株式買取請求の手続と公正な価格とは
かぶしきかいとりせいきゅうのてつづきとこうせいなかかく
株式買取請求の手続とは、反対株主が株式買取請求をした後、会社との協議で価格を定め、協議が調わなければ効力発生日から30日経過後の30日以内に裁判所に価格の決定を申し立て、買取りは効力発生日に効力を生じ、請求の撤回には会社の承諾が要るという一連の流れです(会社法785条7項・786条)。公正な価格とは、買取りの価格の基準で、判例は、組織再編がなかった場合と経済的に同等の状態を確保し、企業価値の増加があればその適切な分配も保障する価格をいい、基準日は株式買取請求がされた日であるとしています。
反対株主が「買い取ってほしい」と請求しても、いくらで買い取るかは簡単には決まりません。会社と株主で話し合い、まとまらなければ裁判所が決めます。このとき裁判所が物差しにするのが「公正な価格」で、判例は、組織再編がなかったらその株式はいくらだったか、組織再編で会社の価値が増えるならその分け前はいくらかという二つの目で見ます。株価は日々動くので、いつの時点の価格かも問題になり、判例は株主が出口を選んだ日、つまり買取請求をした日としました。請求した後に株価を見て気軽に取り消せないように、撤回には会社の承諾が要ります。
判例は、株式買取請求権の趣旨を、退出の機会を与え、組織再編がなかった場合と経済的に同等の状態を確保し、企業価値の増加があればその適切な分配を保障することにあるとしています
判例は、吸収分割に反対した株主の買取価格が争われた事件で、株式買取請求権の趣旨について、組織再編を多数決で可能とする反面、反対株主に会社からの退出の機会を与えるとともに、退出を選択した株主には組織再編がされなかったとした場合と経済的に同等の状態を確保し、さらに組織再編による相乗効果その他の企業価値の増加が生ずる場合にはこれを適切に分配し得るものとすることにより、反対株主の利益を一定の範囲で保障することにあるとしました(最決平成23年4月19日)。「株式買取請求権が認められる趣旨は,判例によれば,反対株主に会社からの退出の機会を与えるとともに,退出を選択した株主には,組織再編行為がされなかったとした場合と経済的に同等の状態を確保し,さらに,組織再編による相乗効果その他の企業価値の増加が生ずる場合には,これを適切に分配し得るものとすることにより,反対株主の利益を一定の範囲で保障することにある」という肢は正しいです。この趣旨から、企業価値の増加が生じない組織再編では、承認決議がなければその株式が有したであろう価格(いわゆるナカリセバ価格)が公正な価格になり、企業価値が増加する組織再編では、その増加分を適切に分配した価格が公正な価格になります。相互に特別の資本関係がない会社間で、株主の判断の基礎となる情報が適切に開示され、一般に公正と認められる手続によって組織再編がされた場合には、株主の合理的な判断が妨げられたと認めるべき特段の事情がない限り、当事会社が定めた比率は公正なものとみて、その比率で算定した価格が公正な価格になるとされています(最決平成24年2月29日)。
公正な価格の基準日は、効力発生日ではなく株式買取請求がされた日です
株価は日々変動するので、どの時点の価格を公正な価格とするかが問題になります。判例は、株式買取請求がされると会社の承諾なしに撤回できなくなり(785条7項)、効力発生日に売買契約が成立したのと同様の法律関係が生じるので、株主が退出の意思を明らかにした株式買取請求の日を基準にするのが合理的であるとして、公正な価格は原則として買取請求がされた日における価格をいうとしています(最決平成23年4月19日)。効力発生日や買取請求期間の満了日を基準とする下級審の考え方は採られませんでした。「判例の趣旨によれば,株式交換に係る反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」を定める基準日は,株式交換がその効力を生ずる日である」という肢は誤りです。基準日を請求日にすることで、株主が請求後の株価の動きを見て有利な時点を選ぶことができなくなり、会社との公平が保たれます。
買取請求の撤回には会社の承諾が要り、協議が調わなければ効力発生日から30日経過後の30日以内に裁判所に価格の決定を申し立て、価格の決定は非訟事件です
株式買取請求をした株主は、会社の承諾を得た場合に限り、その請求を撤回することができます(785条7項・797条7項・806条7項)。請求後に株価が上がったら撤回するというような機会主義的な行動を封じるためです。「反対株主として株式買取請求をした株主は,その後いつでも自由にその請求を撤回することができる」という肢と「株式買取請求権を行使した株主は,いつでも,会社の承諾を得ることなく,その株式買取請求を撤回することができる」という肢は誤りです。株式の併合の端数についての買取請求も同じで、「株式買取請求をした反対株主は、会社法上所定の期間内に株式会社との間で株式の価格の決定についての協議が調った後であっても、当該株式会社の承諾を得ることなく株式買取請求を撤回することができる」という肢は誤りです(182条の4第6項)。価格は、まず株主と会社の協議で定め、協議が調えば会社は効力発生日から60日以内に支払います(786条1項)。