設立時募集株式の引受けと払込金保管証明とは
せつりつじぼしゅうかぶしきのひきうけとはらいこみきんほかんしょうめい
設立時募集株式の引受けとは、募集設立において、発起人が引き受けた分以外の設立時発行株式について、発起人が引受人を募集し、申込者に割り当てて引き受けさせることです(会社法57条〜62条)。払込金保管証明とは、募集設立で発起人が払込みの取扱いをした銀行等に請求できる、払い込まれた金額に相当する金銭の保管に関する証明書です(64条)。
発起人だけでは資金が足りないとき、発起人以外の人にも「この会社の株を引き受けませんか」と呼びかけて出資を集めるのが募集設立です。申込みが集まったら発起人が誰に何株を割り当てるかを決め、割り当てられた人が銀行に払い込みます。発起人以外の人が出資する以上、本当にお金が払い込まれて会社に渡るのかを確かめる仕組みが要ります。そこで募集設立では、銀行に「これだけ払い込まれて保管しています」という証明書を出させ、銀行はその証明と違うことを後から会社に言えないことにしました。発起設立にこの制度はありません。
募集設立でも発起人は自ら引き受け、申込者への割当ては発起人が自由に決められます
募集設立は、発起人が設立時発行株式を引き受けるほか、設立時発行株式を引き受ける者の募集をする方法です(25条1項2号)。発起人が募集をする旨を定めるにも、募集株式の数・払込金額・払込期日などの募集事項を定めるにも、発起人全員の同意が要ります(57条2項・58条2項)。申込みをしようとする者には、定款の認証の年月日や発起人が出資した財産の価額などを通知します(59条1項)。申込みがあると、発起人は、申込者の中から割当てを受ける者を定め、その者に割り当てる数を定めます。このとき、申込みの数より少ない数を割り当てることができます(60条1項)。誰にいくつ割り当てるかは発起人の裁量で、申込みが募集株式の数を超えても申込数に比例して割り当てる義務はありません。「設立時募集株式の数を超える数の引受けの申込みがあった場合には,発起人は,各申込者に対し,申込みに係る株式の数の割合に応じて,設立時募集株式を割り当てなければならない」という肢は誤りです。設立時募集株式の総数を引き受ける契約を結ぶ場合には、申込みと割当ての規定は適用されず、募集事項の通知も要りません(61条)。「設立時募集株式を引き受けようとする者がその総数の引受けを行う契約を締結する場合であっても,発起人は,その者に対し,設立時募集株式に関する事項等を通知しなければならない」という肢は誤りです。
払込金保管証明の制度は募集設立だけにあり、発起設立では請求できません
募集設立をした場合には、発起人は、払込みの取扱いをした銀行等に対し、払い込まれた金額に相当する金銭の保管に関する証明書の交付を請求することができます(64条1項)。発起設立では、払込みは発起人が定めた銀行等の払込みの取扱いの場所でしますが(34条2項)、保管証明の制度はありません。発起人しか出資しない発起設立では、出資の履行は払込みがあったことを証する書面で足りるとされたからです。「発起設立の場合において,発起人は,払込みの取扱いをした銀行に対し,払い込まれた金額に相当する金銭の保管に関する証明書の交付を請求することができる」という肢は誤りです。募集設立で証明の対象になるのは、設立時募集株式の引受人の払込み(63条1項)だけでなく、発起人が引き受けた設立時発行株式の払込み(34条1項)も含みます。64条1項が「第三十四条第一項及び前条第一項の規定による払込み」と定めているからです。「発起人は,払込みの取扱いをした銀行に対し,設立時募集株式のみならず,発起人が引き受けた設立時発行株式についても,払い込まれた金額に相当する金銭の保管に関する証明書の交付を請求することができる」という肢は正しいです。
証明をした銀行は、証明が事実と異なることや成立前に発起人へ返還したことを成立後の会社に対抗できません
保管証明書を交付した銀行等は、その証明書の記載が事実と異なること、又は払い込まれた金銭の返還に関する制限があることをもって、成立後の株式会社に対抗することができません(64条2項)。「発起人によって払込みの取扱いの場所として定められた銀行は,払い込まれた金額に相当する金銭の保管に関する証明書を発起人に交付した場合,当該証明書の記載が事実と異なることをもって成立後の株式会社に対抗することができない」という肢は正しいです。判例も、払込取扱銀行は証明した払込金額を会社の成立の時まで保管して会社に引き渡すべきものであって、会社の成立前に発起人や取締役に払込金を返還しても、成立後の会社に対して払込金の返還をもって対抗できないとしています(最判昭和37年3月2日)。払込みの確実と健全を期し、会社に証明した金額を完全に収受させて設立の安固と資本の充実を図る趣旨です。「募集設立において払込みの取扱いをした銀行は,払い込まれた金額に相当する金銭の保管に関する証明書を発起人に交付した後は,払い込まれた金銭を株式会社の成立前に発起人に返還したことをもって成立後の株式会社に対抗することができない」という肢は正しいです。したがって、発起人と銀行が通じて払込みを装う預合いをしても、銀行は成立後の会社に対して払込金の返還義務を免れません。
- 発起設立払込みは発起人が定めた銀行等の払込取扱場所で行う(34条2項)。保管証明の制度はない
- 募集設立発起人の払込み(34条1項)と設立時募集株式の引受人の払込み(63条1項)の両方について保管証明を請求できる(64条1項)。銀行は証明と異なる事実・返還の制限を成立後の会社に対抗できない(64条2項)
会社法64条1項
第五十七条第一項の募集をした場合には、発起人は、第三十四条第一項及び前条第一項の規定による払込みの取扱いをした銀行等に対し、これらの規定により払い込まれた金額に相当する金銭の保管に関する証明書の交付を請求することができる。
会社法64条2項
前項の証明書を交付した銀行等は、当該証明書の記載が事実と異なること又は第三十四条第一項若しくは前条第一項の規定により払い込まれた金銭の返還に関する制限があることをもって成立後の株式会社に対抗することができない。
論文ではこう使う
論文では、預合いや見せ金の事案で払込取扱機関の責任を問うときに使います。「募集設立では、発起人は払込取扱銀行等に払込金保管証明書の交付を請求でき(会社法64条1項)、証明をした銀行等は、証明の記載が事実と異なること又は払込金の返還に関する制限があることを成立後の会社に対抗できない(同条2項)。この規定は、会社に証明した金額を確実に収受させて資本の充実を図る趣旨であるから、銀行等が会社の成立前に発起人に払込金を返還しても、成立後の会社に対しては返還を対抗できない(最判昭和37年3月2日)」と書き、会社は銀行等に対して証明額の支払を請求できると結論づけます。発起設立の事案なら、保管証明の制度がないので64条2項の責任は生じないことを先に確認します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。