詐害的な会社分割(残存債権者の保護)とは
さがいてきなかいしゃぶんかつ
詐害的な会社分割とは、分割会社が、承継会社や設立会社に承継されない債務の債権者(残存債権者)を害することを知ってする会社分割のことで、優良な事業や財産だけを新しい会社に移して債権者を置き去りにする濫用を指します。残存債権者の保護とは、残存債権者が承継会社・設立会社に対して承継した財産の価額を限度として債務の履行を直接請求できる制度(会社法759条4項・764条4項)と、判例が認める詐害行為取消権や商号続用の責任の類推適用による救済のことです。
借金を抱えた会社が、儲かっている事業と良い財産だけを新しい会社に移し、借金は元の会社に残して、元の会社を空っぽにしてしまうことがあります。元の会社に残された債権者(残存債権者)は、分割後も元の会社に請求できる立場なので、会社分割の債権者異議手続では声を上げる機会がありません。これでは債権者を狙い撃ちにした会社分割を止められないので、判例が詐害行為取消権による救済を認め、平成26年改正で、残存債権者が新しい会社に直接請求できる規定が設けられました。事業譲渡で同じことをされた場合にも同じ規定があります。
残存債権者は会社分割の債権者異議手続の対象にならないので、債権者異議手続では守られません
会社分割で分割会社の債権者が異議を述べることができるのは、分割後に分割会社に対して債務の履行を請求することができない債権者、すなわち債務が承継会社・設立会社に移って債務者が変わる債権者に限られます(789条1項2号・810条1項2号)。分割会社に債務が残る債権者(残存債権者)は、分割会社が対価を受け取る以上、責任財産は減らないという建前で、異議手続の対象から外れています。しかし、対価として受け取るのが承継会社・設立会社の株式で、その会社も債務超過に近いような場合や、対価が不当に低い場合には、残存債権者の引当てとなる財産は実質的に流出します。異議を述べる機会がない以上、債権者異議手続の中で弁済や担保の提供を受けることもできません。そこで、債権者異議手続とは別の救済が必要になります。なお、分割会社が受け取った対価の株式を株主に分配する人的分割の場合(758条8号)には、分割会社の債権者全員が異議を述べることができます。
分割会社が残存債権者を害することを知ってした会社分割では、残存債権者は承継会社・設立会社に対して承継した財産の価額を限度として履行を直接請求でき、承継会社が善意のときや分割会社が破産したときはできません
吸収分割会社が、承継会社に承継されない債務の債権者(残存債権者)を害することを知って吸収分割をした場合には、残存債権者は、承継会社に対して、承継した財産の価額を限度として、その債務の履行を請求することができます(759条4項本文)。ただし、承継会社が吸収分割の効力が生じた時に残存債権者を害することを知らなかったときは請求できません(同項ただし書)。新設分割では設立会社に対して同じ請求ができ、設立会社は分割会社自身が作る会社なので善意の抗弁はありません(764条4項)。承継会社の責任は、分割会社が残存債権者を害することを知って分割をしたことを残存債権者が知った時から2年以内に請求又は請求の予告をしないと消滅し、効力発生日から10年を経過したときも消滅します(759条6項)。分割会社について破産手続開始・再生手続開始・更生手続開始の決定があったときは、残存債権者はこの請求権を行使できません(759条7項)。倒産手続では管財人等による否認権で債権者全体のために取り戻すべきで、個々の債権者が抜け駆けするのを防ぐためです。人的分割で分割会社の債権者全員が異議を述べられる場合には、この直接請求の規定は適用されません(759条5項)。平成26年改正で設けられたこの規定と同じ内容の規定が、事業譲渡についても置かれています(23条の2)。「吸収分割会社が吸収分割承継会社に承継されない債務の債権者を害することを知って吸収分割をした場合には,当該債権者が吸収分割承継会社に対して当該債務の履行を請求することができるときがあることが会社法に規定されているが,譲渡会社が譲受会社に承継されない債務の債権者を害することを知って事業譲渡をした場合には,当該債権者が譲受会社に対して当該債務の履行を請求することができるときがあることは会社法に規定されていない」という肢は、後段が誤りです。
残存債権者の直接請求(759条4項〜7項・764条4項〜7項・23条の2)
- 要件: 分割会社(譲渡会社)が残存債権者を害することを知って分割(譲渡)をしたこと
- 相手方: 承継会社・設立会社(譲受会社)。吸収分割・事業譲渡では相手方が効力発生時に善意なら請求できない。新設分割の設立会社に善意の抗弁はない
