組織再編における反対株主の株式買取請求(請求できる株主)とは
そしきさいへんにおけるはんたいかぶぬしのかぶしきかいとりせいきゅう
組織再編における反対株主の株式買取請求とは、合併・会社分割・株式交換・株式移転に反対する株主が、会社に対して自己の有する株式を公正な価格で買い取るよう請求できる権利です(会社法785条1項・797条1項・806条1項)。請求できる株主は、議決権を行使できる株主については株主総会に先立つ反対の通知と総会での反対の両方をした株主で、議決権を行使できない株主と、略式手続などで株主総会の決議を要しない場合の特別支配会社以外の株主も含まれます。
合併などの組織再編は株主総会の多数決で決まります。反対した株主が、会社に「私の株式を公正な価格で買い取って出口を用意してほしい」と言える権利が株式買取請求権です。無効を争う権利とは違い、手続が正しくても条件が妥当でも使えます。誰が使えるかは条文で決まっていて、議決権を使える株主は事前に反対を知らせたうえで総会でも反対すること、議決権のない株主や総会を開かない略式手続の株主はそのまま請求できることになっています。ただし影響の軽い簡易手続の側の株主には認められません。
対価が相当であっても、組織再編に無効原因がなくても、反対株主は株式買取請求権を行使できます
吸収合併等をする場合、消滅株式会社等の反対株主はその会社に対し、存続株式会社等の反対株主はその会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができます(785条1項・797条1項)。新設型でも消滅株式会社等の反対株主に認められます(806条1項)。条文が定める要件は反対株主に当たることと期間内に請求することだけで、対価が不相当であることや組織再編に瑕疵があることは要件ではありません。株主は、条件が妥当でも、会社の基礎が変わることそのものを望まない自由を持つからです。「消滅会社の反対株主は,合併対価として交付を受ける株式の価額が各当事会社の財産の状況その他の事情に照らして相当である場合でも,株式買取請求権を行使することができる」という肢と「株式買取請求権は,組織再編行為に無効原因がない場合にも認められる」という肢は正しいです。合併比率が不公正でも反対株主は株式買取請求権で救済されるという点は、合併比率の不公正は合併無効の訴えの無効原因にならないとする見解の論拠としてふさわしいものに当たります。株式交換では完全子会社の株主にも完全親会社の株主にも認められるので、「株式交換においては,いずれの当事会社の反対株主も,会社法所定の手続に従って,自己が株主である会社に対し,自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる」という肢は正しいです(現行法では簡易株式交換の完全親会社の株主は除かれます)。買取請求に応じた買取りには分配可能額による財源規制がかからないので、会社は分配可能額が足りなくても買い取らなければなりません。
議決権を行使できる株主は総会に先立つ反対の通知と総会での反対の両方が要り、議決権を行使できない株主と、総会決議を要しない場合の特別支配会社以外の株主もそのまま請求できます
株主総会の決議を要する場合の反対株主とは、その株主総会に先立って組織再編に反対する旨を会社に通知し、かつ、その株主総会で反対した株主(議決権を行使できる株主に限る)と、その株主総会で議決権を行使することができない株主です(785条2項1号・797条2項1号・806条2項)。事前の通知を求めるのは、反対や買取請求がどの程度出るかを会社に予測させ、場合によっては組織再編を中止する機会を与えるためです。「吸収合併に反対する消滅会社の株主であって,当該吸収合併をするための決議をする株主総会において議決権を行使することができる者が,株式買取請求権を行使するには,当該株主総会に先立って当該吸収合併に反対する旨を当該消滅会社に対し通知するとともに,当該株主総会において当該吸収合併に反対しなければならない」という肢は正しいです。書面投票ができる株主が総会の日の前日までに書面で反対の議決権行使をしたときは、総会前に反対の意思が会社に届いているので、事前の通知をしたものと認められます。「吸収合併契約の承認を議案とする株主総会において書面又は電磁的方法による議決権の行使をすることができることとされた株主が,株主総会の日の前日までに,書面又は電磁的方法によって当該議案に反対する議決権の行使をした場合には,当該株主総会に先立って当該吸収合併に反対する旨を株式会社に対し通知したものと認められ,反対株主として株式買取請求をすることができる」という肢は正しいです。議決権制限株式の株主や基準日後の株主など議決権を行使できない株主は、総会で反対する機会がないので、通知も反対もせずに請求できます。「反対株主として株式買取請求をすることができる者は,合併についての株主総会決議につき議決権を行使することができる株主に限られない」という肢と「吸収分割において、吸収分割株式会社が株主総会の決議によって吸収分割契約の承認を受けなければならないときは、当該株主総会において議決権を行使することができない株主は、当該吸収分割株式会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる」という肢は正しく、「組織再編行為に係る契約又は計画を承認する株主総会において議決権を行使することができない株主には,株式買取請求権は認められない」という肢と「新設分割会社が株主総会の決議によって新設分割計画の承認を受けなければならないときは,当該株主総会において議決権を行使することができない株主は,反対株主として,当該新設分割会社に対し,自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができない」という肢は誤りです。略式手続のように株主総会の決議を要しない場合は、特別支配会社を除く全ての株主が反対株主として請求できます(785条2項2号・797条2項2号)。
簡易分割の分割会社の株主と簡易手続の存続会社等の株主には買取請求権がなく、略式手続の株主にはあります
