特別支配株主の株式等売渡請求とは
とくべつしはいかぶぬしのかぶしきとううりわたしせいきゅう
特別支配株主の株式等売渡請求とは、株式会社の総株主の議決権の10分の9以上を自分とその完全子法人で有する株主(特別支配株主)が、他の株主の全員に対し、その有する株式の全部を自分に売り渡すことを請求する制度です(会社法179条1項)。新株予約権も併せて売渡しを請求でき(同条2項)、対象会社の承認を受ければ株主総会の決議なしに取得日に全部を取得します(179条の3・179条の9)。
ある会社の株式を9割以上持つ大株主が、残り1割の株主から株式を買い取って完全子会社にしたいとします。1人ずつ交渉するのは大変なので、会社法は、議決権の10分の9以上を持つ特別支配株主が、他の株主全員に「株式を売り渡せ」と請求して一度に取得できる仕組みを置きました。9割を持つ株主なら株主総会を開いても特別決議が通ることは決まっているので、総会を省いて対象会社の承認だけで足りることにし、その代わり少数株主には、対価が不当なときの差止めと、裁判所に売買価格を決めてもらう道を用意しています。
特別支配株主は総株主の議決権の10分の9以上を持つ者で、完全子法人の持分は合算できますが、3分の2を持つだけの子会社の持分は合算できません
特別支配株主とは、株式会社の総株主の議決権の10分の9(定款でこれを上回る割合を定めたときはその割合)以上を、その者と特別支配株主完全子法人が有している場合のその者をいいます(179条1項括弧書)。特別支配株主完全子法人とは、その者が発行済株式の全部を有する株式会社その他これに準ずるものとして法務省令で定める法人で、100%子会社などに限られます。したがって、B社がA社の議決権の10分の7を持ち、B社が議決権の3分の2を持つにすぎないD社がA社の議決権の10分の2を持っていても、D社はB社の完全子法人ではないのでD社の分を合算できず、B社は特別支配株主に当たりません。「B社がA社の総株主の議決権の10分の7を有し、D株式会社(B社がその総株主の議決権の3分の2を有している。)がA社の総株主の議決権の10分の2を有しているときは、B社は、特別支配株主の株式等売渡請求の手法を用いることができる」という肢は誤りです。特別支配株主は、対象会社と自分を除く株主の全員に対し、株式の全部を自分に売り渡すことを請求できます(同項本文)。完全子法人に対しては請求しないこともできます(同項ただし書)。
売渡請求は対象会社の承認で足り、株主総会の特別決議は要らず、新株予約権も併せて請求できます
特別支配株主は、株式売渡請求をしようとするときは、対価として交付する金銭の額又はその算定方法、割当てに関する事項、取得日などを定め(179条の2第1項)、対象会社に通知してその承認を受けなければなりません(179条の3第1項)。取締役会設置会社では承認は取締役会の決議によります(同条3項)。株主総会の決議は要らず、この点で株主総会の特別決議を要する株式の併合や全部取得条項付種類株式の取得と違います。「株式の併合、全部取得条項付種類株式の取得及び特別支配株主の株式等売渡請求のいずれの手法を用いる場合も、A社において株主総会の特別決議が必要である」という肢は誤りです。特別支配株主は、株式売渡請求と併せて、対象会社の新株予約権者の全員に新株予約権の全部の売渡しを請求でき(179条2項)、新株予約権付社債に付された新株予約権については社債も併せて請求します(同条3項)。新株予約権が残ると後の行使で完全子会社の関係が崩れるからです。対象会社は新株予約権売渡請求だけを承認することはできません(179条の3第2項)。株式の併合や全部取得条項付種類株式の取得では、新株予約権に取得条項が無ければ当然には取得できません。「特別支配株主の株式等売渡請求の手法を用いる場合には、A社の新株予約権についても売り渡すことを請求することができるが、…その新株予約権を当然には取得することができない」という肢は正しいです。
対象会社が売渡株主に通知又は公告をすると請求がされたものとみなされ、特別支配株主は取得日に全部を取得します
対象会社は、承認をしたときは、取得日の20日前までに売渡株主等に承認をした旨や対価の額などを通知しなければならず、売渡株主以外への通知は公告で代えられます(179条の4第1項・2項)。この通知又は公告がされると、特別支配株主から売渡株主等に対して株式等売渡請求がされたものとみなされ(同条3項)、個々の売渡株主の承諾なしに売買契約が成立したのと同じ法律関係が生じます。対象会社は承認した事項を記載した書面を本店に備え置き、売渡株主等の閲覧に供します(179条の5)。特別支配株主は、承認を受けた後は取得日の前日までに対象会社の承諾を得た場合に限り請求を撤回できます(179条の6)。特別支配株主は取得日に売渡株式等の全部を取得し(179条の9第1項)、取得した株式が譲渡制限株式であれば対象会社が譲渡を承認したものとみなされます(同条2項)。
