新株予約権の発行の差止めと無効の訴えとは
しんかぶよやくけんのはっこうのさしとめとむこうのうったえ
新株予約権の発行の差止めとは、募集新株予約権の発行が法令若しくは定款に違反する場合、又は著しく不公正な方法により行われる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときに、株主が会社に対してその発行をやめることを請求できる制度です(会社法247条)。新株予約権の発行の無効の訴えとは、発行の効力が生じた日から6か月以内(公開会社でない会社では1年以内)に、株主等又は新株予約権者が会社を被告として新株予約権の発行の無効を主張する訴えです(828条1項4号・2項4号・834条4号)。
敵対的な買収者が株式を買い集めている最中に、経営陣が味方にだけ大量の新株予約権を発行すれば、行使されたとたん買収者の持株比率は下がります。新株予約権は発行の時点では株式ではありませんが、将来株式に変わる権利なので、既存の株主の持株比率と株式の価値を薄めるおそれは募集株式と同じです。そこで会社法は、募集株式と同じ要件で株主が発行前に差止めを請求でき、発行後は無効の訴えで争える仕組みを置いています。差止めを請求できるのは株主だけで、新株予約権者には認められていません。
差止めを請求できるのは不利益を受けるおそれのある株主で、相手は会社です
募集新株予約権の発行が法令又は定款に違反する場合(247条1号)、又は著しく不公正な方法により行われる場合(247条2号)において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は会社に対し、その新株予約権の発行をやめることを請求できます。募集株式の発行等の差止め(210条)と同じ構造で、二つの事由はどちらか一方で足ります。「募集新株予約権の発行が著しく不公正な方法により行われる場合において,株主が不利益を受けるおそれがあるときは,株主は,株式会社に対し,当該新株予約権の発行をやめることを請求することができる」という肢は正しいです。請求できるのは株主に限られます。新株予約権者は行使して株主になるまでは持株比率を持たないので、新しい新株予約権の発行で不利益を受ける地位にありません。「既存の新株予約権者が不利益を受けるおそれがあるときは,その新株予約権者は,会社に対し,新株予約権の発行をやめることを請求することができる」という肢は誤りです。請求の相手は発行をしようとする会社で、新株予約権者に対して行使をやめるよう請求する制度ではありません。「株主は,新株予約権者に対し,当該新株予約権の行使をやめることを請求することができる」という肢は誤りです。公開会社は取締役会で募集事項を定めたときは割当日の2週間前までに株主に通知又は公告しなければならず(240条2項・3項)、この間に株主は差止めの仮処分を申し立てます。
支配権の維持を主要な目的とする発行は著しく不公正な方法に当たり、株主の共同の利益を守るための差別的な無償割当ては許されることがあります
裁判例は、会社の経営支配権に現に争いが生じている場面で、支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ、現経営者やこれを支持する特定の株主の支配権を維持・確保することを主要な目的として新株予約権が発行された場合は、原則として著しく不公正な方法による発行に当たるとしています。ただし、買収者が真に経営に参加する意思がなく高値での買取りを狙う場合や、会社資産を買収者の債務の弁済原資に流用する予定の場合などのように、株主全体の利益の保護という観点から発行を正当化する特段の事情があれば例外的に許され、その事情は会社側が疎明します(東京高決平成17年3月23日)。行使価額が1円で発行済株式の総数が3倍になる新株予約権を株主割当てで発行した事案では、基準日後に株式を取得した一般の株主に受忍させるべきでない損害を生じさせるとして差止めが認められました(東京高決平成17年6月15日)。株主総会の決議に基づいて買収者だけを差別的に扱う新株予約権無償割当て(277条)については、新株予約権無償割当てにも株主平等の原則(109条1項)の趣旨が及ぶとしたうえで、特定の株主による支配権の取得で会社の企業価値が毀損され株主の共同の利益が害される場合に、その防止のために差別的に取り扱っても、衡平の理念に反し相当性を欠くものでない限り同原則の趣旨に反しないとし、企業価値が毀損されるかは株主自身が判断すべきものだとしています(最決平成19年8月7日)。
無効の訴えは新株予約権者も提起でき、認容判決が確定すると新株予約権は将来に向かって効力を失います
新株予約権の発行の無効は、発行の効力が生じた日から6か月以内(公開会社でない会社では1年以内)に、訴えをもってのみ主張できます(828条1項4号)。提起できるのは会社の株主等又は新株予約権者で(828条2項4号)、新株発行の無効の訴えと違って新株予約権者も原告になれます。「新株予約権者は,新株予約権の発行の無効の訴えを提起することができない」という肢は誤りです。被告は新株予約権の発行をした会社です(834条4号)。無効原因は条文になく、新株発行の無効原因と同じく解釈によります。公開会社でない会社で株主総会の特別決議を経ずに発行された新株予約権や、行使条件の事後変更に反する行使による株式の発行については、無効原因になるとした判例があります。請求を認容する確定判決は第三者に対しても効力を持ち(838条)、無効とされた新株予約権は将来に向かって効力を失います(839条)。「新株予約権の発行の無効の訴えに係る請求を認容する判決が確定したときは,その新株予約権は,将来に向かってその効力を失う」という肢は正しいです。新株予約権付社債について無効の判決が確定したときは、新株予約権だけでなく新株予約権付社債についての社債も効力を失うと解されており、会社は新株予約権者に払込金額に相当する金銭を支払います(842条)。「当該新株予約権付社債についての社債のみは,なお有効に存続する」という肢は誤りです。新株予約権の発行が存在しないことの確認の訴え(829条3号)もあり、こちらには出訴期間の制限がありません。
会社法247条
次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、第二百三十八条第一項の募集に係る新株予約権の発行をやめることを請求することができる。
一 当該新株予約権の発行が法令又は定款に違反する場合
二 当該新株予約権の発行が著しく不公正な方法により行われる場合
会社法828条2項4号
前項第四号に掲げる行為 当該株式会社の株主等又は新株予約権者
会社法839条
会社の組織に関する訴え(第八百三十四条第一号から第十二号の二まで、第十八号及び第十九号に掲げる訴えに限る。)に係る請求を認容する判決が確定したときは、当該判決において無効とされ、又は取り消された行為(当該行為によって会社が設立された場合にあっては当該設立を含み、当該行為に際して株式又は新株予約権が交付された場合にあっては当該株式又は新株予約権を含む。)は、将来に向かってその効力を失う。
論文ではこう使う
論文では、買収防衛策として新株予約権や新株予約権無償割当てがされた事案で、株主が取れる手段として差止め(会社法247条。無償割当てには類推)を挙げ、著しく不公正な方法(2号)に当たるかを主要な目的で判断します。規範は「経営支配権に争いがある場面で、特定の株主の持株比率を低下させ現経営陣の支配権を維持することを主要な目的とする発行は、原則として著しく不公正な方法に当たる。ただし、株主全体の利益の保護の観点から発行を正当化する特段の事情があれば許される」と置き、買収者が濫用的かどうか、資金調達など他の目的の実在、株主総会の判断を経ているかをあてはめます。株主総会の決議で買収者を差別的に扱う無償割当てでは、株主平等の原則の趣旨が及ぶことを示したうえで、「企業価値の毀損を防ぐ必要性と、取扱いの相当性(対価の交付など)」で判断し(最決平成19年8月7日)、法令違反(1号)の有無として整理します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。