買取請求権が認められないのは、消滅株式会社等の側では、消滅会社の株主に持分会社の持分を交付するため総株主の同意を要する場合(783条2項)と、簡易分割(784条2項・805条)の場合です(785条1項各号・806条1項各号)。簡易分割では分割会社の総資産の5分の1以下しか動かないので、株主への影響が軽いと考えられたからです。「吸収分割により吸収分割承継株式会社に承継させる資産の帳簿価額の合計額が吸収分割株式会社の総資産額の5分の1を超えない場合であっても,当該吸収分割株式会社の反対株主は,当該吸収分割株式会社に対し,自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる」という肢は誤りです。存続株式会社等の側では、簡易手続(796条2項本文)の場合に買取請求権がありません(797条1項ただし書)。平成26年改正前は存続会社等の株主には簡易手続でも買取請求権がありましたが、改正で廃止されました。「吸収分割により吸収分割承継株式会社に承継させる資産の帳簿価額の合計額が法定の額を超えないものとして吸収分割株式会社の株主総会の承認を受けないで吸収分割が行われる場合には,当該吸収分割株式会社の株主には,反対株主の株式買取請求権が認められないが,当該吸収分割承継株式会社の株主には,反対株主の株式買取請求権が認められる」という肢は、承継会社が通常の手続による場合を前提にしているので正しいです(承継会社の側も簡易手続に当たる場合は、現行法では承継会社の株主にも認められません)。これに対して略式手続では、株主総会が開かれないだけで株主への影響は軽くないので、特別支配会社以外の株主に買取請求権があります。「株式会社が株式交換をするために株主総会の決議による承認を要しない場合には,株主は,会社に対し,自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができない」という肢は、略式株式交換の株主を含めて一律にできないとしている点で誤りです。
買取請求権の有無
- 通常の手続の消滅会社等・存続会社等の反対株主: あり(785条1項・797条1項・806条1項)
- 議決権を行使できない株主: あり。通知も総会での反対も不要(785条2項1号ロ)
- 略式手続で総会を開かない会社の株主: あり。特別支配会社を除く全株主(785条2項2号・797条2項2号)
- 簡易分割の分割会社の株主: なし(785条1項2号・806条1項2号)
- 簡易手続の存続会社等の株主: なし(797条1項ただし書。平成26年改正で廃止)
- 消滅会社の株主に持分会社の持分を交付する場合: なし(総株主の同意が要るため。785条1項1号)
- 事業譲渡等をする会社の反対株主: あり(469条1項)。株式の内容の変更・併合の反対株主: あり(116条・182条の4)
振替株式の発行者は買取口座を開設し、新株予約権の買取請求は吸収分割などで認められる場合がありますが事業譲渡にはありません
振替株式の発行者が吸収合併等をしようとする場合には、原則として振替機関等に対し、株式買取請求に係る振替株式の振替を行うための口座(買取口座)の開設の申出をしなければならず、株主は買取口座への振替の申請をして請求します(社債、株式等の振替に関する法律155条)。請求後の株式の処分を防いで買取りの対象を確定するための規律で、株主保護を直接の目的とする規律には当たりません。株式買取請求は、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に、株式の数を明らかにして行い(785条5項・797条5項)、新設型では会社からの通知又は公告の日から20日以内に行います(806条5項)。会社は効力発生日の20日前までに株主に組織再編をする旨を通知又は公告します(785条3項・4項)。新株予約権者については、消滅会社の新株予約権者、吸収分割契約で承継会社の新株予約権を交付する定めがある新株予約権の新株予約権者、株式交換完全子会社の新株予約権者などに、定めが新株予約権の内容の条件に合致しない場合などに新株予約権買取請求権が認められます(787条1項)。事業譲渡では譲渡会社の法人格に変動がないので、新株予約権者に買取請求権はありません。「乙社の反対株主の乙社に対する株式買取請求権についての会社法の規定があるのは、事業譲渡の方法による場合のみである」という肢は、吸収分割の承継会社の株主にも797条1項があるので誤りです。請求後の撤回・価格の決定・効力発生の時期は株式買取請求の手続と公正な価格で扱います。
会社法785条1項
吸収合併等をする場合(次に掲げる場合を除く。)には、反対株主は、消滅株式会社等に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。一 第七百八十三条第二項に規定する場合 二 第七百八十四条第二項に規定する場合
会社法785条2項
前項に規定する「反対株主」とは、次の各号に掲げる場合における当該各号に定める株主(第七百八十三条第四項に規定する場合における同項に規定する持分等の割当てを受ける株主を除く。)をいう。一 吸収合併等をするために株主総会(種類株主総会を含む。)の決議を要する場合 次に掲げる株主 イ 当該株主総会に先立って当該吸収合併等に反対する旨を当該消滅株式会社等に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該吸収合併等に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。) ロ 当該株主総会において議決権を行使することができない株主 二 前号に規定する場合以外の場合 全ての株主(第七百八十四条第一項本文に規定する場合における当該特別支配会社を除く。)
会社法797条1項
吸収合併等をする場合には、反対株主は、存続株式会社等に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。ただし、第七百九十六条第二項本文に規定する場合(第七百九十五条第二項各号に掲げる場合及び第七百九十六条第一項ただし書又は第三項に規定する場合を除く。)は、この限りでない。
論文ではこう使う
論文で組織再編に反対する少数株主の救済手段を挙げるときは、効力発生前の差止請求(784条の2・796条の2)、株式買取請求(785条・797条)、効力発生後の無効の訴え(828条1項)の三つを並べ、それぞれの要件の違いを示します。買取請求は無効原因がなくても対価が相当でも使えるので、合併比率の不公正を争う株主にはまずこの手段があることを指摘し、そのうえで無効の訴えで比率の不公正を無効原因とすべきかを論じると、論点の位置づけがはっきりします。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。