株主代表訴訟の手続(管轄・担保提供・訴訟参加・和解・判決の効力)とは
かぶぬしだいひょうそしょうのてつづき
株主代表訴訟の手続とは、株主が会社のために提起する責任追及等の訴えについて会社法が定める訴訟上の規律のことで、会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の専属管轄(会社法848条)、被告の申立てによる担保提供命令(847条の4第2項・3項)、株主から会社への訴訟告知と会社による公告又は通知(849条4項・5項)、株主や会社の訴訟参加(同条1項・3項)、会社が当事者でない和解の通知・催告(850条)、勝訴株主の費用請求と敗訴株主の責任(852条)、馴れ合い判決に対する再審の訴え(853条)がこれに当たります。
株主代表訴訟は、株主が自分の名前で訴えるのに、賠償金は会社に入り、判決の効力も会社に及ぶという特別な訴訟です。そのため、会社や他の株主が知らないうちに決着がつかないように、株主は訴えたら会社に知らせ、会社は他の株主に公告や通知をして、参加の機会を与えます。嫌がらせ目的の訴えには、被告の申立てで裁判所が担保を積ませることができます。原告株主と被告取締役が裏で手を組んで会社に不利な判決を取れば、再審で覆せます。勝った株主は費用を会社に請求でき、負けても悪意がなければ会社に賠償しなくて済みます。
責任追及等の訴えは会社の本店所在地の地方裁判所の専属管轄で、会社が提起する場合も同じです
責任追及等の訴えは、株式会社(又は株式交換等完全子会社)の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属します(848条)。848条の「責任追及等の訴え」は847条1項が定義する訴えの類型なので、株主が代表訴訟として提起する場合だけでなく、会社自身が取締役の責任を追及する訴えを提起する場合も同じです。同じ役員の責任をめぐる訴訟を一つの裁判所に集め、訴訟参加や再審の手続を実効的にするためです。「甲社が提起するAの責任を追及する訴えは,甲社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属する」という肢は正しく、「株式会社が取締役に対してその責任を追及する訴えを提起する場合には,当該取締役の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所に当該訴えを提起することを要する」という肢と、「株主代表訴訟は,株式会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所のほか,会社法上の公開会社にあっては,当該株主代表訴訟を提起する株主の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所にも提起することができる」という肢は、いずれも誤りです。株主が提起する責任追及等の訴えは、訴訟の目的の価額の算定については財産権上の請求でない請求に係る訴えとみなされ(847条の4第1項)、請求額にかかわらず訴え提起の手数料が低く抑えられています。
担保提供命令は被告の申立てにより、被告が原告の悪意を疎明したときに限られ、職権ではできません
株主等が責任追及等の訴えを提起したときは、裁判所は、被告の申立てにより、株主等に対し相当の担保を立てるべきことを命ずることができます(847条の4第2項)。被告がこの申立てをするには、訴えの提起が悪意によるものであることを疎明しなければなりません(同条3項)。ここでいう悪意は、請求に理由がないことを知りながら訴えを提起した場合や、被告を害するなど不当な目的で訴訟を利用する場合をいうと解されています。担保提供命令は、代表訴訟が単独株主権とされたことに伴う濫訴を抑え、不当な訴えで被告が受けた損害の賠償請求権を担保するための制度なので、職権では命じられず、被告の申立てと悪意の疎明が要ります。「株主代表訴訟の提起が悪意によるものであると認められるときは,裁判所は,被告の申立てにより又は職権で,訴えを提起した株主に対し,相当の担保を立てるべきことを命ずることができる」という肢は誤りです。この制度は原告株主の濫訴を抑えるためのもので、原告と被告の馴れ合いを防ぐためのものではありません。「株主が株主代表訴訟を提起したときは,裁判所は,被告の申立てにより,当該株主に対し,相当の担保を立てるべきことを命ずることができる」という規律は、なれ合いの訴訟による弊害の防止を目的とするものとしてはふさわしくありません。6か月の継続保有の要件も、提訴目的で株式を取得する濫用を防ぐものであって、なれ合いの防止を目的とする規律ではありません。
