発行可能株式総数(設立時の定めと4倍規制)とは
はっこうかのうかぶしきそうすう
発行可能株式総数とは、株式会社が発行することができる株式の総数として定款で定める上限の数です(会社法37条1項)。会社の成立の時までに定款で定めなければならず、公開会社では設立時発行株式の総数が発行可能株式総数の4分の1以上であること、増加後の発行可能株式総数が発行済株式の総数の4倍以下であることが求められます(37条3項・113条3項)。
公開会社では、新しい株式を発行するかどうかを取締役会が決められます。歯止めがないと、取締役会が株式を発行し続けて既存の株主の持株比率がどこまでも薄まってしまいます。そこで定款に「この会社が発行できる株式はここまで」という上限を書かせ、その枠の中でだけ取締役会に任せることにしました。この上限が発行可能株式総数です。枠を広げるには株主総会の特別決議による定款変更が要り、公開会社では広げられる幅にも4倍という限度があります。株式の分割や併合のように発行済株式の総数が機械的に変わる場面には、別の決まりがあります。
発行可能株式総数は、認証の時点で定款に無くてもよいですが、会社の成立の時までに定款で定めます
発行可能株式総数は27条の絶対的記載事項には入っていないので、公証人の認証を受ける時点の定款に記載されている必要はありません。しかし、定款で定めていない場合には、発起人は、株式会社の成立の時までに、その全員の同意によって定款を変更して定めを設けなければならず(37条1項)、募集設立では創立総会の決議によって定めます(98条)。定款で定めている場合でも、成立の時までは発起人全員の同意で変更できます(37条2項)。「会社が発行することのできる株式の総数は,公証人の認証を受ける時に定款に記載され,又は記録されている必要はないが,会社成立の時までには定款で定めなければならない」という肢は正しいです。「株式会社が発行することのできる株式の総数は,会社成立時までには定款に定めておかなければならない」という肢も正しいです。発行可能株式総数は登記事項でもあります(911条3項6号)。「定款の絶対的記載事項のうち,発行可能株式総数は,登記すべき事項ではない」という肢は誤りです。
公開会社では設立時発行株式の総数が発行可能株式総数の4分の1以上でなければならず、公開会社でない会社にこの制限はありません
設立時発行株式の総数は、発行可能株式総数の4分の1を下ることができません。ただし、設立しようとする株式会社が公開会社でない場合は、この限りではありません(37条3項)。取締役会に任せる枠を、現に発行する株式の4倍までに抑える趣旨なので、募集株式の発行に株主総会の特別決議が要る公開会社でない会社には及ぼしていません。「設立する会社が会社法上の公開会社である場合には,設立に際して発行可能株式総数の4分の1以上の株式を発行しなければならないが,設立する会社が会社法上の公開会社でない場合には,この限りではない」という肢は正しいです。「会社法上の公開会社でない株式会社を設立する場合には,発行可能株式総数を定款で定めなければならないが,発行可能株式総数は,設立時発行株式の総数の4倍を超えてもよい」という肢も正しいです。
成立後は、定めの廃止はできず、減少は発行済株式の総数を下回れず、公開会社の増加は発行済株式の総数の4倍までです
株式会社は、定款を変更して発行可能株式総数についての定めを廃止することができません(113条1項)。「株式会社は、定款を変更して発行可能株式総数についての定めを廃止することができない」という肢は正しいです。定款を変更して減少するときは、変更後の発行可能株式総数は、定款の変更が効力を生じた時における発行済株式の総数を下ることができません(同条2項)。「変更後の発行可能株式総数を当該定款の変更が効力を生じた時における発行済株式の総数未満とすることができる」という肢は誤りです。公開会社が定款を変更して増加するときと、公開会社でない会社が定款を変更して公開会社になるときは、変更後の発行可能株式総数は、定款の変更が効力を生じた時における発行済株式の総数の4倍を超えることができません(同条3項)。「変更後の発行可能株式総数を当該定款の変更が効力を生じた時における発行済株式の総数の4倍以下としなければならない」という肢は正しいです。4倍の基準時は株主総会の決議の時ではなく、定款の変更が効力を生じた時です。判例は、新たに募集株式を発行することを条件として、その発行後の発行済株式の総数の4倍まで発行可能株式総数を増加する定款の変更をする旨の決議を有効としました(最判昭和37年3月8日)。「新たに募集株式の発行をすることを条件として、その発行後の発行済株式の総数の4倍まで発行可能株式総数を増加する定款の変更をする旨の決議をすることができる」という肢は正しいです。種類株式発行会社が定める各種類の発行可能種類株式総数(108条2項)の合計は、発行可能株式総数と一致していなくてもかまいません。「定款で定めた各種類の株式の発行可能種類株式総数の合計数は,定款で定めた発行可能株式総数と一致していなければならない」という肢は誤りです。
