特定責任追及の訴え(多重代表訴訟)とは
とくていせきにんついきゅうのうったえ
特定責任追及の訴えとは、完全子会社の取締役等の責任(特定責任)を、その会社の最終完全親会社等の株主が、完全子会社のために追及する責任追及等の訴えのことで(会社法847条の3)、多重代表訴訟とも呼ばれます。最終完全親会社等の総株主の議決権又は発行済株式の100分の1以上を6か月前から引き続き有する株主が、責任を負う役員等のいる完全子会社に対して提訴請求をし、60日以内に訴えが提起されないときに自ら提起できます。
持株会社の下に完全子会社がある企業グループでは、子会社の取締役が子会社に損害を与えても、子会社の株主は親会社だけなので、親会社の経営陣が訴えなければ責任追及は進みません。親会社の株主は子会社の株主ではないので普通の代表訴訟は起こせません。そこで平成26年改正で、グループの頂点にある最終完全親会社等の株主が、重要な完全子会社の取締役等の責任を子会社のために追及できる制度が作られました。これが特定責任追及の訴え(多重代表訴訟)です。訴えの相手は子会社の役員なので、提訴請求の宛先も裁判所も子会社を基準にします。
最終完全親会社等の議決権又は発行済株式の100分の1以上を有する株主が提起でき、定款ではこの割合を下げることしかできません
6か月(これを下回る期間を定款で定めた場合はその期間)前から引き続き、株式会社の最終完全親会社等の総株主の議決権の100分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上の議決権を有する株主、又は最終完全親会社等の発行済株式(自己株式を除く)の100分の1(同じく定款で下回る割合を定められる)以上の数の株式を有する株主が、特定責任追及の訴えの提起を請求することができます(847条の3第1項)。最終完全親会社等とは、その株式会社の完全親会社等であって、その上にさらに完全親会社等がないものをいいます(同項)。普通の代表訴訟が単独株主権であるのと違い、親会社の株主がグループ全体の子会社の役員を訴えられる制度なので、少数株主権にしてあります。定款で定められるのは法定の割合を「下回る割合」だけで、要件を厳しくすることはできません。「会社法上の公開会社でない最終完全親会社等は,定款によって,特定責任追及の訴えを提起することができる当該最終完全親会社等の株主を,当該最終完全親会社等の総株主の議決権の50分の1以上の議決権を有する株主又は当該最終完全親会社等の発行済株式の50分の1以上の数の株式を有する株主と定めることができる」という肢は誤りです。公開会社でない最終完全親会社等では6か月の保有期間の要件はありません(同条6項)。対象になる特定責任は、責任の原因となった事実が生じた日に、最終完全親会社等とその完全子会社等が持つその株式会社の株式の帳簿価額が、最終完全親会社等の総資産額の5分の1(定款で下回る割合を定められる)を超える場合の発起人等の責任に限られます(同条4項)。グループの中で重要な子会社の役員の責任だけが対象です。また、特定責任追及の訴えが株主や第三者の不正な利益を図り又は会社や最終完全親会社等に損害を加える目的である場合と、その特定責任の原因事実によって最終完全親会社等に損害が生じていない場合には、請求できません(同条1項ただし書)。
提訴請求の相手方は最終完全親会社等ではなく、責任を負う役員のいる子会社です
特定責任追及の訴えで追及されるのは完全子会社の発起人等の責任なので、提訴請求の相手方は、最終完全親会社等ではなく、その責任を負う役員等のいる株式会社(完全子会社)です(847条の3第1項)。まずその子会社自身に訴えるかどうかを判断する機会を与えるという提訴請求の趣旨は、普通の代表訴訟と同じです。「最終完全親会社等の株主が特定責任追及の訴え(いわゆる多重代表訴訟)を提起するためには,当該株主は,当該最終完全親会社等に対し,書面で特定責任追及の訴えの提起を請求しなければならない」という肢は誤りです。監査役設置会社である子会社では、この請求を受けるのは監査役です(386条2項1号)。子会社が請求の日から60日以内に特定責任追及の訴えを提起しないときは、請求をした最終完全親会社等の株主が、子会社のために訴えを提起することができます(847条の3第7項)。子会社が訴えを提起しない場合に請求を受けたときは、不提訴理由を通知しなければならず(同条8項)、60日の経過により子会社に回復することができない損害が生ずるおそれがある場合には直ちに提起できます(同条9項)。
管轄は子会社の本店所在地の地方裁判所に専属し、参加・再審・一部免除にも親会社の株主が関わります
特定責任追及の訴えも責任追及等の訴えなので、管轄は責任を負う役員等のいる子会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所に専属し(848条)、最終完全親会社等の本店所在地の裁判所には提起できません。「株式会社の最終完全親会社等の株主が特定責任追及の訴えを提起する場合には,当該株式会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所のほか,当該最終完全親会社等の本店の所在地を管轄する地方裁判所にも,当該訴えを提起することができる」という肢は誤りです。最終完全親会社等の株主は訴訟に参加でき(849条1項)、共謀による判決には再審の訴えができます(853条1項)。特定責任を一部免除するには、子会社と最終完全親会社等の両方の株主総会の決議が要ります(425条1項)。
特定責任追及の訴えの要点(普通の代表訴訟との違い)
- 原告: 最終完全親会社等の総株主の議決権又は発行済株式の100分の1以上を6か月前から引き続き有する株主(847条の3第1項)。少数株主権。定款で割合を下げることはできるが上げられない。非公開の最終完全親会社等は保有期間不要(同条6項)
- 対象: 特定責任=原因事実が生じた日に子会社株式の帳簿価額が最終完全親会社等の総資産額の5分の1を超える子会社の発起人等の責任(同条4項)。最終完全親会社等に損害がないときは不可(同条1項ただし書)
- 提訴請求の相手方: 責任を負う役員等のいる子会社(最終完全親会社等ではない)。60日の不提訴で株主が提起(同条7項)。不提訴理由の通知(同条8項)。回復できない損害のおそれで直ちに提起(同条9項)
- 管轄: 子会社の本店所在地の地方裁判所に専属(848条)
- 参加・再審・免除: 最終完全親会社等の株主も参加・再審ができる(849条1項・853条1項)。特定責任の一部免除は子会社と最終完全親会社等の両方の株主総会決議(425条1項)
会社法847条の3第1項
六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式会社の最終完全親会社等(当該株式会社の完全親会社等であって、その完全親会社等がないものをいう。以下この節において同じ。)の総株主(略)の議決権の百分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主又は当該最終完全親会社等の発行済株式(自己株式を除く。)の百分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を有する株主は、当該株式会社に対し、書面その他の法務省令で定める方法により、特定責任に係る責任追及等の訴え(以下この節において「特定責任追及の訴え」という。)の提起を請求することができる。(略)
論文ではこう使う
論文で親会社の株主が完全子会社の取締役の責任を追及する場面を書くときは、子会社の株主ではない親会社株主には847条の代表訴訟の原告適格がないことを確認したうえで、847条の3の要件(①最終完全親会社等の議決権又は発行済株式の100分の1以上を6か月前から保有、②子会社株式の帳簿価額が最終完全親会社等の総資産額の5分の1超という特定責任の要件、③最終完全親会社等に損害が生じていること、④子会社への提訴請求と60日の経過)を順に当てはめます。要件を欠くときは、親会社の取締役が子会社の管理(子会社役員の責任追及を怠ったこと)について親会社に対する任務懈怠責任を負うかを、親会社株主による通常の代表訴訟の形で検討する流れになります。
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