- 範囲: 承継した財産の価額を限度
- 期間: 害意を知った時から2年以内に請求又は請求の予告がないと消滅。効力発生日から10年でも消滅
- 行使できない場合: 分割会社について破産手続開始・再生手続開始・更生手続開始の決定があったとき
- 適用除外: 対価の株式を株主に分配する人的分割(分割会社の債権者全員が異議を述べられる)
判例は、新設分割を詐害行為取消権の対象と認め、残存債権者は債権の保全に必要な限度で財産の承継の効力を否定できるとしています
平成26年改正前は、残存債権者の救済として民法の詐害行為取消権(424条)を使えるかが争われました。判例は、新設分割は財産権を目的とする法律行為としての性質を有する一方で新会社の設立を含む会社の組織に関する行為でもあるとしたうえで、組織に関する行為であることから直ちに詐害行為取消権の対象にならないとはいえず、会社法その他の法令に別段の定めがあるかによるとし、設立会社に債務が承継されず債権者異議手続の対象にもならない残存債権者には詐害行為取消権による保護の必要があること、取消しの効力は会社の設立の効力に影響を及ぼさないので新設分割無効の訴えがあることは理由にならないことから、残存債権者は民法424条により新設分割を取り消して、その債権の保全に必要な限度で財産の承継の効力を否定できるとしました(最判平成24年10月12日)。会社分割そのものを無効にするのではなく、個々の財産の承継を債権者との関係で否定する救済です。改正後は759条4項・764条4項の直接請求と並んで使うことができ、害意の立証や期間などの要件が異なるので、事案に応じて選びます。また、商号を続用する譲受会社の責任(22条1項)について、判例は、会社分割によってゴルフ場の事業が承継され、承継会社が預託金会員制ゴルフクラブの名称を引き続き使用している場合にも類推適用されるとしています(最判平成20年6月10日)。会員から見て事業の主体が変わったことが分からない点で事業譲渡と変わらないからで、分割計画で預託金返還債務を承継しないとされていても、承継会社が会員に対して返還義務を負います。これも残存債権者を救済する構成の一つです。
会社法759条4項
第一項の規定にかかわらず、吸収分割会社が吸収分割承継株式会社に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って吸収分割をした場合には、残存債権者は、吸収分割承継株式会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。ただし、吸収分割承継株式会社が吸収分割の効力が生じた時において残存債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
会社法759条7項
吸収分割会社について破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定があったときは、残存債権者は、吸収分割承継株式会社に対して第四項の規定による請求をする権利を行使することができない。
会社法23条の2第1項
譲渡会社が譲受会社に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って事業を譲渡した場合には、残存債権者は、その譲受会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。ただし、その譲受会社が事業の譲渡の効力が生じた時において残存債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
論文ではこう使う
論文で、分割会社に残された債権者が設立会社・承継会社に請求できるかを論じるときは、①その債権者が残存債権者で債権者異議手続の対象外であること(789条1項2号)を確認し、②759条4項・764条4項の直接請求(分割会社の害意、吸収分割では承継会社の悪意、承継財産の価額の限度、2年・10年の期間、倒産手続開始による行使制限)を検討し、③承継会社が商号やゴルフクラブの名称を続用していれば22条1項の類推適用(最判平成20年6月10日)、④詐害行為取消権(最判平成24年10月12日。債権の保全に必要な限度で承継の効力を否定)、⑤法人格否認の法理、の順で書きます。②は平成26年改正で新設された規定なので、改正前の事案では③〜⑤で構成します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。