得すると定めます。到達地で運送品に利害を持つのは荷受人だからで、第三者のためにする契約のような受益の意思表示は要りません。「運送人に対して運送契約によって生ずる権利を有するのは荷送人であって,荷受人が運送契約によって生ずる権利を取得することはない」という肢は誤りです。全部滅失の場合に荷受人が権利を取得することは平成30年改正で加わった規律で、出題当時は到着した場合に限られていましたが、現行法では運送人の過失で運送品の全部が滅失したときも荷受人が損害賠償を請求できます。「運送人の過失によって運送品の全部が滅失したときは,当該運送人は,荷受人に対しても,これによって生じた損害を賠償する責任を負う」という肢と、「国内陸上運送人の被用者の過失により運送品が運送途中に全部滅失した場合には,荷受人は,当該運送人に対し,当該運送品の滅失により生じた損害の賠償を請求することができる」という肢は正しいです。荷受人が運送品の引渡し又は損害賠償の請求をしたときは、荷送人はその権利を行使できなくなります(581条2項)。荷受人は運送品を受け取ったときは運送賃等を支払う義務を負います(581条3項)。
判例は運送人の債務不履行責任と不法行為責任の競合を認め、宅配便の約款の責任限度額は荷受人に対する不法行為責任にも及ぶとします
運送人の過失で運送品が滅失した場合、運送契約の債務不履行責任と、所有権侵害による不法行為責任のどちらを追及できるかについて、判例は、契約責任と不法行為責任は要件と効果を異にする別個の請求権であって一方が他方を排斥しないとする請求権競合の立場をとり、荷送人が不法行為に基づいて損害賠償を請求することを認めています(最判昭和38年11月5日)。「荷送人は,運送人に対し,運送契約に基づく債務不履行責任のみを追及することができ,不法行為責任を追及することはできない」という肢は誤りです。もっとも、不法行為構成をとれば運送人の免責や責任の限度を免れられるとすると、運送人を保護する規律が無意味になります。判例は、宅配便の運送約款の責任限度額の定めについて、運賃を低く抑えて宅配便を運営するうえで合理的なものであるとし、荷送人に対する債務不履行責任だけでなく不法行為責任にも適用され、さらに荷受人も、少なくとも宅配便によって荷物が運送されることを容認していたなどの事情があるときは、信義則上、責任限度額を超えて運送人に損害賠償を請求できないとしました(最判平成10年4月30日)。「当該定めは,運送人の荷受人に対する債務不履行に基づく責任には適用されるが,運送人の荷受人に対する不法行為に基づく責任には適用されない」という肢は誤りです。
現行法は、賠償額の定型化・高価品の特則・責任の消滅の規定を、荷送人・荷受人に対する不法行為責任と被用者の責任にも準用します
平成30年改正は、この判例の考え方を条文にしました。587条本文は、損害賠償の額(576条)、高価品の特則(577条)、異議をとどめない受取による責任の消滅(584条)、1年の期間制限(585条)の規定を、運送品の滅失等についての運送人の荷送人又は荷受人に対する不法行為による損害賠償の責任に準用します。ただし、荷受人があらかじめ荷送人の委託による運送を拒んでいたにもかかわらず運送人が荷送人から運送を引き受けた場合の荷受人に対する責任には準用されません(587条ただし書)。運送を容認していない荷受人にまで運送人の免責を押し付けないためです。588条は、587条により運送人の責任が免除・軽減される場合には、その限度で運送人の被用者の荷送人・荷受人に対する不法行為責任も免除・軽減されると定め、被用者の故意又は重大な過失による場合は適用しません(588条2項)。運転手個人に請求して運送人の免責を潜脱することを防ぐ規定です。判例が信義則で導いた結論を、条文が荷受人の容認を要件にして定めたものと整理できます。
荷受人の権利と運送人の不法行為責任(商法581条・587条・588条)
- 581条1項: 運送品の到着 又は 全部滅失(平成30年改正で追加)→ 荷受人は荷送人と同一の権利を取得。受益の意思表示不要
- 581条2項・3項: 荷受人が引渡し・損害賠償を請求すると荷送人は権利を行使できない。荷受人は受取時に運送賃等を支払う
- 請求権競合: 債務不履行責任と不法行為責任の両方を追及できる(最判昭38.11.5)
- 宅配便の責任限度額は不法行為責任にも適用され、運送を容認していた荷受人も信義則上限度額を超えて請求できない(最判平10.4.30)
- 587条: 576条・577条・584条・585条を荷送人・荷受人に対する不法行為責任に準用。あらかじめ運送を拒んでいた荷受人には準用なし
- 588条: 運送人の責任が免除・軽減される限度で被用者の不法行為責任も免除・軽減。被用者の故意・重過失は除く
商法581条1項
荷受人は、運送品が到達地に到着し、又は運送品の全部が滅失したときは、物品運送契約によって生じた荷送人の権利と同一の権利を取得する。
商法587条
第五百七十六条、第五百七十七条、第五百八十四条及び第五百八十五条の規定は、運送品の滅失等についての運送人の荷送人又は荷受人に対する不法行為による損害賠償の責任について準用する。ただし、荷受人があらかじめ荷送人の委託による運送を拒んでいたにもかかわらず荷送人から運送を引き受けた運送人の荷受人に対する責任については、この限りでない。
論文ではこう使う
荷受人が運送人に不法行為に基づいて損害賠償を請求する事案では、まず581条1項により荷受人が契約上の権利を取得することと、判例の請求権競合の立場(最判昭38.11.5)により不法行為構成も可能であることを示します。次に、運送人が高価品の特則や約款の責任限度額で争う場合には、587条が576条・577条・584条・585条を不法行為責任に準用することを指摘し、荷受人があらかじめ運送を拒んでいた場合(587条ただし書)に当たらない限り免責や限度額が及ぶと論じます。約款の限度額については、判例(最判平10.4.30)が荷受人の容認を根拠に信義則で同じ結論を導いたことを添え、被用者個人への請求には588条が働くことも書きます。
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