発起人・設立時取締役の責任(任務懈怠・会社不成立・擬似発起人)とは
ほっきにんせつりつじとりしまりやくのせきにん
発起人・設立時取締役の責任とは、発起人・設立時取締役・設立時監査役が設立についての任務を怠ったときに会社に対して負う損害賠償責任(会社法53条1項)と、職務について悪意又は重大な過失があったときに第三者に対して負う損害賠償責任(同条2項)、そして会社が成立しなかったときに発起人が連帯して負う責任(56条)をまとめた呼び名です。募集の広告に氏名と設立を賛助する旨を記載することを承諾した者は、発起人とみなされて同じ責任を負います(103条4項)。
会社を作る途中で発起人が手を抜き、会社に損をさせたり、取引先に迷惑をかけたりすることがあります。設立の仕事を任された以上、発起人や設立時取締役はその責任を取らなければなりません。会社に対する責任は、株主全員が許せば消せますが、外部の人に対する責任は株主が勝手に消すわけにはいきません。会社ができなかったときには、相手方には会社がないので、発起人が自分たちで約束の責任を取り、かかった費用も負担します。発起人として名前を貸しただけの人も、信じて出資した人を守るために、発起人と同じ責任を負わされます。
会社に対する任務懈怠責任は総株主の同意で免除できますが、第三者に対する責任は免除できません
発起人・設立時取締役・設立時監査役は、株式会社の設立についてその任務を怠ったときは、会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(53条1項)。職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、第三者に生じた損害も賠償します(同条2項)。複数の者が責任を負うときは連帯債務者になります(54条)。会社に対する任務懈怠責任は、総株主の同意がなければ免除できません(55条)。裏返せば総株主の同意があれば免除できます。これに対して第三者に対する責任は、株主のものではないので、総株主の同意があっても免れません。「発起人がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったことにより第三者に生じた損害を賠償する責任を負うときは,総株主の同意によっても,これを免れることができない」という肢は正しいです。設立の無効の判決が確定しても、判決の効力は将来に向かってだけ生じ(839条)、既に生じた責任は消えません。「その会社について設立を無効とする判決が確定したときは,その発起人は,会社に対し,損害を賠償する責任を負わない」という肢は誤りです。発起人・設立時取締役の会社に対する責任は、株主代表訴訟の対象になります(847条1項)。「設立時取締役の株式会社に対する責任は,株主代表訴訟の対象とならない」という肢は誤りです。
会社が成立しなかったときは、発起人が無過失でも連帯して責任を負い費用を負担し、設立時取締役はこの責任を負いません
株式会社が成立しなかったときは、発起人は、連帯して、設立に関してした行為についてその責任を負い、設立に関して支出した費用を負担します(56条)。設立の過程で発起人がした行為の効果は本来成立後の会社に帰属するはずですが、会社ができなければ帰属先がないので、発起人に負わせたものです。過失の有無は問いません。「会社が成立しなかった場合において,発起人がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したときは,その発起人は,会社の設立に関して支出した費用を負担しない」という肢は誤りです。「株式会社が成立しなかったときは、発起人は、連帯して、株式会社の設立に関して支出した費用を負担する」という肢は正しいです。この責任を負うのは発起人だけで、設立時取締役は負いません。「株式会社が成立しなかったときは,設立時取締役は,連帯して,株式会社の設立に関してした行為についてその責任を負い,株式会社の設立に関して支出した費用を負担する」という肢は誤りです。
募集の広告に氏名と設立を賛助する旨を記載することを承諾した者は、発起人とみなされて同じ責任を負います
募集設立において、発起人でないのに、募集の広告その他募集に関する書面や電磁的記録に自己の氏名又は名称と会社の設立を賛助する旨を記載することを承諾した者は、発起人とみなされて、発起人の責任に関する規定の適用を受けます(103条4項)。擬似発起人と呼ばれます。発起人であるかのような外観を作って引受人の信頼を集めた以上、不足額塡補責任や任務懈怠責任、会社不成立の責任を発起人と同じように負わせて、信頼した第三者を保護する趣旨です。「発起人以外の者であっても,募集の広告に自己の氏名及び株式会社の設立を賛助する旨を記載することを承諾したものは,発起人とみなされ,発起人の責任に関する会社法の規定の適用を受ける」という肢は正しいです。擬似発起人は、検査役の調査を経た場合を除き、現物出資財産の価額が定款の価額に著しく不足するときの不足額支払義務も負います。
- 会社に対する任務懈怠責任(53条1項)総株主の同意で免除できる(55条)。株主代表訴訟の対象(847条1項)。設立無効の判決が確定しても消えない
- 第三者に対する責任(53条2項)悪意・重過失が要件。総株主の同意でも免除できない
- 会社不成立の責任(56条)発起人だけが連帯して負う。無過失でも免れない。設立時取締役は負わない
- 擬似発起人(103条4項)募集設立で広告に氏名と賛助の旨の記載を承諾した者。発起人の責任の規定が適用される
会社法53条1項
発起人、設立時取締役又は設立時監査役は、株式会社の設立についてその任務を怠ったときは、当該株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
会社法56条
株式会社が成立しなかったときは、発起人は、連帯して、株式会社の設立に関してした行為についてその責任を負い、株式会社の設立に関して支出した費用を負担する。
会社法103条4項
第五十七条第一項の募集をした場合において、当該募集の広告その他当該募集に関する書面又は電磁的記録に自己の氏名又は名称及び株式会社の設立を賛助する旨を記載し、又は記録することを承諾した者(発起人を除く。)は、発起人とみなして、前節及び前三項の規定を適用する。
論文ではこう使う
論文では、設立に関与した者への責任追及の構成として使います。会社に対する請求なら「発起人は設立についての任務を怠ったときは会社に対して損害賠償責任を負う(会社法53条1項)。Aは〜という任務を怠ったから、会社はAに対して損害の賠償を請求できる」と書き、株主が追及するなら株主代表訴訟(847条1項)につなぎます。取引の相手方からの請求なら、会社が成立していれば53条2項の第三者責任(悪意・重過失)を、会社が成立しなかったのであれば56条の連帯責任を使い分けます。発起人でない者が広告に名を連ねていたら、103条4項で発起人とみなされることを落とさないようにします。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。