取得条項付株式と全部取得条項付種類株式とは
しゅとくじょうこうつきかぶしきとぜんぶしゅとくじょうこうつきしゅるいかぶしき
取得条項付株式とは、会社が一定の事由が生じたことを条件としてその株式を取得することができる旨の定めがある株式です(会社法2条19号・107条1項3号・108条1項6号)。全部取得条項付種類株式とは、会社が株主総会の決議によってその種類の株式の全部を取得することができる旨の定めがある種類株式です(108条1項7号・171条1項)。
会社が「上場したら優先株式を普通株式に切り替える」「一定の日が来たら会社が買い取る」と決めておき、その事由が生じたときに株主の意思に関係なく会社が株式を取得するのが取得条項付株式です。株主の地位を会社の側から奪う仕組みなので、後から付けるにはその株主全員の同意が要ります。全部取得条項付種類株式は、株主総会の特別決議でその種類の株式を全部取得できる株式で、少数株主を締め出す手段として使われてきました。対価を払って取得する点はどちらも自己株式の取得なので、分配可能額の財源規制がかかります。
取得条項付株式は一定の事由が生じた日に会社が取得し、対価を他の種類の株式にすることもできます
取得条項付株式は、定款で定めた一定の事由が生じた日に会社が取得します(170条1項)。会社が別に定める日の到来を事由とすることもでき、その日は株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の決議で定めて2週間前までに株主に通知します(107条2項3号ロ、168条1項・2項)。事由が生じた日に一部だけを取得する定めも置けます(107条2項3号ハ、169条)。対価は社債・新株予約権・金銭などのほか、種類株式発行会社では会社の他の株式とすることができ、その種類と数又は算定方法を定款で定めます(108条2項6号ロ)。他の株式の種類に制限は無いので、剰余金の配当について優先する株式を取得条項付株式とし、取得の対価を配当について劣後する株式とすることもできます。「剰余金の配当に関する優先株式を取得条項付株式として発行することはできるが、その取得の対価を剰余金の配当に関する劣後株式とすることはできない」という肢は誤りです。対価として会社の株式を交付しても、株主から新たに金銭が払い込まれるわけではないので、資金調達の方法を選ばせる問題では、「取得条項付株式の取得の対価としての株式の発行」は金銭が会社に払い込まれることがなく資金調達方法となり得ないものに当たります。
発行後に取得条項を付ける定款変更には、その種類の株式を有する株主全員の同意が要ります
取得条項は会社の側から株主の地位を奪う定めなので、株式の発行後に多数決で付け加えることはできません。全部の株式の内容として取得条項の定めを設け又は変更する定款変更(廃止を除く)には株主全員の同意が要り(110条)、種類株式発行会社がある種類の株式の発行後にその内容として取得条項の定めを設け又は変更する定款変更(廃止を除く)には、その種類の株式を有する株主全員の同意が要ります(111条1項)。「当該種類の株式の内容として、当該種類株式発行会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができる旨の定款の定めを設けようとする場合には、当該種類の株式を有する株主全員の同意を得なければならない」という肢は正しいです。これに対し、全部取得条項を後から付ける定款変更は、その種類の株主の種類株主総会の特別決議で足り(111条2項・324条2項1号)、反対株主には株式買取請求権があります(116条1項2号)。
取得条項付株式の取得で交付する金銭は分配可能額を超えられず、欠損が生じれば業務執行者が責任を負います
取得条項付株式を取得するのと引換えに金銭など会社の株式以外の財産を交付する場合に、その帳簿価額が事由の生じた日の分配可能額を超えているときは、取得の効力は生じません(170条5項)。「取得条項付株式の取得により株主に対して交付する金銭の額は,分配可能額を超えてはならない」という肢は正しいです。取得した事業年度に欠損が生じたときは、業務執行者が欠損填補責任を負います(465条1項5号)。全部取得条項付種類株式の取得は、剰余金の配当等として分配可能額の規制を受け(461条1項4号)、超えて交付したときは業務執行者などが交付した金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負います(462条1項)。
全部取得条項付種類株式の取得は株主総会の特別決議で、取締役は対価が有利かどうかにかかわらず理由を説明します
