振替株式とは
ふりかえかぶしき
振替株式とは、株券を発行する旨の定款の定めがない会社の株式(譲渡制限株式を除く)で、振替機関が取り扱うものです(社債、株式等の振替に関する法律128条1項)。上場会社の株式がこれに当たり、株券の代わりに振替機関と口座管理機関が備える振替口座簿の記録によって権利の帰属と移転が決まります。
証券会社で上場会社の株式を買うと、株券が届くわけではなく、自分の口座に株数が記録されます。上場会社の株式は株券を発行せず、振替機関と証券会社などの口座管理機関が備える振替口座簿の記録で管理されています。これが振替株式で、株券の交付に代わって口座への記録が譲渡の効力要件になり、記録を信じて取得した人を守る善意取得も認められています。会社は日々変わる株主を直接は把握できないので、基準日などに振替機関から送られる総株主通知で株主名簿を書き換え、少数株主権を行使する株主は個別株主通知で会社に自分の保有を示します。
振替株式の譲渡は譲受人の口座の保有欄に増加の記録を受けなければ効力を生ぜず、意思表示だけでは移転しません
振替株式の譲渡は、振替の申請により、譲受人がその口座における保有欄に譲渡に係る数の増加の記載又は記録を受けなければ、効力を生じません(振替法140条)。株券発行会社で株券の交付が譲渡の効力要件である(会社法128条1項)のと同じく、口座簿の記録が権利の移転そのものを生じさせる仕組みで、増加の記録は会社への対抗要件ではなく当事者間の効力要件です。株券を発行しない会社の株式は意思表示だけで譲渡できるのが原則ですが、振替株式には振替法の特則が優先します。「振替株式の譲渡は,当事者の意思表示のみによってその効力を生ずるが,…増加の記録がされなければ,会社に対抗することができない」という肢と、「振替株式は,株券発行会社でない株式会社の株式であるから,振替株式の譲渡は,当事者間においては,意思表示のみによって,その効力を生ずる」という肢は誤りです。質入れも同じで、質権者の口座の質権欄に増加の記録を受けなければ効力を生じません(振替法141条)。
株主名簿の名義書換は総株主通知に基づいて行われ、個別株主通知では行われません
振替株式には株式取得者の請求による名義書換の規定(会社法133条)が適用されず(振替法161条1項)、株主が譲渡のたびに会社に名義書換を請求する仕組みはありません。振替機関は、基準日など会社が株主を確定すべき一定の日が来たときに、発行会社に対して加入者の氏名又は名称・住所・振替株式の数などを通知します(総株主通知。振替法151条1項)。発行会社は通知された事項を株主名簿に記載又は記録しなければならず、その一定の日に記載がされたものとみなされます(同法152条1項)。「振替株式に係る株主名簿の名義書換は,振替機関から株式会社に対してされる総株主通知に基づいて行われる」という肢は正しいです。これに対し、少数株主権等を行使しようとする株主の申出で振替機関が会社にその株主の保有を通知する個別株主通知(同法154条)は、その権利行使の場面で株主名簿に代わる会社への対抗要件になるだけで、株主名簿の書換えは行われません。「総株主通知がされた場合には行われるが,振替機関から会社に対し個別株主通知がされた場合には行われない」という肢は正しいです。判例は、全部取得条項付種類株式の取得価格の決定の申立て(会社法172条1項)は少数株主権等に当たり、会社が申立人の株主資格を争ったときは、審理終結までに個別株主通知がされることを要し、かつそれで足りるとしています(最決平成22年12月7日)。
口座の記録を信頼して増加の記録を受けた者は、悪意又は重過失がなければ権利を取得します
加入者は、その口座に記録された振替株式についての権利を適法に有するものと推定されます(振替法143条)。そして、振替の申請により口座に増加の記録を受けた加入者は、悪意又は重大な過失があるときを除き、その増加の記録に係る権利を取得します(同法144条)。株券の占有者の権利推定と善意取得(会社法131条)に対応する規定で、口座簿の記録に公信力を与えて流通の安全を図っています。譲渡人の口座に実際の保有数を超える数が誤って記録されていた場合でも、その記録を信頼して全部を譲り受け増加の記録を受けた譲受人は、悪意・重過失がなければ記録された数の権利を取得します。「譲受人は,悪意又は重大な過失があるときを除き,その増加の記録に係る権利を取得する」という肢は正しいです。
質入れの事実は総株主通知で会社に知らせないようにでき、発行会社は正当な理由があれば口座の記録の証明書面を請求できます
総株主通知では質権欄に記録された振替株式の質権者の氏名又は名称と住所も通知されるのが原則ですが、質権者である加入者は、自分の氏名又は名称と住所を発行者に通知しないよう直近上位機関に申し出ることができます(振替法151条3項)。この申出をすれば質入れの事実は会社に知られず、株券発行会社の略式質に相当する扱いになります。「総株主通知の際に,その振替株式の質入れの事実を会社に知らせないようにすることはできない」という肢は誤りです。また、振替株式の発行者は、正当な理由があるときは、政令で定めるところにより、所定の費用を支払って、振替機関等が備える振替口座簿の加入者の口座に記録されている事項を証明した書面の交付を請求できます(同法277条)。会社は総株主通知と個別株主通知を通じてしか株主を知ることができないので、紛争への対応などのために情報を得る道を開いたものです。「振替株式を発行した会社は,正当な理由があるときは,振替機関に対し,所定の費用を支払って,…記録されている事項を証明した書面の交付を請求することができる」という肢は正しいです。
株券発行会社の株式との対応
- 譲渡の効力要件: 株券の交付(会社法128条1項)/口座の保有欄への増加の記録(振替法140条)
- 権利の推定と善意取得: 株券の占有者(会社法131条)/口座に記録を受けた加入者(振替法143条・144条)
- 会社への対抗: 株主の請求による名義書換(会社法130条・133条)/総株主通知による名義書換(振替法151条・152条)、少数株主権等は個別株主通知(154条)
- 質入れを会社に知らせない方法: 略式質/総株主通知で通知しない申出(振替法151条3項)
社債、株式等の振替に関する法律140条
振替株式の譲渡は、振替の申請により、譲受人がその口座における保有欄に当該譲渡に係る数の増加の記載又は記録を受けなければ、その効力を生じない。
会社法130条1項(振替株式の少数株主権等の行使には適用されない。振替法154条1項)
株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。
論文ではこう使う
論文では、上場会社の株主が少数株主権(取得価格の決定の申立てや株主総会の招集の請求など)を行使する事案で、個別株主通知を欠いたまま権利行使したときの扱いを問われることがあります。「甲社の株式は振替株式であるから、少数株主権等の行使には個別株主通知(振替法154条)が要り、これは株主名簿に代わる会社への対抗要件である。もっとも、会社が株主資格を争った場合には、審理終結までに個別株主通知がされれば足りる(最決平成22年12月7日)」と書きます。株式の帰属が争われたときは、譲渡の効力は口座の保有欄への増加の記録で生じ(振替法140条)、記録を信頼した取得者は悪意・重過失がなければ善意取得する(同法144条)ことから、口座の記録の順序で権利者を確定します。
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