売渡株主は差止めと売買価格の決定の申立てで守られ、取得後は無効の訴えで争います
株式売渡請求が法令に違反する場合、対象会社が売渡株主への通知や書面の備置きの規定に違反した場合、対価の額や割当てが対象会社の財産の状況その他の事情に照らして著しく不当である場合に、売渡株主が不利益を受けるおそれがあるときは、売渡株主は特別支配株主に対し売渡株式等の全部の取得をやめることを請求できます(179条の7第1項)。対価に不服のある売渡株主等は、取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所に売買価格の決定を申し立てることができ(179条の8第1項)、特別支配株主は決定された価格に取得日後の法定利率による利息を付けて支払います(同条2項)。判例は、この申立ては通知又は公告の時点の株主に適正な対価を得る機会を与える制度なので、通知又は公告によって株式を売り渡すことが確定した後に売渡株式を譲り受けた者は申立てをすることができないとしました(最決平成29年8月30日)。取得の後は、売渡株式等の取得の無効の訴え(846条の2)によって争います。少数株主の締出しには、このほか金銭や親会社の株式を対価とする株式交換も使えます。株式交換の対価は「金銭等」であればよいので、完全親会社となる会社の株式でも金銭でも構いません(768条1項2号)。「B社は、A社との間で株式交換契約を締結し、Cらに対価として金銭又はB社の株式を交付することによって、Cらの有するA社の株式を取得することができる」という肢は正しいです。
株式等売渡請求の流れ
- 特別支配株主(議決権の10分の9以上。完全子法人の分を合算)が対価・取得日などを定めて対象会社に通知し、承認を受ける(179条の2・179条の3)。取締役会設置会社では取締役会の決議
- 対象会社が取得日の20日前までに売渡株主等に通知(又は公告)すると、売渡請求がされたものとみなす(179条の4)
- 売渡株主は差止めの請求(179条の7)、取得日の20日前から前日までに売買価格の決定の申立て(179条の8)ができる
- 特別支配株主は取得日に全部を取得する(179条の9)。取得後は売渡株式等の取得の無効の訴え(846条の2)
会社法179条1項
株式会社の特別支配株主(株式会社の総株主の議決権の十分の九(これを上回る割合を当該株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)以上を当該株式会社以外の者及び当該者が発行済株式の全部を有する株式会社その他これに準ずるものとして法務省令で定める法人(以下この条及び次条第一項において「特別支配株主完全子法人」という。)が有している場合における当該者をいう。以下同じ。)は、当該株式会社の株主(当該株式会社及び当該特別支配株主を除く。)の全員に対し、その有する当該株式会社の株式の全部を当該特別支配株主に売り渡すことを請求することができる。ただし、特別支配株主完全子法人に対しては、その請求をしないことができる。
会社法179条の3第1項・3項
特別支配株主は、株式売渡請求(略)をしようとするときは、対象会社に対し、その旨及び前条第一項各号に掲げる事項を通知し、その承認を受けなければならない。
3 取締役会設置会社が第一項の承認をするか否かの決定をするには、取締役会の決議によらなければならない。
論文ではこう使う
論文では、支配株主が株式等売渡請求で少数株主を締め出す事案で、少数株主の救済を問われたときに使います。「Bは甲社の総株主の議決権の10分の9以上を有する特別支配株主(会社法179条1項)であるから、甲社の承認(179条の3。取締役会設置会社では取締役会の決議)を得て株式売渡請求ができ、株主総会の決議は要らない。少数株主Cは、対価が甲社の財産の状況その他の事情に照らして著しく不当であるときは取得の差止めを請求でき(179条の7第1項3号)、取得日の20日前の日から取得日の前日までに裁判所に売買価格の決定を申し立てることができる(179条の8第1項)」と手続を順に書きます。対象会社の取締役の責任が問われたら、承認の判断が対価の相当性を検討する善管注意義務の対象になることに触れ、取得後なら売渡株式等の取得の無効の訴え(846条の2)を挙げます。
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