司法試験・予備試験AIブートラボ 司法試験AIブートラボ
用語集 / 商法 / 取締役の違法行為の差止めと業務執行に関する検査役

取締役の違法行為の差止めと業務執行に関する検査役とは

とりしまりやくのいほうこういのさしとめとぎょうむしっこうにかんするけんさやく

商法 役員等の責任と株主代表訴訟

取締役の違法行為の差止めとは、取締役が会社の目的の範囲外の行為その他法令・定款に違反する行為をし、又はそのおそれがある場合に、株主や監査役がその取締役に対してその行為をやめることを請求する制度のことです(会社法360条・385条)。株主の差止めは会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときにでき、監査役設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社では回復することができない損害が生ずるおそれがあるときに限られます(360条3項)。業務執行に関する検査役とは、業務の執行に不正の行為や法令・定款違反の重大な事実を疑うに足りる事由があるときに、総株主の議決権又は発行済株式の100分の3以上を有する株主の申立てで裁判所が選任し、会社の業務及び財産の状況を調査する者です(358条)。

取締役が法律や定款に反することをしようとしているとき、損害が出てから賠償させるより先に止めるほうが会社のためになります。そこで会社法は、監査役と株主に、取締役にその行為をやめるよう請求する権利を与えました。監査役は会社に大きな損害が出そうなら請求できますが、監査役がいる会社の株主はまず監査役に止めさせる建て付けなので、取り返しのつかない損害が出そうなときに限られます。不正が疑われるのに株主には調べる手段がないので、一定数の株式を持つ株主は裁判所に検査役を選んでもらい、会社の業務と財産を調べさせることができます。

会社の役員室の入口の場面。中で男性の代表取締役(札「代表取締役」)が契約書「法令に違反する取引」に判子を押そうとしている。入口の手前に先生が監査役役(札「監査役」)で手を前に出して止めており、その後ろに男性株主(札「株主」)が立っている。先

株主による差止めは、監査役設置会社等では回復することができない損害が生ずるおそれがあるときに限られ、著しい損害で足りるのはそれ以外の会社です

6か月(これを下回る期間を定款で定めた場合はその期間)前から引き続き株式を有する株主は、取締役が会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、その行為によって会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、取締役に対しその行為をやめることを請求することができます(360条1項)。公開会社でない会社では保有期間の要件はありません(同条2項)。ただし、監査役設置会社、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社では、「著しい損害」が「回復することができない損害」に読み替えられます(同条3項)。これらの会社では監査役・監査等委員・監査委員が差止請求権を持つので、まず監査機関に止めさせ、株主の差止めは監査機関が機能しない場合に備えた最後の手段として要件を重くしたものです。公開会社は取締役会設置会社で、監査役・監査等委員会・指名委員会等のいずれかを置くので、公開会社の株主の差止めは回復することができない損害が要件になります。「会社法所定の要件を満たす株主は,代表取締役が法令に違反する行為をするおそれがある場合において,その行為によって会社に回復することができない損害が生ずるおそれがあるときは,その行為をやめることを請求することができる」という肢は、監査役会設置会社を前提にして正しく、「会社法所定の要件を満たす株主は,代表取締役が法令に違反する行為をし,その行為によって会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは,その代表取締役に対し,その行為をやめることを請求することができる」という肢は、公開会社を前提にしているので誤りです。監査の範囲を会計に限定した監査役しかいない会社は監査役設置会社に当たらないので(2条9号)、著しい損害で足ります。指名委員会等設置会社の執行役に対する株主の差止めも、回復することができない損害が要件です(422条1項)。差止めは行為を事前に止める制度なので、行為が既に終わっている場合は対象になりません。株主の差止請求は裁判外でもでき、裁判で求めるときは差止めの訴えと仮処分によります。

監査役・監査等委員・監査委員は著しい損害のおそれがあれば請求でき、委員会の承認は要りません

監査役は、取締役が会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はそのおそれがある場合において、その行為によって会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、取締役に対しその行為をやめることを請求することができます(385条1項)。株主と違って「著しい損害」で足りますが、法令違反のおそれだけでは足りず、損害の要件が要ります。「監査役設置会社においては,取締役が法令に違反する行為をするおそれがある場合でも,その行為によって会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときでなければ,監査役は,その取締役に対し,その行為をやめることを請求することができない」という肢は正しいです。裁判所が仮処分で差止めを命ずるときは、監査役に担保を立てさせません(同条2項)。監査等委員(399条の6第1項)と監査委員(407条1項)も同じ要件で各自が請求でき、監査等委員会・監査委員会の承認は要りません。「監査等委員は,取締役が法令又は定款に違反する行為をするおそれがある場合において,当該行為によって監査等委員会設置会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは,当該取締役に対し,当該行為をやめることを請求することができる」という肢は正しく、「監査委員が執行役に対して法令に違反する行為をやめることを請求するためには,監査委員会の承認を受けなければならない」という肢は誤りです。監査役は、取締役の不正行為のおそれなどを認めたときは取締役会の招集を請求することもできます(383条2項)。これに対し、株主による取締役会の招集請求(367条1項)は、監査役設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社の株主にはできません。業務監査を担う機関がある会社では、株主に取締役会まで動かさせる必要がないからです。「監査役設置会社の株主は,取締役が会社の目的の範囲外の行為をするおそれがあると認めるときは,取締役会の招集を請求することができる」という肢は誤りです。

裁判所の窓口の場面。先生が株主役(札「株主(議決権の3%以上)」)で、窓口に申立書「検査役選任の申立て 業務執行に法令違反の重大な事実を疑う事由あり」を出している。窓口の奥に男性の裁判官(札「裁判所(非訟事件)」)、その横に鞄を持った男性(