全部取得条項付種類株式を発行した種類株式発行会社は、株主総会の決議によってその全部を取得できます(171条1項)。決議では、取得対価の内容と数又は額、株主への割当てに関する事項、取得日を定め(同項各号)、対価は株主の有する株式の数に応じて割り当てます(同条2項)。この決議は特別決議です(309条2項3号)。取締役は、この株主総会で全部取得条項付種類株式の全部を取得することを必要とする理由を説明しなければならず(171条3項)、募集株式の有利発行の説明義務(199条3項)と違って、対価が株主に特に有利かどうかで説明の要否は変わりません。「取得対価が当該全部取得条項付種類株式の株主に特に有利な金額でないときは、取締役は、…理由を説明することを要しない」という肢は誤りです。会社は取得日に全部を取得し(173条1項)、反対した株主と議決権を行使できない株主は、取得日の20日前の日から取得日の前日までに裁判所に取得の価格の決定を申し立てることができます(172条1項)。取得が法令又は定款に違反し株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は取得をやめることを請求できます(171条の3)。判例は、多数株主が公開買付けの後に全部取得条項付種類株式の取得で少数株主を締め出す事案で、一般に公正と認められる手続により公開買付けが行われ、その後に公開買付価格と同額で取得した場合には、特段の事情のない限り、裁判所は公開買付価格を取得価格とするのが相当であるとしています(最決平成28年7月1日)。
締出しの手法を比べると、特別決議の要否・端数処理・新株予約権の扱いに違いがあります
支配株主が少数株主の個別の承諾なしに会社を完全子会社にする手法には、株式の併合、全部取得条項付種類株式の取得、特別支配株主の株式等売渡請求があります。株式の併合(180条2項・309条2項4号)と全部取得条項付種類株式の取得(171条1項・309条2項3号)は株主総会の特別決議が要りますが、特別支配株主の株式等売渡請求は対象会社の承認(取締役会設置会社では取締役会の決議)で足り、株主総会の決議は要りません(179条の3)。「いずれの手法を用いる場合も、A社において株主総会の特別決議が必要である」という肢は誤りです。全部取得条項付種類株式の対価として株式を交付する場合や株式の併合で1株に満たない端数が生じるときは、端数の合計数に相当する数の株式を競売して代金を株主に交付するのが原則で、市場価格のない株式は裁判所の許可を得て競売以外の方法で売却できますが、その許可の申立ては取締役が2人以上あるときは全員の同意によってしなければなりません(234条1項2号・2項、235条)。「その端数の合計数に相当する数の株式を裁判所の許可を得て競売以外の方法により売却するためには、A社の取締役の全員の同意を得る必要がある」という肢は正しいです。特別支配株主は株式と併せて新株予約権の売渡しも請求できますが(179条2項)、株式の併合と全部取得条項付種類株式の取得は株式だけを対象とするので、新株予約権に取得条項が定められていない限り当然には取得できません。「A社の新株予約権に取得条項が定められていない限り、その新株予約権を当然には取得することができない」という肢は正しいです。
締出しの3つの手法の違い
- 株式の併合: 株主総会の特別決議(180条2項・309条2項4号)。端数は競売か裁判所の許可を得た売却(235条・234条2項。申立ては取締役全員の同意)
- 全部取得条項付種類株式の取得: 株主総会の特別決議(171条1項・309条2項3号)と取締役の理由の説明(171条3項)。端数の処理は株式の併合と同じ(234条1項2号)
- 特別支配株主の株式等売渡請求: 対象会社の承認(取締役会設置会社では取締役会の決議。179条の3)。株主総会の決議は要らない。新株予約権も併せて請求できる(179条2項)
- 新株予約権: 株式の併合と全部取得条項付種類株式の取得では、取得条項が無ければ当然には取得できない
会社法111条1項
種類株式発行会社がある種類の株式の発行後に定款を変更して当該種類の株式の内容として第百八条第一項第六号に掲げる事項についての定款の定めを設け、又は当該事項についての定款の変更(当該事項についての定款の定めを廃止するものを除く。)をしようとするときは、当該種類の株式を有する株主全員の同意を得なければならない。
会社法171条3項
取締役は、第一項の株主総会において、全部取得条項付種類株式の全部を取得することを必要とする理由を説明しなければならない。
会社法234条2項
株式会社は、前項の規定による競売に代えて、市場価格のある同項の株式については市場価格として法務省令で定める方法により算定される額をもって、市場価格のない同項の株式については裁判所の許可を得て競売以外の方法により、これを売却することができる。この場合において、当該許可の申立ては、取締役が二人以上あるときは、その全員の同意によってしなければならない。
論文ではこう使う
論文では、支配株主が全部取得条項付種類株式を使って少数株主を締め出す事案で、手続の適法性と取得価格を問われたときに使います。「まず普通株式に全部取得条項を付す定款変更(会社法108条1項7号・111条2項)と、全部取得条項付種類株式の取得の決議(171条1項)はいずれも株主総会の特別決議(309条2項3号・11号)と普通株主の種類株主総会の特別決議(324条2項1号)を要し、取締役は取得を必要とする理由を説明しなければならない(171条3項)。本件では〜」と手続を順に確かめ、対価に不満のある株主の救済として取得価格の決定の申立て(172条1項)を挙げます。価格については、公正と認められる手続による公開買付けの後に同額で取得した場合は特段の事情のない限り公開買付価格が取得価格になるという判例(最決平成28年7月1日)を規範にし、手続の公正さ(特別委員会の設置、少数株主の多数の賛成など)を当てはめます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。