無効と取消しの区別(重大明白説)とは
むこうととりけしのくべつ
無効と取消しの区別とは、瑕疵のある行政行為のうち、瑕疵が重大でかつ明白なものは初めから無効となり、それ以外は権限ある機関が取り消すまで有効なものとして通用するという区別です。無効の行政行為には公定力も不可争力もありません。
役所の処分に誤りがあっても、取消訴訟の出訴期間が過ぎれば原則として争えなくなります。しかし、他人の土地を本人の土地と間違えて課税したような、誰が見ても分かる重大な誤りまで、期間が過ぎたから有効だと言われては困ります。そこで、瑕疵が重大でかつ明白な処分は初めから無効で、いつでも誰でも効力がないことを前提にできることにしています。無効を広く認めると法律関係がいつまでも安定しないので、判例は無効を厳しく絞りますが、処分を信頼する第三者がいない課税処分では明白性を緩める判断もあります。
無効となるのは、瑕疵が重大で、かつ外観上一見して明白な場合に限られます
行政行為に瑕疵があっても、原則として取消しの対象にとどまり、権限ある機関が取り消すまでは有効なものとして通用します(公定力)。出訴期間が過ぎれば争えなくなります(不可争力)。これに対し、瑕疵が一定の程度を超えると無効となり、初めから何の効力も生じません。最判昭和30年12月26日は、行政処分はたとえ違法であっても、その違法が重大かつ明白で当該処分を当然無効ならしめるものと認めるべき場合を除いては、適法に取り消されない限り完全にその効力を有すると述べています。「農地買収計画の違法が重大かつ明白で当然無効ならしめるものと認められる場合には、権限ある機関による取消しを待たずに、その効力を有しないものと解されます」という肢は正しいです。最判昭和34年9月22日(重大明白な瑕疵)は、買収除外の指定をすべき土地を指定せずに買収した点を違法としつつ、それだけで当然に無効原因となるわけではないとし、無効原因たる重大明白な違法とは「処分要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大・明白な誤認がある」場合をいうと述べました。明白性は、処分の外形上、客観的に誤認が一見して看取できるかどうかで判断され、処分庁が調査を尽くしたかどうかという主観的事情によらないとされます(外観上一見明白説)。無効を厳しく絞るのは、出訴期間の制限を超えて法律関係をいつまでも覆せることになるからです。
課税処分では、第三者の保護が要らないため明白性を外す余地があります
最判昭和48年4月26日(課税処分と当然無効)は、当然無効を認めれば出訴期間の制限なくいつまでも争えるから慎重でなければならないとしつつ、課税処分は課税庁と被課税者との間にのみ存在し、「処分の存在を信頼する第三者の保護を考慮する必要がない」ことを指摘しました。そのうえで、他人名義の不動産について所有者でない者を納税義務者とした事案で、内容上の過誤が重大で、被課税者に不利益を甘受させることが著しく不当と認められる例外的な事情がある場合には、明白性がなくても無効としました。これが明白性補充要件説と呼ばれる考え方で、明白性を常に要求するのではなく、第三者の信頼保護の必要が薄い領域では重大性と具体的不当性で足りるとします。二つの判例を、一般論(昭和34年)と課税処分の特則(昭和48年)として整理しておきます。
無効な処分には公定力も不可争力もなく、違法性の承継も要りません
無効な処分は、公定力を持たないので、誰でもどの手続でも効力がないことを前提に行動できます。出訴期間が過ぎた後も自由に争えます。行政庁の側についても、不可争力は私人の争訟を封じるだけで、行政庁の職権取消しを妨げないので、処分庁は当然無効の場合に限らず、違法又は不当な処分を自ら取り消せます。「農地買収計画を定めた行政庁は、不服申立て期間の徒過により争訟手続によってその効力を争い得なくなった後は、当然無効と認められる場合を除き、当該農地買収計画を自ら取り消すことができない」という肢は誤りです。また、違法性の承継の議論も無効の場合には不要です。「課税処分の違法性は、滞納処分に承継されないことから、滞納処分の取消訴訟において、課税処分の違法を滞納処分の違法事由として主張することは許されないが、課税処分に重大かつ明白な違法があって無効であるとの主張をすることは許される」という肢は正しいです。先行処分が無効なら、そもそも有効な先行処分を前提とする後行処分が成り立ちません。
無効原因の主張立証責任は、無効を主張する原告が負います
最判昭和34年9月22日は、無効原因の主張としては、誤認が重大明白であることを具体的事実に基づいて主張すべきで、単に抽象的に処分に重大明白な瑕疵があると主張したり、取消原因が当然に無効原因になると主張するだけでは足りないとしました。最判昭和42年4月7日(無効確認訴訟における主張・立証責任)も、裁量処分の無効確認を求める訴訟においては、「その無効確認を求める者において」、裁量権の逸脱・濫用があり、かつその違法が重大明白であることを主張立証しなければならないとしています。無効の主張は出訴期間の制限を受けずにいつでも処分の効力を否定できる例外的な救済なので、その要件を基礎づける具体的事実は、それによって利益を受ける原告が主張立証すべきだという理屈です。したがって「処分が無効であることを主張する原告は、当該処分に重大かつ明白な瑕疵がある旨を抽象的に主張すれば足り、当該処分が有効であることを主張する被告が、当該処分が有効であることを基礎付ける具体的な事実を主張立証する必要がある」という肢は誤りです。同じ趣旨で、「被告において当該処分が適法かつ有効なものであることを具体的事実に基づき主張する必要があり、原告は、抽象的に重大かつ明白な瑕疵があると主張すれば足りる」という肢も誤りです。取消訴訟では処分の適法性は被告が主張立証するのが原則ですから、無効確認訴訟との違いとして押さえます。
