募集株式の引受けと出資の履行(相殺の禁止・失権・現物出資の検査役調査)とは
ぼしゅうかぶしきのひきうけとしゅっしのりこう
募集株式の引受けとは、募集に応じて申込みをした者が会社から割当てを受け、又は総数引受契約を結んで、募集株式の引受人となることです(会社法203条・204条・205条・206条)。出資の履行とは、引受人が払込期日又は期間内に払込金額の全額を払い込み、又は現物出資財産を給付することで(208条1項・2項)、これをした引受人が株主になります(209条1項)。
会社が募集事項を決めると、引き受けたい人は氏名と株数を書いた書面で申し込み、会社が割り当てた数だけ引受人になります。引受人は期日までに銀行で払込金額の全額を払い込むか、土地や債権などの現物出資財産を渡します。これが出資の履行で、履行した日に株主になります。株式は払い込まれた財産を元手に発行されるので、相殺で払込みを済ませることはできず、履行しなければ自動的に株主になる権利を失います。現物出資は値段を高く見積もると会社の財産が実際より少なくなるので、原則として裁判所が選んだ検査役が価額を調べます。
他人の承諾を得てその名義で引き受けたときは、名義人ではなく実質上の引受人が株主になります
募集に応じて引受けの申込みをする者は、氏名又は名称と住所、引き受けようとする募集株式の数を記載した書面を会社に交付し(203条2項)、会社は申込者の中から割当てを受ける者とその数を定めて(204条1項)、申込者は割り当てられた数について引受人になります(206条1号)。募集株式が譲渡制限株式であるときは、割当ての決定は株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の決議によります(204条2項)。募集株式の総数を引き受ける契約(総数引受契約)を結ぶときは申込みと割当ての規定は適用されず(205条1項)、譲渡制限株式ならその契約の承認を同じ機関の決議で受けます(205条2項)。他人の承諾を得てその名義を用いて株式が引き受けられた場合に誰が株主になるかについて、判例は、名義人すなわち名義貸与者ではなく、実質上の引受人すなわち名義借用者がその株主となるとしています(最判昭和42年11月17日)。株式の引受けも一般の法律行為と同じく、真に契約の当事者として申込みをした者に効果が帰属するからです。「他人の承諾を得てその名義を用いて募集株式の引受けがされた場合には,特段の事情がない限り,その名義の使用を承諾した者が株主となる」という肢は誤りです。
引受人の側から出資の履行の債務と会社に対する債権を相殺することはできず、履行しなければ当然に株主となる権利を失います
引受人は、払込期日又は払込期間内に、会社が定めた銀行等の払込みの取扱いの場所でそれぞれの募集株式の払込金額の全額を払い込み、現物出資財産を給付する者はその全額に相当する財産を給付しなければなりません(208条1項・2項)。引受人は、この出資の履行をする債務と会社に対する債権とを相殺することができません(208条3項)。現実に財産を出してもらって会社財産を確保するための規定で、禁じられるのは引受人の側からの相殺です。「募集株式の引受人は,募集株式の払込金額の払込みをする債務と株式会社に対する債権とを相殺することができない」という肢と、「当該引受人側から当該債権を自働債権とする相殺を主張することはできない」という肢はいずれも正しいです。会社に対する金銭債権を現物出資の目的にして株式に換えること(デット・エクイティ・スワップ)は、相殺ではなく現物出資として認められます。出資の履行をすることにより株主となる権利の譲渡は会社に対抗できず(208条4項)、引受人が出資の履行をしないときは、その権利を当然に失います(208条5項)。設立のときの発起人のような失権の予告の通知は要りません。「当該期日に出資の履行をしなかった募集株式の引受人は,当該出資の履行をすることにより募集株式の株主となる権利を法律上当然に失うものではない」という肢は誤りです。出資の履行をした引受人は、払込期日を定めたときはその期日に、期間を定めたときは履行をした日に株主になります(209条1項)。取締役と通じて著しく不公正な払込金額で引き受けた引受人は公正な価額との差額を、給付した現物出資財産の価額が定めた価額に著しく不足するときはその不足額を、会社に支払う義務を負います(212条1項)。