業務執行に不正や法令・定款違反の重大な事実を疑う事由があるときは、議決権又は株式の100分の3以上の株主が裁判所に検査役の選任を申し立てられ、持株要件は裁判時まで要ります

株式会社の業務の執行に関し、不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由があるときは、総株主(議決権を全く行使できない株主を除く)の議決権の100分の3(定款で下回る割合を定められる)以上の議決権を有する株主、又は発行済株式(自己株式を除く)の100分の3以上の数の株式を有する株主は、会社の業務及び財産の状況を調査させるため、裁判所に対し検査役の選任の申立てをすることができます(358条1項)。差止めが行為を止める手段であるのに対し、検査役は不正の有無を調べる手段で、調査結果は代表訴訟や解任の訴えの材料になります。「会社法所定の要件を満たす株主は,代表取締役による会社の業務執行に関し,法令に違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由があるときは,会社の業務及び財産の状況を調査させるため,裁判所に対し,検査役の選任の申立てをすることができる」という肢は正しいです。裁判所は、不適法として却下する場合を除き検査役を選任しなければならず(同条2項)、検査役は必要があれば子会社の業務及び財産の状況も調査でき(同条4項)、調査の結果を裁判所に報告し(同条5項)、会社と申立てをした株主にも報告書の写しを交付します(同条7項)。検査役の選任は、当事者間の権利義務を確定する訴訟ではなく、裁判所が後見的に調査者を選ぶ処分なので、会社法上の非訟事件の手続によります(868条1項)。株主総会の招集手続や決議の方法を調査させる検査役(306条)の選任も同じく非訟事件です。「株主総会の招集手続等に関する検査役の選任」は、訴訟手続ではなく会社法上の非訟事件の手続によるものです。358条の持株要件は、申立ての時だけでなく検査役選任の裁判がされるまで満たしている必要があります。判例(最決平成18年9月28日)は、申立て時に総株主の議決権の100分の3以上を有していた株主が、その後会社が新株を発行したことで100分の3未満しか有しなくなった事案で、会社がその申立てを妨害する目的で新株を発行したなどの特段の事情のない限り、申立ては申立人の適格を欠くものとして不適法であり却下を免れないとしました。「その後,当該株式会社が新株を発行したことにより,当該株主が当該持株要件を満たさないものとなった場合には,特段の事情のない限り,当該申立ては,申立人の適格を欠くものとして不適法となる」という肢は正しいです。

差止めと検査役の整理

  • 株主の差止め(360条): 6か月前から株式を有する株主(非公開会社は保有期間不要)。法令・定款違反の行為(のおそれ)+著しい損害のおそれ。監査役設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社では回復することができない損害のおそれ(同条3項)。執行役に対しても同じ(422条)
  • 監査役・監査等委員・監査委員の差止め(385条・399条の6・407条): 著しい損害のおそれで足りる。各自が行使でき委員会の承認不要。仮処分に担保不要
  • 差止めの対象: これからする行為・継続中の行為。終わった行為は対象外
  • 株主の取締役会招集請求(367条): 監査役設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社の株主はできない。監査役は招集請求できる(383条2項)
  • 業務執行に関する検査役(358条): 不正行為・法令定款違反の重大な事実を疑うに足りる事由。総株主の議決権又は発行済株式の100分の3以上の株主の申立て。裁判所は却下の場合を除き選任。子会社も調査。非訟事件。持株要件は裁判時まで維持(最決平18.9.28。妨害目的の新株発行は特段の事情)
  • 株主総会の検査役(306条): 招集手続・決議の方法の調査。会社又は議決権の100分の1以上の株主の申立て。非訟事件

会社法360条1項・3項

六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主は、取締役が株式会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該株式会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができる。(略)
3 監査役設置会社、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社における第一項の規定の適用については、同項中「著しい損害」とあるのは、「回復することができない損害」とする。

会社法358条1項

株式会社の業務の執行に関し、不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由があるときは、次に掲げる株主は、当該株式会社の業務及び財産の状況を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをすることができる。
一 総株主(略)の議決権の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主
二 発行済株式(自己株式を除く。)の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を有する株主

論文ではこう使う

論文で違法な業務執行を事前に止める手段を挙げるときは、株主の差止請求(360条)を中心に、①原告が6か月前から株式を有する株主か(非公開会社は不要)、②取締役の行為が法令・定款違反(目的の範囲外を含む)か、③その会社が監査役設置会社等なら回復することができない損害のおそれ、そうでなければ著しい損害のおそれがあるか、を当てはめます。監査役がいる会社では監査役の差止請求(385条)が本来の手段であることを一言添え、事後の手段としての代表訴訟(847条)や解任の訴え(854条)と対比します。不正の疑いがあるが事実がつかめない事案では、検査役の選任の申立て(358条)で調査させる手段を挙げます。

試験ではこう問われる

「取締役の違法行為の差止めと業務執行に関する検査役」が短答式でどう出題されてきたか、ひっかけの型8件と関係する過去問の肢9本は、無料のアカウントでログインすると読めます。

読んだあとに、商法の肢別演習を

この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。

関連する用語

取締役・取締役会・代表取締役

取締役会の招集

資金調達(募集株式・新株予約権・社債)

募集株式の発行等の差止請求

機関設計と役員の選任・解任

役員の解任の訴え

監査役・会計監査人・委員会型の会社

監査等委員会と監査等委員の権限

監査役・会計監査人・委員会型の会社

指名委員会等設置会社の三委員会(指名・監査・報酬)