株主は会社に訴訟告知をし、会社は公告又は通知をし、他の株主は共同訴訟人として、会社は各監査役の同意を得て取締役側に補助参加できます
株主等は、責任追及等の訴えを提起したときは、遅滞なく、会社に対し訴訟告知をしなければなりません(849条4項)。会社は、自ら責任追及等の訴えを提起したとき、又は訴訟告知を受けたときは、遅滞なく、その旨を公告し、又は株主に通知しなければなりません(同条5項)。公告と通知は選択的で、両方は要りません。公開会社でない会社では通知によります(同条9項)。「甲社が会社法上の公開会社である場合において,甲社がAの責任を追及する訴えを提起したときは,甲社は,遅滞なく,その旨を公告し,かつ,株主に通知しなければならない」という肢は誤りで、「会社法上の公開会社は,株主代表訴訟を提起した株主から訴訟告知を受けたときは,遅滞なく,その旨を公告し,又は株主に通知しなければならない」という肢は正しいです。代表訴訟の判決の効力は会社に及び、他の株主も同じ責任を重ねて追及できなくなるので、会社と他の株主に訴訟の係属を知らせて参加の機会を保障し、原告と被告の馴れ合いによる不十分な訴訟追行を防ぐための規律です。この公告・通知の規律は、なれ合いの訴訟による弊害の防止を目的とするものとしてふさわしいものです。株主等又は会社は、共同訴訟人として、又は当事者の一方を補助するため、責任追及等の訴えに参加することができます(849条1項)。「株主は,他の株主が提起した株主代表訴訟には,共同訴訟人として参加することができない」という肢は誤りです。会社が被告である取締役を補助するために参加することもできます。判例(最決平成13年1月30日)は、取締役会の意思決定が違法であるとして提起された代表訴訟について、特段の事情がない限り会社が取締役を補助するため参加することが許されるとしました。取締役会の決定を前提に形成された会社の法的地位に判決が影響しうるからです。「株式会社が取締役を補助するために株主代表訴訟に参加することは,できない」という肢は誤りです。ただし、会社が取締役(監査等委員・監査委員を除く)・執行役・清算人やこれらであった者を補助するために参加するには、監査役設置会社では監査役(監査役が2人以上ある場合は各監査役)、監査等委員会設置会社では各監査等委員、指名委員会等設置会社では各監査委員の同意が要ります(849条3項)。監査役会の決議ではなく、監査役全員それぞれの同意です。「株主代表訴訟において,会社が被告である取締役を補助するためその訴訟に参加するには,監査役会の同意を得なければならない」という肢は誤りで、「監査役(監査役が2人以上ある場合にあっては、各監査役)の同意を得なければならない」という肢は正しいです。
会社が当事者でない和解は会社に通知して異議を催告し、判決の効力は勝敗を問わず会社に及び、敗訴株主は悪意があったときだけ責任を負い、馴れ合い判決には再審があります
代表訴訟で株主と被告役員が和解をする場合、会社が和解の当事者でないときは、確定判決と同一の効力を定める民事訴訟法267条は会社の承認がない限り適用されず(850条1項)、裁判所は会社に和解の内容を通知し、異議があるときは2週間以内に述べるべき旨を催告しなければなりません(同条2項)。会社が期間内に書面で異議を述べなかったときは、和解を承認したものとみなされます(同条3項)。会社が訴訟に参加していなくても和解はできます。「当該訴訟に当該株式会社が参加した場合に限り,和解を成立させることができる」という肢は誤りです。責任追及等の訴えの和解には総株主の同意による免除の規定(424条など)は適用されないので、総株主の同意なしに責任を免除する内容の和解ができます(同条4項)。「株主代表訴訟においては,総株主の同意を得た場合に限り,取締役の責任を免除する内容の訴訟上の和解をすることができる」という肢は誤りです。