現物出資には原則として検査役の調査が要りますが、少額のときや価額の裏付けがあるときは要りません
会社が募集事項として現物出資財産を出資の目的とする旨とその内容・価額を定めたときは(199条1項3号)、募集事項の決定の後遅滞なく、その価額を調査させるため裁判所に検査役の選任を申し立てなければなりません(207条1項)。検査役は調査の結果を裁判所に報告し、裁判所は価額を不当と認めたときはこれを変更する決定をし、引受人はその決定の確定後1週間以内に限り申込みの意思表示を取り消すことができます(207条4項・7項・8項)。もっとも、過大評価のおそれが小さい次の場合には、その事項について検査役の調査は要りません(207条9項)。発行済株式の総数が5000株の会社で引受人に割り当てる株式の総数が500株なら10分の1を超えないので調査は要らず、定めた価額の総額が500万円ならこれも超えないので要りません。市場価格のある有価証券は、定めた価額が法務省令で定める方法で算定した市場価格を超えなければ要りません。弁護士・公認会計士・税理士などの証明を受けた財産も要りませんが、不動産のときはその証明に加えて不動産鑑定士の鑑定評価が要るので、「税理士の証明を受けたときは,…検査役の調査は不要である」という肢は誤りです。会社に対する金銭債権は、弁済期が到来しているものに限り、定めた価額が負債の帳簿価額を超えなければ要りません。「弁済期が到来していない金銭債権を給付する場合において,…検査役の調査は不要である」という肢は誤りです。取締役・監査役・支配人などの会社の関係者や引受人自身は、価額の証明をすることができません(207条10項)。給付した財産の価額が定めた価額に著しく不足するときは、引受人が不足額を支払う義務を負うほか(212条1項2号)、募集に関する職務を行った業務執行取締役や議案を提案した取締役、証明をした者も支払義務を負いますが、検査役の調査を経た場合や注意を怠らなかったことを証明した場合は免れます(213条)。
検査役の調査が要らない場合(207条9項)
- 引受人に割り当てる株式の総数が発行済株式の総数の10分の1を超えない場合(その引受人が給付する財産について)
- 定めた価額の総額が500万円を超えない場合
- 市場価格のある有価証券で、定めた価額が市場価格を超えない場合
- 弁護士・弁護士法人・公認会計士・監査法人・税理士・税理士法人の証明を受けた場合。不動産はその証明に加えて不動産鑑定士の鑑定評価が要る
- 会社に対する金銭債権で弁済期が到来しており、定めた価額が負債の帳簿価額を超えない場合。弁済期が到来していなければ調査が要る
会社法208条3項
募集株式の引受人は、第一項の規定による払込み又は前項の規定による給付(以下この款において「出資の履行」という。)をする債務と株式会社に対する債権とを相殺することができない。
会社法208条5項
募集株式の引受人は、出資の履行をしないときは、当該出資の履行をすることにより募集株式の株主となる権利を失う。
会社法207条9項5号
現物出資財産が株式会社に対する金銭債権(弁済期が到来しているものに限る。)であって、当該金銭債権について定められた第百九十九条第一項第三号の価額が当該金銭債権に係る負債の帳簿価額を超えない場合 当該金銭債権についての現物出資財産の価額
論文ではこう使う
論文では、現物出資の過大評価の事案で、まず検査役の調査が要るか(会社法207条1項・9項)を確かめ、調査を経ていなければ、株主となった時の財産の価額が定めた価額に著しく不足するとして、引受人の不足額支払義務(212条1項2号。善意無重過失なら申込みの取消しができる。同条2項)と、募集に関する職務を行った業務執行取締役・議案を提案した取締役・証明者の責任(213条1項・3項。注意を怠らなかったことの証明で免責。同条2項2号)を順に検討します。会社に対する債権を株式に換える事案では、「引受人からの相殺は208条3項で禁じられるが、弁済期の到来した金銭債権を帳簿価額以下で現物出資する方法(207条9項5号)なら検査役の調査も要らない」と、相殺の禁止と現物出資の規律を書き分けます。名義借りの事案では、判例の実質説(最判昭和42年11月17日)を示して、誰が株主で誰が出資の履行の義務を負うかを確定します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。