- 定めの廃止できない(113条1項)
- 減少効力発生時の発行済株式の総数を下回れない(113条2項)
- 公開会社の増加・公開会社になる定款変更効力発生時の発行済株式の総数の4倍まで(113条3項)。新株発行を条件に発行後の4倍までとする決議は有効(最判昭和37年3月8日)
- 公開会社でない会社の増加4倍の制限なし
自己株式を消却しても発行可能株式総数は減らず、株式の分割では決議なしで増やせる場合があり、株式の併合では効力発生日に定款変更をしたものとみなされます
自己株式を消却すると(178条)、消却した数だけ発行済株式の総数は減りますが、定款で定めた発行可能株式総数は定款変更をしない限り変わりません。「自己株式を消却することにより,発行可能株式総数は,減少する」という肢は誤りです。「株式会社が自己株式を消却した場合には、発行可能株式総数についての定款の変更をしなくても、消却された自己株式の数だけ発行可能株式総数が減少する」という肢も誤りです。株式の分割では、現に2以上の種類の株式を発行している会社を除き、分割の効力発生日における発行可能株式総数を、その前日の発行可能株式総数に分割の割合を乗じて得た数の範囲内で増加する定款の変更を、株主総会の決議によらないですることができます(184条2項)。発行済株式の総数も同じ割合で増えるので、取締役会の枠が実質的に広がらないからです。「発行可能株式総数が1000株であって,発行済株式の総数が300株である会社が1株を5株とする株式の分割をする場合には,株主総会の決議によらないで,発行可能株式総数を4000株に増加する定款の変更をすることができる」という肢は正しいです。「取締役会設置会社において,発行可能株式総数を超えることとなる株式の分割をしようとするときは,株主総会の特別決議により,発行可能株式総数の増加に係る定款の変更をしなければならない」という肢は誤りです。株式無償割当てにはこの特則がないので、「株式無償割当ての場合には,株主総会の決議によらなければ発行可能株式総数を増加する定款変更をすることはできない」という肢は正しいです。株式の併合では、株主総会の特別決議で効力発生日における発行可能株式総数を定め(180条2項4号)、公開会社ではそれが効力発生日における発行済株式の総数の4倍を超えることができません(同条3項)。「会社が会社法上の公開会社である場合であっても,株式の併合により,その効力が生ずる日における発行可能株式総数が発行済株式の総数の4倍を超えることとなることが認められる」という肢は誤りです。併合をした会社は、効力発生日にその定めに従って定款の変更をしたものとみなされます(182条2項)。「当該効力発生日に、当該発行可能株式総数に係る定款の変更をしたものとみなされる」という肢は正しいです。
会社法37条1項
発起人は、株式会社が発行することができる株式の総数(以下「発行可能株式総数」という。)を定款で定めていない場合には、株式会社の成立の時までに、その全員の同意によって、定款を変更して発行可能株式総数の定めを設けなければならない。
会社法37条3項
設立時発行株式の総数は、発行可能株式総数の四分の一を下ることができない。ただし、設立しようとする株式会社が公開会社でない場合は、この限りでない。
会社法113条3項
次に掲げる場合には、当該定款の変更後の発行可能株式総数は、当該定款の変更が効力を生じた時における発行済株式の総数の四倍を超えることができない。一 公開会社が定款を変更して発行可能株式総数を増加する場合 二 公開会社でない株式会社が定款を変更して公開会社となる場合
論文ではこう使う
論文では、発行可能株式総数を超えて募集株式が発行された場面で使います。「発行可能株式総数は、取締役会に授権する新株発行の枠を定款で画し、既存株主の持株比率の希釈化に上限を置くものである(会社法37条・113条)。これを超える発行は授権の範囲を超えるものであって重大な法令違反であり、新株発行の無効原因となる(828条1項2号)」と書き、無効の訴えの提訴期間と原告適格につなぎます。4倍規制の基準時が定款変更の効力発生時であること(113条3項)と、条件付きの増加決議を認めた判例(最判昭和37年3月8日)は、決議の効力を争う問題で使います。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。