効力発生日から30日以内に協議が調わないときは、株主又は会社は、その期間の満了の日後30日以内に、裁判所に対し価格の決定の申立てをすることができます(786条2項)。効力発生日の直後から申し立てられるわけではありません。「吸収合併において,吸収合併消滅株式会社の反対株主が当該吸収合併消滅株式会社に対し会社法所定の手続に従って自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求した場合,当該反対株主は,吸収合併契約に定められた吸収合併がその効力を生ずる日から30日以内に,裁判所に対し,価格の決定の申立てをすることができる」という肢は誤りです。効力発生日から60日以内に申立てがないときは、その後は株主がいつでも請求を撤回できます(786条3項)。裁判所による価格の決定は、当事者間の権利義務の存否を判断する訴訟ではなく、裁判所が後見的に価格を形成する手続なので、会社法上の非訟事件の手続によります(870条2項)。株式交換で反対株主が株式買取請求権を行使した場合の買取価格の決定は、訴訟手続ではなく非訟事件の手続によるものに当たります。
株式買取請求の手続の流れ(786条・798条・807条・117条・470条)
- 請求: 効力発生日の20日前の日から前日まで(新設型は通知・公告から20日以内)。株式数を明らかにする
- 撤回: 会社の承諾があるときだけ。効力発生日から60日以内に価格決定の申立てがなければ、その後はいつでも撤回できる
- 協議が調った: 効力発生日から60日以内に支払う
- 協議が調わない: 効力発生日から30日経過後の30日以内に裁判所へ価格決定の申立て(非訟事件)
- 買取りの効力: 効力発生日(新設型は設立会社の成立の日)。請求の到達時ではない
- 利息: 効力発生日から60日の期間満了後、法定利率。決定確定後からではない
- 仮払い: 会社は価格の決定前に公正な価格と認める額を支払える(利息の負担を抑えるため)
買取りの効力は請求の到達時ではなく効力発生日に生じ、利息は決定の確定後からではなく効力発生日から60日の期間満了後について法定利率で生じます
株式買取請求に係る株式の買取りは、効力発生日にその効力を生じます(786条6項・798条6項)。新設型では設立会社の成立の日です(807条6項)。平成26年改正前は、存続会社等の株主の買取りは代金支払時に効力が生じるとされていましたが、改正で効力発生日に一本化されました。「吸収合併において,吸収合併存続株式会社の反対株主が当該吸収合併存続株式会社に対し会社法所定の手続に従って自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求した場合,当該株式買取請求の意思表示が当該吸収合併存続株式会社に到達した時に,当該株式買取請求に係る株式の買取りは,その効力を生ずる」という肢は誤りです。裁判所が価格を決定したときは、会社は、その価格に対する効力発生日から60日の期間の満了の日後の法定利率による利息もあわせて支払わなければなりません(786条4項)。利息が付くのは決定の確定後からではなく、本来の支払期限である効力発生日から60日が過ぎた後からです。「当事者の申立てにより,裁判所が株式の価格について決定をしたときは,会社は,裁判所の決定した価格に加え,これに対する当該決定の確定後の年6分の利率により算定した利息をも支払わなければならない」という肢は、起算点を決定の確定後としている点で誤りです(出題当時の利率は商事法定利率の年6分でしたが、平成29年民法改正に伴い商事法定利率は廃止され、現在は民法404条の法定利率によります)。利息の負担を利用して株主が争いを長引かせるのを防ぐため、平成26年改正で、会社は価格の決定があるまでの間に、自らが公正な価格と認める額を株主に支払うことができるようになりました(786条5項)。
会社法785条7項
株式買取請求をした株主は、消滅株式会社等の承諾を得た場合に限り、その株式買取請求を撤回することができる。
会社法786条2項
株式の価格の決定について、効力発生日から三十日以内に協議が調わないときは、株主又は消滅株式会社等は、その期間の満了の日後三十日以内に、裁判所に対し、価格の決定の申立てをすることができる。
会社法786条4項
消滅株式会社等は、裁判所の決定した価格に対する第一項の期間の満了の日後の法定利率による利息をも支払わなければならない。
会社法786条6項
株式買取請求に係る株式の買取りは、効力発生日に、その効力を生ずる。
論文ではこう使う
論文で買取価格を争う場面を書くときは、①その株主が反対株主の要件を満たし期間内に請求したか、②公正な価格の意義(最決平成23年4月19日の趣旨から、企業価値の増加がない場合はナカリセバ価格、増加がある場合は増加分を適切に分配した価格)、③基準日は買取請求日、④独立当事者間で公正な手続によって定められた比率は原則として尊重される(最決平成24年2月29日)、の順で書きます。利害関係のある親子会社間の組織再編では④の前提が崩れるので、裁判所が比率の公正さを独自に判断する余地があることを添えます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。