令和元年改正で、会社が取締役等の責任を追及する訴訟で和解をするには各監査役・各監査等委員・各監査委員の同意が要ることになりました(849条の2)。代表訴訟の原告株主は、会社の権利について会社のために訴訟を追行する法定訴訟担当なので、その確定判決の効力は、請求認容でも請求棄却でも会社に及びます(民事訴訟法115条1項2号)。会社の組織に関する訴えのように認容判決だけに対世効がある(838条)のとは違います。「請求を認容する確定判決の効力は,甲社に対しても及ぶが,その請求を棄却する確定判決の効力は,甲社には及ばない」という肢は誤りです。棄却判決も会社に及ぶからこそ、原告と被告が共謀して会社の権利を害する目的で判決をさせたときは、会社又は株主等は確定した終局判決に対し再審の訴えで不服を申し立てることができます(853条1項)。「一定の場合には,株主は,株主代表訴訟に係る確定した終局判決に対し,再審の訴えをもって,不服を申し立てることができる」という肢は正しく、この再審の制度はなれ合いの訴訟による弊害の防止を目的とするものとしてふさわしいものです。勝訴(一部勝訴を含む)した株主等は、必要な費用(訴訟費用を除く)を支出し又は弁護士に報酬を支払うべきときは、その範囲内で相当と認められる額の支払を会社に請求できます(852条1項)。賠償金は会社に入るのに費用は株主持ちでは誰も訴えなくなるので、提訴を促すための規律であって、なれ合い防止のための規律ではありません。「必要な費用を支出したときは,当該株式会社に対し,その費用の額の範囲内で相当と認められる額の支払を請求することができる」という規律は、なれ合いの訴訟による弊害の防止を目的とするものとしてはふさわしくありません。敗訴した株主等は、悪意があったときを除き、会社に対し損害を賠償する義務を負いません(同条2項)。「株主代表訴訟を提起した株主が敗訴した場合であっても,悪意があったときを除き,当該株主は,株式会社に対し,これによって生じた損害を賠償する義務を負わない」という肢は正しいです。
株主代表訴訟の手続の整理
- 管轄: 会社の本店所在地の地方裁判所の専属管轄(848条)。会社が提起する場合も同じ。訴額は財産権上の請求でない請求とみなす(847条の4第1項)
- 担保提供: 被告の申立て+原告の悪意の疎明(847条の4第2項・3項)。職権では不可。濫訴防止のためで、なれ合い防止ではない
- 訴訟告知・公告: 株主→会社に訴訟告知(849条4項)。会社→公告又は株主に通知(同条5項。非公開会社は通知)。参加の機会を与えてなれ合いを防ぐ
- 参加: 株主・会社は共同訴訟人として又は補助参加できる(849条1項)。会社が取締役側に補助参加するには各監査役・各監査等委員・各監査委員の同意(同条3項)。補助参加の利益は特段の事情がない限り肯定(最決平13.1.30)
- 和解: 会社が当事者でないときは裁判所が会社に通知し2週間の異議催告、異議がなければ承認とみなす(850条1〜3項)。総株主の同意は不要(同条4項)。会社の和解には各監査役等の同意(849条の2)
- 判決の効力: 勝敗を問わず会社に及ぶ(民訴115条1項2号)。共謀による馴れ合い判決には再審(853条)
- 費用・責任: 勝訴株主は費用・弁護士報酬の相当額を会社に請求できる(852条1項)。敗訴株主は悪意がなければ賠償責任なし(同条2項)
会社法848条
責任追及等の訴えは、株式会社又は株式交換等完全子会社(以下この節において「株式会社等」という。)の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属する。
会社法847条の4第2項・3項
株主等(略)が責任追及等の訴えを提起したときは、裁判所は、被告の申立てにより、当該株主等に対し、相当の担保を立てるべきことを命ずることができる。
3 被告が前項の申立てをするには、責任追及等の訴えの提起が悪意によるものであることを疎明しなければならない。
会社法849条5項
株式会社等は、責任追及等の訴えを提起したとき、又は前項の訴訟告知を受けたときは、遅滞なく、その旨を公告し、又は株主に通知しなければならない。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。