無効でも執行停止はでき、第三者効と事情判決の規定は準用されません
無効等確認の訴えは抗告訴訟の一つで(行政事件訴訟法3条4項)、取消訴訟の規定のうち38条が掲げるものだけが準用されます。執行停止の規定(25条から29条)は38条3項で準用されます。処分が無効かどうかは本案の審理を経て初めて決まり、それまでは行政庁が有効な処分として執行や手続を進める危険があるからです。「無効な処分の効力につき執行停止を観念することはできないから、無効確認訴訟を提起した上で処分の効力の停止を申し立てることはできない」という肢は誤りです。出訴期間が過ぎたという事情も、処分から時間がたったことを意味するだけで、緊急の必要を一律に否定するものではありません。「取消しの訴えについて出訴期間が経過している場合、無効確認の訴えを提起した上で執行停止の申立てをすることが適法であるとしても、緊急の必要を欠くため、執行停止の決定を得ることはできない」という肢も誤りです。他方、取消判決の第三者効を定める32条1項は38条で準用されておらず、「32条1項は無効確認訴訟にも準用されるから、認容判決がされた場合、第三者に対して効力が無効である旨の主張をすることができる」という肢は誤りです。無効な処分は初めから効力がないので、第三者に無効を主張すること自体は判決の第三者効によらなくてもできますが、32条1項の準用を理由にする点が条文に反します。事情判決(31条)も準用されず、「処分が違法かつ無効であるものの、無効とすることにより公の利益に著しい障害を生ずる場合には請求を棄却することができる旨条文上規定されている」という肢も誤りです。初めから効力のない処分を判決で維持する制度は、無効確認訴訟には置かれていません。
無効確認訴訟は補充的で、現在の法律関係の訴えで目的を達せないことが必要です
行政事件訴訟法36条は、無効等確認の訴えの原告適格を、当該処分に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他法律上の利益を有する者で、「現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの」に限っています。最判平成4年9月22日(もんじゅ訴訟)は、この補充性の要件を緩やかに解し、当該処分に基づいて生ずる法律関係に関し訴えを提起でき、その訴えによって目的を達することができる場合でなければ、無効確認訴訟を提起できるとしました。原子炉の設置者に対する人格権に基づく民事の差止訴訟は、設置許可処分の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えとはいえず、紛争を解決する争訟形態として無効確認訴訟よりも直截的で適切なものともいえないからです。「原子炉の周辺に居住する住民は、同原子炉の設置者に対しその建設又は運転の差止めを求める民事訴訟を提起していたとしても、設置許可処分の無効確認を求める訴えを適法に提起することができる」という肢は正しいです。なお、処分が無効であることを前提に私法上の法律関係を争う訴えは争点訴訟(45条)となり、この場合は無効確認訴訟によりません。
最判昭和34年9月22日(重大明白な瑕疵)
無効原因となる重大・明白な違法とは、処分要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大・明白な誤認があると認められる場合を指すものと解すべきである。……無効原因の主張としては、誤認が重大・明白であることを具体的事実に基いて主張すべきであり、単に抽象的に処分に重大・明白な瑕疵があると主張したり、若しくは、処分の取消原因が当然に無効原因を構成するものと主張することだけでは足りない。
論文ではこう使う
論文では、まず瑕疵の有無を認定し、次に無効か取消しかを振り分けます。規範は最判昭和34年9月22日の重大明白説で、重大性は処分要件の根幹に関わる誤りかどうか、明白性は処分の外形上客観的に誤認が看取できるかどうかで立てます。課税処分など第三者の信頼保護を考慮する必要のない領域では、最判昭和48年4月26日を引いて明白性を補充的要件にとどめ、重大な過誤と著しい不当性で無効を導きます。無効と結論づけたら、出訴期間経過後でも争えること、先行処分が無効なら後行処分も違法となること、主張立証責任は原告にあることを順に書きます。訴訟選択では、現在の法律関係に関する訴えで目的を達せられるかを検討し、達せられないなら無効確認訴訟、私法上の争いなら争点訴訟と結びます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。